雪代巴の浸かっている培養槽は修復フラスコではなく「ホムンクルス」の幼体を製造する物の拡大版だ。遺髪や遺骨などから彼女の細胞を採取し、他人の身体に幼体を寄生させ、少しずつ雪代巴に作り替えている。
───けれど、この方法は危険すぎる。
人間寄生型のホムンクルスは本人の細胞や血液をベースに製造する事で自我の喪失を解消している。でも、他人の細胞を移し替えるのはハイリスクどころではない。
「姉さんだ。あの頃の綺麗な姉さん」
うっとりと培養槽の事を思い出して笑う雪代縁。今の彼に話し掛ける事は出来ない……ううん、出来るかも知れないけど、次は本当に殺されるかも知れない。
「糸色さん、怪我は大丈夫?」
「…らひ、ひょうふれふ」
神谷さんに濡らして冷たくなったタオルを受け取り、腫れてアザの出来た顔を押さえる。眼鏡が割れなくて良かったけど、もう彼に近づきたくないな。
次は、本当に殺される……。
「おい。どうやったら姉さんは起きる」
「……なんろもいいまひたけど」
ズキズキと痛む頬を押さえて、テーブルに置かれていた紙とペンを使い、雪代縁に向かって「下手に動かすのは危ないです」と書いた紙を突きつけ、腫れた頬をまた冷やすことに専念する。
「言いたくないなら別に構わない。それに外印を捕まえて、問えば良いだけだ」
ニイィッと深く狂喜を含んだ笑みを浮かべ、また地下施設に向かう雪代縁を私と神谷さんは黙って見送ることしか出来ない。あのまま狂気に身を窶してしまえば、もう二度と彼は立ち上がることは出来なくなる。
「……よし。私が何とかするわ!」
「かひやひゃん?」
モゴモゴと痛い頬を押さえながら部屋を出ていく神谷さんを追いかけていくと、何故か私達は洋式のキッチンに辿り着いた。
まさか料理を作って雪代縁に?
「栄養を取れば少しは落ち着くでしょ?」
「……ふふ、
にっこりと微笑んだ神谷さんの言葉に私も頷き、襷を使って着物の袖を括ってつけ、神谷さんをメインとして料理を作り始める。彼女みたいに温かくて優しい人なら、雪代縁にも通じるはずだ。
もしものときは私が培養槽を壊…し、て…。
…………うん、そうだ。
こんなことになっているのは、きっと私が原因なんだから私が最後は責任を取るべきなんだ。だから、左之助さんには申し訳ないし、悲しいことをしちゃうかも知れないけど。
私がいなくなったほうが平和になるはず。
…死にたくないなぁ…
「糸色さん、何か言った?」
「なんれもなちれふよ」
神谷さんの問いかけに笑って返す。
大丈夫、これが一番の解決策だから。