ブラックナイト
あわや宇宙で燃え尽きかけたナスターシャの遺体と彼女が残した異端技術の結晶を無事に回収してから三ヶ月。
セグリでの戦いで大怪我を負い意識不明であったジェドも無事に目を覚ましたり、バトローグイベントにおいて選出されたにも関わらず機体がまさかのヒルドルブであったために使いこなせずに響がそうそうに敗退したりと他にも色々な事があった。
フロンティアショックにおいて世界に宣戦布告を行ったマリア達私設武装組織フィーネは司法取引の結果によってその身柄を特異災害対策機動部二課より再編されたマリア以外は完全独立組織A.B.E.L.へと移していた。
◎
現在A.B.E.L本部を兼ねる太陽炉搭載型水空両用戦艦『ソット・ヴォーチェ』は日本海近海を水中航海していた。
「いくらモビルスーツを積んでるって言っても、実戦投入された試しが一回も無いですね。」
「その方が良いでしょ。A.B.E.L.として再編されてはや三ヶ月。起きた出来事と言えば災害救助くらい。そんな平和な物で良いのよ。」
「ですね。しかし、日本政府は何を思って一度解体したエクシアを組み立てて寄越したのやら。」
藤尭の言葉通り現在A.B.E.L.のモビルスーツハンガーにはフロンティアより回収しクリス専用にチューンナップが施されたガンダムレラジェともう一機粒子貯蔵タンク型ガンダムエクシアが日本政府を通して搬入されていた。
また現在ナスターシャが残した異端技術の一部でありフロンティアのデータベースよりサルベージされたモビルスーツの設計図が記された『プロメテウスの火』を元にして各装者に適したモビルスーツの建造が行われ完成次第ソット・ヴォーチェに搬入される予定である。
「備えあれば何とやら、いつ常識を越えた敵が現われてもおかしくないわ。」
力がなければ何も守れないと友里がそう言うとタイミングが良いのか悪いのかアラートが響く。
「横浜港付近に謎の反応!?」
「ノイズと似ているけれど異なる反応。直ぐに司令に知らせないと。」
アラート自体は直ぐにやんだが検出された波形パターンは新たな脅威の出現を示していた。
◎
春からリディアンへと通い始めた切歌と調の二人も気がつくとすっかり周囲に馴染んで居た。
そして今は夏、更に今夜はロンドンにて行われるチャリティライブに参加する翼とマリアのデュエットが生中継されるのである。
現地には行けないがそれでも応援しようと言う響の提案によりクリスの家に集合してみんなで応援しようと言うことになっていた。
他人の家にお邪魔するからと手土産の買い出しに行っていた切歌と調はクリス宅に向かう途中に設置してあるストリートピアノの周辺に人だかりができているのを見つけると興味が出たのか近づいて誰が弾いているのかを見る。
「およ、クリス先輩デス。」
「そっくりさんだよ切ちゃん。今クリス先輩からもうみんな来てるって連絡来たよ。」
「てことは世界に三人は居るって言うそっくりさんの一人デスか。それにしてもそっくりデス。」
切歌の言うとおり巧みな指運びでクラシックを奏でる人物はクリスに瓜二つであった。
ピアノを弾いている人物が曲を弾き終わり拍手が送られ一礼をして去って行くと二人はクリス宅へと向かっていった。
人混みに紛れ姿を消したピアノを弾いていた者はいつの間にかビルの屋上に上がっておりそこから切歌と調を見ていた。
「ターゲット、確認。」
『逸るなフェルト、まだ時間じゃねぇ。』
「了解、マスター。」
インカムから与えられた命令にフェルトは素直に従いテレポートジェムを砕き撤退していった。
◎
クリス宅に応援メンバーが全員集合し後はライブが始まるの待つだけとなっている時間に切歌が先ほどの出来事を皆に話していた。
「あたしのそっくりさん?居るとこには居るんじゃねぇのか?」
「思ったよりドライな反応だねクリスちゃん。」
「逆にどう反応すりゃ良いんだよ。」
そっくりさんが居たからと言ってどういう反応を返せば良いのか困るクリスが人数分のコップを響に渡し自身はジュースを冷蔵庫から取り出してテーブルへと持って行く。
「アニメなら、生き別れの妹だったりして!」
「生憎あたしは一人っ子だ。」
「お、始まるぜ。」
アニメ的考察をする弓美をばっさりとクリスが否定しているとカナデが翼とマリアのデュエット曲『星天ギャラクシィクロス』が始まるのを告げる。
「待ってましたぁ!!」
中継先のライブ会場と同じタイミングで弓美がペンライトを取り出し振るった。
◎
フロンティアショックの英雄が歌ったと言うこともありデュエットは大歓声を受けるという結果つまり大成功に終りマリアは舞台裏へと引っ込んできていた。
「お疲れ様ですエージェントマリア。」
「流石は英雄と言った所でしょうか。」
息つく暇もなく現われた黒服に対してマリアは冷ややかな視線を送る。
