久々の投稿
昼を前にした食欲が増す時間
多くの艦娘たちが鎮守府の建物の中へと入り、食堂での食事を楽しみにしながら帰投する姿を、工廠の入口で釣りをしながら見守るユキ。
クーラーボックスがいっぱいになる程、今晩の料理に使う魚が良い感じに釣れて満足していると、ポケットに入れていたスマホからバイブ音がなり始めた。
ユキにかかってくる電話は仕事か元帥からの依頼、身内からの緊急の連絡、親バカからの料理の催促ぐらいだ。
3番目が可能性として1番高く、いつもの事かと思いながら画面を見ると、珍しい人物からの連絡が届いていた。
「ん?珍しい、
『今連絡して大丈夫だったかしら?』
「大丈夫だよ。今日は料理番じゃ無いし、今晩使う魚を釣っていただけだから。それにしても珍しいね、そっちから僕にかけてくるなんて。」
『色々あったの。最近、悪さするやつと一緒にアイツらも動き出したでしょ?そのせいで出撃中の子たちが怪我しちゃったのよ。鎮守府にいた子達も姿を変えるヤツのせいでメンタルがボロボロ。鎮守府もめちゃくちゃになったから支援を頼みたいの。』
「舞鶴がそんなことになるなんて、一体何があったの?」
『実はね…』
足柄が所属している鎮守府『舞鶴鎮守府』で起きた、数時間前の出来事。
いつも通りに哨戒をしていた舞鶴の艦娘たちに、空を埋め尽くす黒い塊が、海の向こうから迫ってきていた。
それから逃げるようにして6つの影が赤黒い煙を上げ、3つの航跡を作りながら離れていく。
「こちら吹雪!司令官、応答を願います!司令官!」
「吹雪ちゃん!提督からの連絡はまだなの⁈」
「先ほどから繋げてはいるんですけど、応答してくれません!睦月ちゃんは?」
「私の方も繋がらない!」
「夕立も繋がらないっぽい!」
「このままだとやばいよ!川内ちゃんも神通ちゃんも沈んじゃう!」
「吹雪ちゃんの能力でどうにかならないの?」
「今使ってるよ!
危険な状態に陥っている艦娘たち。
吹雪、睦月、那珂の3人が、中破だが航行不能となった夕立、大破で動けなくなった川内、神通を担いで深海棲艦の軍勢から逃げていた。
しかし、鎮守府にいるはずの提督に連絡を掛けたが、何一つ反応が返ってこないため、状況を打破できずにいた。
「皆…、私達の事はいいから、早く逃げて…ッ!」
「今の私達にできるのは、せいぜい囮ぐらい、ですから…。」
「2人ともそんなこと言わないでよ。那珂ちゃんはそんなの嫌だッ!」
「那珂ちゃん……。」
「…そうだ、夕立ちゃん!足柄さんの連絡先、繋げるようにしてたよね。」
「あ、忘れてたっぽい!すぐに連絡するっぽい!…あ、足柄さん!」
『どうしたの夕立。貴方、今は出撃中でしょ?』
「そうだけど、今はそれどころじゃないっぽい!」
連絡したのは自分たちの先輩である、重巡洋艦の足柄。
鎮守府のお世話係で料理・洗濯・勉強・戦闘、どの面でも頼れるお姉さんだ。
その彼女から、何かあった時のために連絡先を教えられていたのだ。
助けてもらうために、今起きていることを急いで伝える。
『分かった、すぐにそっちに戻るわ。でも、今は鎮守府から離れているの。最低でも5分、3分は耐えなさい。大淀、後は任せたわよ!』ピッ
「分かったっぽい!…最低でも3分は時間を稼ぐっぽい!」
「3分…。」
「とりあえず、やるしかないよ!来るよッ!対空戦闘、用意!『輪形陣』」
その声と共に近づいてくる黒い物体、深海棲艦の艦載機に向けて、砲を向けて撃ち続ける。
しかし数が多いため、一向に数が減る様子はなかった。
それどころか、自分たちの損傷が増えて危険な状態に陥っていく。
「次が来る!急いで!」
「もう駄目!これ以上は耐えられないっぽい!」
「諦めたら駄目ッ!皆で一緒に鎮守府に帰るの!きゃあああ!」
「吹雪ちゃん!うわあああ!」
「川内ちゃん達はやらせない。いやあああ!」
