ソリテール様結婚しましょう…貴方が旦那様です。   作:ごすろじ

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上記を30分の1まで圧縮した超要約版です。
長すぎるんでね……。これで十分。後半はキャラクター詳細ですけど、あんまり読む必要もないかな……。ツルツル滑って問題なし。


外伝部分の要約話
アインザーム・オリジン【要約】


 

▼第1話 ~ 第14話

 

 

▶上

 

北側諸国の奥深い雪山。

知性を持ちながら、自分が何者かわからず孤独に佇む魔物がいた。

名はアインザーム――幻影鬼と呼ばれる種族だが、フルーフに数百年かけて教育され、言語も感情も身につけた異端の存在だ。

 

ある日、森に馬車が来て、袋詰めにされた何かを投げ捨てていった。

中にいたのは鉄仮面を被った少女、マキナ・アークライア。

実の弟に暗殺を命じられ、森に捨てられた十三歳の娘だった。

 

マキナの家は成り上がりの貴族。

顔の半分を覆う腫瘍と全身の皮膚病を持って生まれた彼女は、家族から「呪われた化け物」と疎まれ、屋敷の片隅で虫や残飯を食べて生き延びてきた。

唯一の支えは、死にかけた冬の日に出会った老いた異端審問官が教えてくれた女神信仰――「頑張った分だけ、天国でご褒美がもらえる」という言葉だけだった。

 

アインザームは迷った末、少女を保護することに決める。

大人が子供の面倒を見るのは当然だ、と。マキナは怯えながらも、この魔物が自分を怖がらず、気持ち悪がりもしないことに気づく。

仮面を外して顔を見せた時、アインザームが返した言葉はたった一つ。

 

「その眼が――とても綺麗だと思った」

 

湖畔で涙を流すマキナに、アインザームは約束した。

嫌わない、捨てない、守ると。

マキナは生まれて初めて自分を「女の娘」として扱われ、生まれて初めて――恋を知った。

 

 

▶中

 

共同生活が始まった。

 

アインザームは洗濯・炊事・風呂の世話まで全てこなし、マキナを徹底的に甘やかした。

マキナはそれに応えるように、自分の得意分野――礼儀作法や知識で彼に「仕事」を返そうとする。

互いに与え合い、少しずつ距離を縮めていく日々。

 

だがマキナの心には深い傷があった。

謝ることしか知らない。優しくされると怖くなる。「いつか捨てられる」という恐怖が、温かさに触れるたびに膨らんでいく。

 

ある夜、マキナは悪夢の中で実家に引き戻された。

蹴られ、罵られ、食べ物に糞を混ぜられる――かつての日常が再現される。

しかしアインザームは精神魔法で夢に介入し、マキナを救い出した。「どんな夢の中でも一緒だ」と約束して。

 

目覚めたマキナは夢の内容を覚えていない。

ただ手を握っていてくれた温もりだけを感じ、安心して再び眠りについた。

 

やがてマキナはアインザームにある「呪い」をかける。

彼が動物を殺すことに罪悪感を覚えていると知り、こう言った――「その優しさを捨てないで。私のために苦しんで」と。

身勝手な願いだと自覚しながら、自分が死んだ後も彼の中に残り続けたかった。

 

アインザームはそれを受け入れた。呪いではなく祝福だと感じながら。

 

二人は女神像を修復し、スノードロップの花畑を作り、毎日並んで祈りを捧げた。

「自分のために祈って」と約束し合い――アインザームはマキナの幸せを祈り、マキナはアインザームが自分を忘れられるようにと祈った。

 

 

▶下

 

一ヶ月が過ぎた。穏やかな日常が回り始めていた。

 

朝は花風呂に入り、焼きたてのパンを食べ、礼儀作法の授業をし、女神像に祈り、暖炉の前で読書をする。

マキナは笑うことが増え、アインザームは不器用ながらも料理の腕を上げた。

ありふれた、けれど二人にとってはかけがえのない日々。

 

しかしマキナの体は確実に蝕まれていた。

 

皮膚の壊死は加速し、指先の感覚は鈍くなり、包帯に染みる血は日ごとに濃くなっていく。

マキナはそれをアインザームに隠し続けた。

 

