ソリテール様結婚しましょう…貴方が旦那様です。   作:ごすろじ

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▼第15話▶遠い天秤の記憶▶終 

 

 

服従させる魔法(アゼリューゼ)

 

 

断頭台のアウラを象徴するその天秤に囚われた魂は、二度と自らの意思で歩むことは叶わない。

生涯を主人の操り人形として酷使される、ただ哀れな存在へと成り果てるのが定め。

 

いかに強固な精神や偉大な功績を誇る英雄であろうと、その理から逃れる術はない。

崇高な意思とは気高い魂の発露に他ならず、その根源たる魂そのものを掌握されてしまえば、もはや抵抗のしようもないのだ。

 

 

どこまでも青く澄み渡る空の下、今日もまた一つの哀れな魂が、冷たい天秤の上へと乗せられる。

 

 

「あら? さっきまでの威勢のよさはどうしたのかしら?……随分と大人しいじゃない」

 

 

どれほど血の気が多く、荒々しい性質であろうと、服従させられた魂に拒否権は存在しない。

命令が下されれば、主人が望むがまま、ただ従う以外に道はない。

 

 

「あなた達如きが私の魔法に抗えると本気で考えているの?」

 

 

魂を囚われた肉体が、最後の抵抗とばかりにジタバタと暴れ出す。

それは、思考や理屈を超えた原初の衝動。

生命そのものに刻まれた拒絶反応であり、生存本能が命じる狂乱であった。

 

 

「ふふ……すでに貴方の命は私の掌の内。精々最後の足掻きに踊り狂いなさい」

 

 

しかし、どれほど虚しく暴れようとも、定められた結末が変わることはない。

肉体を激しく捩らせ、無言の拒絶を示そうとも、その先に待つのは絶対的な死あるのみ。

 

 

「私が断頭台と呼ばれるその所以を……――その身で思い知りなさい」

 

 

血飛沫がこびりつき、禍々しい気を放つ斬首台へ……囚われし者は、自らの意思でその首を恭しく捧げる。

そして、恐るべき魔族の冷酷な宣告と共に、首が虚空を舞った。

 

 

――ザンッ!!

 

 

辺りに響き渡るのは、人々の絶叫……ではなく、

 

 

 

 

――パチパチパチ、と軽快な拍手喝采であった。

 

 

 

 

ここは北側諸国のとある沿岸。

潮の香りが満ち、波が岩肌を洗う磯辺。

魔族と人間の二人組は、日当たりの良い大きめの岩に腰を下ろし、何やら作業に勤しんでいる。

 

 

「ふふ……どうかしら南の勇者。この『断頭台のアウラ』の恐怖をその身で感じられたかしら?」

 

「いい感じだアウラ。その調子で頼む……ところで今日の昼食はなにかな?」

 

「貴方……そんなに私の料理が食べたいの?」

 

「君の手料理は最高だからな」

 

「もう……調子が良いわね」

 

 

『断頭台』から、すっかり普段の様子に戻ったアウラは、まな板の上で滑るように動く魚の首を、次々と小気味よくハネていく。

 

そう……彼女が斬首していたのは、血に飢えた罪人などではなく、ただの『まな板』の上の『魚』なのである。

 

 

南の勇者が自力で起き上がれるようになってから、既に三ヶ月の月日が流れていた。

その間、この奇妙な二人組が何をしていたかと言えば、将来訪れるであろう勇者ヒンメル一行との対面に備え、来る日も来る日も演技の練習を重ねていたのだ。

 

 

つまり、先程のアウラの冷酷非道な魔族としての振る舞いは、あくまで役作りの一環。

斬首台に見立てていたのも、ただの年季が入った木製の『まな板』の上で、昼食用の魚を捌いていただけのことだった。

 

 

南の勇者が予知した未来の「断頭台のアウラ」へと近づけるため、彼女は日夜演技に熱を入れ、暇さえあれば悪役らしいセリフを呟き、その所作を身体に染み込ませていた。

 

 

当初こそ面倒くさそうに演じていたアウラだったが、意外にも興が乗ってきたのか、その悪役ムーブはかなり板についてきている。

魔王軍にいた頃の経験を遺憾なく発揮し、今では南の勇者も思わずグッドサインを送るほどの名女優っぷりだ。

 

 

そうして現在も、食材調達と調理のついでに、悪逆非道な魔族っぷりを存分に発揮している最中である。

魂を囚われた哀れな魚たちの首を鮮やかに捌き、手際よく臓物を抉り取っていく。

その様は、海鮮料理店の熟練の板前も舌を巻くほどの見事な手際であり、次から次へと魚がおろされていく。

 

服従の魔法に囚われたことすら気づかぬまま、穏やかな海の中を泳いでいた無数の小さな魂。

それらが自らまな板の上へと飛び込み、銀色の鱗をきらめかせながらビチビチと跳ね回る。そこへ流れるような動きで包丁が叩き込まれ、首が次々と宙を舞った。

 

 

それを、南の勇者は子供のように目を輝かせながら見ていた。

そう……ただ、見ているだけである。

 

 

何を隠そう、この人類最強と謳われた勇者は、簡単な料理以外ほとんど出来なかったのだ。

 

一度、アウラが試しに料理当番を任せてみたことがあったが、完成品を実食した際には、二人揃ってなんとも言えない微妙な顔をせざるを得なかった。

不味くはない。しかし、決して美味しくもない。

そんな、評価に困る絶妙な味に仕上がっていたのである。

 

 

アウラが旅の最中はどうしていたのかと尋ねると、本格的な戦いが始まるまではほぼ外食。

魔王軍の前線部隊を殲滅して回っていた間は、大量の干し肉などの保存食だけで凌いでいたという。

 

これにはアウラも大層呆れ返った。

内も外も化け物じみた南の勇者だからこそ問題にならなかったのかもしれないが、干し肉オンリーの食生活は控えめに言っても健康的とは程遠い。

干し肉でなくとも、保存食に含まれる塩分は身体に毒だ。

 

 

高血圧待ったなしである。

 

既に一度死んでいる身とはいえ、いつ南の勇者が脳卒中や心臓病で倒れても全く不思議ではない、驚くべき偏食っぷりだった。

そもそも、それ以前に栄養のバランスが悪すぎる。

必要に迫られた結果とはいえ、南の勇者の生活習慣は、三食きっちり自炊するアウラには到底見過ごすことが出来ないほどに酷いものだった。

 

 

故に、南の勇者と暮らし始めたアウラは、持ち得る限りの料理のレパートリーを駆使し、自炊の素晴らしさを南の勇者へと徹底的にアピールしまくった。

その甲斐あってか、南の勇者はすっかりアウラの手料理の魅力に取り憑かれていた。

 

というより――アウラの手料理に胃袋を掴まれ、ついでに別の何か重要なものまでガッシリと鷲掴みにされていた。

 

 

端的に言って、南の勇者は……

 

 

――完全にアウラに惚れてしまっていた。

 

 

目覚めた初日の会話で既に心のどこかで惹かれていたのもあるが、そこから現在に至るまで、アウラへの好感度は一切下がることもなく、ただひたすらに右肩上がりで上昇し続けていた。

 

 

ここで、人類最強の南の勇者が、いかにしてアウラという一人の魔族に完膚なきまでに心を奪われたか、その日々の記憶を辿ってみよう。

 

 

意識もおぼつかず、指一本動かせなかったあの頃。

彼の世界は、アウラの存在そのものだった。

 

 

清潔な薬草の匂いがする毛布。傷口に触れる慎重で優しい指先。そして一日中そばで聞こえる穏やかな声。

全てが、無力な自分を生かしてくれる温かい繋がりだった。

 

 

いつまでも薄暗い洞窟で横たわる彼を、彼女は「心が腐る」と言って、魔法でふわりと浮かせた。

陽光の下、隣を歩く彼女と交わす他愛もない会話は、永い戦いの中で凍てついていた彼の心を、少しずつ溶かしていくようだった。

 

 

そして何より、彼の心を掴んで離さなかったのは、彼女が作る食事だった。

 

 

魂を服従させた魔物たちが運んでくる豊富な食材は、彼女の手にかかると魔法のように姿を変えた。

毎日飽きることのない多彩な料理の数々は、ただ空腹を満たすためだけの「糧」ではなく、生きる喜びそのものを教えてくれるようだった。

 

 

身体を起こすことすら億劫な日には、彼女は黙って傍らに座り、スプーンで食事を口元へ運んでくれた。

その温かさが、彼の心にどれほど深く染み渡ったことか。

 

 

申し訳ない、不甲斐ない。

そんな無力感に苛まれるたび、アウラは決まって悪戯っぽくニヤリと笑い、彼の心を救い上げるのだ。

 

 

「面倒を見た分は、南の勇者の力でしっかり返して貰おうかしら?」と。

 

 

勇者の力に興味などないくせに、彼女はあえてそう言った。

それが、地に落ちた男のプライドを拾い上げてくれる、彼女なりの不器用な優しさだと気づいた時、南の勇者の心に渦巻いていた暗い感情は、陽光に溶ける雪のように消え去った。

 

 

この恩は必ず返そう。

その誓いは、いつしか「彼女のために生きたい」という願いへと変わっていた。

 

 

こんな慈愛に満ちた生活を毎日続けているうちに、南の勇者は気づいてしまった。

自分はもう、アウラ無しの生活など考えられないのだと。

 

 

