この小説はMMD動画をイメージしていただければ
楽しめると思います。
カーン カーン カーン
朝方、まだ日が昇り始める時間帯。
通常勤務時間の艦娘たちが起き始める、布団から抜けるのが難しい時間に響く金属を叩く音が、低い気温によって鎮守府全体に響き渡る。
これは、この鎮守府の起床の合図であり、ユキが作業をしている日に聞こえる作業の音。*1
朝早くから作業をするため、工廠の扉を閉めて音を遮断しており、07:00になると扉を開けて、07:30までは空気の入れ替えと起床の合図を出している。
30分の猶予があるのは、この鎮守府が役割故に出撃任務がほとんどなく、東京湾の哨戒か他鎮守府からの救助要請ぐらいしかないからだ。
艦娘たちは、今は寝ぼけながら朝の身支度をして、早いものは食堂でゆったりとした時間を過ごしているだろう。
もっと早いものは、この音を聞きながら、優雅に朝のティータイムを迎えていた。
「ン~、いつもよりintenseな音が聞こえマース。ユキらしくないネ。」
「ここ数日、楽しさのない作業音しか聞こえてこないのよ。まあ仕事量が多いし、今は作業以外に楽しくてやりたい事でも溜め込んでいるんじゃないかしら?」
そんな会話をしている、少しな豪華な部屋で紅茶を啜る2人の女性。
1人は巫女服のような服装の英語が混じる話し方をする艦娘『金剛』、もう1人はこの鎮守府の提督であり海軍のトップ、元帥の『
そう、ここは提督の仕事場である執務室。
金剛はソファに綺麗な姿勢で座りながら、咲は工廠を眺めながら紅茶を啜る。
2人で朝から紅茶を飲むのは中央鎮守府に着任する前、咲が元帥になる前からの日課であり、この流れだけは、激戦で忙しい時でも必ず行っていた。
頭を整理するためには、この時間は欠かせないのである。
中央鎮守府に来てからは、ユキの作業音を聞くのも日課になっている。
「ユキちゃんの音は変わっても、金剛の淹れる紅茶の味は変わらないわね。とても落ち着くわ。」
「そう言ってもらえると、とっても照れちゃいマ~ス。でも、私はまだまだデ~ス。今まで色々な店の味を再現してきましたが、ユキの淹れる紅茶の味だけは、未だにreproductionすることができないほど格別ネ。」
「あの子の淹れ方は、先輩が教えたもの。
咲が思い出すのは、とある提督の事。
自分の事を部下として、戦友として、時には妹か娘・家族の様に可愛がってくれた今は亡き存在。
軍人になる前は世界を旅していたそうで、その時にもらった紅茶を教わったらしい淹れ方で出され、普通の紅茶を飲めなくされた。
そんな懐かしい、数十年も昔の事を思い出しながら時計を見ると、時刻は09:02となっていた。
この鎮守府は最初に言ったように他の鎮守府よりも運営の時間が遅くなっている。
他の鎮守府が07:00~08:30*2に運営が始まるのに対し、09:00以降からゆっくり始めるようにしている。
咲には元帥としての仕事があるが、秘書官が優秀なので半日もかからないからだ。
しかし、その優秀な秘書官が未だにこの部屋に入ってこない。
「提督、あの子は何をしているネ?今日の業務が始められないヨ?」
「あ~、あの子はいつも通りというか…何というか……。多分、『後五分~』って言いながら寝ているんじゃないかしら?今は涼風がいないから、起こす人がいないのもあるわね。」
ドタドタドタドタ コンコンコン
「噂をすれば…、どうぞ。」
ガチャッ!