心配させたくない。これ以上迷惑をかけたくない。

彼が自分の余命を知れば、何を犠牲にしても助けようとする――それだけは、させたくなかった。

 

アインザームも異変に気づき始めていた。

悪夢の頻度が増えている。笑顔が増えたのに、夜になるほど闇が深くなる。

だが中を覗かないと約束した以上、少女の内面に踏み込むことはできない。無力感に苛まれながら、ただ夢を守り続けるしかなかった。

 

マキナは風呂場で、水面に映る自分に語りかける。

 

「アインは綺麗だって言ってくれたよ。だから貴女も頑張らないと」

 

長くは生きられない。

それはもう変えられない。

 

だからせめて、残された時間で――彼にもらったものを少しでも返したい。

彼が自分を定義してくれたように、いつか彼が何者なのかを言葉にしてあげたい。

 

そしてマキナの知らないところで、嵐が近づいていた。

 

不死の狂人が、戦場で魔族を蹴散らし、帝国軍の物資を拝借し、孤児を助けながら――気だるそうにアインザームの住処を目指して歩き始めていた。

 

「久しぶりにアイツの所で食っちゃ寝するか」

 

穏やかな日々に、新たな風が吹き込もうとしていた。

 

 

 

▼第15話~第28話

 

 

▶上

 

数ヶ月が過ぎ、春の兆しが見え始めた頃――アインザームはマキナの異変に気づく。

左手の人差し指が完全に動かなくなっていた。

 

巧妙に隠されていたが、一度気づけば見逃せない。

ナイフを支える角度、フォークの力の入れ方、全てが不自然だった。

 

問いただしたい。だが踏み込めば傷つけてしまうかもしれない。

アインは湖畔で額を地面に叩きつけ、女神像の前で項垂れ、答えの出ない問いを繰り返した。

 

やがてマキナが静かに近づき、自分の命ともいえるロザリオをアインの首にかけた。

「もし私が死んだら――」その先を言い終える前にアインは叫んだ。

 

『止めろッ!』と。それ以上の言葉は出なかった。

踏み込む勇気を持てないまま、アインはただ夜ごと寝顔を見守ることしかできなかった。

 

一方マキナも限界を迎えつつあった。

片腕はもう肘から先が動かない。

 

骨が剥き出しになり、腐肉がへばりつく有様。

片脚も時折動かなくなる。

 

かつて親しい友人のように寄り添っていた「死」は、今やマキナを睨みつける恐怖そのものに変わっていた。

アインと出会い幸福を知ってしまったがゆえに、死を望めなくなっていた。

 

それでも打ち明ける勇気はない。

二人は互いを想いながら、互いに嘘をつき続けていた。

 

そんな膠着を吹き飛ばしたのが、フルーフの帰還だった。

熊を素手で解体し、その腹の中から血まみれで現れた白髪の女。

 

マキナが病気の顔を見せて追い払おうとすると、フルーフは怯えるどころか「綺麗だ」と微笑んだ。

アイン以外で初めてそう言ってくれた人間だった。

 

マキナは直感した――この人がアインのお母さんだ、と。

 

フルーフはマキナの嘘を一瞬で見抜いた。

味覚がないこと、手が動かないこと、脚が悪いこと。

 

魂を知覚できる彼女には誤魔化しが通じない。

マキナは観念し全てを打ち明けた。

 

フルーフはアインに黙っておくと約束しつつも、条件をつけた。

「余命が数日に迫った時か、完全に手遅れと判断した時に打ち明ける」と。

 

フルーフの存在は住処の空気を一変させた。

朝から酒を煽り、アインと壮絶な悪態をぶつけ合い、マキナを姫のように抱え上げて歩き回る。

 

品のない食べ方、無駄に豪華な聖典コレクション、煙管の煙。騒がしくて粗暴で、だけど身内には途方もなく甘い。

風呂場でマキナの全身を医者のような目で真剣に診た後、恋バナを振ってきた。

 

マキナがアインへの想いをぶちまけると、フルーフは目を輝かせて笑った。

そして自分にも好きな人がいると語った――会ったこともない魔族の女性を、何百年も想い続けているのだと。

 

 

▶中

 

