フィーネの館に戻ってきたクリスの目に滅茶苦茶になった室内の様子が入ってくる。
「・・・ぶっ壊されてやがる。」
足元の無残な死体を避けながら見て分かるレベルで壊されたパソコンを一か八かで動かそうとするがやはりうんともすんとも言わない。
「何処に隠しやがった。」
キーボードを叩きつけもう此処には用はないと立ち去ろうと部屋の半ば辺りまで進んだところで弦十朗が現われる。
「こいつはあたしがやったんじゃない。」
「誰が君を疑うか。」
拳銃を構えた黒服達が室内に入り少しでも情報がないかを探り始める中弦十朗が続ける。
「全ては俺達と君の直ぐ側に居た彼女の仕業だ。疑いたくなどなかったがな。」
「そいつはフィーネのことか。」
「風鳴司令。」
黒服の一人が何かを見つけたのか弦十朗に声をかける。
それは死体の一つに貼られた『I LOVE YOU SAYONARA』と書かれた紙だった。
『危険!危険!』
紙を剥がそうとした黒服に何かに気づいたハロが警告を出すも一足遅く剥がされてしまい仕掛けられていたワイヤートラップが起動し爆発が起こる。
『わー。』
気の抜けたハロの悲鳴が響く中爆煙が消え弦十朗の腕の中に抱かれる形で守られたクリスが呆然と言う。
「どうなってやがる・・・。」
「衝撃は発勁で掻き消した。」
「そういうことじゃなねぇ!」
腕の中から抜け出したクリスが弦十朗を睨み付けながら叫ぶ。
「なんでギアも纏えないような奴があたしを!!」
「ギアも纏えないのにか・・・。簡単な事だ、それが大人として当たり前の事だからだ。」
大人としてと聞いたクリスの脳裏に両親の姿が浮かぶ。
「大人としてだ?あたしは大人が嫌いだ!グズで臆病者!戦地に行って難民救済?歌で世界を救う?笑わせんな!!いい大人が夢なんざ見てんじゃんねぇ!!」
『クリス、苦しいのか?クリス、苦しいのか?』
「うるせぇ!黙ってろ!」
心の叫びを聞いた弦十朗がクリスに言う。
「大人は夢を見ないと言ったな。それは違うな大人だからこそ夢を見るんだ。大人になれば背もでかくなるし力も強くなるそれに財布の中の小遣いもちったぁ増えるしな。お前の両親は戦地に夢を見に行ったのか?違うなお前に夢は叶うと歌で世界は平和になると見せたかったんだろうさ。」
「どうして・・・そこまで・・・。」
ゆっくりとクリスに近づきながら弦十朗は続ける。
「お前は嫌いと吐き捨てたがお前の両親はきっとお前を愛していた筈だ。」
「あたしは、あたしはぁぁあ!!」
今まで触れてきた大人とは違う物を感じたのかクリスの中の緊張の糸が切れ涙が溢れるのを弦十朗は安心させるように抱きしめた。
屋外に出て車に乗り込む弦十朗がクリスに言う。
「やっぱりついては来てくれないか。」
「今まで戦ってた奴がお手々を仲良く繋げるかよ・・・。」
「たく、擦れてんなぁお前は。ほれ。」
投げ渡されたそれをクリスはキャッチする。
「通信機?」
「ああ、ついでに限度額内ならば自販機や公共交通機関が使える便利な代物だ。」
「礼は言っとく。後こいつ返しといてくれ。」
『もう大丈夫か?もう大丈夫か?』
「ああ。」
転がってきたハロを車に乗せた弦十朗がアクセルを踏む直前にクリスが言う。
「カディンギルだ!」
「カディンギル?」
「フィーネの奴の計画に大詰めに使うつもりらしい。既に完成してるとか言ってた。」
それを聞いた弦十朗は車を発進させると二課本部へと戻っていった。
◎
山の中で熊相手にスパーリングをしていた響であったが通信機に着信が入った事に気づくと熊に付き合って貰った礼として鹿肉の塊をやると通話に出る。
「はい、響です。」
『翼です。』
『収穫があった。了子君は?姿が見えないが。』
向こう側に了子がまだ来ていないのか弦十朗がそう言った直後了子が通信に割り込んでくる。
『ごっめ~ん。ちょっと野暮用ができちゃって。済ませたら直ぐに行くわね。』
『そうか。・・・ところで了子君、カディンギルと言う言葉に心当たりは?』
『カディンギル。古代シュメールの言葉で高みの存在、転じて天を突く塔を意味しているわ。』
『そんな物を敵が作っているとして何故俺達は見逃していたのか。だが、せっかく掴んだ尻尾だ!最終決戦こちらから仕掛けるぞ!』
弦十朗の発破に響と翼は返答すると通信を切る。
「今日はもう行って良いよ。」
「ごぉ。」
山の奥に熊を帰した響は汗を拭くとジャージを着ると下山を開始するそして麓に着いた時グラハムの声が聞こえた。
『構えろ少女。来るぞ。』
「ノイズ?」
その直後遠くの空に超大型の飛行型ノイズが三体現われると遅れてもう一体合計四体が現われる。
『響君。ノイズの反応が出た。』
「此処からでも見えてます!」
『奴らはスカイタワーに向け真っ直ぐ進んでいる。直ぐに向かってくれ。』
「了解です!だけど此処からじゃ結構距離が!」
『その為の俺達だ。』
ヘリが降りてくるのを見た響が笑顔を浮かべる。
「これなら直ぐに行けます!師匠!」
スカイタワー近辺に近づくと超大型ノイズは内部から小型ノイズを地上へと向け降らせ始める。
「此処から行きます!」
「武運を!」
超大型ノイズの真上に陣取ったヘリから身を躍らせながらパイロットの激励を聞いた響は聖詠を歌う。
「Balwisyall nescell gungnir tron.デュランダル!」