激しくなる攻撃から大破している2人を守るために、体を張って守る4人。
だが、駆逐と軽巡の装甲では、艦載機や戦艦の砲撃を受けて無事でいられるはずがなく、気づけば、敵はすぐそこまで近づいており、上空は艦載機に囲まれていた。
徐々に距離を詰めてくる深海棲艦の軍勢を前に、吹雪たちはボロボロになっていた。
それでも吹雪は、守るために体を無理やり起こし、敵に砲を向ける。
「私が皆を、守る…だから。」
「吹雪ちゃーん!」
フラフラと立つ吹雪に対し、笑みを浮かべながら砲を向ける戦艦。
次の瞬間、その戦艦の頭が謎の光によって消え去った。
そのまま体が徐々に傾き、海の底へと沈んでいった。
さらに光が次々と自分たちの後方、鎮守府の方から艦載機を墜とし、深海棲艦の体を貫いて沈めていく。
その光景に戸惑っていると、繋がっていなかった通信機に連絡が入った。
『道は開いた、急いで撤退しな。』
「貴方は一体?どうやってこの通信機を?」
『それを聞く暇があるのかい?あたいが時間を稼ぐから急いで戻ってきな。あんたらの鎮守府も大変な状況なんだよ。』ピッ
「ちょっと待って!……切れちゃった。」
「吹雪ちゃん?」
「…那珂ちゃん!急いでこの海域から脱出しましょう!今がチャンスです!」
「うん、そうだね。睦月ちゃん、まだ航行できる?」
「はい!まだ動けます!」
「それじゃあ、撤退するよ!できる限りの最大船速!」
謎の光によって撤退できた吹雪たちは、急いで鎮守府まで撤退する。
鎮守府の方角から飛んできていることから、司令官が呼んだ助っ人なのだろうと考えながら戻っていると、夕立の様子がおかしいことに気づいた。
「夕立ちゃん、どうかしたの?」
「ん~、さっき足柄さんが大淀さんに『後は任せる』って言ってたっぽいけど、
「え?大淀さんは足柄さんと車で出かけたよ。私達のところの大淀さんじゃないの?」
「でも、夕立は出撃前に
「あれ?おかしいな。」
吹雪と夕立の間で、何かしらすれ違いが起きているのだろう。
吹雪は、嫌な予感と違和感を覚えながら鎮守府への帰還を急いだ。
気づけば謎の光を見なくなり、舞鶴鎮守府へと戻ってきた吹雪たち。
鎮守府はかなり荒れており、窓が割れて地面にも穴が開き、何人もの黒服の人間が倒れているところを目撃した。
「一体何が…?これがあの人が言っていた大変な状況?いや、それよりも早くドックに移動しないと。」
「その事だが、させるわけにはいかないのだよ。」
「誰!……え?」
目の前に現れたのは白い軍服の男、それも、いつも見ている男だった。
「司令、官…?どうして邪魔をするんですか?」
「もうこの鎮守府はダメになってしまってな。どうしようもないから、お前たちごと此処を解体することになったんだよ。」
目の前に立ちふさがったのは、自分たちの司令官。
誰よりも熱く、艦娘のことを戦友と考え、涙脆い不器用な大男。
その司令官から唐突に告げられた「解体」という言葉に違和感を覚え、吹雪は砲を向けた。
「吹雪ちゃん、一体何を⁈」
「何のつもりだ、吹雪。私に砲を向けるということがどういうことか、分からないお前ではあるまい?」
「司令官は『解体』という言葉を使わない。そう言った人に鎮守府全体に響く怒鳴り声をあげるほど、その言葉を嫌います。」
「今まで偽っていたと思わないのか?」
「それはありませんね。司令官と何十年も一緒にいますし、足柄さんは私よりも長く一緒にいるんですよ。今になって偽る必要がありますか?」
「チッ!他のガキと違って、オ前ハ優秀ミタイダナ。」
司令官の姿が歪んでいき、その姿は重巡の深海棲艦へと姿を変える。
「深海棲艦⁉提督はどこッ!」
「何、少シ眠ッテモラッタダケサ。命マデハ取ッテイナイ。ダガ、モウ遅イ!既ニ仲間ノ艦娘共ハ、我々の手中ニア「ダイナミック・エントリー!」…ゑ?
