「ねぇ!英寿を1人にして大丈夫なの!?」
「今心配すべきは嬢ちゃんの身だ!
英寿のことは後で考えろ!!」
英寿たちが激戦を繰り広げる音が遠ざかるのを背後に、ウィンと霊夢が言い合う。
数秒か、それとも数分か。
どれだけ駆けたかはわからないが、少なくとも英寿との再びの合流は困難になったことは確かだろう。
緊迫した状況の中、ウィンに抱えられた魔理沙は不服そうに頬を膨らませる。
いくら抗議しても下ろしてくれないことへの不満か、それとも戦力外扱いされたことへの屈辱か。
自分でも判別のつかない感情に身をやつしていた、その時だった。
「よぉ。どこ逃げてんだ?」
現在において、一番聞きたくない声が響いたのは。
魔理沙たちがそちらを見ると、デザイアドライバーを腰に巻いたメラが、薄寒い笑みを浮かべ、こちらを見下しているのがわかる。
魔理沙は無理矢理にウィンの腕から抜け出し、霊夢と共に前に出た。
「都合がいいわね。そっちからわざわざ出てきてくれるなんて」
「私らにぶっ飛ばされたくなかったら、今すぐライダーになった人間を元に戻せ!」
「それは無理な相談だね。
なにせ、1番の盛り上がりが控えてんだからさ」
『X GEATS』
『BLACK OUT』
メラは言うと、懐から黒と水色で構築された物体…「Xギーツレイズバックル」を取り出し、二つに分割する。
その二つをデザイアドライバーの左右に挿すと、彼の背後に光輪のように機械が展開し、側に黒い狐と『X GEATS』の文字が顕現した。
「変身」
『REVOLVE ON』
メラが指を鳴らし、ベルトを反転させる。
バックルが黒の狐を模した意匠を展開させるや否や、メラはその右側のハンドルを軽く押した。
と。腰に鎮座した黒狐の尾から禍々しい炎が吹き出すと共に、文字が鎧へと変化し、その形を変える。
同時に黒の狐がそこらを駆け回ったかと思うと、鎧へと変貌した。
『DARKNESS BOOST!』
『X GEATS』
メラを中心に吹き出た幾つかの黒の炎が、展開された鎧ごと彼を包み込む。
数秒もしないうちに霧散した炎の中に佇んでいた影を前に、魔理沙は息を呑んだ。
「黒い、ギーツ…?」
『READY FIGHT』
ギーツを数倍禍々しくしたデザインを前に、魔理沙と霊夢が冷や汗を流す。
勝てるビジョンが全く見えない。
ただ佇んでいるだけでも、ゆっくりと押し潰されていく感覚がする。
魔理沙の言葉に対し、黒いギーツ…、否。
仮面ライダーXギーツは、笑い混じりに答えた。
「ノンノンノン。Xギーツ。
お前らの神、ギーツを取り込んだ姿さ。
とは言っても、これは残ってたデータで再現してるに過ぎないけどね」
「霊ちゃん、逃げろ!
