ソリテール様結婚しましょう…貴方が旦那様です。 作:ごすろじ
――北側諸国、キュール地方。
勇者ヒンメルの死から二十九年後。
旧友を探す旅へ戻った僧侶ザインと別れ、フリーレン一行は再び大陸最北端を目指し旅を続ける。
しかし、その手前の北部高原には凶悪な魔物が多く一級魔法使いの同行が義務付けられていた。
フェルンとフリーレンはその資格を得るため、とある魔法都市へと向かっていた。
森林を抜けたシュタルクの視界を、鮮やかな青が埋め尽くす。
巨大な湖だ。
空を溶かし込んだような深い藍色の水面が、風を受けるたび無数の鱗となって光を弾いている。
その湖心の岩盤を覆うように、石造りの都市がそびえていた。
魔法都市オイサースト。
白い外壁は水中から直接そそり立ち、水面から返された光が壁の下半分を淡く揺らし、都市そのものが湖上へ浮かんでいるように見えた。
陸地と都市を結ぶものは、湖岸から伸びる一本の長い石橋だけだ。
「……まだ結構あるな」
シュタルクは湖岸を大きく回り込み、遠くの橋へ続く道を目でたどった。
まだ相当な距離が残っている。
現実を突きつけられたように肩を落としたものの、立ち止まっていても距離は縮まらない。三人は再び歩き出した。
木漏れ日が、彼らの肩を斑に染めている。靴の下で落ち葉が柔らかく沈み、歩くたび湿った土の匂いが立ち上った。
「あそこでフリーレン様が一級魔法使いの資格を取れば、北部高原へ入れますね」
フェルンが遠くの都市を見ながら言った。
「別に、資格を取るのは私じゃなくてもいいと思うけどね」
フリーレンは気のない様子で答える。
「どうせすぐに使えなくなっちゃうし。フェルンが取ればいいじゃん」
「フリーレン様、知らないのですか?一級魔法使いというのは、魔法使いの中でもほんの一握りの熟練者なのですよ。私なんかでは無理です」
「ふーん。そうなんだ」
「……興味がなさそうですね」
フェルンのじっとりとした視線を、フリーレンは涼しい顔で受け流した。
二人の間延びしたやり取りを聞きながら、シュタルクはふと首を傾げる。
「今さらだけどよ。どうして北部高原へ入るのに、そんなすげぇ魔法使いのお供が必要なんだ?」
「昔から北部高原には、幻影鬼みたいな厄介な魔物が多いからね」
フリーレンが答える。
「もともと、優秀な僧侶と魔法使いがいないと越えられないような難所だ。それでも以前は、ここまで厳しい制限はなかった。通行に一級魔法使いを要求するということは、今の北部高原では相当厄介なことが起きているんだろうね」
「そう言われてみれば、死にかけた記憶しかないな……」
シュタルクは遠い目をした。
「姉ちゃんに記憶が飛ぶまで蹴り回されて、すっかり忘れてたぜ」
「……私もです」
フェルンも小さく頷く。
「ソリテール様に何度か森へ連れ出されましたが、歩き始めて数分で魔物の群れに襲われました。矢面に立たされたわけではありませんが、何度か死にかけた記憶があります」
「ああ。二人は海路で一度、北部高原へ行ったことがあるんだったね」
フリーレンが思い出したように言う。
「フルーフと……ソリテールの街か。どうだった?北側諸国は不毛の地と呼ばれるほど過酷な環境だ。場所によっては、まともな食事を確保するのにも苦労するはずだけど」
「いや、そんな感じは全然なかったぜ」
シュタルクは記憶をたぐり、少しだけ声を明るくした。
「海沿いから内陸まで、リンゴ園や野菜畑や果樹園が広がっててよ。街の中には魔物なんて一匹も出ねぇし、すげぇ賑わってた」
「街から数里先の上空まで、特殊な結界に覆われているそうです」
フェルンが補足する。
「小さい頃に見ただけなので、詳しい仕組みまでは分かりません。ですが、シュタルク様の言うとおり、街に魔物の影はありませんでした。食べ物も、有り余っているとしか表現できないほど豊富でしたね」
