私は雪代縁の監視を受けながら神谷さんと一緒に屋敷の外に出て、入り江の近くにある林の中を調べていると不自然に木の葉や枯れ葉が集められ、他の場所よりも掃除されていない場所を見つける。
ゆっくりとその場所にしゃがみ込み、入り江の砂を少しずつ手で払っていく。───すると。私の足元に鉄の扉の一部が現れ、雪代縁と神谷さんに視線を向ける。
「へぇ…こんなところに隠し扉か。外印の趣味に付き合うつもりはなかったが、人の島で好き勝手にするのは見過ごせないな」
そう言うと雪代縁は三角巾に吊るした反対側の手で握り締めていた倭刀を砂浜に突き立て、無造作に私と神谷さんに背後を見せる。
多分、簡単に制圧できると思っているんだ。
神谷さんも分かっているから倭刀を奪おうとは考えていない。そうこうしている間に雪代縁は扉の金輪を見つけ、分厚い鉄板を片手で引き上げ、限界まで開くために扉の裏側を蹴り飛ばす。
「……ッ…」
「糸色さん、大丈夫だからね」
「は、はい」
もしも、あの蹴りを受けたらと想像して自分のお腹が弾ける姿を幻視してしまい、目眩と吐き気に気持ち悪くなりながらも石階段を降りる雪代縁を追う。
薄暗い地下室。試験管やフラスコ、工具、人形の図形に図案、試作品の数々に混じっていた
いや、そもそも世界観を共有しているという話は聞いていた。……でも、こうして実際に実物を見つけるとなると流石に怖くなる。
「蝶の印か。外印にしては洒落ている」
「……多分、ソレは盗んだ物です」
「何か知っているの?」
「志々雄真実もそうだったが、アンタを捕まえて仲間に引き込もうとする理由は何となく理解した。アンタの知識は百の兵より武器足り得るな」
そう言って私と神谷さんの見える位置に倭刀を地面に突き立て、テーブルを椅子のように使って呼吸を整える雪代縁から視線を逸らす。
本来、蝶野爆爵の書き記した錬金術の本を得ることで蝶野攻爵は不老不死の超人「ホムンクルス」に生まれ変わる方法を知る。───だが、その錬金術の本を外印は盗み出して、自分のために使っている。
「……む、難しくて読めないわね」
テーブルの上に置かれていた他の本を読む神谷さんの隣に移動し、その本の内容を背伸びをして覗き見る。此方は動物をベースにした「ホムンクルス」の作り方と、その実験結果を書き記した日記だ。
だんだんと実験内容は動物ベースでは無くなり、人間を標的とした物に変わっている。おそらく最初の部分は蝶野爆爵が、後半は外印のものだ。
「…馬鹿な…何で…ここに?…」
フラリ、フラリ、と歩き出す雪代縁。
その視線と向かう先には大きな培養槽があり、まさかと思うよりも先に私の身体は雪代縁の腕に飛びついて、彼の歩みを止めようとしていた。
「見ちゃ、見ちゃダメです!」
「五月蝿い!!」
「あぐあっ!?」
「糸色さん!貴方、糸色さんになんてことを!」
雪代縁に無理やり振り払われ、地面に身体を叩きつけられながらも意識が飛びそうになる感覚に堪えて、なんとか彼に手を伸ばす。
ソレは違う、貴方の求めているものじゃないの…!
────けれど、私の手は届かなかった。
「嗚呼、やっぱり姉さんだ…!」
それは、雪代巴じゃな…い……の…………っ…