ウワアアア!」
「待たせたわね、貴方たち。」
「足柄さん! 」
叫びながら飛び膝蹴りをして深海棲艦を吹っ飛ばしたのは、さっき連絡を取っていた足柄だった。
今はいつもの艦娘としての服ではなく、白いシャツのボタンを外して黒い肌気を晒し、カラフルなスカーフ、ジーンズと茶色ブーツを履き、腰にはベージュのカーディガンを巻いている。
「さぁ、早く入渠してきなさい。侵入者は全員ぶっ飛ばしたから。残りの警備は任しなさいな。」
「ありがとうございます。皆さん、行きましょう!」
吹雪たちは足柄に言われて入渠施設の方へと急ぐ。
それを見送った足柄は、転がっている侵入者たちを睨んだ。
「他人に化けるスーツを使う深海棲艦。これはユキに伝えるべきかしらね。貴方はどう思っているのかしら、『涼風』?」
「伝えるべきだね。昨日使っていたのは人間だけだったけど、深海棲艦が使ってるのは、ユキも知らないはずだよ。」
足柄が呼ぶと、涼風がライフルを抱えたまま上から降りてきた。
鎮守府を襲った涼風とは違い、以前ユキに頼まれて幻覚弾を撃った涼風だ。
迷彩柄のライフルを背負った腐り目で、白ではなく迷彩柄が施された服を着ている。
「深海棲艦は頭を潰した後、一斉に引いて行ったよ。その後は敷地内の侵入者をぶっ飛ばしたけど、鎮守府にはどれくらい侵入したの?」
「さっきの重巡と大淀に化けた「軽巡棲鬼」以外は全員人間で数十人。軽巡棲鬼は慣れてない感じだったから、鳩尾一発で眠らせて営倉送りにした。いずれ海に返す予定よ。」
「それまではあたいらで警戒か。何日ぐらいかかると思う?」
「ユキに連絡しないと分からない。返すのは今日の夜か明日の朝、鎮守府の運営再開は早くて明日の昼でしょうね。」
「分かった。じゃあ、あたいは見回ってくる。ついでにポイントも探してくる。」
「気をつけなさいよ。…さて、連絡しないとね。」
『これがさっき起きたこと。私がいないタイミングを狙っていたんでしょうね。』
「なるほど、そんなことがあったのか。深海棲艦の動きは、いつも以上に注意して行かないといけないね。」
『それで、うちの復旧の支援は頼めるかしら?』
「今は暇しているだろうし、如月達を向かわせるよ。本当なら僕が憲兵を連れて行きたいけど、話を聞く限り憲兵だと警戒するだろうし、僕は明日からの予定が埋まってるから今は鎮守府を離れられないんだ。」
『あの子たちなら安心できるわ。今は涼風もいるから、貴方は心配せずに自分の仕事に専念しなさい。それじゃあ、また今度会いましょう。その時はとびっきり美味しいカツカレーを作るから。』
「がら姉さんのカレー、楽しみにしてるよ。それじゃ。」ピッ
足柄との通話を終えたユキは、すぐに如月に電話を掛ける。
「もしもし、如月。今大丈夫かい?」
『ええ、大丈夫よ。ユキちゃんからの連絡なんて珍s『え⁉ユキさんから!お姉ちゃん変わってよ!』こら!』
「相変わらず君たちは元気だね。」
『仕方ないのよ。最近穏やかになって、仕事の依頼が減っちゃったから。』
「そんな君たちに僕から依頼がある。舞鶴の支援をしてほしい。」
『舞鶴って足柄さんのところよね?支援が必要になったって、どうして?』
「ああ、実はね…。」
少女色々説明中…。
『なるほどね。私達も暇していたし、すぐに支援を出すわ。』
「ありがとう。よろしく頼むよ。」
『任されたわ。そうだ、たまには私達のところにも顔を出してね?みんな寂しがっているし、新入りの紹介もしたいから。』