「失礼しますッ!ごめんなさい、寝坊しちゃ…たぁぁぁ!」 ドテッ
部屋に入ってきたのは、涼風と同じ服*3を着た、青ロングの少女『五月雨』。
入ってきて、いきなり何もないところで顔から地面にダイブした。
泣かないように涙を堪えて体を起こすと、敬礼して謝罪する。
「白露型6番艦、五月雨。ただいま参りました。」
「oh…、faceが真っ赤になってマ~ス。大丈夫デスか?」
「はい、私は大丈夫です。」
「貴方が大丈夫なのは良い事なんだけど…、五月雨。」
「はいッ!」
「今日の書類は、どうしたのかしら?」
沈黙が、この空間を包む。五月雨の顔は徐々に青くなっていき、やってしまったという、今にも叫びそうな顔になっていた。
「す、すぐに取ってきますーッ!」
「ああ、走ったらまた…『ふみゅッ!』
言わんこっちゃない。」
「戦闘と仕事はあんなにexcellence なのに…」
「何十年経っても、日常生活でのドジっ子だけは治らないのよね。書類のばら撒きとお茶のぶっかけが無くなったのは、ありがたい成長なんだけど。」
五月雨は真面目ではあるが、ドジっ子気質である。
咲の初期艦として着任した当初は、『転んで書類を廊下や床にばら撒く』、『お茶を書類にぶちまける』、『1本道で迷子になる』など数々の問題を起こしており、今日においては寝坊と書類忘れをしている。
果たしてドジっ子で済まして良い問題なのか、こればかりは咲も頭を抱えている。
だが、そんな彼女でも仕事中は優秀なのだ。
「こちらの書類、確認をお願いします。それとこちらの書類ですが、此処が間違っています。」
「ありがとう、すぐに確認するわ。こっちもお願いできる?」
「はい。すぐに確認しますね。」
「しれぇー!無事に帰投したよー!」
「時津風ちゃん、報告書はこっちで預かりますね。…あっ、ちょっと被弾してる。」
「ちょっと当たっただけだよー。」
「ちょっとでも駄目です。ちゃんと入渠して、傷を治してください。戻ってきたら間宮権を渡しますから。」
「ほんと?じゃあ、いってくるー!」
「おっと。すまない、倉庫の中に演習用の的が見当たらないのだが…。」
「この前、長門さんが壊しちゃったじゃないですか。予備は工廠にありますけど、ユキさんが作業中なので、明石さんに相談してください。工廠前に居ないなら、今の時間は資料室にいると思います。」
「そうか、明石は資料室に居るのか。壊してしまったことも忘れていたな。とりあえず資料室に行ってくる。」
「また壊さないでくださいね。金剛さん、こちらの資料の確認が終わったので、確認済みの方に置いてもらえますか。こちらの報告書は、書き直しをお願いできますか?」
「任されたネー。トッキーのpictureは、大本営に出せませんからね。」
五月雨が、仕事ができると言うのはこういう事。
書類や報告書の確認は抜かりなく、些細な変化に気づき、質問にもしっかりと回答する。
ドジっ子というのが嘘の様に思えるほど人が変わるのだ。
数時間後、戻ってきた時津風に間宮権を渡したり、休憩にティータイムを挟んだり、長門が的を壊したり、いくつかの報告があったりと、色々あったが、書類作業がようやく終わった。
時間は昼時を少し過ぎ、昼食を取るには少し遅い時間。
金剛とティータイムをしたことで、今が丁度お腹の虫が鳴く時間。
3人揃ってお腹を鳴らし、お互いに視線を合わせて笑いながら、食堂に向かった。
「離せ~!僕はまだ作業をするんだ~!」
「こうでもしないと、昼食を抜くのは分かっているんだ!大人しくしてくれ!」
「手足を縛って我々ビッグセブン6人がかりで抑えられんとは!どうなっている⁉」
「姉さん!もっと抑えて!」
「Shit!」
「姉貴、もう少し頑張って。」
「ねぇ明石、本当にこれでいいの?」
「寧ろこれが最適解です。甘やかしたら私達が鳳翔さんに怒られます。鳳翔さんが料理を完成させて一口目を食べさせるまでが、我々の仕事です。」
食堂の外まで聞こえる声に驚きながら入ると、食堂のカウンター席に紐でぐるぐる巻きにされているユキと、体を全力で抑える『長門』、『陸奥』、『ネルソン』、『ロドニー』、『コロラド』、『メリーランド』の6人。
ビッグセブンと称された*4彼女たちでさえ、身動きの取れないユキ抑えるのがやっとな状況だった。
「何があったの?」
「工廠長がお昼になっても出てこなかったので、無理やり縛って連行しました。今は、鳳翔さんの料理待ちです。
正確には、鳳翔さんから『あまりにもガサツな音だから、無理やりにでも止めて連れて来い。』と脅s…ゴホン、頼まれました。」
「それで今は抑えているところ、ってわけね。理由は聞けた?」
「いえ、ずっと『離せ』、『作業させろ』と言い続けています。」