「そう。それは普通にすごいことだよ」
フリーレンはわずかに目を見開いた。
「たぶん、その辺りはフルーフが関わっているのかな。あいつは昔から変な魔法を好んでいたし、魔力消費や術式の維持時間なんて、不死身のあいつには関係ないからね」
そこでフリーレンの目が、わずかに輝いた。
「それより、魔道具や魔導書はどうだった?フルーフから全品無料券をもらっているんだよね。あと、永住権」
「あ、俺も姉ちゃんからもらった。ほら、これ」
シュタルクは懐から一枚の証書を取り出した。
紙も印章も立派なものだが、署名欄には乱雑な字で、最強の戦士。愚弟の姉。リーニエ。など……いくつもの肩書が並べられている。
「私も、いつの間にか鞄へ入れられていました」
フェルンは疲れたように息をつき、一枚取り出した。
厚手の羊皮紙には、リーニエらしきデフォルメされた似顔絵と、『許可証。愚弟と街で暮らしていい』という雑な文言が書かれている。
「シュタルク様と同じ永住権だそうです。住み着くかどうかはともかく、魔導書や魔物素材の豊富さは相当なものでした。いろいろな街を巡ってきましたが、規模も品揃えも、まるで違いましたので」
「それは楽しみだ」
フリーレンの声が明らかに弾んだ。
「ソリテールに絡まれるのは避けたいけど、路銀の節約にもなる。北部高原では安全な宿の確保も難しいし、滞在先として行かない理由はないね」
「フリーレン様の目的は、九割無料でもらえる魔導書ですよね」
フェルンの声が一段冷たくなる。
「あまりフルーフ様に頼りすぎないでください。あの人は、周囲を駄目にするタイプの人間です」
「そんなことないよ。私は駄目になったりしてない」
「あぁ、既に手遅れでしたね」
「違うよ」
その忠告が届いているのか、フリーレンは返事をせず、道の向こうを見回した。
シュタルクも同じ方向へ目を凝らす。
「それにしても、馬車が来ねぇな……」
シュタルクは頭を掻いた。
「このまま歩いてたら、都市へ着く前に日が暮れちまいそうだぜ」
「都市からそれほど離れていないから、すぐに乗せてもらえると思っていたけど」
フリーレンも先の道を眺め、少し深く息を吐く。
「当てが外れたかな」
三人は鳥の声と、風にそよぐ木々の音を聞きながら歩き続けた。
やがて、背後から微かな車輪の音が聞こえてくる。
乾いた回転音はみるみる近づき、ほどなく地面を伝う振動まで足裏へ届いた。
「よかったですね、フリーレン様」
フェルンが振り返る。
「馬車が来ましたよ。乗せてもらいま――」
語尾が途中で止まった。
木々の間から姿を現したのは、確かに四輪の荷車だった。
荷台があり、人も乗っている。
だが、それを引くべき場所に馬はいなかった。
代わりに轅を両手で握り、一定の歩調を刻んでいたのは、白髪に赤い瞳を持つ女だった。
外套の裾を揺らしながら、汗一つ流さず元気ハツラツで荷車を引いている。
フェルンはたっぷり三秒かけてその姿を凝視し、渋い顔をしながら静かに目を伏せた。
視線を前から後ろへ滑らせれば、そこには見慣れた二色が揃っていた。
荷台で優雅に寛ぎ、ニコニコと掌を振る翡翠。
側板へ背を預け、リンゴを齧りながら、ヨッスと手を上げる桃色。
最早お馴染みと化した一行だ、見間違えようもない。
フルーフ、ソリテール、リーニエの三人だった。
「あれ、フリーレンじゃありませんか」
フルーフが轅を引いたまま、朗らかに声をかける。
「数か月ぶりですね。魔法都市へ行くのでしょう?よろしければ、ご一緒しませんか?」
荷車は速度を落とすことなく、三人の横へぴたりと並んだ。
フリーレンは返事を忘れ、フルーフと荷車の間で何度か視線を往復させる。
「……フルーフ。馬はどうしたの?馬車は、馬が引くから馬車なんだよ」
フルーフは愛想笑いを浮かべたまま答えない。
代わりに、荷台で寛いでいたソリテールが、優雅に指を組んだ。