「分かったよ。暇ができたら顔を出させてもらう。それじゃあ、よろしく頼むよ。」
通話を終えたユキは釣りを止め、クーラーボックスを
ユキも料理をするが、和食関係になると鳳翔の方が美味しく作れる。
いつもなら、その時に料理も教わるのだが、今日はすぐに食堂から出て工廠の奥へと向かう。
以前作業をしていた地下施設へと向かい、その時の部屋とは違う大きな部屋に入る。
大きな機材が部屋の半分に鎮座しており、ユキはその横にある端末を起動させる。
『……鎮守府防衛システム「ガードナー」起動。こんにちは、マスター。』
「ガードナー、今日だけでいくつか要件が増えたから情報を追加して欲しい。」
『了解。……アップデート完了。本日の釣果は赤城と加賀の10人前になります。』
「その情報はいらない。あの二人の食事量は大体分かっているから。必要なのは、舞鶴の被害と深海棲艦の行動だよ。」
『再更新……舞鶴鎮守府の被害情報を確認。
各資材3000以下、バケツの反応・無、本館被害・微、各施設被害・小と断定。
艦娘バイタル・轟沈0、大破3、中破3、小破0。
…バイタルの乱れを確認。精神不安定者・多数確認。鎮守府総被害レベル・乙と断定します。』
「予想以上の被害だな。動ける人物と侵入者の詳細は?」
『現在、鎮守府哨戒中の「涼風」及び「足柄」、「
「大淀」の生存を確認。現在、「ウルフ号」で鎮守府に帰還中。到着まで約1時間と断定します。
続いて侵入者のデータを確認……計17の反応を確認。
3つは深海棲艦・「軽巡棲鬼」、「重巡リ級」、「駆逐イ級」の反応と断定。残りは裏世界のならず者と判明しました。』
「イ級がいる…、がら姉が見逃したのか?それとも隠れているのか。…ガードナー、がら姉に連絡を。」
『その必要は無さそうです、マスター。舞鶴鎮守府の監視カメラと同期します。』
ガードナーの言葉と共に、隣の映像パネルが砂嵐を起こす。
徐々に砂嵐が晴れていくと、そこには軽巡棲鬼に肩を貸す人の姿をしたイ級と、腕を組んで仁王立ちで道を塞ぐ足柄の姿があった。
足柄と対峙するイ級と軽巡棲鬼。
軽巡棲鬼はお腹を押さえており、イ級が肩を貸さないと立てないほどダメージを受けていた。
「可愛い侵入者ね?仲間を取り戻しに来たのかしら?」
「艦娘!そこをどけろ、私達は海に帰るんだ!」
「鎮守府を襲い、大淀に化けて提督を殺そうとした奴を生きて返すと思う?」
「ち、違うッ!私はッ!」
「言い訳は無用よ。ここまで侵入を許したのは完全に私たちの落ち度だけど、うちの可愛い子たちと提督に手を出したんだから、覚悟は良いわよね?」
「軽巡棲鬼様、此処は私にお任せください。時間を稼ぐので少しでも遠くへ。」
「待ちなさい!イ級の貴方に何ができるの!」
「私を舐めないでください。駆逐イ級総括、1番隊隊長『不死身の
ファイティングポーズで構える急箭。
足柄は、その姿を見て微笑みながら、腕組を止めて手を腰の位置で構える。
「貴方の大切な人を守りたいと言う気持ちはよく分かったわ。でもね、『勇気』と『無謀』は別物よ。圧倒的力の差は勇気では埋まらない。これを見てまだ立ち向かう気があるのなら、貴方の勇気を認めましょう。
…第一『開門』…開!」
言葉と共に緑色のオーラが足柄を包み込み、炎のように揺らめく。
体全身が赤く染まり、目は白く、髪は逆立つ。
急箭達を睨みつける足柄の眼光は、獲物を借る獣のように鋭く、体全身が固まってしまう様に感じる。