フルーフが住み着いて十日。

山頂でフルーフは自分の死体を積み上げ、血の法陣で蘇生実験を繰り返していた。

 

マキナの延命手段を模索していたのだ。

一方アインは幻影魔法の精度を高めるべく、動物相手に実験を重ねていた。

 

だが二人の関係は険悪だった。

フルーフはアインの弱さを容赦なく暴いた。

 

「マキナの笑顔が消えていくのはお前が逃げ続けた結果だ」「傷つくのが怖くて一線を引いた」「優しくして希望を持たせ続けた癖に、死と向き合うことから逃げた」。

全て図星だった。アインはフルーフの胸ぐらを掴むが、反論できない。

 

フルーフは安楽死か自然死かの選択を迫り、アインが答えを出せずにいるその時――マキナが倒れた。

 

フルーフの飲ませた延命の石で一命を取り留めたマキナだったが、目覚めた彼女は二人の会話を聞いてしまい、衝動的に逃げ出した。

動かない脚を引きずりながら湖畔へと。

 

アインは追えなかった。

倉庫の出口に立ち尽くし、自分が引いた一線の前で動かない。

 

フルーフは最後通牒を突きつけた。

「知るかッ!さっさと外に出ろッ!」――特大の蹴りがアインの背中を吹き飛ばし、強制的に一線を越えさせた。

 

そこから始まったのは前代未聞の親子喧嘩。

拳以外使わないという暗黙の了解のもと、殴り合いながら本音をぶつけ合った。

 

「お前はあの娘の笑顔が見たくて努力してきただけの奴だ」とフルーフが叫べば、アインは「誰が貴様の息子だ」と殴り返す。

互いの顔面を粉砕しながら、アインは少しずつ自分の感情を吐き出していった。

 

最後にフルーフは叫んだ。

「あの娘を幸せにできるのはお前だけだろうが!」と。

 

アインは覚悟を決め、湖畔に向かった。

マキナは既に水の中に踏み込んでいた。

 

死にかけの身体で、最後の友人だった死を迎えようとしていた。

アインは叫んだ。

 

『マキナが死んだら己も後を追って死ぬ!』と。

子供の癇癪のような、情けない脅し。

 

だがそれはマキナの足を止めた。

 

そこからアインは全てのメッキを剥ぎ取った。

大人のふりをしていただけの未熟者だと認め、逃げ続けてきたことを告白し、マキナの不満も不安も全部受け止めると宣言した。

 

マキナも溜め込んだ想いを叫んだ。

「生きる希望を感じさせてよ!」と。

 

アインは幻影魔法の極致を発動した。

世界そのものを書き換える魔法で、マキナに失われた味覚を体験させ、見たことのない景色を見せた。

 

ケーキの甘さに泣きながらむしゃぶりつくマキナに、アインは言い切った。

『全部叶えてみせる。私が君の救いの手になる』と。

 

マキナは震える手をアインに伸ばした。

「助けて、アイン」――その手を力強く掴み、アインは彼女を水の中から抱き上げた。

 

住処に戻ると、フルーフが血の法陣と祭壇を準備して待っていた。

「このフルーフ様に任せな」と胸を叩き、マキナの心臓部に命の石を埋め込む禁術を施した。

 

フランメの弟子として培った知識と、何百年もの自己実験の成果を全て注ぎ込んだ延命処置。

寿命を大幅に削る代償と引き換えに、マキナの腐食した肉体は修復された。

 

 

▶下

 

施術から丸一日後、三人は目を覚ました。

マキナの身体は驚くほど回復していた。

 

動かなかった手足が自然に動き、腐り果てていた肌は嘘のように綺麗になっていた。

だがフルーフは喜びの中にあっても厳しい現実を伝えた。

 

病気そのものは治っていない。

延命の石が細胞分裂を加速させ、腐食より早く再生を繰り返しているだけ。

 

毎日薬を飲んでも、長くて三十歳まで。

最後の数年は寝たきりになる。

 

それでも――死の淵から帰ってきた二人にとって、それは十分すぎる未来だった。

 

フルーフはアインに釘を刺した。

「マキナの面倒を放棄したらお前を殺す」と。

 

だが同時に逃げ道も用意した。

「耐えられなくなったら逃げずに先に言え、尻拭いはしてやる」と。

 

