「……雷電残光?」
「そちらは違う頁です」
意識を逸らす緋村剣心を制す。
「天響剣?」
「……わざとやってます?」
すうっと頁を戻して告げる。
私の黒歴史を描いている冊子なので早く返して欲しいんです。三年前の明治十六年の時も左之助さんに身ぐるみを剥がされて、読まれたんですからね。
正直、ああいうのはやめてほしいです。
「糸色殿、この技は何なのでござるか」
「教えません。飛天御剣流の項目だけ読んで下さい。あの?緋村さん?」
私の言葉を無視して読み始める緋村剣心に戸惑い、左之助さんを呼ぼうかと悩んでしまいます。しかし、私では緋村剣心の力に逆らえません。
最近、しとりより力が弱い事実に気付きました。
七歳に負ける、か弱い母です。
「…一先ず、お返し致す。また読みに」
「来ないで下さい。もう読ませませんっ」
冊子を受け取って、そう伝える。残念そうにするのは、やめてください。罪悪感が……いえ、年下の女性にせがむのは宜しくないのでは?
ふと、その事実に気付いてしまいました。
どうしましょう、緋村剣心って私より九か十は年上の筈ですよね、三十路のおじさんが、二十四歳の女に泣き落としを?
薫さんに伝えるべきでしょうか。
「どうしたでござる?」
「……緋村さんって、三十路ですよね」
「むぐっ、ま、まあ、そうでござるが」
うろうろと行き交う瞳。べつに責めているわけではないんですけど。剣路君が少し拗らせて最強の父親を幻視したのは、こういうところだと思うんですよね。
「ひとえは、どう思いますか?」
「あい?」
「フフ、かわいいですね♪︎」
しかし、しとりと剣路君が左之助さんの試練(娘を取られたくない父親の嫌がらせ)を乗り越えたとき、待ち受けるのは緋村剣心というわけですね。
二人の困った顔を想像し、クスクスと笑ってしまう。でも、その未来を見るためには越えないといけない人が、一人だけ残っています。
「天草翔伍は、どうするつもりですか?」
「拙者は既に刀を手離した身だが、この
「やっぱり、緋村さんはすごいですね」
決めたことは絶対に曲げない。普通の人間には絶対に出来ないことです、自分の意志を貫き通せる、それが出来るのはとてもすごいことです。
「ところで、糸色殿」
「なんですか?」
「あの動く茶碗は」
「妖怪です」
「そうでござるか」
「はい」
「…………やはり、お主が黒幕では?」
失礼ですね、一般的な物書きお姉さんです。