交錯X:仮面異変
「ふぅん。『デザイアグランプリ、リニューアル』…ねぇ?」
今よりはるか未来。
人類が肉体を捨て、データとして星の周りを漂う時代の片隅で、1人の男がつまらなさそうに吐き捨てる。
彼が佇んでいるのは、処刑場…だったもの。
既にデータのほとんどが破壊され、もはや意味をなさない数字の羅列となった場所を後にして、彼は手元に表示されたデータを読み込んでいく。
「『リニューアルされたデザイアグランプリは、願いを叶えたい人を純粋に応援するためのコンテンツです』ゥ?
スエルの野郎が好き勝手やってたデザグラもハナからケツまでつまんなかったけど、こっちは宣伝からつまんねーっ!!」
ギャハギャハと怪鳥のような笑い声を上げ、データの残穢を踏み潰す男。
彼は手元に禍々しく光るデータを顕現させると、そこから一つの塊を作り出す。
「おいおい、デリートされてねーのかよ。
スエルや運営が消えたからって、流石に対応遅過ぎだろ。
ま、俺にとっちゃ棚ぼただけどさ」
言って、手元に収まった塊を再びデータへと変換し、もう片方の手に浮かんでいた宣伝データを放り捨てる男。
彼は崩壊していくデータの中で、何かに悩むように眉間に皺を作った。
「んー…。『ギーツ』を倒せなかったコレだけがあってもなァ…。
本拠地もギーツにぶっ壊されちまった上に、メロは殺っちまったし…、どーすっかなぁ…。
わっかりやすい盛り上げ役がいねーと、シラけんだよなぁ。
『ゲーム』はコンティニューしてからが本番っつーが、これだけでアイツに通用するとは思えねーし…。
なんかいいデータねーかなーっと」
男はその場に座り込むと、倒れ込んでいる人のように見えるデータの塊に手を突っ込む。
ぞぶっ、と、鳴るはずのない音を立てて、手がその中を探る。
データが悲鳴という名のノイズを吐くのも気にせず、男はその中の記憶を読み取っていく。
と。その中に興味深い記述があることに気づくと、口元に笑みを浮かべた。
「へェ?『幻想郷』…?
忘れ去られた者の楽園…、博麗の巫女、妖怪の賢者…、ふむふむ、へぇー…?
…待てよ?アレも消されてねーってことは、前のデザグラのデータもまだ残って…。
そうだ!いいこと思いつーいたっ!」
男は笑うと、そのデータを握りつぶした。
♦︎♦︎♦︎♦︎
「はぁ?不審者ぁ?」
ここは忘れ去られた者たちの楽園、幻想郷。
時代の波に飲まれ、消えていくばかりだった妖怪や神、人がひしめく場所。
その最端に位置する神社…「博麗神社」にて、惰眠から目覚めたばかりの少女の素っ頓狂な声が響く。
その声に対し、「魔法使い」というイメージがそのまま形になった服装の少女が、縁側に腰掛け、声を張り上げた。
「ああ。人里で聞いた話じゃ、唐突に現れて『お悔やみ申し上げます』っつって、謎の箱を渡してくるんだと。
どうやら、親父とお袋にも渡されたらしくてな。
これ、お袋から『気味悪いから持って帰ってくれ』って預かった箱な」
言って、少女…霧雨魔理沙は、風呂敷に包んでいた箱を徐に取り出す。
なんとも不思議な色合い且つ質感の箱だ。
こんなもの、人里ではまず見かけない。
まじまじと見つめていた巫女服の少女…、博麗霊夢は訝しげに眉を顰め、問いかけた。
「何それ。中に何が入ってんの?」
「腰当てだな。親父とお袋は腰に巻けたらしいけど、私は無理だった」
「ふぅん」
霊夢は魔理沙より渡された箱を手に取り、開けようと手をかける。
が。いくら開けようと踏ん張っても、箱はうんともすんとも言わない。
霊夢がそれに首を傾げていると、魔理沙が「ちょっと右にずらすんだよ」と、箱をスライドさせた。
中に鎮座していたのは、真ん中に小さく穴の空いた物体と、そこに嵌まるであろう、黒い小物。
霊夢はその二つを取り出し、露骨に顔を顰めた。
「なーんか、嫌な感じがするわね」
「お、やっぱ異変だったり?」
「まだ何とも言えないけど…、少なくとも、コレは持たない方がいい気がするわ」
「持たない方がいいっつっても、もう人里じゃほぼ全員に行き渡ってるって話だぜ?
慧音とか小鈴とか、能力のある人間は持ってないって言ってたけど」
ますますキナくさい。
霊夢はその予感にますます顔を険しくするも、即座に興味を失ったように顔から力を抜いた。
「……ま、なるようになるでしょ。
異変が起きたらその時よ。
私は昼寝の続きしとくから、これは…、香霖堂に売りに出しときなさい」
「えー?…せっかく手に入れたモンだし、八卦路の改良に使えねーか調べてみるぜ」
言って、霊夢が魔理沙に二つの物体を渡そうとした、その時だった。
『未来のオーディエンス、それに幻想郷の諸君、ごきげんよう!』
ぶぅん、と、空間がブレるような音が響き、幻想郷の空に映像が現れたのは。
そこに佇むのは、道化。
幻想郷ではとある館を除いてまず見ないような椅子に座り、薄寒い笑みを浮かべるソレを前に、霊夢たちは嫌悪感を覚える。
道化はそんな反応などいちいち拾わず、つらつらと誰かに語りかけるような言葉を並べた。
『ご期待に応えて脱獄、復活したぜ!