そしてマキナの命が尽きるまでここにいると宣言した。

 

半年後。

平穏な日々の中、アインはフルーフに金の無心をした。

 

マキナの誕生日が近いのだと。

フルーフは呆れた。

 

アインがマキナの年齢を十歳だと思い込んでいたこと、マキナの恋心に全く気づいていなかったこと、全てに。

「マキナはお前のことが好きなんだよ、この鈍感系主人公」と突きつけられ、アインはようやく自分の気持ちと向き合い始めた。

 

誕生日当日。

フルーフは朝から全力で祝い、アインと二人でバースデーソングを歌った。

 

生まれて初めて誕生日を祝われたマキナは、感情の処理が追いつかず泣き崩れた。

「これからもずっと一緒にいてね」という言葉に、二人は声を揃えて「勿論」と答えた。

 

その後、アインはマキナを湖畔のボートに誘った。

思い出深い場所で、白い花束を差し出し、跪いた。

 

『マキナ、私は君が好きだ。愛しているよ。初めてここで顔を見合わせた日から、日に日に君に惹かれていった。魔物の身でありながら人間に恋した愚かな存在の想いに応えてくれるなら――君の残りの人生を、私に頂けませんか。この命を君のために使い、共に歩み、最期まで君を想い続ける。恋人として、共に歩んで欲しい』

 

マキナは顔布を外し、腫瘍の残る素顔を晒して花束を受け取った。

「私にも貴方の人生をくれますか?」と微笑んで。

 

アインは堪えきれず彼女を抱き上げ、水面の上でくるくると踊った。

 

帰宅した二人を見たフルーフは、繋がれた手を一瞥して全てを察した。

「おめでとう!」と祝福し、すかさず下品な茶化しを入れてアインに怒鳴られた。

 

チキンを焼く煙が立ち昇る中、マキナは静かに女神に祈った。

「私今、すっごく幸せです。きっともう足掻いたり後悔もせず、素直に天命を受け入れることが出来そうです」と。

 

魔物と人間は――種族の垣根を超え、恋人となった。

 

 

 

▼第29話~第43話

 

 

▶上

 

マキナの十四歳の誕生日。

アインが贈った白い花束には四十本の花言葉が込められていた――「永遠の愛を誓う」と。

 

フルーフがその意味を暴露し、アインは悶絶するが、マキナは耳まで真っ赤に染まりながら「私もずっとアインだけを想い続ける」と返した。

 

三人でチキンを囲み、乾杯する。

飲み食いできないアインにもグラスが用意された。

 

フルーフの理由は単純明快――「仲間外れなんて寂しいだろ」。

かつて自分が輪から弾かれ続けた痛みを知るからこその配慮だった。

 

バースデーソングを歌い、ケーキの蝋燭を吹き消し、プレゼントを開ける。

フルーフからは仕立て直した大量の服、アインからは巨大な熊のぬいぐるみ。

 

マキナは「アインみたいに可愛い」と抱きしめ、二人は揃って首を傾げた。

 

就寝前、フルーフがマキナに魔法の話を振る。

軽い雑談のつもりだったが、マキナは予想外に食いついた。

 

フルーフは女神の魔法について長々と解説する。

聖典は暗号文であり女神の魔法が隠されていること、使用には加護・信仰心・聖典の三要素が必要なこと、そしてマキナの加護が「魂全部が黄金色でピカピカ光る」異常な水準であること。

 

話は盛大に脱線したが、マキナは「大変わかりやすくて、何をすべきかは理解できました」と返し、二人を絶句させた。

 

フルーフは自身の過去も語った。

初めて開発した「指先に火を灯す魔法」をゼーリエに見せに行った日のこと。

 

魔法には見向きもされず、「フランメを解放する気になったか」とだけ言われた。

あの日以来、魔法への自信は砕け散ったままだ。

 

マキナは怒りを滲ませながら「その人にもできない魔法を生み出したなら、認めないなんてあり得ません」と力強く励ました。

フルーフは軽く笑って受け流したが、その信頼の重さに逃げ出しそうになる自分を押し留めた。

 

二年後。

フルーフが戦場での火事場泥棒から帰還すると、アインは様変わりしていた。

 

