斎藤一という明治史上最も厚待遇な護衛を連れて歩いていると路地に行き先を変える彼に首を傾げ、もうすぐ家に到着するのに変だと思う。
ふと、視線を感じてそちらを見遣ると何人もの人が集まり、私の事を見るなり走り出す瞬間を目撃し、そのまま路地に入る斎藤一を追いかける。
「はあっ、げほっ、けほっ…!」
でも、すぐに息切れを起こしてしまい、ふらつき、さらに路地を曲がると警察官の上着を脱いでいた斎藤一が入れ替わるように飛び出し、殴打の音と鍔迫り合いの音が十数秒ほど聴こえるだけでした。
「終わったぞ。羽織っておけ」
「ゴホッ、ごふッ…す、すみません゛…」
血の臭いに吐き気と気持ち悪さを感じ、嗚咽を漏らす私に斎藤一は呆れたように溜め息を吐き、私の呼吸の乱れが整うまで待ってくれる。
ツンと鼻に来る酸性の臭いに気持ち悪さを増してしまい、しゃがみ込んで口許を押さえる。私が逃げ遅れたから、斎藤一は人を斬ってしまった。
平和な時代でまた人斬りを強要してしまった。
「おい。余計な事を考えるな。俺の生き方は小娘の踏み込める場所とは違う。悪即斬、この信念と正義にお前の慚愧など単なる不純物だ」
「……なん、ですか、それ」
……いえ、そうですよね。
私の感情なんて些細な事なのでしょう。
人斬りの信念に私の後悔や懺悔なんて邪魔なだけ、不純物と言われるのも仕方ないことです。でも、どうしても私は自分のやることに後悔を抱いてしまう。
それが私の性格ですから。
そう、思い込んで割り切る。
「……ありがとうございます」
「阿呆が。謝るな」
ゆっくりと迂回して帰る道を変えてくれた彼なりの優しさに安堵しながらも「霊能」を持つ私には、彼を憎み、怨嗟を吐き出す彼らが見えている。
幽霊の身体では斎藤一の鋭利な精神を傷付ける事は出来ない。魂の輪郭は精神に反映する。悪即斬。そう言っていた彼の魂は、悪を貫く一振りの刀です。
生半可な幽霊は近づくだけで消滅し、地獄の沙汰を受けるために堕ちていく。
「景!……と、斎藤」
「左之助さん、遅くなりました」
パタパタと草履を擦るように駆け寄ると同時に私は手を交差させて握っていた斎藤一の制服を剥ぎ取られ、無造作に制服は斎藤一に投げ返された。
せめて洗って返さないとダメなんじゃ。
「大丈夫ですから。ね?」
「お前はウソが下手すぎるんだよ。何があった?」
「辻斬り事件に遭遇しただけだ。偶々ソイツが居たから送った、それだけのことだ。それと、だ。相楽、今夜に仕掛けることが決まった」
「分かった。剣心はどうする?」
「知らん。真剣相手に倭杖など無駄だ」
それは、明神君にも言えるのでは……。