神殺しのメラだ!!…え?メロはどうしたって?あー、アレね。うん。クビにした。
だってぇ、肝心なとこで裏切るようなやつだぜ!?クビにされて当然っしょ!!』
何を言ってるのか、さっぱりわからない。
霊夢たちが出てくる単語の一つ一つに疑問符を浮かべる最中、道化…神殺しのメラは「そんなことより!」と話を切り替えた。
『お前ら、待ってただろ?期待してたろ?
デザグラなんていい子ちゃん向けのコンテンツじゃ物足りねーってさ!
ってなわけで、「世界滅亡ゲーム」ソロプレイ、行っちゃうぜ!!
とは言っても、今回は俺の都合でちょーっち規模がちっちゃくなっちまうけど…、そこはご愛嬌な!!
ってなわけで、今回はー…』
────この忘れられた者たちの楽園、「幻想郷」を滅ぼしちゃおうと思いまーす!!
その言葉を聞いた途端、霊夢たちはあまりの衝撃に、呆然としてしまった。
幻想郷を滅ぼす。そんなことを宣って、無事で済んだ者はいない。
本来であれば、今にでも幻想郷トップクラスの実力者たる妖怪の賢者…八雲 紫によって、見るも無惨な最期を遂げているはず。
それなのに、メラの周囲にはなんの変化も起きていなかった。
『おぉっと、八雲 紫ちゃん。放送中のおイタはいけないぜ?
こんな目に遭っちゃうんだから』
どぅん、と、どこからともなく取り出した、独特な形をした黒い銃を足元に放つメラ。
と。その弾丸の勢いで、金色の髪が鮮血と共に、画面の下で靡くのが見えた。
「アイツ、いつの間に紫を…?」
『とまぁ、ゆかりん最強伝説を期待してた諸君はごあいにく様。
とっくの昔に俺にやられて、ボロボロの雑巾ってわけさ』
「嘘…。まさか、『スペルカードルール』抜きで、紫を倒したっての…?」
霊夢が愕然とこぼす。
スペルカードルール。闘争を遊びに変える、曰く「世界で最も無駄なルール」。
それ抜きで紫を下したと言うことは、加減を抜きにした紫よりも、メラの方が強いということに他ならない。
メラは、くっ、くっ、と笑みをこぼし、大袈裟に手を広げた。
『月も、地獄も、ぜーんぶ張り合いなく終わっちまったからさ。
せいぜい楽しませてくれよ、幻想郷!
ってなわけで、第一幕!名付けて、「人外アンド能力者狩りゲーム」!!
ルールは名前のまーんまっ!
能力持ちと人外を、人間諸君でボッコボコにしちまえぇいッ!!
…え?勝てる訳ないって?そんな心配はナッシングなうえにナンセンスだぜ、プレイヤー諸君!
力ならもう、その手に渡してやったろ?』
「なっ!?」
「は…!?」
霊夢たちが問いかける暇もなく、手元にあった箱共々、二つの物体が消え去る。
と。縁側から見える先…、人里にて、火の手があちこちで上がるのが見えた。
『ゲームは全部で三つ!
見事、このゲームを全てクリアしたやつには漏れなく、「理想の世界」をプレゼントだーッ!!
…ちょっと安直だったな、これ。だっせ』
メラが冷めた表情を浮かべるとともに、宙に浮かんでいた映像が消える。
2人は呆然と空を見つめていたが、即座にそんな場合ではないと視界を神社の外側に移した。
「こ、これ、異変…なのか?」
「メラとかいう男、幻想郷を滅ぼすのは本気みたいね…。
どんな手を使ってるのかは、全然わからないけど…」
言って、霊夢はそこから飛び立とうとする。
と。その時だった。
『ARROW STRIKE』
霊夢の頬を、緑色の光が掠めたのは。
どう考えても、遊び用の弾幕ではない。
頬を滴る血の感触に、霊夢はそちらへと目を向ける。
「う、ゔぅ、うゔぅ…!!」
そこにいたのは、黒に覆われた人だった。
上半身のみに緑色のラインが走り、右手に弓矢のような武装を携えている。
おそらくは、アレで霊夢を撃ったのだろう。
2人は即座に臨戦体勢に入ると、それぞれの獲物を構える。
その時だった。
「はぁああっ!!」
『BOOSTRIKER』
裂帛の気合と共に、赤と黒で塗られた鉄の馬が、それを轢き飛ばしたのは。
ゴロゴロと轢かれた人が転がるのを前に面食らう間もなく、2人の目に、鉄馬に跨ったその影が映る。
靡くマフラー。白塗りの鎧を纏う上半身に、赤い装甲の下半身。
顔を覆う仮面は、「狐」を模っていた。
「懲りないな、神殺しのメラ」
『GET READY FOR
BOOST AND MAGNUM』
「そっちと同じく、化けて出てきてやったぜ」
『READY FIGHT!』
その名は、忘れられた神「浮世英寿」。
またの名を、「仮面ライダーギーツ」である。
デザイアグランプリルール
100体の人外と能力者を殺したプレイヤーにのみ、第二幕にエントリーできる権利が与えられる。