そこに、かつての人類の希望であった最強の勇者の姿はなかった。

魔族相手に弱音も醜態も晒した勇者は、いつしかただの人間の男に戻っていたのだ。

 

ただひたすらに人類を救うための思考と行動を繰り返し、定められた未来をなぞるように死へと向かう、まるで機械のような姿はもうどこにもない。

 

 

身体はろくに動かない。

勇者として今出来ることは何もない。

未来はどうなるか分からない。だが、アウラが協力してくれる。

 

 

そんな風に、アウラから現状に甘んじるための言い訳を、これでもかというほど与えられたのだ。

勇者を志した頃よりもずっと前……何も考えず、ただ生きているだけで楽しかった子供の頃のように、南の勇者はアウラとの穏やかな生活を心の底から楽しんでいた。

 

 

魂を掌握されているからこその、この親密な対応なのだろう。

南の勇者の内面を、視覚情報として嫌でも察してしまうからこその、細やかな気遣いなのだろう。

 

 

洞窟で目覚めた瞬間、彼は確かに足掻いていた。

なんとしてでも、この天秤の呪縛から逃れなければ――そう、全身で拒絶していたはずだった。

 

 

では、今の自分はどうだ。

 

 

魂を握られたまま、傍らで眠る女魔族の寝顔を見つめている。

その手が無意識に彼女の髪に触れ、絹のような感触を確かめている。

逃げ出したいという衝動は、完全に消え失せていた。

 

 

代わりにあるのは――この繋がりが永遠に続けばいいという、静かな祈りだった。

 

 

もし彼女が予知で見たような冷酷非道な魔族であったならば、死など躊躇せず寝首を掻き、自身の魂ごと道連れにしていたかもしれない。

 

 

だが、南の勇者は既に知ってしまっていた。

アウラが、頑固で執念深く、そして途方もなく世話焼きな善人であることを。

 

 

もう彼女を害することも、この温かい繋がりを手放す気にもなれずにいた。

そして、より深い関係を心の奥底で望んでいる自身にも、はっきりと気がついてしまったのだ。

 

 

この燃え上がるような感情に、抗うことは出来そうになかった。

手料理ですっかり胃袋を掴まれ、その優しさに触れるうちに、既に骨の髄までこの女魔族にたらしこまれていた。

殺伐とした殺し合いの日常が、毎日穏やかで満ち足りた、楽しい時間に塗り替えられてしまったのだ。

 

 

これが、南の勇者として歩んだ道のりの果てに、ようやく手に入れられた幸福なのだと思うと、余計に手放すことなどできなかった。

 

 

アウラの全てが好きだった。

魔族としての容赦のなさや、時折見せる悪辣な一面にさえ、何故か胸がときめき始めてしまうほどに……。恋は盲目、という古の言葉が脳裏に浮かび、南の勇者は自嘲気味に一人笑った。

 

 

その日から、南の勇者の視線はごく自然にアウラを追うようになった。

とにかく、彼女は良い女過ぎた。南の勇者がアウラを、魔族という種族の垣根を越え、一人の魅力的な女性として見るようになるまでに、それほど多くの時間は掛からなかった。

 

当然、魂を通して感情が伝わってくるアウラは、南の勇者の淡い恋心にとうに気がついていたが、何も言わなかった。

 

しかし、その想いを無視することも決してなかった。

彼女は、南の勇者へとささやかな切っ掛けを与えてくれたのだ。

それは、ある日の夕食での、何気ない一言だった。

 

 

「碌に告白も出来ないような男って甲斐性なさそうよねぇ……そう思わない、南の勇者」

 

 

その言葉を聞いた瞬間、彼の中で何かが弾けた。

 

 

「アウラ」

 

 

声が震えていた。普段の紳士然とした余裕など、どこにもない。

 

 

「私は――その、君といると」

 

 

言葉が詰まる。戦場では決して見せない醜態を、彼は晒していた。

 

 

「料理が美味い。それは確かだ。だが、それだけじゃない。君の声を聞くと安心する。君が笑うと嬉しい。君が傍にいないと、何をしていても上の空になる」

 

 

額に汗が滲む。アウラは黙って聞いている。

その沈黙が、彼をさらに追い詰めた。

 

 

「つまり――つまり私は、君のことが……っ、その」

 

 

勇者として培った胆力はどこへ消えたのか。

彼は半ば自棄になって、最後の言葉を絞り出した。

 

 

「――好きなのだ! 愛している! だから、私と――」

 

「はいはい、よく言えました」

 

 

アウラの口元に、柔らかな笑みが浮かんでいた。

 

 

戦闘時よりも遥かに思考を巡らし、額に汗を滲ませながら、苦戦の末に変なことまで口走りながらも、己の胸の内を全て晒し切った。

 

 

緊張した面持ちで返事を待つ南の勇者に対し、アウラは彼のことは嫌いじゃないと前置きしながら、こう言った。

 

 

「言っておくけど……私は中途半端に一人身にされるのだけはお断りなの。だから聞かせて貰えるかしら、南の勇者……これから千年以上先まで魔族の女と添い遂げるだけの覚悟が貴方にあるわけ?」

 

 

南の勇者には現状、二つの選択肢がある。

人間として寿命で死ぬか、あるいは不老を享受し、自由意思の下で死を選ぶかだ。

 

そこに、全く新しい選択肢が現れた。

 

アウラを選べば、南の勇者に死の自由はなくなる。

彼女が魔族としてその生を終えるその瞬間まで、生涯を共にしなければならないのだ。

 

 

アウラは、南の勇者へとその覚悟があるのかを問うた。

しかし、南の勇者は一瞬たりとも迷うことなくアウラの瞳を見つめ返し、その魂に躊躇いの色は一切見られなかった。

……アウラは返事を聞くより前に、機嫌良さげに口元で美しい弧を描く。

 

 

「その程度の言葉で私が臆するとでも思っているのか?」

 

「正直思ってたわ。だけど……私が見誤っていたようね、趣味が悪いんじゃない、南の勇者。勇者の癖に魔族の女と本気で添い遂げようとするだなんて、今なら火遊び程度で済むわよ」

 

「私を怒らせたいのか、アウラ。踏み止まらせたいようだが、寧ろ逆効果だな。本当にそういう所だぞ」

 

「なにがそういう所よ……私みたいな女、探せばいくらでもいるわ」

 

 

だから、人間の伴侶でも探しなさい。

そう嘯くアウラの心にも、少なからず南の勇者への好意はあった。

嬉しさに、思わず頬が緩んでしまう程度には。

 

 

しかし、これまで人類のために戦い抜いてきた勇者に、これから気の遠くなるような長い年月を魔族と添い遂げさせるなど、果たしてどうなのかと考えてしまう。

 

一時の気の迷いだとは思わない。

魂は正直なもので、南の勇者の言葉には揺るぎない信念が宿っていた。

 

 

だからこそ、実際のところこの言葉は……彼女自身の迷いから生じた戯言に過ぎない。

本当は、そんな弱気な自分を力強く否定して欲しいという、面倒くさい女心なのだ。

そんな秘めたる期待に、南の勇者は鼻で一笑し、堂々と答える。

 

 

「……そちらがその気なら私にも考えがある。君がくれた対価をここで使わせて貰おう、アウラ……私と生涯を共にしてくれ。勇者でもなく……他人のためでもなく、私個人が本当に望む願いなのだ。君に、私の願いを無碍にすることなんて出来ないだろう?」

 

 

こんな所で、あの時の約束を切り札に使うとは。

本当に馬鹿な男だとアウラは呆れた。

 

今の南の勇者の魂は、お世辞にも美しいとは言えない。

高潔な勇者様とは到底呼べない、ドロドロとした独占欲を纏っていた。

形振り構わず、どんな手段を用いてでもアウラを手に入れようという、剥き出しの欲がそこにはあった。

 

 

「……このアホ勇者。せっかく警告してあげたのに、もう手遅れよ。相手は人間以外って決めていたのに……私も相当趣味が悪いみたいだわ。だけど、そうね……いいわ、それが本当に貴方の望みというなら――――これからよろしくお願いするわ、人間の婚約者様」

 

 

その返事を聞いた南の勇者は、歳も外聞も忘れて飛び上がり、心の底から喜んだ。

しかし、次の瞬間には全身に走る激痛で呻くことになり、そんな彼の姿を見ながらアウラもまた、嬉しそうに微笑むのだった。

 

 

痛みがようやく収まり、改めてアウラを見れば。彼女の顔は真っ赤に染まっており、小さな掌で必死に顔を仰いでいた。

てっきり子供扱いされているとばかり考えていたが、しっかりと一人の男として認識されていたのだとわかるアウラの反応に、南の勇者は不覚にも胸がときめいた。

 

 

普段は年上のお姉さんぶった余裕のある態度を見せるのに、今はまるで歳相応の恋する少女のようなその様子から、一瞬たりとも目が離せなかった。

 

アウラは羞恥から顔を伏せ、左右の豊かなモフモフ髪で顔を隠しながら、潤んだ瞳で上目遣いに南の勇者を見る。

その破壊力は絶大。彼の理性の箍がギリギリと軋む音が聞こえるようだった。

衝動を抑え込むのに、これほど苦労した戦いはあっただろうか。

 

 

お互いの年齢を考えれば滑稽なほど初々しいその光景は、結局、いち早く我に返ったアウラが魔法で彼の荒ぶる魂を強制的に鎮めることで幕を閉じた。

しかし、この一連の出来事はアウラにとっても衝撃的だったらしい。

南の勇者から向けられた剥き出しの熱情に当てられたのか、翌日から彼女はしばらくの間、どこかぎこちない態度を見せるほど深く動揺していたのだ。

 