コイツの狙いはお前だ!!」
『MONSTER』
『READY FIGHT』
ウィンは仮面ライダーパンクジャック、モンスターフォームへと変身し、その拳でXギーツに殴りかかる。
が。Xギーツはそれを人差し指で止め、左手に顕現した銃剣でカウンターを喰らわせた。
「ぐあぁああっ!?」
「ホントは遊びたいとこなんだけど…、今はそんな暇もないんでね。
さっさと退場願うぜ、お邪魔虫くん」
木々を薙ぎ倒し、吹き飛んでいくパンクジャックを見て、霊夢たちが絶句する。
英寿が信頼を置いていたくらいだ。相当な実力者ではあったはず。
それを呆気なく倒したという現実が、2人に重くのしかかった。
「さてと、お次は…、お嬢ちゃんがお邪魔虫っぽいね」
「なっ…」
一瞬にして距離を詰めたXギーツに、魔理沙が目を剥く。
が。そんな暇もなく、Xギーツの膝が魔理沙の腹へと突き刺さる。
あまりの激痛と、肺から空気が抜けたことで、悲鳴をあげることが出来なかった魔理沙は、その場に崩れ落ちた。
「魔理沙っ…、アンタねぇ…!!」
霊夢は鬼の形相を浮かべ、弾幕を展開する。
『夢想転生』。あらゆるものから宙に浮き、理を無視する究極奥義。
霊夢が殺意を込めた弾幕をXギーツに放つも、彼はそれを意に介さず、歩みを進めた。
「おいおい、笑っちゃうなぁ。
その程度で無敵になったつもりかよ、古代人」
「ぐぁっ…!?」
Xギーツは言うと、あらゆる理から外れたはずの霊夢の首を、容易く掴む。
なんてことはない。ギーツの創世の神としての力と、神殺しの力。
その二つをもってして理を捻じ曲げ、霊夢を再度理の中へと戻しただけのことである。
ギリギリと力を強め、霊夢の首を絞めるXギーツ。
このままでは殺される。
霊夢がそんな焦燥を抱くのを前に、Xギーツは嘲笑をこぼした。
「もしかして、殺されるとか思ってる?
安心しな。そんなことはしないさ。
ただちょっと、『博麗の力』を根こそぎいただくだけ」
「っ!?〜〜〜っ!!ーーーーっ!!!」
霊夢が暴れるも、すでに遅い。
自分の中から、大事な何かが抜け落ちていく感覚が身を襲う。
これまで積み上げた全てが否定されていくような、初めての感覚。
吐き気と悍ましさ、恐怖が入り混じり、霊夢は目尻に涙を浮かべた。
涙がXギーツの手を濡らすや否や、その手が離れる。
霊夢は力無くへたり込み、激しく咳き込んだ。
「げほっ、げほっ…!」
「クハっ、クハハっ、クハハハっ!!
これでお前は『なんの力もない普通の女の子』ってわけだ!!」
Xギーツが笑うと共に、腰に巻いたバックルに変化が起きる。
黒と水色のみだった狐に、禍々しい赤の線が走り、霊夢の纏う衣服に近い紋様を作る。
それと共に、Xギーツの体にも、似たような紋様が全身に駆け巡った。
「ロストギーツ。
お前らみたいな『忘れられたモノ』の力を使うんだ。なかなかイカす名前だろ?」
『FORGOTTEN BOOST!』
『LOST GEATS』
『READY FIGHT』
それを形容するのなら、絶望。
目の前の存在に対し、霊夢は生まれて初めて恐れを覚えた。
「まずは…、そうだなぁ。
廃線『ぶらり、廃線下車の旅』」
ロストギーツが指を鳴らすと共に、森の中に極大の鉄の塊が駆け巡る。
八雲 紫のスペルカードだが、ここまで破壊をもたらすものではなかったはず。
霊夢があまりに出鱈目な光景を前に絶句するのをよそに、ロストギーツは笑みをこぼした。
「境界を操る程度の能力と、博麗大結界を操る能力。この二つが揃えば、幻想郷は俺のもの。
妖怪と神の力も、俺の匙加減一つで奪えるってわけだ」
「あ、あんた…、それが目的で幻想郷を襲ったの…!?」
「それ以外になんかあるかよバーーーーーーーカ!!今更遅ぇんだよ!!」
罵声を浴びせ、力を失った霊夢を蹴り飛ばすロストギーツ。
彼はその場に倒れた霊夢を尻目に、踵を返した。
「てなわけで、あとは消化試合。
妖怪、神が力を失い、消えていく様を見物させてもらうとするかぁ」
「ま、待ちなさい…っ!」
「ヤ・だ・ね。搾り滓は搾り滓らしく、滅びの時まで大人しくしてろよ。ばいばーい」
嘲笑を最後に、ロストギーツの姿が消える。
霊夢は安堵を覚えた自分を呪いながら、強く拳を握りしめた。
デザイアグランプリルール
メラは幻想郷を支配する力を持っている。