私の解答に不満を抱く死体卿の眼差しを避けるように左之助さんの背中に隠れながら、アシュヒト・リヒターの言葉によって別の緊張感を生んでいます。
フランケンシュタインの再人間化と言われても難しく危険な行為であることは事実です。ひみつ道具「タイムふろしき」や時間に関連する道具を使えば可能ですけど。
あくまで可能というだけです。
「……っ、この地響きは!?」
「まさか下水道を通ってこのイギリスに人造人間を呼び寄せているのか!?」
「如何にも気付くのが遅れたようだな」
したり顔でそう告げる死体卿の言葉にパイプの吸い口を噛むマイク・ロフトの顔は焦りを滲ませるが、すぐに余裕を取り戻し、アバーライン警部は窓ガラスを突き破って下水道に繋がるマンホールに向かう。
刹那、血のように赤い水柱が噴き上げる。
「ありゃあ、錆びか?」
「いや、本物の血だ。MR.相楽、貴方と同じく喧嘩を得意とする人造人間は存在する。血液機能特化型人造人間、究極の八体の六番目───」
「ジョン・ドウ」
そう僅かに怒気を込めるアシュヒト・リヒターの心意を知るものは居ません。ただ、左之助さんと同じと言われるのは不満です。
左之助さんは
「その壊し屋を雇ったわけか……欲しいなあ!あの死体が、欲しいなァ!」
ケタケタと狂喜に顔を歪める死体卿の笑い声に不快感と吐き気を感じ、口許を押さえているとドアの向こうで何かが倒れる音が聴こえてきた。
もう侵入してきたんですか?と困惑する私を他所に忙しなく進んでいく急展開に目を回してしまいそうになりながらも左之助さんに「しとりとひとえのところに行ってきます」と伝えて部屋を出る。
「ムッ?」
「あ、タイガーリリィさん…」
「お前には敵性能力は皆無だったな。通りたければ通っていけ、お前の頭脳は傷付けるなと命令を受けているからな」
「そ、そうなんですか?ありがとうございます」
タイガーリリィに軽く頭を下げて、しとりとひとえとエルムさんの待っている寝室に向かう途中、アバーライン警部が汽車に変わっていた。
……そっとしておきましょう。
そう思いながらも寝室に入ろうとした瞬間、エーデル・ヴァイオレット・ケリーがドアの前に立っていた。虚ろな目が、私の事を見下ろす。
「……退いて」
「そ、そちらが後ろに下がって下さいっ。今はとても危ないですから」
「知らないわよ。どうでもいい」
「えっ、へぎゅっ?!」
私の事を押し退けて廊下に出ていった彼女と、寝室で眠っている娘達を交互に見比べ、私は娘達の傍に居ることを選んでしまった。
ごめんなさい、私はこの子達が大事だから。