 

今となっては、それも微笑ましい思い出の一つ。

二人の関係は穏やかな日常へと溶け込み、こうして自然に寄り添って出掛けることが当たり前になっていた。

 

場面は再び、魚を抱えて洞窟へと戻る二人の姿を映し出す。

南の勇者が物理的な重さを感じながら歩む横で、アウラは魔法の力で膨大な魚を浮かせ、涼しい顔で先導していた。

 

 

その道すがら、彼らを迎える者たちがいた。

アウラが『服従の天秤』の力で従えた、犬型の魔物やカラスの群れである。

彼らはアウラの姿を認めると、思い思いの方法で歓迎の意を示し、彼女はそれに応えるように、獲物の一部を気前よく分け与えた。

 

 

アウラにとって、魂の支配とは一方的な隷属を意味しない。

それは、力を提供させる代わりに、相応の対価を与えるという、彼女だけの揺るぎない哲学に基づいていた。

たとえ相手が言葉を持たぬ魔物であろうとも、その理が歪められることはない。

 

真の服従とは、力で魂を縛り付けることではなく、心からの敬意と信頼によってのみ得られるものだと、彼女は経験から知っていた。

 

 

故に、アウラに魂を預けた魔物たちは、意思を奪われた哀れな奴隷ではない。

自らの自由意思の範囲で、誇りを持って主に仕える眷属となるのだ。

彼らは自発的に敵対する魔族を排除し、有益な情報を持ち帰る。

アウラと魔物たちの間には、支配者と被支配者という言葉だけでは到底表せない、確かな絆が築かれていた。

 

南の勇者は、魔物相手にも一貫して自身のポリシーを崩さないアウラを見て、またしてもこの女魔族への想いが深まるのを感じていた。もはや何度目の胸の高鳴りか、本人にも分からないほどだった。

 

 

洞窟に着くなり、アウラは新鮮な魚を慣れた手つきで三枚におろし、大皿へと美しい刺し身の山を盛り付けると、残った魚を手早く干物にして、洞窟の外に設えた台座へと丁寧に並べていく。

 

 

魔族とは到底思えない、所帯じみた動きで全ての処理を終えると、彼女は洞窟の中に戻り、南の勇者の前に二つのお皿を置く。

そして、自家製の塩と、近くで採れた柑橘系の果物を絞った果汁をそれぞれ小皿に注いだ。

 

 

「さぁ……食べましょ」

 

 

フォークを手にしたアウラと南の勇者は、山盛りになった新鮮な刺し身を、夢中になってどんどん平らげていく。

普段の凝った料理とはまた違う、素材の味を生かしたシンプルな旨味に、二人は満足げに舌鼓を打った。

 

 

「やはり色々と凄いな……私には到底真似できそうにない」

 

「私がやるから別に気にしなくていいわよ。だけど南の勇者……貴方料理も出来ないで、よく一年間も魔族と戦い続けられたわね? 干し肉なんて値が張る上に固くて不味いでしょ」

 

「魔族を殺すのに大した労力は必要ない、必要最低限の食事と睡眠以外はひたすら魔族を殺していたのでな、料理をすることや食事の味など考えたことすらなかった」

 

「普通の人間はそういう環境に身を置いたなら一月ともたず、精神が限界に来るものよ……。前にも注意したけど、それ明らかに普通じゃないから直しなさい。三食必要な栄養を摂らないと健康に悪いわ」

 

「そうだな……もう君の作る料理を食べないと何をするにも力が入らないかもしれない」

 

 

極めて自然に甘い雰囲気を醸し出す南の勇者であったが、しかしアウラの反応は薄かった。

彼女の視線は、南の勇者の頭と、そして鼻の下にじっと注がれている。

 

 

「素直なのは貴方の良いところだわ。――……ところでそのヒゲと髪、そろそろなんとかしないといけないわね」

 

「手持ちのポマードが切れてしまったうえ、ナイフでヒゲを整えるにも限界があるからな」

 

 

洞窟での暮らしを開始して、既に結構な日数が経っている。

アウラは魔族であり、服装も魔力一つで変幻自在に変えられるが、人間である南の勇者は当然ながら髪もヒゲも伸びる。

かつては整髪料でかっちりと整えられていた髪は伸び散らかし、綺麗に手入れされていたヒゲは剃り残しが目立ち、もはや無精髭でしかなかった。

 

清潔感の欠片もなく、かつての母親を彷彿とさせる放浪者のようなスタイルに、アウラの中では「これを正さねばならない」という、使命感にも似た強い感情が燃え上がっていた。

 

 

「そのちょびヒゲを変に維持しようとするからでしょ……私が全部剃ってあげるわ。この際だからその髪も切るわよ」

 

「ま、待てアウラ……これは紳士の嗜みで「黙りなさい」……ッく、わかった」

 

 

髭に並々ならぬ拘りでもあるのか、必死に抵抗を試みようとした南の勇者であったが、アウラから放たれた氷のように冷たい一言と共に、あっけなく撃沈した。

如何に人類最強と言えど、惚れた女には敵わない。早くも尻に敷かれ始めているようだった。

 

 

「それにここから離れる準備もようやく整ったわ。身なりを整えて、ある程度特徴を変えておくに越したことはないはずよ」

 

「待て、私の名前を出して関所を通る案は危険過ぎるため却下したはずだが……」

 

「えぇ、魔王軍も馬鹿じゃないわ。私達が逃げ込みそうな場所には見張りがいるだろうし、正体を明かせば貴方の生存は瞬く間に広がるでしょうね。全力で貴方を殺しにくるはずよ」

 

「そうだ、それでは困る。未来を出来る限り崩さず身を隠す必要がある、海路でも使うつもりか?」

 

「駄目よ、国境の結界は海域にまで及んでいるわ。貴方を抱えて避けて飛ぶには距離がありすぎるし、何より気候によっては二人共海の藻屑となるわ。今中央諸国と北側諸国を行き来出来る海路も存在しない」

 

「まさか君の魔法を使うつもりか」

 

「それもなし。カラスの眼を透して見た感じだけど、関所にはそこそこ優秀な魔法使いがそれなりの数待機しているわ。天秤の対象範囲から一人でも逃せば、とんでもないことになるわね」

 

「それでは、一体どうするつもりなのだ。申し訳ないが、私に君のように魔法に対する知識はあまりない、焦らさず教えて貰えると助かるのだが?」

 

 

アウラは頬杖をつきながら、ニヤニヤと楽しげに南の勇者をからかうように問いかけるが、やがて潮時と判断したのか、洞窟の隅に置かれたカバンから数枚の羊皮紙を取り出し、彼へと手渡した。

 

 

「魔法なんて使わないわ、この紙切れを使って関所を通るだけよ」

 

 

南の勇者は手渡された書類に目を通すなり、思わず目を見開いた。

 

 

「……どうして君が、関所の通行の許可証を持っている。その上これは北側諸国の貴族が第三者の身分を保証する証書だぞ」

 

 

なんと、その書類は関所を通過するための正式な通行許可証と、身分を証明するための公的な書類であった。

一瞬、偽造を疑ったが、見覚えのある貴族の印章と、間違いなく本人の直筆と思われるサインまで記されており、正真正銘の本物だった。

 

 

「北側諸国は日々戦況が悪化する地獄よ、村や街を捨てて逃げたいと思う人間は大勢いるわ。そして領地を持つ貴族は魔族の襲撃に備えて傭兵を雇ったり、武器を買い揃えたりでとにかくお金がいるのよ。取れる所ならどこからでも取ろうとするわ。……南の勇者、此処まで言えばわかるかしら」

 

「金で買ったのか」

 

アウラは悪戯が成功した子供のようにニコリと笑いながら、正解、と呟く。

 

アウラの経験上、こういう混乱した状況下には、必ず腐敗した裏のルートが存在すると考え、ここ数ヶ月、密かに調査を行ってきた。

魔法使いに気取られないよう、服従させた鳥の眼を使いながら関所周辺を執拗に探り、そしてついに見つけたのだ。

 

 

どうやら北側諸国の貴族たちは、労働力である領民が中央諸国へと流出することを意図的に妨げており、多くの人間が戦火から逃げ出せずにいるようだった。

ただでさえ戦争真っ只中の最前線地帯だというのに、国の地盤を支える領民に出ていかれるのは、彼らにとって大いに不都合なのだろう。

 

 

しかし、とにかく早急に金が必要で、切迫した状況にあるのもまた確からしい。

関所の前で途方に暮れる人々の中でも、特に金を持っていそうな者にだけこっそりと話しかけ、関所の通行許可証を高値で売りつける輩を、アウラは見つけ出した。

 

 

その男の身なりは良く、おそらくは貴族から雇われた仲介人といったところだろう。

アウラは声を掛けられるまでもなく、直接その人物の元を訪れ、堂々と交渉を持ちかけた。

 

そうして無事、二人分の通行許可証を金で手に入れたという訳だ。

 

 

「えぇ……お母様もよく言っていたわ、人間社会を生き抜くならとにかく金だってね。貴方が寝ている間にドレス姿の貴族令嬢に変装して仲介人の所へ行ってきたの……まぁ、私からぼったくろうとした舐めた態度を見せたから、それ相応の対応をしたけれど。後ろめたい所なんて何もないわ」

 

「君の行動には毎度驚かされる……ところで、路銀など持っていたのか?」

 