いつものようにデュランダルを呼ぶが来ない事に違和感を覚えるも直ぐに気を取り直し超大型ノイズに向け拳を打ち付け爆砕すると地上を駆ける青い光を見るとその横に着地する。
響が着地すると共に空に斬撃を放った翼であるが超大型ノイズの前に壁のように展開する小型の飛行型ノイズに威力を減衰させられる。
「上を取られるのがこうも厄介とは。」
「だったら私たちも上から行きましょう。」
だがそれはヘリを破壊されてしまったことで叶わなくなる。
更に追い討ちとばかりにノイズが絶え間なく降り注ぎ始める。
「キリがない!」
「だが私たち防人が前線から離れるわけには行かない!」
地上をサイケデリックに染めていくノイズを倒しながら愚痴る響に翼がそう返していると降ってきていたノイズがガトリングに撃ち抜かれる。
「こいつが行けってうるさいんでな!」
二人がガトリングが放たれた場所を見るとそこには通信機を持つクリスが居た。
「それに来いって行ったのはお前だ。」
「クリスちゃん!」
「抱きつくな暑苦しい!」
「私はしつこいことで知られているんだよ!」
「自信満々に言うことか!」
抱きついてきた響を引き剥がしているクリスに翼が言う。
「その目、信用して良さそうね。上は任せるわ。」
「良いのかよ。あたしらはこの前までやり合ってたんだぞ?」
「今の貴女には迷いが無いわ。下を掃討するぞ立花!」
「了解!後でたくさん話そうクリスちゃん。」
空のノイズを相手にするクリスの邪魔にならないように地上のノイズを相手し始めた二人を見たクリスが呟く。
「あたしもあの女もすっかりあいつに変えられちまった。」
ハロと合体しているわけでもないのにバイザーを展開したクリスがアームドギアをボウガンのように変えるとノイズ一体ずつに正確に狙いをつけ撃ち抜いていく。
「さんざんっぱらやったんだ。これくらいできらぁ。」
だがしかし絶え間なく降り注ぐノイズには焼け石に水であった。
知らず同じビルの上に集まった三人が上に陣取るノイズ見ている中響が口を開く。
「クリスちゃんは歌が嫌いって言ってたけど。私はクリスちゃんの歌好きだよ。」
「何言ってやがる。あたしの歌は壊すことかしかできない。」
それに響が翼とクリスの手を取ると言う。
「歌は何かを壊したりしない、だってクリスちゃんは私たちとは別にノイズやプルーマと戦って誰かの日常を守っていたんだから。」
「それはあたしの単なる自己満足の贖罪だ・・・。」
自嘲するクリスの手を今度は翼が取る。
「だとしても貴女の歌が平和を守ったことに変わりはない。まだ浅い付き合いだけど私は貴女に歌を嫌いになって欲しくはない。」
「そうまで言われちゃしょうがねぇ。あたしの全力見せてやる。イチイバルは中から遠距離への攻撃が得意だ。」
二人の手を離し縁に巨大なスナイパーライフルを構えたクリスが上空の超大型ノイズに狙いを定めると言う。
「臨界まで高めたエネルギーを一気に解き放って纏めて墜とす!」
「だったら私達はクリスちゃんを守りましょう翼さん!」
「ええ、小物は任せなさい!」
クリスに向かってくる様々なタイプのノイズを倒していく二人を見たクリスが再びスコープを覗き込むと歌う曲が変わる。それはクリスの心情の変化を表していた。
やがて砲身が伸び紫電を放ち始める。
「来た!」
「「託した!!」」
勝敗を託されたクリスが引き金に指をかける。
「任された。狙い撃つぜぇ!!!」
三本の極太のビームが放たれ寸分違わず超大型ノイズを全て撃ち抜くと周りの小型をも巻き込んで爆発し塵となる。
ノイズを全て撃破した三人がギアを解除すると響がクリスに抱きつく。
「クリスちゃんのお陰だよ!」
「やめろ抱きつくな!てかなんかチクチクする!」
「あぁ、熊とスパーリングしてたから。」
「は!?」
衝撃の一言を告げられたクリスの思考が一瞬停止していると響の通信機に着信が入る。
『響!今リディアンがたくさんのノイズとプルーマに襲われて!』
「未来!」
『それに弦十朗さんが--。』
未来が言い終わる前に通信が途中で切れると周辺の店に展示されている電化製品の電源が一斉に切れる。
「私の通信機も通じない。」
「起動したんだ。モビルアーマーが!」
その言葉通りにスマホなども電源が着かなくなっていた。
「立花、バイクに乗ったことは?」
「無いですけど。」
「ならばプチモビはどうだ?」
「それならGBNであります。」
翼はその返答を聞くと近くにあった鍵が刺しっぱなしのバイクのエンジンをかける。
「これはいけるか。これに乗っていけ立花。雪音は私の後ろに乗れ。」
「しょうがねぇか。」
バイクに跨がる二人を見ながら響はハンドルを少し触ると呟く。
「確かにプチモビよりは簡単だ。」
「ヘルメットだ着けておきなさい。」
「どっから持ってきたんですか?」
「そこだ。後で補償は入るわ。」
そこには先ほどの先頭で荒れていたバイク用品店があった。
「お前割と滅茶苦茶するんだな。」
「貴女ほどじゃないわ。」
「どういう意味だよ。」
法定速度を超過するスピードを出すとリディアンへと向かっていった。
獣と心通わすのもまた流派・東方不敗よ。
タイトルについて
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前の方が良かった
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今の方が良い