「フリーレン。馬は疲れると止まるの。選ぶ理由があるかしら?」
「フルーフは疲れない。寝ている間も一日中進む」
リーニエがリンゴを齧りながら言う。
「これぞ馬車馬」
そのあまりにも人でなしな物言いに、シュタルクとフェルンは揃って半歩引いた。
「うわぁ……引いたぞ、姉ちゃん」
「時代錯誤な貴族と、奴隷を見ている気分です」
「フルーフ」
フリーレンだけは真顔で疑問をぶつける。
「普通に馬の方が速いと思うけど」
「いえ、フリーレン。早歩きなら馬と同じくらい出せます。走れば、余裕で追い越せますよ」
フルーフは朗らかに答えた。
「疲労も蓄積しませんし、常に最高の出力を維持できます。それでいて、荷台を揺らさず運んでご覧に入れますよ」
ビシッと親指を立ててドヤ顔してくるが、友人としては微妙な心情である。
言葉の通り、轅はほとんど上下せず、荷台の揺れは驚くほど小さい。
強制されているわけでもなければ、隷属させられているわけでもない。
本人はむしろ誇らしげだった。フリーレンはもう何も言わない。
フェルンとシュタルクに至っては、目の前の三人はそういうものという、諦めの境地に至っていた。
この一行の奇行へ一つずつ異議を唱えていれば、それこそオイサーストへ着く前に日が暮れる。
三人はフルーフに促されるまま、荷車へ乗り込んだ。
「それじゃ、お言葉に甘えようかな」
フリーレンは空いていた場所へ腰を下ろす。
その隣へソリテールが、ナチュラルに座り直そうとした瞬間、フリーレンの躊躇無く靴裏で蹴っ飛ばした。
「失せろ、ソリテール」
その隙にフリーレンはフェルンを自分の隣へ座らせ、文字どおりの防波堤とする。
シュタルクはリーニエの横へ腰を下ろし、すぐにリンゴを差し出され、礼を言って受け取る。
並んでリンゴを齧り、しばらくぼんやりと空を見上げた。
「オイサーストへ着いたら、まず一級魔法使い試験について調べるよ」
フリーレンがシュタルクとフェルンに向け、今後の話を切り出す。
「フェルンの話では実戦もあるみたいだし、対策を考えないと。フルーフはどうするの?」
「私たちの目的は……ええと、少し変わった魔導書を探すことなのですが……。そうですね。お祭り感覚で、一度くらい参加してみてもいいかもしれません。ソリテール様はどうしますか?」
フルーフが若干言いづらそうに、振り返らず濁して答えた。
「フルーフが参加するのなら、私もついていくわ」
どうやら二人も、試験を受験するようだ。リーニエは興味無さそうに空を眺めており、参加は無さそうである。
魔力を制限しているにもかかわらず、フリーレンとソリテールの周囲には、老練な魔法使いを思わせる魔力の揺らぎが残っている。
二人を見比べながら、フェルンが口を開いた。
「フリーレン様とソリテール様の魔力なら、どのような試験でも余裕なのではありませんか?制限した状態でも、熟練した老魔法使いほどの魔力が漏れていますよ」
「……老魔法使いって言うな」
フリーレンが不機嫌そうに目を細め、シュタルクが苦笑する。
「あーあ、拗ねちゃったぞ。老魔法使いは、さすがに酷いんじゃねぇか?」
「……申し訳ありませんでした」
内心面倒くさいとは思いつつも、フェルンはフリーレンへと素直に謝る。
それを見ていたソリテールが、上品に笑った。
「可愛いわね、フリーレンおばあちゃん。介護してあげましょうか?魔族の血に染まった身体を、魔族に介護されるだなんて、一体どのような気持ちに――」
「死ね」
ソリテールが言い終えるより先に、フリーレンは杖を抜いていた。
青白い閃光が、ソリテールの眉間へ吸い込まれる。
ソリテールは魔力を凝縮した掌で、それを羽虫でも払うように弾いた。
軌道を逸らされた閃光が鋭く空へ奔り、頭上の雲へ丸い風穴を穿つ。
荷台がびりびりと軋み、シュタルクとフェルンは無言で側板を掴みバランスをとる。