 

南の勇者は唖然とする。なんだか、人間である自分よりも、この魔族の方がよっぽど人間社会に順応しているように思え、なんとも言えない複雑な気分になった。

 

 

「南の勇者。お金なんてのはねぇ、ちょっと奥の方へいけば殺された行商人の馬車と一緒に落ちてるわよ。それを魔物達に拾わせて集めただけ……勿論遺品は放置しておいたわ、まさか盗人扱いなんてしないでしょうね?」

 

 

南の勇者はアウラの答えに、ある人物の影をはっきりと感じ取る。

これはおそらく、彼女の母親の影響なのだろうなと、仄かに思った。

アウラの口から時折語られる母親の人物像からは、とにかくこういった俗っぽさが滲み出ている。

 

 

倫理観が致命的なところで欠如しているくせに、変なところで妙に常識的だったりするのだ。

死体から金品は漁るのに、遺族のためを思ってか遺品には手を付けない、その奇妙な線引きに、彼女の母親であるフルーフなる人物の陰を強く感じざる得なかった。

 

 

しかし、このご時世だ。生き残るためには、そういった清濁併せ呑むような汚さも必要だということは、南の勇者も痛いほど理解している。

こうして実際に、その知恵が自分たちを生かしてくれているのだから、文句など言えるはずもなかった。

 

 

「そこまで私の頭は固くない。略奪であれば問題だが、既に持ち主がいないのであれば非難するつもりはないさ。ただこの Held(ヘルト)とは誰のことだ」

 

 

南の勇者は書類に記された見慣れない名前に、訝しげに眉を潜める。アウラの名前は変わらず Aura(アウラ)だというのに、南の勇者の書類には、Held(ヘルト)という名前が表記されていた。

 

 

「一応貴方の偽名よ。貴方は有名人なんだから名前も変えておかないといけないわ」

 

 

それもそうか、と南の勇者は納得する。

二人きりの時は「南の勇者」で構わないが、公の場で呼ぶには、やはり別の名前があったほうが何かと便利だろう。

 

 

「そうか、この言葉に意味はあるのか」

 

「『英雄』……気に入った?」

 

その一言は、彼の心の最も柔らかな部分に触れた。

 

「勇者」とは、今まさに戦いの渦中にいる者。未来を切り拓くために、血と泥に塗れながら足掻き続ける、現在進行形の存在だ。

 

 

しかし「英雄」とは、その戦いを終え、歴史の内に名を刻んだ過去の存在。

その物語はすでに完結し、人々の記憶の中で伝説として輝く。終わりのない責務から自分を解き放ち、穏やかな過去の物語として生きていくことを、この魔族の女は許してくれようとしているのかもしれない。

 

 

どこまで自分の心を救ってくれるのだろうか。

アウラの言葉の奥にある温かな配慮を噛みしめ、南の勇者は心から満足げにこう答えた。

 

 

「あぁ――気に入った」

 

 

その言葉に嘘はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

昼食を交えながらこれからの計画を話し終え、次は南の勇者の身なりを整える時間となった。

洞窟の外に出た南の勇者は、アウラに促されるまま、ちょうどいい高さの石へと腰を下ろす。

 

 

アウラは近場で採取しておいたアロエの中身をナイフで器用に抉り出し、粘り気のある薬草と手早く混ぜ合わせて、即席のシェービングゲルを作成しながら準備を進める。

潤滑剤となるゲルが完成すれば、熱湯で温めたタオルで南の勇者の髪を優しく拭い、脂分を丁寧に取り除いていく。

 

 

流石はかつて、アルコール中毒と薬物中毒を併発していたジャンキーの面倒を見ていただけあって、その仕草の一つ一つに、確かな年季が感じられた。

 

 

「散髪の時間よ」

 

「よろしく頼む」

 

「上着は全部脱ぎなさい、髪の毛がついちゃうじゃない」

 

「……見苦しいだろう」

 

「貴方のボロボロの身体を誰が治療したと思っているのよ。とっくに見慣れているわ」

 

「……」

 

 

南の勇者が躊躇していると、アウラが半ば強制的に彼の上着を引き剥がした。

すると、縫合の跡、打撲痕、裂傷、切創、そして獣に噛まれたような咬創と、おびただしい数の傷跡が刻まれた壮絶な身体が、陽光の下に顕になる。

アウラは黙ってその傷跡の一つをそっと指で一撫でしてから、ナイフを手に南の勇者の背後へと静かに回った。

 

 

「聞きたいんだけど、シュラハトや七崩賢にやられる前の傷もあるわね。一体どんな化け物にやられたのよ?」

 

 

ザク……ザクッ、と小気味よい音を立てて、伸び放題だった髪が豪快に刈り取られていく。

切り落とされた髪の束が、彼の肩を掠めて地面に落ちる。

 

 

アウラの指が、時折彼の頭皮に触れる。

その度に、微かな温もりと、清潔な薬草の香りが鼻腔をくすぐった。

彼女が身を乗り出すたび、三つ編みの先端が彼の頬を掠める。それがどうにもくすぐったくて、彼は咳払いで誤魔化すしかなかった。

 

 

「時には攻撃を受け入れることが最短の道に繋がることもあったからな」

 

 

その答えに、アウラから深い溜息が漏れる。

苦戦の末に負った名誉の負傷などではなく、ただひたすらに効率と最善を追求したが故の、自ら受け入れた傷跡だったのだ。

 

 

「あぁ……そういうことね。それって事を急がなければ傷を負う必要もなかったってことじゃない――南の勇者、前髪も切るから目を瞑りなさい」

 

 

「動かないで」

 

 

叱責するような声。しかし、その手つきは驚くほど優しい。

 

 

会話を続けながらも、彼女の手は止まらない。

短くなるまで大まかに刈り取った髪の形を整えるように、小さく小刻みに刃を動かしていく。

大雑把なカットを終えれば、次は前方へと回り込み、彼の視界を覆う前髪を丁寧にカットしていく。

 

 

「シュラハトを確実に殺すには、仕方なかったのだ」

 

 

何か一言物申したい気持ちをぐっと飲み込み、アウラはひたすら手を動かし続けた。

彼女は、南の勇者が未来を見通し、その上で下した決断と行動の結果に対して、とやかく言うまいと心に決めていた。

未来が見える彼が、一体どんな気持ちと覚悟で戦いに挑んだのか……未来の見えないアウラには、到底共感など出来ないからだ。

 

 

下手な苦言も、上辺だけの慰めも言うつもりはない。

アウラは、南の勇者のその壮絶な生き様に、確かな敬意を抱いている。

心に寄り添うこともできない自分勝手な言葉で、彼が生きてきた証に口を出すなど、断じて出来なかった。

 

 

だからただ一言。過去ではなく、これからの未来についてだけは口を出させてもらう。

 

 

「はいはい、それについては何も言わないわ、これからは精々怪我しないようにしなさい……」

 

「あぁ……もう独り身でもないからな」

 

「――髪は終わりよ、次は顔ともみ上げを剃っていくわ」

 

 

いつの間にか、長かった髪はすっかりと刈り取られ、清潔感のあるさっぱりとした短髪に仕上がっていた。

南の勇者が何か感想を言う前に、アウラは間髪入れず、手作りのアロエゲルを彼の顔面と首筋にたっぷりと塗りたくっていく。

 

 

「く……私の威厳が」

 

「ただの無精髭に威厳なんて無いわよ……潔く剃られなさい」

 

 

手にしたナイフを傍らに置き、用意しておいた小さく砕いた鉄の刃の欠片を指先で器用に摘むと、それをカミソリ代わりに、彼の肌の上を滑らせていく。

 

 

産毛の流れに逆らわないよう、肌を傷つけないように、ゆっくりと、しかし確実に毛を剃り上げていく。鼻の下のちょび髭は特に念入りに剃り落とし、最後に眉の形を美しく整える。

 

 

「南の勇者……貴方髭がないと随分と若々しく見えるわね。これなら誰も貴方が南の勇者だとは気づかないはずよ」

 

 

顎の輪郭に沿って剃り残しがないように丁寧に刃を滑らせながら、ふと彼の顔を見上げれば、そこには随分と印象の違う南の勇者の顔があった。髭がないだけで、十歳くらいは若返ったような気がする。

 

 

「私のイメージが髭しかないような言い草だな」

 

「そうは言ってないわ……ただ別人みたいだと言いたいだけよ」

 

 

トレードマークだった髭を剃られたことが相当ショックなのか、彼の声は僅かに震えている。

その様子がどこか可笑しくて、アウラはくすくすと笑いながら、耳元に髪が掛からないように綺麗に整え、うなじの産毛を丁寧に処理する。

 

 

そうして最後に、軽く風の魔法を使いながら、彼の髪をワシャワシャと優しく撫で回して切りクズを吹き飛ばし、タオルで顔に残ったゲルを綺麗に拭き上げて、散髪は完了した。

 

 

「お疲れ様。完成よ、お客様。気分はどうかしら?」

 

「かなり切ったようだな。ふぅむ……しかし悪くない、さっぱりとした気分だ」

 

 

南の勇者は、鼻の下に触れても慣れ親しんだ感触がないことに一抹の寂しさを感じたが、軽くなった頭や、つるりと剃り上げられた肌の感触は心地よく、気分良さげにアウラへと感謝の言葉を述べた。

 

 

「そう、よかったじゃない。数日分の保存食の完成を待って、荷物を纏めたらここをたつ予定だから準備しておきなさい」

 

