「な、なんだぁ、あいつ?
トンチキなカッコしてんなぁ…」
時は現在へと戻り。
魔理沙は眼前に現れた戦士を前に、困惑をあらわにしていた。
白と赤で構成された鎧を纏う狐面。
怪しく思わないわけがない。
一方で、霊夢はだらけ切っていても巫女というべきか、狐面が何者か、すでに看破していた。
「魔理沙。あれ、相当信仰がある神よ。
外の世界じゃ、かなりの有名どころなんじゃないかしら?」
「…なんでそんなのが幻想郷に来てるんだ?」
「知らないわよ…」
霊夢たちは知らないことだが、狐面は今、かなり特殊な状況に置かれている。
確かに一定の信仰はあるが、その存在自体は忘れ去られているという矛盾。
幻想郷は、そんな矛盾でさえも幻想として受け入れただけの話である。
霊夢たちが尽きぬ疑問を浮かべる横で、狐面は黒ずくめの戦士を掴み、登り切るまでに相当な時間を要するであろう石段の下へと放り投げた。
「ぁああっ!?」
「そこの紅白、今代の博麗だな。
今すぐに身を隠せ」
「…それは、この異常事態に対応せずに隠れてろってこと?」
霊夢の問いに、狐面は軽く頷いた。
「八雲 紫の『境界を操る程度の能力』が掌握された今、幻想郷を保っているのは博麗大結界だけだ。
要となる博麗の巫女がいなくなれば、幻想郷は『現実』に潰される」
「お前、なんでそんなこと…」
魔理沙が問いかけるや否や、神社を囲んでいた茂みから、夥しい数の黒い戦士…ジエンドライダーが姿を現す。
狐面はそれを見渡すと、霊夢たちに向け、声を張り上げた。
「詳しい話は後でする!
まずはついてきてくれ!」
言うと、狐面はバイクのエンジンをふかし、ジエンドライダーたちを轢き飛ばして茂みの奥へと突っ込む。
霊夢たちは顔を見合わせると、それに続いた。
♦︎♦︎♦︎♦︎
博麗神社から少し離れた場所にて。
狐面はバイクを停め、眼前に佇むボロボロの家を見上げる。
ところどころシミや汚れといった劣化の跡が目立つが、欠かさず手入れされてるのがわかる。
「ただいま」
かつて、戦国時代に生まれ落ちた際、ひとときを過ごした家。
狐面はそんな郷愁に浸りながら、家の玄関を開く。
と。それと同時に、低空飛行で後を追いかけていた霊夢と魔理沙が着地した。
「なんだ、このボロ屋?」
「…紫の別荘ね。たまーにここで冬眠してるって言ってた。私も最近知ったわ」
「アイツの趣味嗜好はわかんねーな。
…ん?なんで幻想郷に来たばかりの神様が、この場所のこと知ってんだ?」
「昔の俺の家だからな」
言って、狐面は腰当てに装填された二つの物体を引き抜く。
と。電子音と共に鎧が宙へと消え、そこから1人の男が姿を現した。
「まずは自己紹介、状況の整理も兼ねて、少し休もう。上がってくれ」
「じゃ、遠慮なく。麦茶とかあるか?」
「ここ、茶菓子置いてるかしら?」
「……流石は紫。教育が行き届いてるな」
顔を厚くする教育に関しては、右に出る者はいないのではないか。
そんなことを思いつつ、男…浮世英寿は、霊夢たちを家へと上げる。
流石に小物類は新調されているが、そのほとんどは記憶にある家のままだ。
英寿が居間の襖を開けると、乱雑に散らかった菓子の袋と三つの座布団がそれを出迎えた。
「妖怪の賢者というわりには、賢者らしい生活は送っていなかったらしいな。
片付けるから、少し待っててくれ」
「いいわよ、別に。今は時間が惜しいもの。
情報をよこしなさい」
「…そうだったな。じゃあ、適当に座ってくれ」
英寿が促すや否や、霊夢たちは適当に座布団を引っ張り、思い思いに座る。
スカートだということをあまり自覚はしていないらしい。
ドロワーズが全開である。
が。それにドギマギする年頃などとうに過ぎた英寿は、動揺することなく畳に腰掛けた。
「まずは自己紹介といこう。
俺は浮世英寿。今代の博麗が言う通り、神様をやってる」
「博麗霊夢。今代の博麗って呼び方やめて。
なんか鼻につくから」
「私は霧雨魔理沙だ。魔理沙でいいぜ。
よろしくな、狐様」
「英寿でいい。まだ神になって間もないからな」
言うと、英寿はどこからか鐘の音を鳴らし、茶と菓子を顕現させる。
霊夢たちはそれに目を剥き、英寿を見やった。
「麦茶と茶菓子が欲しかったんだろ。
それなりに長くなるし、食べてくれ」
「……これ、あんたの能力で出したの?」
「それも兼ねて話す。
まずは…、そうだな。理想の世界を叶えるゲーム…、『デザイアグランプリ』についてだ」
♦︎♦︎♦︎♦︎神様説明中…♦︎♦︎♦︎♦︎
「…というわけだ」