この程度でソリテールを殺せるなど、フリーレンも考えていない。
それでも少しは溜飲が下がったのか、彼女は何事もなかったように座り直した。
「あと、シュタルクがクソババァと言ったことも、忘れてないから」
「いつの話だよ……。悪かったって。だから、こんな狭い場所で魔法なんて撃たないでくれよ……」
「フリーレン様。荷車の上で暴れないでください」
思わぬところへ飛び火し、シュタルクは両手をあわせ、フェルンが半眼で釘を刺す。
「……試験でも今のように、不意打ちで何度も魔法を放てばいいのではありませんか?」
「言っておくけどね、フェルン」
フリーレンは軽く首を振った。
「魔法使いの強さを決めるのは、魔力だけじゃないよ。技術や経験、扱う魔法との相性、魔力の制御。それから努力と根性」
「なんか、戦士みたいなのが混ざってんな」
「そして、才能」
フリーレンは指を折りながら続けた。
「私はこれまでの人生で、自分より魔力の低い魔法使いに十一回負けている。そのうち六人は人間だよ」
意外なことを聞いた、と言わんばかりにフェルンは何度か瞬いた。
だが、特に話しを広げることはなく、ソリテールへ顔を向けた。
「ソリテール様には、フリーレン様のような持論はございますか?」
「概ねフリーレンの意見に賛同するわ。あとは、どれだけ信念を維持できるか。確固たる芯があれば、魔法のイメージは簡単には揺らがない」
フリーレンの主張と大きく違うのは、その一点だった。
どれほど強固な信念を持てるのか。
それは一つの魔法へ生涯を捧げる、魔族らしい答えにも聞こえる。
だがシュタルクには、ソリテールが語る話が、単なる魔法への姿勢だけを意味しているようには思えなかった。
ソリテールは空の瓶と無数の管が一体となった、異様な本を取り出した。
中身を確かめるように数枚めくり、フェルンへ微笑みかける。
「それと、己の中にある倫理や常識、見えない枠組みを、どれだけ理解し超越出来るか」
「精神論ですか?」
「そう。だけど、とても大事。フェルン、もう人間を一人は殺した?」
「いえ……まだです」
「魔族は殺せても。果たして、君は殺意を持って迫る人間に杖を向けて殺せるかな?一瞬の躊躇でどうなるかは……私が口にするまでもないはず。人間にとって精神論は何よりも大事だと思うわ」
「わかっています。必要であれば殺す覚悟は出来ています」
幼少期に戦争を経験した時から、守るために殺す必要性など、とうに理解出来ている。
可能であれば殺したくはない。だが、躊躇することの愚かさもよく知っている。
ソリテールの眼がフェルンと合ったまま逸らされない。
「フェルン。大事な人達を守りたい?仲間を守りたい?なら、殺しに慣れておくことも、一つの修行だと思うわ。躊躇の無さは、強さとも言える」
手を血で染めることを恐れてた一瞬で、守りたいものが血に染まる。だから先手で殺す。
フェルンは、少し腑抜けていた心構えをそう改め直そうとした瞬間、大きな腕がソリテールの視線を遮る。
「悪ぃ、フェルン。正しいとも悪いとも言えねぇけど……俺は納得できないぜ。やりたくないことに慣れる必要なんてない。最近まで魔族も殺せなかったけど、フェルンがやらなきゃならないなら俺がやる」
「シュタルクの言う通りだよフェルン。ソリテールの言葉を真に受ける必要はない。こいつは人殺しや同族殺しなんて毛ほども気にしない化物だ。共感性の欠片もない、こいつらは嘘と自分の価値観に沿うやり方を口にしか出来ない」
「えぇ、別に否定しないわ。役割が決まっているなら、それならそれでいいの。そこのフリーレンは野盗程度なら多く殺しているはずだから、魔族も人間も殺して、毛ほども気にしない。だけど、貴女が側にいない時……フェルンが殺しの必要性に駆られた場合はどうするの?素敵ねフリーレン、もしかして片時もそばを離れないという誓いかしら?人間は合理性に欠いた主観的価値観で判断することが多いけれど……。貴女は違うのよね?立派な代案と素晴らしい精神の教えを授けると信じているわ。ねぇ、血に染まった冷酷なエルフのフリーレン」