「わかった。――何故だか途端に名残惜しくなるな」

 

「不便な洞窟での生活のなにを惜しむのよ」

 

「君との思い出が詰まっている」

 

「……臭いセリフね。だけどロマンチックで嫌いじゃないわ。別に跡形もなく破壊するわけじゃないんだから、また来ればいいでしょ」

 

「そうだな、君との生活が余りに幸せ過ぎて私らしくない発言をした……忘れてくれ」

 

 

南の勇者らしからぬ、どこかセンチメンタルな姿。そんな彼を見て、アウラは柔らかく微笑む。

未来ばかりを見つめていた男が、ようやく人間らしく過去を惜しみ、感傷的な感情を見せたのだ。

 

 

恥も外聞もなく、ただ必死に愛を告白したあの時から、彼は少しずつ人間らしくなっていった。

キザで紳士ぶった完璧な態度が崩れ、どこにでもいる一人の男として、ありのままの姿でアウラへと接するようになったのだ。

 

 

アウラの胸が、ドキリと甘く脈打つ。

普段は化け物じみた圧倒的な強さで敵を薙ぎ払うというのに、自分に対してだけは、こうして弱さを見せてくれる。

その激しいギャップに、どうしようもなく惹かれてしまう。

 

 

アウラは正面から南の勇者をそっと抱き寄せると、その額に優しく口づけを落とす。

 

 

「何いってるのよ――貴方は私の婚約者なんでしょ……私に弱味や弱音を吐いたって全然構わないんだから」

 

「すまない……本当に良い女だな君は」

 

 

その言葉に、アウラの頬がぷくりと膨れる。

良い女、という部分はもちろん否定しない。

だが、幼い日から母であるフルーフから聞かされてきた、頭がお花畑のような恋愛妄想によれば、こういう場面で口にすべきは謝罪の言葉ではないはずだ。

 

 

「こういう時のセリフは謝罪じゃないでしょ?」

 

 

気の利かない朴念仁な男に、アウラは額に思いっきりデコピンを叩きつける。

キョトンとした顔で一瞬考え込んだ南の勇者は、やがて心得たと言わんばかりに満面の笑みを浮かべて、こう言った。

 

 

「……愛しているよ、アウラ。あの時私を助けてくれてありがとう」

 

 

その言葉に、アウラは「よく出来ました」という想いを込めて、満足げに南の勇者の頭を優しく撫でる。

 

 

「えぇ……南の勇者、私も愛しているわ。もう貴方の魂は私の一部よ、死ぬまで離さないつもりだから覚悟してなさい」

 

 

アウラは、自身が短命な人間にとっては重過ぎる女であることを、痛いほど自覚している。

だが、それを承知の上で、こちらの忠告をも振り切って愛を告白してきたこの男に、もはや遠慮するつもりは毛頭なかった。

平気で、ドロドロとした重い愛情を真正面から叩きつける。

 

 

「君になら大歓迎だ」

 

 

そして南の勇者は、そんな重すぎる言葉すらも、喜びと共に歓迎するのだ。

勇者として培われた、馬鹿みたいに真っ直ぐな精神で、その全てを真正面から受け止めてくれる。

 

 

だからこそ、アウラもまた、南の勇者を本気で愛することが出来る。

魂を握られるということは、感情がほぼ筒抜けになることと同義だ。

 

しかし、それを南の勇者は喜んで許容した。

それはつまり、生涯アウラを裏切ることのないという、絶対の誓いと何ら変わらない。

 

 

浮気や他者への恋慕など、今後一生出来ないだろう。

少しでも変な気を起こせば、魂を握る彼女によって、とんでもない目に遭わされるに違いない。

実際に南の勇者は、もし君が裏切られたと感じたのなら、その手で私を殺して欲しいとまで宣った。

告白の際には、それほどの覚悟を持って、アウラへとその生涯を捧げると誓ったのだ。

 

 

アウラもそんな壮絶な告白を聞いて、人間を長い魔族の生に付き合わせることへの申し訳なさや、後ろめたさといった感情をすっかりと捨て去った。

魔族の女に、これほどまでに正面から向き合おうとする勇者に対して、後ろ向きな考えを持って接するなど、彼への侮辱でしかない。

 

 

アウラは、狂気的なまでの愛情を持つフルーフの娘だ。

相手が全力で向き合ってくれるというのなら、アウラだって全身全霊の愛で受けて立つだけのこと。

 

 

「帰るわよ」

 

 

アウラは南の勇者の頭を優しく抱きしめると、その手を引き、二人の住処である洞窟へと帰っていく。

 

 

夕飯は何にしようか。そんな穏やかな話題を交わしながら、お互いに柔らかな笑顔を浮かべる。

勇者と魔族という、一見すれば決して交わることのないはずの二つの歯車は、今や綺麗に、そしてぴったりと噛み合い、お互いがお互いを支え合いながら、滑らかに回り続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

――大凡60年後

 

 

アウラと南の勇者が、思い出の詰まったあの洞窟から旅立ってからの60年。

その間に一体何があったのか……それを、ここではダイジェストで語っていこう。

 

 

あれから洞窟を旅立った二人は、偽の身分証を手に関所を難なく通過する。いくつもの村や街を転々とし、やがて戦火の及ばない南側諸国へと辿り着いた。

 

 

道中、いくつかの自業自得なハプニングがあった。南の勇者は、アウラに男の甲斐性を見せようと張り切りすぎて魔物を狩りまくり、『ヘルト』の名が妙に有名になってしまう。

アウラもアウラで、怪我人を見過ごせずに治療を続けるうち、その腕前が人間たちの間で噂になった。

 

 

とはいえ、致命的な問題には発展せず――二人は無事、南側諸国での穏やかな生活を手に入れた。

 

 

そこで数年間、静かに暮らした後、未来の予知を再現するため再び北側諸国へと戻ることにする。

しかし、その道中の馬車の中で、勇者ヒンメル一行についての詳しい情報を聞いたアウラは、思わず南の勇者の胸ぐらに掴みかかった。

 

 

勇者ヒンメルは、まぁいい。

僧侶ハイターも、まぁいいだろう。

戦士アイゼンも、問題ない。

 

 

だが――魔法使いフリーレン……コイツだけは、絶対に駄目だ。

 

 

南の勇者の話によれば、そのエルフの魔力総量は、制限を加えている状態のアウラとほぼ同等らしい。

そこまで言って、南の勇者は「あ……」と何かに気づいたように、冷や汗をだらだらと垂らし始めた。

 

 

南の勇者は、勇者パーティーが辿るであろう未来の大きな流れこそ理解していても、パーティーメンバー一人一人の詳細な個人情報までは見ていなかったのだ。

倫理的な抵抗があったのは勿論だが、それ以上に、注視すべき重要な事柄が多すぎた。

 

 

南の勇者は、かつて洞窟で暮らしていた頃、アウラの言葉を受けて「不確かな未来を見る必要など無い」と決心し、それ以降、自らの未来視を固く封じている。

実際、アウラと出会ったあの日以降、未来視は一切使用していなかった。

 

 

彼の視点は、常に人類と魔族という特大のスケールで展開されており、個々の木々のような細部にまでは至っていない。

いわば、森全体は見ても、いちいち木を一本ずつ観察してはいないのである。

南の勇者がヒンメルのパーティーに求めたのは、あくまで魔王の討伐という結果のみ。

それ以外の事柄については、別の必要な情報へと意識を割き続けてきたのだ。

 

 

どうやら尋常ではない様子で焦り始めるアウラを見て、彼は一時的に未来視を解禁してしまったらしい。

そして、ここに至って、アウラを通して、パーティーの一人でしかないと思っていたフリーレンというエルフの未来を、詳細に見てしまったようだ。

 

南の勇者の顔から、血の気が引いていくのがアウラにも見て取れた。

その魂が、まるで凍りついたかのように硬直している。

 

 

南の勇者は、うっかりと正史でアウラがフリーレンに自害させられるシーンを見てしまい、精神がSAN値直葬で吹き飛んだ。

 

 

「……なにか見たのね」

 

 

アウラの問いに、彼は無言で頷いた。その瞳の奥には、言葉にできない何かが渦巻いている。アウラが――自らの首に刃を――

 

 

「大丈夫よ」

 

 

アウラは努めて平静を装いながら、震える彼の手を握った。

 

 

「だからこそ、対策を立てるの。知っているなら、避けられるわ」

 

 

アウラと南の勇者は、二人して頭を抱えた。

一方のアウラは、母の旧友であり千年以上の時を生きた大魔法使いであるエルフを、一体どうやって相手にすればいいのか、真剣に頭を悩ませる羽目になった。

 

 

北側諸国のグラナト領に着くまでがタイムリミットだ。

アウラは大幅なプランの変更を南の勇者へと伝え、なんとか納得させる。

予知と完全に同じ状況を再現するのは危険過ぎる。慢心することなく、安全性第一で行動すると決めた。

 

 

南の勇者であれば、おそらく一人で勇者パーティーを壊滅に追い込むことも可能だろう。

しかし、今回の勝利条件は、あくまで「人知の及ばない七崩賢の魔法」というものを体験させ、その悪逆非道さを勇者たちに見せつけ、彼らに貴重な経験を積ませることにある。

 

 

今、グラナト領をリュグナーなる魔族の男が襲っているらしいことは、既に掴んでいる。

どうやらアウラがいなくとも、魔王軍は予知通りに動いてくれているようだ。

 

 