マキナの教育で身なりは整い、髪には油が塗られ、アクセサリーで束ねられている。

そして「旅の葬儀屋」を始めていた。

 

棺桶を自作し、花を魔法で咲かせ、聖都の形式通りの葬儀を破格の値段で執り行う。

報酬の半分を返すことすらある。

 

フルーフは呆れたが、アインの動機は明快だった――マキナが望んだ「正義の味方」に近づくため、助けを求める手を取ると決めたのだ。

そしてもう一つ、自分で稼いだ金で結婚指輪を買うという、男の意地があった。

 

フルーフとマキナはこっそりアインの仕事を覗き見に行く。

村長の老人ゲルマンと親しげに話すアイン。

 

報酬の銅貨を半分返し、笑顔で肩を叩く姿に、マキナは誇らしげに語った。

「アインは私が育てた一流の紳士です」と。

 

一方、アークライア領では暗雲が立ち込めていた。

マキナの弟ギーアは父から商会の後継者候補を外され、逆上する。

 

そこへ現れた女魔族と密約を交わした。

魔族に実験場を提供する代わりに、地位と権力を得る取引。

 

脳に寄生する虫で人間を操る技術を手に入れたギーアは、父親を操り人形にし、商会を乗っ取り、街全体を支配下に置いた。

薬物に溺れ、判断力を失いながらも、財産を引き継ぐために必要な、マキナの鉄仮面を求めて行方を探り続けていた。

 

 

▶中

 

マキナが二十歳を迎える朝、片腕が動かなくなったと告げた。

アインは「そうか」と穏やかに答え、朝食の準備を続ける。

 

マキナも静かに受け入れている。

二人の落ち着きぶりにフルーフだけが堪えきれず号泣した。

 

「なんで泣かないんだお前ら!」と叫び、「お前らが泣かないから私が代わりに泣いてやってるんだろうが!」と三人分の涙を流し続けた。

 

フルーフはマキナに「お守り」を渡した。

非常時に身体に突き刺せば一時的に全力で動ける赤い石だった。

 

星空の下、三人は身を寄せ合った。

マキナが問う。「アインの名前ってどういう意味?」。

 

フルーフの前世の知識では「孤独で寂しい奴」。

だがアインの記憶では、泉、最初、はじまり、数字の1を意味する言葉だった。

 

マキナは目を輝かせた。

「魔物でも人間でも魔族でもない、全く新しい最初の一。アインにぴったり!」。

 

アインは彼女の願いを受け入れた。

「君がそう望むなら、喜んで私は最初の1となろう。私は"アイン"だ」。

 

夜更け、アインは仕事で知り合った村長ゲルマンの見舞いに通い続けていた。

衰弱した老人が目を覚まし、魔物の姿を見ても怯えなかった。

 

「友人を怖がるような意気地なしではございませんぞ」。

アインはゲルマンに相談した――マキナを失った後、どう生きればいいのか。

 

老人の答えは曖昧で、しかし深かった。

「正しさを探しながら生きる……それもまた正しさの一つですぞ」。

 

その後、ゲルマンは穏やかに息を引き取った。

アインは初めて、マキナ以外の誰かのために泣いた。

 

マキナの二十五歳の誕生日。

アインとフルーフは交易都市で婚約指輪を購入していた。

 

オレンジダイヤモンド――マキナの瞳と同じ色の石。

何年もかけて稼いだ金で。

 

だが、ふと商人の噂話が耳に入る。

「アークライア家が兵を動かした」「魔物が巣食う山を制圧する」。二人は全力で引き返した。

 

山は包囲されていた。

虚ろな目の人間と魔族が入り乱れる異常な軍勢。

 

フルーフはアインを山中に投げ飛ばし、自ら囮となって戦い始めた。

アインは満身創痍で住処に辿り着く。

 

扉の内側から流れ出る血の筋。

それを辿った先に、顔を潰されたマキナが横たわっていた。

 

フルーフがマキナの寿命を極限まで削って意識を戻した数分間。

マキナはアインに最後のプレゼントを託す。

 

「私の全部を視て」と。アインはマキナの記憶を辿り、弟ギーアによる凄惨な暴行を目撃する。

殺意と憎悪が精神を侵食し、魔物の本能が「殺せ」と囁く。

 