全ての説明を終えた英寿は茶を啜り、息を吐く。
短くはまとめたものの、すでに二刻ほどの時間は過ぎてしまっているだろう。
霊夢たちは過ぎた時に焦りを覚えながら、英寿に確認をとった。
「…整理するわね。
外の世界じゃ、未来の人間たちが道楽として『デザイアグランプリ』を様々な時代で開催して、好き勝手やってたと。
んで、その報酬を与える装置…『創世の女神』として利用されていた母親に会うため、アンタは2000年もの長い間、生を繰り返し、ついには世界を作り変える力を得た。
んで、紫とは戦国時代で知り合って、少しの間共に暮らしていたと」
信じ難い話ではあるが、霊夢の直感はそれが真実であることを訴えている。
霊夢がなんとももどかしい感覚に陥る横で、魔理沙が言葉を続けた。
「で、デザイアグランプリを仕切ってた『スエル』って野郎を倒すために、あんたは肉体を捨てて神様になった。
ところがしばらくして、あのメラってヤツが『世界滅亡ゲーム』を仕掛けてきて、あんたは這々の体でそれを退けたわけだ」
聞いたところによると、存在を四つに分けられ、力、知恵、運と、その強さを構成していたほとんどの要素をメラに奪われたと言う。
そんな状態でよく勝てたな、と魔理沙が感心していると、霊夢が続けた。
「んで、事が終わったアンタは自分の力が利用される可能性を考慮して、『理想の世界を叶える程度の能力』を使い、アンタは自身に関する記憶を外の世界から消した。
それによってアンタは幻想郷へと来る資格を得た。
だから紫に『幻想郷に来ないか』と勧誘されたけど、断ったばかりだったと」
「その直後にあの『メラ』って野郎が、ボッコボコにされた紫を連れて宣戦布告に来て、アンタは幻想入りを決めたわけか」
「ああ。理解が早くて助かる」
情報を噛み砕いていくたび、その濃密さに困惑する。
霊夢が「面倒なことになった」などと辟易する横で、魔理沙が英寿に迫る。
「でも、今は力を奪われてはいないんだろ?
それならメラって野郎をなんとか出来るんじゃ…」
「無理だな。紫を倒し、俺に宣戦布告をやってのけた以上、俺への対策も既に済んでると見ていい。
こうして単身飛び込んだのも、唯一残った要である博麗を保護するためだ」
「一度倒した相手に、随分弱気ね」
霊夢が皮肉混じりに言うも、英寿は表情を崩さず、「俺がそっちの立場でもそう思う」と頷いた。
「だが、今回は状況が違いすぎる。
これ以上、状況の悪化を防ぐためにも、慎重にならざるを得ない」
「…ま、それは同感だわ。
アンタが加わったところで、状況が好転するとは思えないもの」
「は!?じゃ、どうすんだよ!?
このまま行くと、アイツの言う通り…」
幻想郷が滅ぶ。
現実味を帯びてきたその一言を、魔理沙はどうしても放つことが出来なかった。
完全に詰んでいる。
王手をかけられた状況に、魔理沙が悔しげに、霊夢が不愉快そうに顔を顰める。
それを前に、英寿は声を張り上げた。
「まずは、メラに対抗できる仲間を呼ぶ。
そのために、協力してくれ」
♦︎♦︎♦︎♦︎
「……はーっ…。ちょっと休憩」
その頃、外の世界にあるカフェにて。
警察官採用試験に向け、勉学に励んでいた青年が、軽く伸びをする。
彼は手元に置かれたコーヒーカップを手に取り、軽く口を当て、啜る。
疲労にやられた頭が、少し冴えた気がする。
彼…桜井 景和はそんなことを思いつつ、ポケットの中から緑色の物体を取り出す。
「…なんか、忘れてる気がするんだよなぁ」
デザイアグランプリのことは覚えている。
好き勝手に人々を巻き込み、多大な被害を出した未来人がいたことも、その中に自分を仮面ライダーに選んだ者が居たことも鮮明に覚えている。
ただ一つ。何か、大事な記憶がすっぽり抜け落ちているような気がしてならない。
彼が悶々と考えていると、ふと、足音が背後から響いた。
「やあ。精が出るね、タイクーン」
景和がそちらを向くと、黒髪に青のメッシュが入った青年が、軽く笑みを浮かべているのが見えた。
その名はジーン。
英寿ことギーツ公認ファン第一号であり、現在は新しいデザイアグランプリの運営スタッフを務める未来人である。
景和は彼の来訪に目を丸くし、問いかけた。
「ジーン、急にどうしたの?
また新しいデザグラの話?」
「いや、そう言うわけじゃない。
ちょっと、まずい状況になってね。
君たち『仮面ライダー』の力を借りたい」
仮面ライダー。
その言葉を聞いた途端、景和の雰囲気が刃のように鋭くなった。
デザイアグランプリルール
博麗の巫女は能力者100人分のスコアとして扱う。