「強引にでも休暇を入れさせた方が良いのかしら…。」
まるで中毒者のような状態でどうしようもないユキを目にして、どうしようか悩んでいると、鼻をつんざく異臭がした。
「何、この匂い?鼻が少し痛い。」
「ああ、これはあれです。鳳翔さんの料理です。」
「ゑ?」
「皆さん、お待たせしました。もう少し頑張ってくださいね。」
食堂の奥からやってきたのは、ガスマスクをつけた鳳翔。
その手には真っ黒な謎の物体が乗ったスプーンが握られていた。
「鳳翔、それは一体?」
「悪い子専用のお仕置きメニューです。明石ちゃん、ユキちゃんの口を開けさせてください。そうしたら、さっき言いかけた言葉を聞かなかったことにしますから。」
「…はい。」
鳳翔は、どうやら地獄耳のようだ。
冷や汗をかきながらユキに近づいた明石。
未だにユキは同じ言葉を繰り返しており、その目は光が無いように見える。
「離せ!僕は作業を続けるんだ!」
「陸奥さん、足を少し前に出してくれます?」
「これでいいかしら?」
「はい、では。フンッ!」
陸奥がユキの足を少し前に出させると、明石は踵でユキのつま先を踏みつけた。
それと同時に鳳翔は物体をユキの口に押し込む。
「ああああああーーッ、ングッ!」
「力が、弱まった?」
「ビッグセブンの皆さん、ご協力感謝いたします。これで大丈夫ですので、とりあえずそこを離れていてくださいね。」
そう言われて6人とも距離を取ると、ユキの体が小刻みに震えだす。
顔の色が次第に色白肌から藍、そして緑に変わると口から何かが出てきた。
それは黒い物体ではなく、毛虫のような鼠色の生き物で、地面を素早く地面を這い始めた。
「捕まえてやる…くッ!早い!」
「Oh my god!ナガート!早く捕まえて―!」
食堂は阿鼻叫喚に包まれる。
触れる者は何とか捕まえようとするが、その素早さに翻弄される。
しばらくすると、這いまわったそれは五月雨めがけて飛翔した。
「五月雨!逃げてッ!」
「五月雨ちゃん!」
皆が悲鳴を上げ、五月雨に向けて叫ぶ。
しかし、五月雨はその場から動かない。
恐怖で動けないのだろうかと心配していると、五月雨はその虫を両手で、水を掬うように受け止めると、右手の人差し指で優しく撫で始めた。
「人が多かったから怖かったんですね。もう大丈夫ですよ。」
「五月雨、大丈夫なの?」
「はい。この子は悪い子じゃありませんよ。確か、52号ちゃんですよね?何でこんなところにいるんですか?」
「52号?どうして名前を?」
「前に明石さんに見せてもらったんです。お仕事を手伝ってもらったこともあるんですよ?」
満面の笑みで話すと、皆の目線は明石に向いた。
「言っておきますけど、私じゃないですからね。作ったのは
「大本営に居る明石さんが作ったんですよ。作業を終えるか、こうやって口から出さないと出てこないんです。」
鳳翔から52号についての説明がされた。
『試作№52号』
元呉鎮守府・現大本営に所属している明石が開発した物の中でも初期の作品。
それ1つで世界のバランスを崩し、混沌をもたらす可能性を秘めた作品を『トンデモ兵器』と称して封印されている、52番目に作られた作品。
作業に対する嫌悪感や苦手意識など、一切の感情を遮断し、1つの作業をやり遂げることを目的とするように脳を支配する生物兵器である。
知能が高く、コミュニケーションが取れる脳を持っている。
その知能と行動、ゾンビ兵が出来上がる危険性と非人道的観点から、ユキによって管理されるようになった。
しかし、今目の前で、危険指定された52号がユキから出てきたことについて、鳳翔が般若のような顔でユキに問い詰める。
「ユキちゃん。なんでこの子を使ったのか、説明してくれるかしら?」
「…やりたい作業が後もう少しで終わるから、仕事を早く終わらせて続きの作業をやりたかった、からです。」
「そこまでしてやりたかったの?」
「…完成すれば演習で使えるし、皆のためになると思って…。」
「はぁ。あの人も同じことをしたけど、お母さんたちに怒られているのを見ていたでしょ?食事を抜いてまで行う作業なんて許しませんッ!」
「あぅ…ごめんなさい。」
「今度やったら、無理やりにでも作業を中断させます。52号ちゃんにお願いして、食事を摂る作業に集中してもらいますからね。
「いっ!それだけは!」
「なら、今は大人しく食事を摂って、今日の19:00には必ず食堂に来なさい。約束を破ることがあれば、すぐに52号ちゃんを入れ込みますからね。
それと、夕食後の作業は認めません。明石ちゃんにやってもらいなさい。それから…」
鳳翔の説教は長く続き、丸1時間以上は続いただろうか?