ならば――あの厄介なエルフ、フリーレンをそちらに押し付けるのが最善手。

 

 

魔王軍は日夜、フランメが遺した大結界を破壊するために攻撃を加えているらしく、勇者パーティーと出くわせば、あっさりと全滅させられるだろう。

ならば、魔王軍が皆殺しにされる前に、勇者パーティーの前に姿を現し、適当に挑発してフリーレンを一行から分断するしかない。

 

 

そうと決まれば行動は早い。

南の勇者とアウラは、着々と安全かつ確実なプランを組み上げていく。

 

 

服従の天秤による不死の軍勢は、二人の倫理観から大きく外れ過ぎているため使用できない。

が、それは大した問題ではなかった。

 

 

そもそも、どの魔族も一点特化の強力な魔法ばかりを使用するため忘れられがちだが、この世界に生きるどの生物よりも、魔法という力そのものに秀でているのが魔族という種族なのだ。

魔族にとってはごく簡単な魔法であっても、人類にとっては熟練の魔法使いですら、使用することが出来ないような魔法など、腐るほどある。

 

 

アウラはグラナト領の周辺に打ち捨てられていた、魂の抜けた死体を魔法で操り、25体の兵士を作り上げると、さらに実体のない幻影を同数作り出し、軍勢のかさ増しを行った。

 

実数こそ少ないものの、実体と幻影を巧みに織り交ぜたこの戦術の有用性は計り知れない。

この、魔王軍時代に編み出した『不死の軍勢』の新たな運用方法を、アウラは自信を持って勇者たちへとぶつけることにした。

 

 

たとえ七崩賢の魔法でなくとも、その厄介さと悪辣さは、ひけをとらない。

南の勇者もまた、グラナト領の兵士の鎧を身に纏い、『不死の軍勢(嘘)』の一員へと紛れ込み、新たな時代を切り開くであろう若き勇者たちを静かに待ち構える。

 

 

そして、ついにその時は来た。アウラはこれ見よがしに服従の天秤を構え、現れた勇者たちに堂々と自己紹介をする。

 

 

『私は魔王軍、七崩賢 断頭台のアウラ』

 

 

死体をまるで人形のように操りながら、ぺらぺらと勇者たちの神経を逆撫でするようなセリフを吐きまくる。

 

その冒涜的な光景に、高潔な魂を持つ勇者たちの胸には、強烈な不快感と共に、燃え盛るような敵意と義憤が膨れ上がっていく。

しかし、その中でただ一人、エルフの魔法使いだけが全く何も感じていないようだった。

いや、少なくとも不快感はあったのだろうが、それはまるで、目の前を飛び回るうっとおしい蚊に向けるような、ごく些細な感情に過ぎなかった。

 

 

――なにこのエルフ……人の心とか無いのかしら?

 

 

アウラは内心で眉を顰める。

幸いなことに、こちらの魔力制限に気づかれている様子は無い。

アウラ自身にその自覚はないが、魔力に優れた適性を持つ魔族が500年という歳月をかけて積み上げた魔力制限技術は、フリーレンのそれと同等……あるいは、それ以上に極められていた。

 

 

さっさとグラナト領に行って欲しいアウラは、フリーレンに向けて、ねちねちと煽りの言葉を浴びせ散らす。

 

「私の仲間が既にグラナト領を襲撃しているわ」

 

「結界ももうすぐ崩れるわ、早く向かわないと……大勢の人間が皆殺しにされるわよ」

 

 

――「フランメの大結界なんて魔族からしたらゴミ同然ね」

 

 

その言葉を口にした瞬間、アウラの額目掛けて、凄まじい威力の極光が迸った。

 

 

今のは、間違いない。

かつてクヴァールが使用したとされる『人を殺す魔法』。

アウラが母フルーフから聞いていた通り、とんでもない奴である。他者の術式を解析し、そのまま自身の魔法として完璧に使いこなしている。

 

 

それを平然と回避するアウラも相当におかしいが、彼女は驚愕に目を見開いていた。

 

 

的確に地雷を踏み抜いてしまったせいか、表情一つ変えていないというのに、フリーレンの魂が静かに、しかし確実に殺気立っていくのが分かる。

 

 

ありがたいことに、勇者ヒンメルは、あの無表情な鉄仮面の下に隠された激情を一目で見抜き、冷静さを欠いているフリーレンを先にグラナト領へと向かわせてくれた。

 

 

そこからは、魔法の要素がどこにもない、純粋な肉弾戦オンリーの戦いが幕を開ける。

 

 

女神様の魔法による浄化は、アンデッドにとっては致命傷になりかねないため、南の勇者がハイターに張り付き、徹底的に妨害する。

勇者ヒンメルと戦士アイゼン……どちらも、戦士としては間違いなく最高峰の実力者だ。

 

死霊術によって生み出されたアンデッドの戦闘能力は、術者であるアウラの操作技能に大きく依存する。アウラ自身、アンデッド自体は勇者たちにあっさりと処理されるだろうと考えていた。

 

 

が、アウラの予想に反して、アンデッドたちは驚くほど善戦してしまう。

ここで下手に手を抜き、変な誤解を与えてしまえば、これまでの努力が全て水の泡だ。だからこそ、全力でことに当たるしかない。

 

 

しかし、アウラは忘れていた。

この死霊術の魔法の練度を高めるために、来る日も来る日も訓練に付き合ってくれていたのが、一体誰だったのかを……。

 

 

そう、人類皆ご存知の、南の勇者その人である。

 

 

想定される仮想敵を常に南の勇者と定め、血の滲むような訓練を繰り返してきたアウラの操作技能は、それはそれはとんでもないレベルにまで到達していた。

 

 

当然のように斬撃を飛ばしてくる勇者、凄まじい破壊を撒き散らす戦士の攻撃を、アンデッドたちは到底死体とは思えない俊敏さで次々と躱していく。

幻影が剣を振るい、ヒンメルが咄嗟にガードするも、実体がない故にその刃は空を切る。

力が僅かに抜けたその隙を突いて、統制の取れたアンデッドたちからの連携攻撃が鋭く撃ち込まれた。

 

 

戦士アイゼンは、アンデッドたちの剣が先に砕けるという、ふざけた耐久性によってほぼ無傷だが、勇者ヒンメルの身体には、徐々に生々しい傷が増えていく。

 

 

しかし、流石は魔王を倒すと、最強の勇者から予知された存在たちだ。

 

 

戦士アイゼンは、視界に溢れるアンデッドの軍勢を、戦斧を力任せにぶん回すことで生じる、防御も回避も不可能な風の圧力でまとめて蹴散らしまくる。

 

 

勇者ヒンメルは、実体のない幻影と本物のアンデッドが作り出す、ごく微かな空気の揺らぎや音の差異を、その研ぎ澄まされた五感で感じ取り、アンデッドの猛攻を紙一重ですり抜けながら、アウラへと着実に距離を詰めてくる。

 

 

迫りくる勇者たちを睨み据えていると、何故か魔族の子供が勇者たちの背後で、こちらの戦いを観戦しているのが見えた。

アウラが視線を合わせ、じぃーっと見つめていると、向こうも気づいたのか、慌てた様子でどこかへ逃げていった。

 

 

一体何だったんだ?と一瞬疑問が過るも、しかし、もはやそんなことを考えている余裕はなかった。

勇者ヒンメルが、目と鼻の先まで迫り、その剣を高く振り上げていたのだ。

 

 

きらりと煌めく勇者の剣がアウラの瞳を照らしたのと同時に、鮮血が空に飛び散る。

激しい痛みと共に、掲げていた天秤ごと、その胴体を斜めに深く切り裂かれた。

 

 

アウラは、噴き出す血を撒き散らしながら魔法を解除し、あらかじめ決めておいたセリフを、苦しげに口にする。

 

 

「わ、私は500年以上生きた大魔族だ……く、そんな……この私が、たかが人間なんかに」

 

 

若干、戦いが長引いた気はするが、全ては計画通り。

勇者たちにとっても、きっと良い経験になっただろうと、アウラは密かな達成感に浸っていた。

 

 

――ブチッ

 

 

しかし、魔法が解け、全てのアンデッドが力なく地面に横たわる中、ただ一人だけ、平然と立ち上がった鎧の騎士から、何かが切れるような嫌な音が聞こえてきた。

 

 

アウラの瞳には、メラメラと地獄の業火のように燃え盛る、禍々しい魂が映っていた。

 

 

――なんでこのタイミングで貴方がブチ切れてるのかしら。

 

 

そこからはもう、戦いとも呼べない、人類最強による一方的な蹂躙劇が始まった。

 

 

僧侶ハイターの聖典は、一瞬で真っ二つに切り裂かれ、その顔面に強烈な拳が一発叩き込まれ、彼は為すすべなく地に沈んだ。

勇者ヒンメルと戦士アイゼンの全力の一撃を、たった一本の剣で軽々と弾き飛ばし、返す刀で剣の柄をそれぞれの頭蓋に叩き込み、二人同時に白目を剥いてノックアウトさせる。

 

 

魔王軍の一部隊を壊滅させたフリーレンが、遠距離から立て続けに魔法を連射してくるも、炎、雷、水、氷、風、岩、そして『人を殺す魔法』……ありとあらゆる魔法を、ただの剣閃だけで全て切り払い、まるで残像を残すかのような神速でフリーレンへと迫っていく。

 

 

そうして、あっさりと目の前まで急接近してきた南の勇者の一閃により、フリーレンの杖はたやすく切り裂かれ、その首筋にトン……とごく軽い一撃が決められ、彼女の意識は闇に落ちた。

