みんな、糸色景と言えば「黒幕」だと言う。
主に警察や陸軍、政府の関係者は私の事を「千手の先を見通す千里眼の女」と密かに呼称し、私の助力もしくは私の事を制御下に置いて、清国や英国、米国に至るまで対抗する手段を得ようとしています。
天草翔伍もまた同様です。
まるで私は全ての物事を掌握し、彼らの動きや行動理念さえも植え付けていたように怪しまれても千人を越える人間を一秒毎に支配するなんて出来るわけないです。
出来るわけ……いえ、一小隊と考えて組み合わせ、利敵の理由とタイミング、攻守の事を想定して仮定して推定して動けば出来る可能性はなきにしもあらず。
「景、またお前に客だぞ」
「私にですか?」
原稿用紙の紙束を整えて封筒に仕舞っていたとき、部屋に入ってきた左之助さんの言葉に首を傾げる。今日は誰も来ないと思っていたんですけど。
まさか、また厄介事でしょうか?
そう少し不安になりながらも居間に向かうと、坪内刈羽君が居ました。なぜ?と考えるより先に、また山県卿の思惑かと考えてしまう。
「こんにちは、刈羽です」
「はい。こんにちは」
「自分と母を守って頂き、ありがとうございます。正直、不老不死なんていうものは安易に手を出してはいけない場所なので助かりました」
畏まった言い方でお礼を言ってきた坪内君の言葉に困惑する。助けたと言われても身に覚えがないのですが、なにをしたのでしょうか?
「本日より自分と母は北海道に向かいます。父・八郎に直談判した母のせいですが、やはり自分を父親に会わせたいようなので」
「ああ、そういうことですね」
「八郎のオッサンはどうなんだよ」
「……母としては二人の父が居てもいいと」
それは、余計に困るのでは?
まだ会ったことはありませんけど。ものすごく大変そうな母親だと思う……そういえば、百合さんが「逆ハーレム」云々と呟いていましたね。
私達は現実に生きているのに、ハーレムなんていう危険な行為に及ぶのはダメです。安居院さんは玉の輿、お金持ちになりたいだけですし。
わりとハーレムは不人気なのでは?
「坊主、オッサンに伝えとけよ。お前を育てて剣術を教えてくれたんだからよ」
「うっす。自分もそのつもりです」
「……ところで、土方歳三が生きている話って、ありゃあマジだったのか?」
「自分はドクトルに聞いただけなので」
「そうか」
チラリと私を見る左之助さんに首を傾げながら、彼の差し出してきた手を握り締める。なにかの合図だったりするのかしら?