説教が終わった頃には、食堂には非番の艦娘しか残っていなかった。
咲が遅めの食事を摂っているのに、食堂にその姿が見えないことから、時間的には15:00辺りだろう。
ユキは大急ぎで、でも味わいながら食事を摂り、工廠に戻って作業を続けた。
52号は鳳翔が預かり、皿の上で美味しそうにキャベツを食べていた。
「提督の面影が見えますね。良いところも、悪いところも…。」
どこか寂しく、悲しげな顔をするが、52号の方を見て微笑んで優しく撫でる。
「52号ちゃん、美味しいですか?」
【♪】
幸せな顔で食べ続ける52号を見ながら、鳳翔は夕食の仕込みを始めるために動き出した。
この日は説教が効いたことで、ユキはちゃんと切り上げて食堂にやってきた。
それどころか、作業をほとんど(妖精さんたちによる完成度検査)終わらせてやってきた。
本来なら夕食後に残りの作業をやって終わりとなるが、作業はダメだと言われているため、駆逐達の相手や相談に乗るなどして、残りの時間を過ごした。
翌朝、鎮守府に金属音が響き渡る。
咲と金剛は、昨日と同じように執務室からその音を聞いていた。
「心地いいわね。昨日の説教が効いているみたいね。」
「ユキの本当のsoundは、私達もhappyになりマース。」
『ああ、この音だ』、と帰ってきた懐かしい音に浸っていると、執務室の扉が開かれた。
そこには、大量の書類を持った五月雨がやってきた。
「お待たせしました。さあ、今日も頑張りましょう。」
「……五月雨。」
「はい!」
「今日の秘書艦は金剛なのと、貴方は休みだから、山風と遊びに行く予定じゃなかったかしら?」
執務室に沈黙が流れ、五月雨は顔を蒼白させ、妹の名前を叫びながら、大急ぎで部屋を飛び出した。
そして、当然の様に転んだ。
一方、こちらは五月雨が大慌てしている頃の工廠。
工廠の床に敷かれたブルーシートの上で、ユキは作業着*5のままサンドイッチを頬張り、妖精さんは数人がかりで艤装を運んでいた。
事前に鳳翔にサンドイッチを作ってもらい、作業を終わらせて朝食を食べていた。
妖精さんが艤装を運んだ先にあるのは、妖精さん2人分ぐらい高いところにある、ドックのような場所。
それが3か所ほどあり、列を作って待機していた。
ドックには、運搬中の妖精さんとは違う妖精さんが待機しており、バインダーとペンを持って何かを書き込んでいる。
数分すると妖精さんがサムズアップ*6をした。
すると、その艤装は工廠の入り口へと運ばれていった。
これが妖精さんによる完成度検査。
説教を受けた時には、この過程までを9割終わらしていたのだ。
つまり、今行っていたのは残りの1割、約25個分の艤装の修理。
検査を通ればユキの作業はこれで終わり、午前中は休憩になる。
そして、最後の1個がサムズアップと共に、工廠の外へと運ばれていった。
「ようやく終わった…。妖精さんたちもありがとう。報告と鳳翔さんから甘味を貰っておいで。片付けはやっておくから。」
【(`・ω・´)ゞ】
妖精さんたちを見送り、ユキは工廠の片づけ・清掃を終わらせる。
シャワーを浴び、いつもの服へと着替えてから部屋の奥へと向かう。
以前と同じように研究室のような部屋の大画面と睨めっこを開始する。
傍から見れば何を打ち込んでいるのか分からないが、画面上に文字の羅列が出来上がっていくことだけは分かる。
最後にEnterキーを、タァン!と、1度はやってみたいことをして、椅子の背もたれに体重を預ける。
画面には何かをダウンロードするバーが映し出されていた。
『お疲れ様です、マスター。』