だがマキナの声が引き戻した。「駄目だよ、アイン。憎悪に呑まれないで」。

 

そしてマキナの記憶の中で、もう一つの真実を見た。

瀕死のマキナがフルーフの石を使って立ち上がり、ギーアの顔面を殴り飛ばしていた。

 

「私だってお義母さんの娘だもの」と。

大切なぬいぐるみと紙束を血の中から拾い集め、抱きしめて。

 

アインは指輪を取り出した。

「結婚してください、マキナさん」。

 

彼女は泣きながら答えた。

「ずっと待ってたんだから――はい、喜んで」。

 

オレンジダイヤの指輪が薬指に嵌められ、数分だけの新婚生活が始まり、そして終わった。

 

最後にマキナが問う。「アイン、貴方は誰?」。

二人は同時に答えを口にした。

 

アインとは――妻マキナを愛する愛妻家であり、助けてと伸ばされた手を迷いなく掴む救い手であり、不平は無く、不条理を許さず、道徳を重んじる存在。

マキナの理想。正義の味方。

 

それがアインという存在に対して、二人が導き出した定義だった。

 

マキナは安らかに目を閉じた。

アインは妻の額に、初めてのキスを交わし、慟哭した。

 

 

▶下

 

アインは女神像の前で己の腹を剣で貫いた。

命を賭して信仰を証明するために。

 

魔物の身でありながら、善良な人々を守る力を求めて。

「泣いている子供にもう大丈夫だと言って手を差し伸べてあげたいだけなんだ」。

 

祈りの果てに意識が消える寸前、眩い光の中に羽を持つ存在を見た。

マキナが天国から呼んできてくれたのだと、アインは信じた。

 

 

フルーフは軍勢を殲滅しながら、女神への怒りと自責に苛まれていた。

死地へと向かおうとするアインに対し、説得を行うも、アインは決断を曲げなかった。

 

フルーフはアインに対して、どこへでも行け、と突き放し、絶交を宣言。

だが、フルーフはマキナの遺書を見つける。

 

そこには感謝と赦しが綴られていた。

「恨みなんてこれっぽちもありません」「アインとお義母さんが喧嘩せず、ずっと仲良くいて欲しい」。

 

フルーフは泣き崩れ、そして走り出した。「絶縁は取り消しだ」。

 

アインはマキナから受け継いだ女神の魔法と加護を携え、アークライア領へ向かった。

操られた人間は幻影で眠らせ、魔族には裁定を下して炎で滅ぼした。

 

全身を燃やし再生し続ける壮絶な戦い方で、一人ずつ確実に。

ギーアには「煉獄へと誘う魔法」をかけた――己の罪と向き合い、真に改心するまで終わらない無限地獄。

 

殺しはしない。マキナが誰も恨んでいなかったから。

 

駆けつけたフルーフは、とっさにアインを庇う。

女神の審判による自爆同然の魔法から身を挺して守り、「女神に殺されるなら私が邪魔してやる」と空に中指を突き立てた。

 

帰宅した二人はマキナを丁寧に埋葬し、墓石の前で朝まで騒いだ。

高級酒を注ぎ、バースデーソングを歌い、殴り合いの喧嘩で墓石を壊して謝り、また直した。

 

最後の最後まで騒がしい弔いだった。

マキナが望んだ通りの。

 

別れの日。

フルーフはアインに大量の赤い石と非常用の尖った石を渡した。

 

「死んでほしくない純粋な気持ちで渡すんだ」と。

そして分かれ道で互いの顔面を殴り飛ばし、明後日の方向へ吹っ飛んでいった。

 

静寂が戻った墓地に、風が吹く。

 

「いってらっしゃい、二人共」――そんな声が、聞こえた気がした。

 

七十年後。

アインは旅の中で善行を重ね、悪を裁き、孤児を養いながら生き続けていた。

 

勇者や聖人などではない。

ただ目の前の伸ばされた手を掴むだけの、ちっぽけな存在。

 

失敗も多い。

罰した悪人の息子に恨まれ、刃を向けられることもある。

 

それでもアインは逃げない。

己の腹を切り、責任を示し、その少年すらも家族として迎え入れた。

 