そんな眼で見られた急箭が平気でいられるはずもなく、また目を逸らすこともできずにその場でへたり込み、顔を青くして涙を流しながら漏らした。
「あ、ああ……!」チョロチョロチョロ
「命の前に威勢の方が消えてしまったわね。、
「ひぃッ!いや…来ないで。」
足柄は一歩、また一歩と近づいていく。
足から「ギュピギュピ」という音が鳴りそうな化け物、悪魔のような威圧感を放ちながら、近づいてくる。
急箭はその場で震えるだけで何もできないでいる。
「無謀だということがよく分かったかしら?さあ、大切な人とサヨナラしましょうね。」
「止めて!」
2人の間に入り、大きく手を広げる軽巡棲鬼。
自分だって怖くて、体が震えているのにも拘らず、足柄から目をそらさずに立ち塞がる。
「何の真似かしら?せっかく助けに来てもらったのに貴方から消されたいの?」
「死にたくない…だけど、この子を失うことの方が死ぬよりも辛い!
強くないことは分かっている!役に立たない、出来損ないの姫だって!それでも、そんな私を慕って、信じて、命を賭してくれるこの子だけは死なせたくない!」
「そう、なら…。」
足柄は軽巡棲鬼の顔をハンドボールの様に、右手で掴んで持ち上げる。
「貴方の死で、この出来事の全てを終わらせてあげる。」
「やめてぇーッ!」
足柄は軽巡棲鬼を空高く飛ばし、急箭は届かない手を伸ばして叫んだ。
ロケットのように宙へ飛び、次第にゆっくりとなる周りの景色をみて、軽巡棲鬼は己の死を覚悟した。
それと同時に、今までの事を思い出す。
多くの仲間を連れて行き、返り討ちになった作戦。
他の姫級に虐げられてきた日々。
自分を慕ってくれた急箭との出会い。
その全てが、走馬灯が流れる。
(ああ。私は、急箭と居られて楽しかったんだ…。)
辛かった思い出と急箭との思い出が駆け巡り、涙を流す。
足柄は軽巡棲鬼から目を離さずに腰を落とし、左手に力を貯める。
そのまま落下してくる軽巡棲鬼を狙って力を開放すると、拳に乗せた力は空気の弾となり軽巡棲鬼に向かう。
しかし、その空気の弾は、軽巡棲鬼に当たる前に大きく逸れていった。
そのまま落下する軽巡棲鬼を、元に戻った足柄が両手で受け止めた。
「…え?」
「さあ、茶番は終わりよ。付いてらっしゃいな。」
足柄の腕の中でキョトンとする軽巡棲鬼。
足柄が歩いてどこかに向かい、キューは付いて行く。
その先で待ち受けていたのは……。
「ちょっとッ!何よ、この服ッ!色々と見えちゃうじゃないの!」
「あら、何か不満なの?れっきとした仕事の格好よ。(提督の趣味でもあるけどね…。)
文句言う暇があるなら、あの子を見習いなさい。」
軽巡棲鬼がしていた格好は、ミニスカートのメイド服。黒のニーハイがとてつもなくエロスを感じさせている。
そんな恰好で何をさせられているのかと言うと、鎮守府の修復である。
壊したのだから責任を持って直せと言われ、足柄に監視されながら修復を行っている。
メイド服で修復ができるか、と文句を言う軽巡棲鬼だが、急箭の方はどんどん仕事をこなしている。
「瓦礫の撤去、完了しました。次は何をすればよろしいでしょうか!」
「ご苦労さま。次は修復用の資材を運んでくれるかしら?」
「了解です!レッツゴー!」
「なんであんなに元気なのよ……」
謎にテンションの高い急箭に、戸惑いを隠せない軽巡棲鬼。
何度も足柄に説教を食らいながら修復を行った結果、日が沈む前に鎮守府の修復が完了していた。