 

 

悠然と戻ってきた南の勇者を見て、アウラはそれはもう、ブチ切れた。

勢い余って勇者パーティーを壊滅させるとか、一体何を考えているんだと、力の限り怒鳴り散らした。

 

 

しかし、そんなアウラの怒声などガン無視で、ただひたすらに彼女の傷の心配をする南の勇者に、アウラはそれ以上何も言えなくなってしまった。

彼の魂の揺らめきには、純粋な心配と、そして自分を傷つけられたことに対する烈火の如き怒りしかなかったからだ。

 

 

自分で言い出しておいて、自分で全てを台無しにするだなんて、馬鹿過ぎる。

アウラは呆れながらも、そう叱ってやる。

 

 

南の勇者も、自らのあまりの自制心の無さと、考えなしの行動に我ながら呆れているようだったが、しかし、全く反省はしていなかった。

必要なことだと頭では理解していたが、いざアウラが傷つく様を目の前にすると、到底許容出来なかったと静かに語る。

 

 

これは徹底的に叱り飛ばすべきだ……と、頭ではそう理解している。

しかし、この突拍子もない彼の行動は、ひとえにアウラへの深い愛情からくるものであり……内心、どこかで喜んでいる自分もいた。

 

 

やってしまったものは仕方がない、とアウラは気を取り直す。

未来視での出来事とは随分状況が異なってしまったが、勇者たちの状態に問題はない。

 

 

勇者たちは、邪悪な魔法からアンデッドとなった騎士たちを解放し、苦戦しながらも成長を遂げ、七崩賢の一人へとその剣を届かせた。

これは、彼らにとって得難い自信と経験に繋がるだろう。

魔王軍の残党も、残らずフリーレンに殺されたと見て問題ない。南の勇者がちょっとキレて勇者たちを気絶させてしまったこと以外は、概ね計画通りだ。

 

 

全員生存。

聖典も杖も、グラナト領に行けば修復は容易だろう。

 

 

後は、勇者パーティーに一切その存在を悟られることなく、速やかに雲隠れするだけだ。

アウラは南の勇者に抱えられながら、全速力で南側諸国へとトンボ返りした。

 

 

だが、やはり我慢出来なかったのか、帰りの道中、南の勇者は延々とアウラからのお叱りを受ける羽目となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして、勇者ヒンメルが王都から旅立って十年後……大陸全土に、魔王討伐の報せが知れ渡った。

 

 

南の勇者は、あれからアウラにこってりと絞られたのか、魔王討伐の知らせを聞き、ホッと安堵の息を漏らし胸を撫で下ろす。

 

 

しかし、安心ばかりもしていられない。

魔王が死んだということは、司令塔を失った魔族の敗残兵たちが、まるでゴキブリのように大陸中に散り散りになるということを意味する。

 

 

勇者に討たれたとされているが、あのシュラハトと常に行動を共にしていたという、狡猾な奇跡のグラオザームが本当に死んだとは考えづらい。

生き残った大魔族たちが、これから好き勝手に暴れ出す可能性は十分にあった。

 

 

幸い、中央諸国を中心に、勇者パーティーという恐怖の抑止力が生存している限りは、大きな問題は起きないだろう。

問題は、勇者ヒンメルが死んだ、その後の世界だ。

確実に何かが起きるであろうことは、火を見るより明らかだった。

 

 

南の勇者は、もう未来に振り回されることをやめたが、それとなく。自身がうっかりと見てしまった、正史でアウラがフリーレンに自害させられるという未来を、彼女に伝えておいた。

 

 

凄い顔をしながらそれを聞くアウラだったが、正史の自分がヒンメルの死後を狙ったように、いつ何時、大魔族からの襲撃が起こるとも限らない。

アウラは苦々しく顔を歪めながらも、一層、周辺への警戒を怠らなかった。

 

 

それから、更に長い年月が経ち。

勇者ヒンメルの死後、数年が経過した頃。

 

 

アウラは、ついに見つけてしまった。

南側諸国のとある町で、服従させた鳥の眼を通して……何やら、ものすごく見覚えのある銅像を見てしまったのだ。

 

 

一人は、シルクハットを被った、一見するとお淑やかそうな女の像。

そして、その隣に仲良く並ぶ、タレ目が特徴的な、見る者に安心感を与えてくる少女の像。

 

 

アウラは、南の勇者と優雅にお茶を楽しんでいる最中にそんなものを見てしまい、盛大に茶を吹いた。

紅茶で水浸しになる南の勇者のことなど目もくれず、彼女は銅像へと意識を集中させる。

 

 

ついに、母親の痕跡を見つけた。

感情が高ぶり、喜びのあまり舞い上がりそうになるも……隣に立つ小さな少女の像を見て、その頬がぴくりと引きつる。

 

 

角こそ無いが、猛烈な既視感があった。

その銅像から、腐ったような臭いを感じる程度には、なんだかよく知っている気がした。

もう一人、リンゴを齧る少女の像もいたが、こっちもなんだか見覚えがある。

 

 

アウラは、深く考えることを止めた。

アレが、自分の親になるとか、絶対に考えたくなかった。

いや駄目だろ、あれはヤバいだろ、どんな趣味してんだよ、と。

 

 

否定の言葉しか頭に浮かばない。

流石に……母であるフルーフの探し人が、アレであるはずはないだろう。

だが、よくよく考えてみれば、フルーフはとんでもない変態女だったことを思い出す。

娘としては、少しも認めたくはないが、否定しきれない嫌な信頼が、あの母親にはあった。

 

 

銅像が置かれた村へと実際に足を運び、住民に話を聞くと、銅像の人物の名前はフルーフとソリテール、そしてリーニエだという。

 

 

ソリテール……あの、大魔族ソリテールである。

 

 

自分で事あるごとに臆病だと言っておきながら、実名で堂々と旅をするとか、完全に舐めているなと、アウラは怒りで拳を握りしめ、目の前の銅像を叩き壊したいという衝動に駆られる。

 

 

これが、自分の義母になる人物なのかと……銅像に興味深そうに視線を寄せる南の勇者は、アウラが何にそんなに気に入らないのかと問いかける。

 

 

「体臭」

 

 

まずアウラの口から出てきたのは、あまりにも直球な言葉であり、南の勇者は苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

 

そして、その態度。

人間を趣味で山のように殺しておきながら、二言目には「臆病だから」と、謎に被害者ぶるあの態度が気に食わない。

正面からぐいぐいと物事を進めるタイプのアウラには、到底耐えられないのだ。

とにかく、あざとくて癪に障る。

 

 

そして何より、母親であるフルーフが、そんなソリテールの態度にデレデレしている光景が、あまりにも容易に想像できてしまう。

 

 

想像の数倍はヤバい情報が色々と出てくる、暫定的な義父のソリテール。

若干引き気味でアウラの愚痴を聞かされていた南の勇者は、これは同居は難しそうだな、と呑気に考えていた。

 

 

不意に、アウラの表情からス……と感情が抜け落ちる。

よほど現実を否定したいのか、実際に見るまでは断定出来ないと言い張り、アウラは南側諸国からフルーフの痕跡を辿り、ついには北部高原まで辿り着いた。

 

 

ここまで来れば、もはや痕跡を辿るまでもなく、以前訪れた際には影も形もなかった場所に、一つの新しい街が築かれているのを見つける。

その街の方角からやってきた行商人に話を聞けば、そこはフルーフとソリテールが治める街だと判明した。

 

 

洞窟での生活から60年以上を経て……ようやくアウラは、探し求め続けた母。フルーフの居場所を突き止めることに成功した。

 

 

しかし、喜びもつかの間、近々その街で結婚式が執り行われると聞かされたアウラは、大急ぎでその街へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

――シンビオシス入り口

 

 

 

北部高原の西側に位置する海岸沿いに、数年前に築かれた新しい街。

新興の街とは思えないほどの賑わいを見せる活気。その正反対の、険しい顔つきで、アウラはズンズンと街の中へと入っていく。

 

 

「ここがお母様とあの女の街ね。お母様は一体誰と結婚するのかしら?」

 

「ふむ……ほとんど断定しているようなものだ、もう諦めたらどうだアウラ」

 

「いいから行くわよヘルト」

 

 

ローブを深く被った南の勇者は、物珍しそうに周囲の建造物や行き交う人々に目を見やる。

とても魔族によって管理されているとは思えない、平和で穏やかな光景を眺めながら、彼は不機嫌そうなアウラの後ろを静かについていく。

 

 

「平和そのものだな」

 

「そうね、不穏分子は徹底的に排除して争いの芽が一切出ないようにしているわ。……お母様、相変わらずグロイことするわね」

 

「どういうことだ?」

 

「貴方には見えないでしょうけど、ここの住人の魂には楔が打ち込まれて鎖で繋がれてるわ。何が条件でどういう効果があるまでかは分からないけど、お母様の作品だろうから碌なものじゃないわ。まぁ、平和そうならいいんじゃないかしら」

 

 

アウラは、楽しそうに催しに参加している住人たちを横目で観察する。

彼らの魂には、確かに釘のようなものが深々と突き刺さっており、そこから伸びた鎖が、街のどこかへと繋がっていた。

 

魔法技術においては、アウラは母フルーフを遥かに凌駕している。

しかし、こと「魂の加工」という一点においては、話が別だった。

 

フルーフが生み出す、魂を用いたグロテスクな道具の数々。その原理は、アウラにも全く理解が及ばない。

 