夕焼けの空を見上げる。

マキナの瞳と同じ色。

 

七十年経っても変わらない。

 

「これからも見守っていてくれ――マキナ」。

 

空には一番星が輝いていた。

あの夜、三人で見上げた星空と同じ光が、今も変わらずそこにあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キャラクター詳細

 

主要キャラクター

アインザーム(アイン)

種族:幻影鬼(魔物)

外見:灰色の巨躯に、目も鼻も口もない異形の貌。下半身は黒い霧状になっている。後に変身魔法を習得し、白髪を金色のアクセサリーで束ね、黒いコートとシルクハットを身に纏った長身の紳士(異端審問官風)の姿をとるようになる。

性格:元々は知性のない人食いの魔物だったが、フルーフの記憶を読み取り続けたことで知性と理性を獲得。非常に生真面目で、お人好し、そして極度の心配性。自己評価が低く、自身の存在定義に悩んでいた。

詳細:マキナを拾い、彼女の優しさと強さに惹かれ深く愛するようになる。マキナの死後、彼女が夢見た「正義の味方」になることを誓い、弱者を救い悪を裁く存在として生きることを決意する。エピローグ(70年後)では孤児院を運営している。

呼称:フルーフからは「糞餓鬼」「メルヘンモンスター」「チキン野郎」などと呼ばれる。一人称は「己」だったが、マキナのために「私」へと変えた。

 

マキナ・アークライア

種族:人間

外見:アイボリーの髪と、夕焼け色の美しい瞳を持つ。全身が赤紫に変色し、腫瘍や膿に覆われ肉体が腐敗する奇病を患っていた。顔の半分は白磁のように綺麗だが、もう半分は腫瘍で崩れており、普段は鉄仮面や黒布で顔を隠している。フルーフの延命処置により、一時的に傷一つない美しい姿を取り戻す。

性格:聡明で気品があり、礼儀作法に精通している。家族から過酷な虐待を受けて育ったため自己評価が低く、他人の悪意に敏感だが、決して他人を恨まない優しさと芯の強さを持つ。

詳細:アークライア家の長女。病気と優秀さを弟に疎まれ、暗殺されかけたところをアインに救われる。女神の熱心な信徒であり、魂が黄金に輝くほどの強大な「女神の加護」を宿している。聖典の暗号を解読し、女神の魔法の術式を解き明かした天才。25歳の誕生日にアインと結婚し、その直後に息を引き取る。

 

フルーフ

種族:人間(不老不死)

外見:雪のように白い長髪、目の下に深い隈、血色の薄い唇。スタイル抜群の美人だが、目つきが悪く、常に酒瓶と煙管を持ち歩いている。

性格:粗暴で口が悪く、情緒不安定。金にがめつく露悪的に振る舞うが、身内には非常に甘く、情に脆い。身内の不幸には大号泣するお節介焼きな「母親」的存在。

詳細:アインザームに知性を与えた生みの親。ソリテールに対して狂信的な愛情を抱いている。

 

サブキャラクター

ギーア・アークライア

マキナの弟。傲慢で自己中心的な性格。マキナの優秀さに嫉妬と恐怖を抱き、彼女を暗殺しようとした。後に魔族と結託し、領民や家族を実験体として売り飛ばす。薬物依存で精神を病んでおり、最後はアインの魔法によって無限の煉獄に囚われる。

 

アークライア家当主(マキナの父)

実力主義・成果主義の冷酷な実業家。マキナを見捨て、ギーアも無能と判断して見限る。ギーアによって脳に寄生虫を植え付けられ、操り人形にされてしまう。

 

女魔族

ギーアと取引し、人間を実験体として利用していた魔族。寄生虫(宿主の生命力を吸い上げ、操る魔法生物)を開発した。アインの女神の魔法『聖邪必滅の一星剣』によって消し飛ばされる。

 

ゲルマン

アインが「旅の葬儀屋」として訪れた村の村長。アインの正体が魔物であることに気づきながらも、彼を「友」として受け入れ、良き相談相手となる。老衰で穏やかに息を引き取り、アインに看取られる。

 