「……」
ピキリと半目のフリーレンから聞こえてくる。
乗せられれば、向こうの思う壺と理解しながらも不快感が腹の底から溢れ出てくる。
今にもゴングが鳴り出しそうだが、フェルンがフリーレンのマントを引っ張り首を振る。
「馬車の上で騒がないでください。確かに少し真に受けすぎましたが、ソリテール様のおっしゃったことは理解しています。フリーレン様とシュタルク様もありがとうございます。ですが、昔からもう決めていることなので、そこまで気遣わなくても構いません」
話の内容に反して、特に動じた様子のないフェルンにフリーレンは仕方ないとばかりに頷く。
元々グラナト伯爵領でその精神性は見えていたが、だからといって何もせず見ていることはシュタルクにはできなかった。
「そっか。だけど俺は戦士だから……側にいるうちは仲間のことは絶対守るぜ。臆病で、頼りないだろうけど一度した約束は絶対に守る。……姉ちゃんは?なにか持論はないのかよ?師匠に関すること以外で頼む」
ピリつく空気の中、何か話題を変えようとシュタルクは、無関心に話を聞き流していたリーニエへと話題を振る。
「命の張りどころを見極められる判断力、どれだけ命を躊躇無く張れるか。余裕こいてる奴と命を張ってる奴、どっちが勝つかなんて言うまでもない。死ぬ気で戦ってれば相手の生死なんて気にしてられない、相手の生死なんて気にしてるやつは死ぬ気じゃない、余裕こいてる証拠」
物騒なソリテールとは違い、なんともシンプルな脳筋思想にシュタルクは安心したように笑う。
「まぁ、そんなもんだよな。フリーレンもそろそろ落ち着けって。フェルンも別にそこまで真に受けてるわけじゃなかったしな」
「はぁ……そうだね。こいつがいると気が立って仕方ない」
「私は嬉しいわ。こういうのを波長が合うっていうのよね?やっぱり気が合いそうね、フリーレ――」
ようやく落ち着いてきたというのに、躊躇なく追加燃料を投入しようとするソリテールの口を物理的に塞ぐフェルン。
勘弁してくれと言った様子で、掌で塞いだまま、どけようとしない。
「ソリテール様、悪気……などは無いのは魔族なので知っていますが、少しだけ黙っていてください。フリーレン様が今にも爆発してしまいそうです」
「ゔぁふばふだんふぇゆふぁいね、ふぁりーふぇん(爆発だなんて愉快ね、フリーレン)」
掌で塞いでいるにも関わらず、関係なくフゴフゴと喋りだすソリテール。
普通に内容が理解できてしまい、フリーレンからゴゴゴっと言わんばかりの怒気が伝わってくる。
シュタルクは怯えたように荷台の隅へと移動し、リーニエを盾にする。
「ふ、フリーレンの奴すげぇ怒ってるぞ。姉ちゃん、ちょっと前に来てくれよ」
「カッコつけたいのか、なよっちぃのか、どっちかにしなよ愚弟」
リーニエはシュタルクの願いを無視し、食べ終えたリンゴの芯を顔面へ投げつけた。
「痛ッ!」
リンゴの芯が額に当たり、荷台へ落ちる。
シュタルクが抗議し、リーニエが二個目を投げ、フェルンはソリテールの口を塞ぎ続け、フリーレンは杖へ伸ばしかけた手を必死に抑える。
馬車の中は、あっという間に混沌と化した。
その喧騒は、馬車を牽くフルーフの背中にまで届いている。
フルーフは速度を落とさず、楽しげに目を細めた。
――今日も身内は元気そうだ。
そんな呑気なことを考えながら、地面を蹴る。
森が徐々に開け、木立の隙間からオイサーストの尖塔が大きくなっていく。
湖から吹きつける湿った風には、微かな水の匂いと、水上都市の独特な匂いが混ざり始めていた。
魔法都市は、もう目前。