画面が2画面に切り替わり、左にはダウンロードのバー、右には人影のアイコンと音量マークが映し出された。
「ガードナーか。…明石を呼んでおいてくれるかい?」
『既にDMを送っております。詳細は伏せ、「新たな演習のための実験協力」と説明しております。』
「ありがとう。……今何時?」
『09:53でございますが、おやすみになられますか?』
「休ませてもらうよ、12:00になったら起こしてくれ。後、それ以降に行くことを伝えて。」
『畏まりました。お休みなさいませ、マスター。』
ユキは少し怠そうに部屋を出て行き、設置している仮眠室へと向かった。
部屋の画面には『Complete』と表記され、『Start』の文字に変わった。
その数時間後、部屋の扉が開いて明石が入ってきた。
『いらっしゃいませ、明石様。』
「こんにちは、ガードナー。
演習のための実験とは何をするのですか?」
『戦闘力向上を目的としております。
早速ですが、奥にあるカプセルに入ってください。』
「カプセル…、これですね。」
ガードナーの指示を聞き、部屋の奥にある縦長のカプセルの方へと向かう。
カプセルは斜め40度ぐらいに傾いており、頭部にはゴーグルのようなものが置かれている。
カプセルの中で明石が横になると、カプセルが閉じた。
『核レベルでない限り壊れないカプセルですので、ご安心ください。それでは、右側にあるゴーグルを装着してください。装着したら目を閉じてください。』
ゴーグルを装着し、目を閉じて次の指示を待つ。
すると、目を閉じて暗い筈の視界が、真っ白な世界へと変わり、ウユニ湖のような景色が見え始める。
突然の事に驚いていると、ガードナーからの連絡が入る。
『無事に入ることが出来ましたね。体は正常に動きますか?』
手をグー、パーと動かしたり、ジャンプや歩いたりして確かめる。
「正常ですね。今のところ、おかしなところはありません。」
『それでは「
「『コマンド』…ッ!何ですか、これは。」
明石が唱えると、目の前に5つの欄が現れた。
『Start』
『Stage』
『Character』
『Help』
『Logout』
『あくまでβ版ですので、必要な項目だけにしております。
細かい設定は既に調整されていますが、管理を任されておりますので、何かあれば私が早急に対応致します。「Help」は念のためです。』
「なるほど。それで、どれを押せばいいのですか?」
『本来なら「Stage」と「Character」を選択して開始するのですが、実験を兼ねているので、今回は省かせていただきます。
そのため、「Start」を押してください。』
明石は『Start』を押す。
目の前に『戦闘開始まで残り30秒』と表記され、カウントが始まった。
次第に周りの背景が変わっていく。
遠くに背の高い建物が見える、荒い岩肌の見える崖に囲まれた半径50mほどの平地。
森なのか山道なのかは分からないが、戦うために用意された様な広がった場所に立っていた。
明石の目の前には、見知らぬ誰かが立っていた。
黒と水色が特徴の変わった服を着ている男性、というよりは少年。
少し長めの黒髪、茶色の瞳で釣り目気味だが、優しい笑顔を向けてくる。
残り時間が10秒を切ると、少年は目つきを変え、戦闘のためにファイティングポーズを取る。
その手に手甲が見えたため、戦闘スタイルが自分と同じ格闘系と判断した明石。
同じように構えると、カウントが0になる。
『Let`s go ahead』の文字に変わると、戦闘開始のブザーが鳴ったため、明石は自分から攻撃を開始した。
自分の十八番である足技、『飛燕連脚』。