軽巡棲鬼はその場にうつ伏せで倒れる。
「つ、疲れた。もうこれで終わりよね。」
「早いわね、もう修復を終わらせるなんて。うちの子たちでも、もう少しかかるわよ。」
「足柄様!他に仕事はありませんか!」
「貴方は働き者ね。今日はもう終了よ。休んでよろしい。」
「はっ!」
まるで軍人の様に返事をしている急箭だが、その目はとてもキラキラしていた。
軽巡棲鬼は、自分にはできないことを平然とやってのける急箭を羨ましいと感じた。
「さて、貴方たちの処遇について話すけど、その前に1つ聞いていいかしら?」
「な、なに?」
「貴方たちは、このまま海に帰りたいかしら?」
「私は軽巡棲鬼様に従います。」
「貴方はどうするの?」
「私は……。」
海に帰りたいか、という足柄からの質問を聞いて少し考える。
急箭に助けられた時は、海に逃げて静かに暮らせればそれでいいと考えていた。
しかし、海に戻ればまた他の姫級にこき使われ、下手をすれば処分される。
陸に出ても自分たちが安心して暮らせる場所は無い。
このまま解放されても、自分たちの行く末に希望が無いのだ。
答えを出せないままでいると、足柄がため息をつきながらこう言った。
「質問を変えるわ。貴方たちは平穏な生活がしたい?」
「……したい。この子と静かに暮らしたい。けど、海に戻っても……。」
「なら、
「え?」
今「此処で暮らしてみるか」と言ったのだろうか?
どうして敵、深海棲艦であり、この鎮守府を襲った自分に対して、暮らしてみるなんておかしなことを言うのだろうか?
「なんでそんなおかしなことを言うのか、って顔をしているわね。まあ、これはある人たちが望んだ理想なのよ。」
「理想?」
「鎮守府の一部にはね、戦闘を好まない深海棲艦を保護している場所があるの。皆、今の貴方の様に帰る場所が無い子たちよ。でも、似たようなところはあるの。貴方達、さっき此処で作業していて楽しかったでしょ?イ級は目を見れば分かるけど、貴方は無意識笑っていたの。」
「私が…笑った?」
「ええ。あれだけ文句を言っていたけど、鎮守府の1部が修復できた時、貴方は喜んでいたわ。実際、鎮守府を修復できた時、嬉しかったでしょ?」
嬉しくなかった、何て言うと嘘になるだろう。
今まで何もできてはいなかった自分に、出来ることがあった。
それが分かった時、とても気分が清々しくなったのだから。
「…嬉しかった。今まで何もできなかったのに。急箭に頼らなくてもできたこともあった。」
「その『できた』という経験のお陰で貴方は嬉しくなった。そこで、その経験を基に今度は喜びを与える側になって見ない?」
「喜びを与える?」
「貴方たちの襲撃で、此処の子たちは喜びを失っているの。ここで暮らすことを提案したけど、信頼はないから納得しない子が大勢いるのは当たり前の事。そこで、普段私がしている仕事を、貴方たちにもしてもらうわ。それがここで暮らす条件よ。」
「おーッ!一体どんな事をするんですか⁉」
「家事全般から鎮守府の機密情報以外、全て貴方たちに叩きこんであげるし、仕事も幾らか頼むわ。勿論、それに見合った給料も出すし、望むなら私の権限で貴方たちの戸籍も作ってあげる。最終目的は貴方たちの平和な暮らしと、うちの子たちとの完全な信頼関係を築くこと。
ただし、うちにいる優秀な子たちの監視を付けるわ。何かしようものなら速攻で叩きのめすから。これを聞いても暮らしたいなら、ここで覚悟を決めなさい。」