トイフェル

エピローグ(70年後)に登場する金髪の少年。アウスウッド伯爵の息子。父親がアインに裁かれたことで没落し、アインを恨んで殺そうとする。アインに孤児院へ誘われ、共に暮らすことになる。(プロローグでアインの部下・副所長として登場している人物と同一)

 

老紳士(異端審問官)

マキナが幼少期に雪の中で倒れていたところを助けた人物。彼女に女神の信仰を教え、ロザリオや聖典、フランベルジュを譲り渡した。

 

キンセリング / 中年親父

プロローグに登場するアインの部下たち。

 

使用魔法・特殊能力

アインザームの魔法

 

幻影魔法(種族特性)

対象の記憶や感情を読み取り、幻影を見せる。アインはこれを極め、精神干渉や味覚の再現、完全な仮想現実の構築まで可能にしている。

 

『DEUS・ EX・ MACHINA(デウス・エクス・マキナ)』

アインの幻影魔法の極致。世界そのものを欺き、現象界のテクスチャを完全に書き換える。マキナに味覚を体験させるための仮想空間(喫茶店)の構築や、昼を「星降る夜」に書き換えるなど、神の御業に等しい現実改変を行う。

 

『煉獄へと誘う魔法(ローツァッティン・フェーゲンファム)』

対象と目を合わせることで発動。対象の精神を無限の幻影(煉獄)に閉じ込め、凄惨な人生を強制的に繰り返させる。心から罪を悔い改めない限り解除されない。

 

『地獄の業火を出す魔法:氾濫』

炎を自身の内側で暴走させ、全身から高密度の炎を噴出する。超加速や近接攻撃に利用するが、自壊を伴う自殺技。

 

女神の魔法(聖典の魔法)

マキナが解読した知識を受け継ぎ、アインが使用。本来は強大な「加護」が必要だが、アインはマキナから加護を引き継ぎ魔法を使用している。

『聖邪必滅の一星剣(アインス・アステリズム)』:星空の光を一点に集約し、恒星のような光の塊を落とす広域粛清魔法。天命を刻む魔法。滅ぶべき悪のみを消滅させ、無辜の民や建物には被害を与えない。発動条件として「星空が見える夜」が必要。

『生命創生の章【輪廻の光輪】』:背後に黄金の光輪を展開し、常時再生を行う回復魔法。アインは自身の炎で自壊する肉体をこれで維持した。

『天地の楽園の章【女神の三槍】』:3本の光の矢を形成し射出する。

『天地楽園の章』【極刑の光剣】』:超光熱の光の剣。

『神祀る神殿の章【断罪の光柱】【破魔の盾】』:光の矢投擲し、着弾点で光の柱を発生させて対象を消滅させる。魔に関するものを弾く光の盾。

 

民間魔法・生活魔法

アインがフルーフから学んだもの。

水の濾過、瞬間乾燥、油汚れの分解など、家事全般を極めている。

 

フルーフの魔法・技術

人体蘇生・延命の禁術

自身の命(寿命)を圧縮して作った「赤い石」を使用する。

マキナへの延命処置:マキナの寿命(命の回数券)を半分以上前借りし、細胞分裂を異常加速させて病の進行より早く肉体を健常な状態に保つ。副作用として数年後には全身が麻痺・硬化し、最終的に死に至る。

赤い石:魔力補給や副作用の緩和、瞬間的で強引な治癒(保険)が可能。使用頻度と容量で副作用の度合いが変化。外部からの魔力が一定量を超えると不適合を引き起こし、上記のような甚大な副作用が一瞬で訪れる。

『魔力を爆発させる魔法』

自身の死体(または自身の一部)に魔力を込めて連鎖爆発を起こす。理論上無限増殖により単体で大陸全土を沈められる。

不死性・超再生

腕を切り落とされても一瞬で再生し、頭を吹き飛ばされても死なない。

 

マキナの能力

女神の加護

魂全体が黄金色に輝くほどの、桁違いの加護を生まれ持っている。

聖典の暗号解読

神話の形をとった聖典から、女神の魔法の術式や発動条件を独学で解読する天才的な頭脳。

 

女魔族の技術

寄生虫

宿主の脳に寄生し、生命力を吸い上げながら肉体を操る魔法生物。痛覚を遮断し、死ぬまで戦わせることができる。

 

 

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