この技を教わってからというもの、大体の相手は左足での蹴りに対応できても、後の右踵での回し蹴りに対応できずに飛んでいった。
ユキや鳳翔のような実力者や、反射神経に自信がある相手じゃなければ、この技に対応できない。
絶対の自信を持って少年に放った。
「食らいなさい!飛燕連脚ッ!…なッ!」
2連撃の足技は少年に止められた。
それどころか、無防備な状態になったことで、少年に反撃を食らうことになる。
『獅子戦吼!』
「ぐぅっ!」
吹き飛ばされ、何とか受け身を取って立ち上がるが、少年は反撃の隙を与えないように接近していた。
近くまで来ると飛び上がり、左足での蹴りを繰り出した。
瞬時に腕でその蹴りを受け、反撃をしようとするが、目の前には右足が見えた。
「これって…ッ!」
『
「うわぁッ!」
明石の十八番である『飛燕連脚』を少年も使ってきた。
相手も使えると言う可能性を考えていなかった明石は、今までの相手と同じように飛ばされてしまう。
そのまま崖に衝突し、その衝撃で視界が暗転、倒れてしまった。
空中には『Game End』と表記が浮かび上がっていた。
次第に明石は光に包まれ、この空間から姿を消した。
少年はその様子を、心配そうに見つめていた。
明石が目を覚ますと、そこは知っている天井だった。
カプセルに入っていたはずの明石の体は、柔らかいベッドの上に移されていた。
隣から電子音が聞こえたため、そちらに顔を向けると真っ黒な見慣れた背中があった。
今はモニターを見ながら、何かを打ち込んでいた。
「調子はどうだい?」
「…ちょっと体が重いです。疲れた時と同じ様な感じがします。」
「体の痛みは?」
「痛みは無いですが…。何というか、受けたという感覚だけは残っています。」
「なるほど…。」
ユキは明石の方を見ずに、何かをチェックしている。
モニターを凝視すると、先ほどの戦闘の映像が流れていた。
場面は明石が倒れたタイミングだった。
「ガードナー。ここのバイタル、どうなってる?」
『一時的な停止と乱れが生じています。恐らく気絶したものかと。』
「気絶か。感覚が残るようにしたからか?『ペインアブソーバ』の再現は、まだ無理か。」
『今回は「Home」へと戻った後、10秒ほど反応が無かったため、強制的にlog outさせました。
気絶した場合、即時log outする機能を追加することを推奨します。』
「確かに、その方が安全か。その機能はガードナーに一任してもいいかい?」
『畏まりました。こちらで機能の追加をさせていただきます。』
方針が決まり、ユキは作業を続ける。
数分後、再びガードナーが声を掛けた。
『マスター。後五分で19:00です。作業の一時中止を推奨します。』
「もうそんな時間か。分かった、すぐに食堂に向かうよ。明石は動けそう?」
「はい。体は重たいですが、何とか。」
「それじゃあ、行こうか。」
ユキに支えられ、地下室を後にした二人。
食堂では実験参加の報酬として、明石にはユキの手作り料理が振る舞われた。
ユキの料理はそう簡単に食べられるものではない。
そのため、子供のようなキラキラとした目で食べる明石を見て、周りの艦娘たちは羨ましそうに涎を垂らしていた。
明石の横では、ユキの料理にあやかる52号の姿もあった。
止めて!
真祖の力を取り戻したオベリスクの巨神兵で
ダイレクトアタックを決められたら
本気のデュエルをしているうーちゃんの精神まで燃え尽きちゃう。
お願い、死なないでうーちゃん!
貴方が今ここで倒れたら、賭けたお姉ちゃんたちのデザートはどうなっちゃうの?
ライフはまだ残ってる。ここを耐えれば、ユキに勝てるんだから!
次回「卯月散る」デュエルスタンバイ!