軽巡棲鬼はこの条件を聞いて、逆に戸惑った。
互いに条件を出す時は、お互いのメリットとデメリットを考えて交渉するのが普通だ。自分が他の姫たちに命令された時も、命は助かる上に、ある程度の地位も与えられるという、条件を与えられていた。
しかし、今回の条件は、足柄及び舞鶴鎮守府としてのメリットはほとんど存在しない。
せいぜい深海の戦力が雀の涙ほどしか減らず、仕事の負担が減るぐらいだ。それでも、自分たちに付く監視や存在の秘匿など、様々な面でのデメリットが生じている。
あまりの好条件に、本当に信じていいのか不安になるのだ。
「いいの?私達にしかメリットが無いように思えるけど。」
「いいのよ。貴方たちは
「恥ずかしいのでお止めください///」
「ふふッ。後は、うちの鎮守府の代表と提督に話をしなさい。そこに隠れてるから。」
「「ちょっ!足柄(さん)⁈」」
「こそこそ隠れてないで出てきなさい。貴方達が皆の代表になるって腹くくったでしょ?」
足柄に言われて鎮守府の陰から出てきたのは、舞鶴鎮守府の提督と吹雪だった。
大柄の男が小さな少女の後ろに隠れると言う、傍から見ればなんとも情けない姿をさらしている。
「いや、でもなぁ。さっき殺されかけたし…。」
「私達艦娘はまだしも、提督は人間ですし……。」
「会話と旧呉鎮守府流修行法、好きな方を選んでいいわよ。」
「「会話でお願いしますッ!(死にたくない…。)」」
足柄に脅された2人は、軽巡棲鬼と急箭を舞鶴鎮守府に受け入れる上での細かいことを話した。
その数時間後、如月たちが舞鶴に到着したため、鎮守府の全員を集めて今回の事を全てを説明した。
艦娘たちは疑いの念を向けたが、2人の全力の謝罪と足柄の説得で受け入れられることとなった。
『以上が舞鶴についての報告です。元帥にも通達しております。』
「ありがとう。涼風もしばらく残るって言ってたから、舞鶴はもう大丈夫だろう。軽巡棲鬼とイ級、急箭だっけ?あの2人には一度会いに行かないとね。今後の僕の予定ってどうなってる?」
『これから2か月、半日休みはいくつかありますが、1日休みがございません。1か月半後には、呉鎮守府の方々が合同演習にいらっしゃいます。その際、大和型のお2人の艤装点検、改装がございます。』
「ああ、そう言えばそうだった。……あれの完成はその休みの間に済ませるか。」
『よろしければ、私が進めておきますが…。』
「……いや、最後は僕が完成させるよ。一番近い半日休みはどこになってる?」
『10日後の午前です。その前日には大湊鎮守府を含め、その周辺の鎮守府・泊地・基地にある予備艤装、約250個の修理が入っています。』
「ああ、そのための休みにしてたっけ?なんとか頑張るよ、ありがとう。」
『それでは、失礼いたします。』
ガードナーの言葉と共に画面が真っ黒になる。
ユキは、タイヤの付いたフカフカの椅子の背もたれに、寄りかかって天を仰いだ。
仕事をするのはいつもの事だが、ここ最近の休みの少なさに、自分の体が悲鳴を上げ始めたからである。
しかし、明日からの仕事に手を抜くつもりはない。
深呼吸をして、自分の中で嫌な気持ちを振り払いながら席を立ち、部屋を出て行った。
前作で書かなかった舞鶴鎮守府のお話。
此処はアニメ1期の仲良しトリオと
先輩方(川内型)がいる鎮守府です。
戦艦や空母などの強力な艦娘はおらず、
足柄姉さんが最大戦力になります。
(なお、重巡は姉さん1人)