あの後、私の神通力と思われている『特典』を譲ることも奪うことも出来ないと知った天草翔伍は超神速の脚力を使い、忍び達の包囲網を駆け抜けていった。
彼の事は飛天御剣流の剣士として、緋村剣心に任せておけば問題なく終わると思うのですが、天草翔伍は何となく姿お兄様に似ているんです。
圧倒的な天賦の剣才。文学、心霊術、妖怪の知恵、カリスマ性もそうですね。そして、姿お兄様と天草翔伍の二人の共通する最後のものは、結核を患った妹です。
「(儘ならないですねぇ…)」
しかし、そう考えると姿お兄様に飛天御剣流を教えたのは誰になるんでしょうか?と思う。私の描いていた物だけでは足りないですし。
まさか比古清十郎を訪ねていたのでしょうか。それとも本当に私の描いていた飛天御剣流の技書を読んだだけで体得してしまったのか。
あり得るのは、後者ですね。
「糸色殿、少し構わぬでござるか?」
「緋村さん?」
倭杖を腰に佩いて、庭先に立つ緋村剣心。
明神君に贈った逆刃刀はもう握ること無く、その鉄拵えでも芯鉄を込めた訳でもない。ごくごく普通の木刀で、あの天草翔伍と戦うつもりなのかと考える。
来客用の湯呑みを取りに台所へ向かい、いそいそとお茶菓子をお皿に移して、縁側に腰掛けている緋村剣心の傍に急須も一緒に置き、ゆっくりと私も正座して座る。
「すみません、お煎餅ですけど」
「いいや、出して貰えるだけで有り難いでざるよ。今日、糸色殿に会いに来たのは飛天御剣流の失伝した技の書物を見せて欲しい」
そう真剣な眼差しで私を見据える緋村剣心の意志は分かります。ですが、その失伝した『秘刃』を書き記しているのは私の『黒歴史ノート』なんですが……。
「…………持ってきますね」
薫さんのために、恥を晒します。
お友達のために見せるだけ。危ないところは塗りつぶしてしまいたいですが、子供の頃から描き足しているものを塗りつぶすなんて出来ません。
「ど、どうぞ」
「拝借致す」
ペラリと冊子を捲る音が聴こえる。
しとりに貸している『剣術指南書』の奥伝・秘伝とも言える冊子には分かりやすく絵を描き足し、葦名流や逸刀流などメジャーな物も描いています。
「糸色殿、やはり不老長寿では?」
「冗談でも泣きますよ?」
……あ、これ冗談じゃないですね。
そこまで信用されていないんだと理解してしまい、泣きそうになりながらも飛天御剣流の頁まで開いてあげ、ゲームやキネマ版、アニメオリジナルに至るまで描かれた飛天御剣流の剣技を真剣に彼はみつめる。