自身の魂すらも無限の実験材料として容赦なく使い潰す、常軌を逸した執念。

そこには、娘であるアウラも両手を挙げて降参するしかない、隔絶した高みがあった。

 

倫理観さえまともであれば、純粋にその技術を褒められたのだろうが……いかんせん、フルーフの趣味が悪すぎる。娘としても、眉を顰めざるを得なかった。

 

 

鎖を辿りながら街中を歩いていると、やがてその鎖の末端が見えてくる。

それは、路傍のテーブルに置かれた、一つの黒く小さな箱へと繋がっていた。その箱の所有者と見られる人物を、南の勇者は物珍しげに見つめ、ぽつりと一言呟く。

 

 

「エルフがこんな所にいるとは珍しい」

 

 

特徴的な長い耳。そしてその身に宿す魔力量は、軽く大魔族クラスに匹敵する。

真っ昼間から高価そうな酒をガブガブと呷っている辺り、この街ではそこそこの重役なのだろうということが見て取れた。

 

 

「……あれとは関わらない方がいいわ。お母様が好き好みそうなタイプよ」

 

「つまり?」

 

「性格が悪い。無害そうに見えるけど、あれは人の不幸を意味も無く見たがるタイプね。もしくはお母様が無自覚にそう仕向けた可能性もあるわ。絶対認めないけどあの人、クズが大好きなのよね……」

 

「君の母親は置いておいて。自覚があってもなくとも、近づかない方が賢明だな」

 

「別の場所を見回りましょ」

 

 

触らぬ神に祟りなし。

遠目で好き放題に人物像を評価したアウラは、さっさと踵を返し、街の広場へと向かっていった。

 

 

「お待たせ致しましたミリアルデ様。本日一番の最高級のエールでございます……おや、如何なさいましたか?」

 

「見られている気がしたけど気の所為だったみたい。……ここ、いいお酒を揃えられている。貴方、お酒が好きなの?」

 

「えぇ勿論でございます、昔はノルム商会に身を置き大陸中の美酒を味わいながら商いをしていたのですよ」

 

「そう。なら皇帝酒(ボースハフト)にも興味があるのかな」

 

「はははッ! 酒好きで気にならない者などおりません。古代の石碑に『最上の名酒』と称えられる程の伝説の一品……私も一度は探し求めたものです。生涯の内に是非味わってみたいものですなぁ」

 

「へぇ。なら味わせてあげようか?」

 

 

エルフは、手にした黒い箱をぎゅっと握りしめ、ゆっくりと立ち上がる。店主の魂は、未知なる伝説の酒への期待と感動、そして希望でキラキラと輝いていた。

 

 

表情の薄い、どこか不気味なエルフは、ほんの微かに、その頬を吊り上げる。

 

 

貴方は『一度は人生をかけて探し求めたものが、なんの価値もないただのゴミだったとき』、一体どんな顔をして、どう思うのだろう?

 

 

暇つぶしに……

 

 

――私に見せてくれる?

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

ここは、街の中央広場。

 

 

祝福の花吹雪と割れんばかりの歓声が舞う中、そのど真ん中に、真っ赤なベールに包まれた巨大なナニカが鎮座していた。

 

 

「ねぇヘルト……アレ、なんだかわかる?」

 

「結婚記念に作られた物らしい、街を象徴するモニュメントか何かではないか?」

 

 

その巨大なナニカを取り囲む住人たちは、既にその正体を知っているのか、早く見せろと言わんばかりに歓声を上げ、地響きのように足を踏み鳴らす。

 

 

司会を務める男は、両手を広げて興奮する住人たちを制し、声高らかに宣言した。

 

 

「皆様! いよいよここシンビオシスで開かれる記念すべき催しを象徴するに相応しい記念像のお披露目です! なんとなんとあのフルーフ様が直々に設計され、純度100%の純金で作られた黄金像です!!」

 

 

その言葉を聞き、観客たちの興奮は最高潮に達し、広場は熱狂の渦に包まれる。

 

 

しかし、街の外からやってきた二人組だけは、これでもかというほど困惑した表情を浮かべていた。

 

 

「うわぁ……お母様。なんて成金臭いことを考えるのよ」

 

「これは……アウラすまない。君の母は少し品位が足りていない気がする」

 

「言葉を選ばなくていいわよ。お母様は昔っから頭が可怪しい人だから」

 

「それではご覧下さい、私達の街を治めて下さる偉大な魔族であるソリテール様の美しさを象徴した。フルーフ様命名の『お話しましょう像』です!!」

 

 

全体を覆っていた巨大なベールが、勢いよく引き剥がされる。

その瞬間、広場は眩い黄金の光に包まれた。

 

 

降り注ぐ陽光が黄金像に乱反射し、目をくらませる。

 

 

誰もがそのあまりに輝かしい威光に思わず目を伏せ……そして、次に目を開けた瞬間。

 

 

そこには、小さな二本の角を生やし、まるで全てを包み込むかのように両手を広げた、大魔族。

 

 

ソリテールの、巨大なデフォルメ黄金像が、高らかにそびえ立っていた。

 

 

 

「「「「「うぉぉぉぉぉ! ソリテール様!!」」」」」

 

 

「「「「「キャぁ~~~! ソリテール様よぉ! お話してぇ!!」」」」」

 

 

アウラと南の勇者は、思わず下を向き、同じことを考える。

 

 

……怖ぁ~~……こんなのカルト宗教じゃない?

 

 

どうやら、この街の住人たちは、完全に洗脳されてしまっているようだった。

 

 

アウラと南の勇者は、その異様な熱狂の輪についていけず、逃げるようにその場を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

街で一番高い建築物の屋根の上から、眼下に広がる街を見下ろし、アウラと南の勇者は、遠くで行われている魔族と人間の結婚式を静かに見つめていた。

 

 

アウラはもう、完全に母親の結婚相手がソリテールであることを認めたのか、ただ黙って式の行方を見守っていた。

 

 

一方、南の勇者は、ソリテールの姿を一目見た瞬間、反射的に剣を引き抜きそうになるも、事前にそれを予測していたアウラによって、その手は剣の柄ごと強く抑えられていた。

この勇者、剣を抜き放つだけで斬撃が飛んでいくため、本気で大惨事になるところであった。

 

 

「魔族の子供と人間の子供と共存か、君の母親も……この街も面白いものが多くある」

 

「私達みたいな存在を魔族と言っていいのか最早疑問ね、後……共存じゃなくて。ソリテールのモルモットとして仲良く飼われているのが正解じゃないかしら」

 

「君になら別の形で実現できるのではないか。天秤で魔族達に命じては駄目なのか?」

 

「駄目よ。産まれる前から深く根付いた生物としての性を舐めないことね。私が出来るのは抑制まで……貴方は自分の意志で爪が伸びるのを止められるかしら? 強く押さえつけたって伸びるのを止められないわ、いずれくる限界を先延ばしにするだけよ」

 

「難しいものだな」

 

「女神様の魔法の中には人間が飲まず食わず生活出来る奇跡のような魔法があるわ。だけどそれは人類を対象にしたものよ……魔族である私達にそんな奇跡は無いの。女神様にとっては魔物も魔族もたいして変わらないのかもしれないわね」

 

「だからこそ、そんな奇跡を起こせる母親を君はとても尊敬しているのだな」

 

「それもあるけど……それだけじゃないわ」

 

 

式場で、子供のようにギャン泣きしながらソリテールに抱きしめられている母親の姿を見て、アウラはフッと穏やかに微笑む。

 

 

本音を言うと、この式をめちゃくちゃに邪魔してやろうかと考えていた。……だが、やめた。

 

 

隣で一緒に結婚式を眺める、愛しい男を見ながら思う。

そもそも、自分も母親と全く同じ道を辿ろうとしているのだ。そんな自身に、この結婚式をブチ壊す資格など、ありはしない。

 

 

フルーフは、アウラが一度も見たことのないような、満面の笑みを浮かべている。

ソリテールのことは正直苦手だが、彼女なりに色々と頑張っているのが、遠目からでも伝わってくる。

 

 

アウラは、微笑みながら隣に立つ男の手をそっと握る。

いつか、この場所で、母親に祝福されながら、自分たちも同じように式を挙げたいな、と柄にもなく考えてしまう。

 

 

やがて式も無事に終わり、祝福の花吹雪が空高く舞い上がる中、アウラと南の勇者は静かに立ち上がると、軽やかに屋根から飛び降りた。

 

 

「いつか――」

 

 

アウラは呟いた。その視線は、花吹雪の舞う式場に向けられている。

 

 

「いつか、私たちも」

 

 

南の勇者は、その言葉の続きを待った。

しかし、アウラはそれ以上何も言わず、ただ彼の手を強く握り返しただけだった。

 

 

言葉にしなくても、伝わっている。

 

 

「またね……お母様」

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――数年後

 

 

「グラナト領で『断頭台のアウラ』が和平交渉中ですって……?」

 

「『不死の軍勢』もいるらしいな。アウラ、一応言っておくが間違いなく罠だぞ」

 

「でしょうね」

 

「それで……どうする?」

 

「勇者ヒンメルが、寿命で死ぬまで待ってたような腑抜けに怖気づくとでも? 誰に喧嘩を売ったか分からせてあげないといけないわ、ねぇ……南の勇者」

 

「その通りだ。では向かうとするか――北側諸国、グラナト領へ」

 

 

 

――To be continued.

 

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