「たかが女一人に随分な事ね。」
「これが仕事ですので。」
「ならば、世辞は要らない。」
「私どもとしては本心を伝えているつもりです。」
「それ故に厄介なのよ。」
米国政府のプライドの為にフロンティアショックが引き起こされる原因の一因であるにも関わらずいつの間にか英雄に仕立て挙げられていることにマリアが自己嫌悪し通路を進んでいると吹かないはずの風が吹く。
「司法取引によって産まれたフロンティアショックの汚れた英雄、マリア・カデンツァヴナ・イヴ。」
「何者だ!」
誰何の返答にマネキンに紛れていたファラが黒服の一人にキスを行い想い出を吸い取ると黒服の身体が金属質の皮膜に覆われていき骸骨のようになると髪が抜け落ち眼孔からケーブルが飛び出すとその光景に恐怖し発砲したもう一人の黒服に襲い掛かり同じ状態へと変貌させる。
「貴様、何をした!」
「奪うだけでは失礼かと思いまして。DG細胞を少しばかりプレゼントしたまで。」
DG細胞即ちそれに感染したことでゾンビ兵と化した黒服がマリアに襲い掛かる。
「心が消えている、もはや人では無いかっ!」
「持つべきシンフォギアを持たない貴女には用はなし。」
剣を構えたファラがゾンビ兵を蹴り倒したマリアに斬りかかったが飛来してきた斬撃がゾンビ兵を斬り飛ばし青い火の鳥がファラを吹き飛ばす。
「翼!」
「友の危難だ。鞘走らずにいられぬものか。」
天羽々斬を纏った翼が油断なく立ち上がったファラに剣先を向ける。
「物の怪!どのような理屈で刃を抜く!」
「私はただ歌を聴きに来ただけ。だけど思ったよりもつまらない歌。そんな物で私は満足できないわ。」
「一体なんなのだ貴様は。」
「オートスコアラー、天剣絶刀ファラ・スユーフ。」
「天剣・・絶刀!」
主により与えられた名をファラは堂々と告げた。
◎
どこからか放たれるスナイパーライフルの一撃がフードを目深に被った小柄な少女を追い立てるように間近に着弾する。
「うあっ!」
狙撃より逃れることを大事に考えていたが為に躱した先にあった階段を踏み外し転げ落ち抱えていた匣を取り落とすとそれを慌てて拾いあげ近くの塀の後ろに隠れ狙撃手の視界から隠れる。
予定通りに逃走していく少女をスコープの先に捕らえたフェルトはスナイパーライフルを片付けると撤退を開始する。
「任務、完遂。」
自身が追い立てた少女が逃げ込んだ地区が黒い霧に包まれていくのを見て状況も予定通りに進んでいるのを確認する。
「引き継ぎ、完了。」
『後は派手にやってくれるだろうよ。お前はそのまま帰ってこい。』
「了解、マスター。」
テレポートジェムの光に包まれフェルトが消えると彼女が居た場所も黒い霧に包まれる。
「地味ながら、派手にやろう。」
黒い霧に包まれ月明かりさえ届かなく街の中で鋼鉄の巨人が唸りをあげるとその足元から世界から消えた筈のノイズが湧き出した。
逃げていく先で視界が黒い霧により妨げられた少女は見通せない景色に現われたノイズを見て路地に身を潜める。
「アルカノイズが街に!」
自らが持つ匣を固く抱いた少女がアルカノイズに見つからないようにしながら街の脱出を図る。
「僕は届けるんだ希望を。シンフォギアに。」
街では黒い霧の中をアルカノイズから逃げる人々の悲鳴に溢れかえっていた。
◎
街を黒い霧が覆う数十分前。
翼とマリアの出番が終わり室内の騒ぎも少しばかり収まる。
「月の落下とフロンティアの浮上に関連する事件を収束させるためマリアは生け贄にされたデス・・・。」
「大人達のくだらない見栄を守るための文字通りの偶像、アイドル。」
「それは違うよ。」
責任の取れない自分達の分まで責任を負い英雄となったマリアに対して負い目を感じている切歌と調の言葉を未来が否定する。
「マリアさんが守っているのは誰もが笑っていられる日常なんだよ。」
「そうデスよね。」
「だから、私たちがマリアを応援しないと。」
暗く居てはマリアが悲しむと二人が気持ちを前に向けていると響とクリスの通信機にA.B.E.L.より通信が入る。
『第七区域に謎の黒い霧とノイズらしき反応を確認した。直ぐに向かってくれ。』
「はい!直ぐに向かいます!」
「響・・・。」
「大丈夫!人助けだから!」
心配する未来に響がそう言っていると切歌と調が自分達も言わんばかりに立ち上がる。
「あたし達も!」
「駄目だ!リンカー無しで出せるか!」
だがクリスに即答で出撃させられないと言われ二人は落ち込む。
『先ほど高エネルギー反応を確認した。念を押してクリス君にはモビルスーツで出撃してもらう。』
「ああ、任せとけ。」
クリスの家があるマンションの屋上にヘリが二台来ると響とクリスが別れて乗り込む。
「任せたぞ。」
「まっかせといて!」
二手に分かれたヘリの一つである響の乗った物が黒い霧で覆われた街の上空に達すると彼女はヘリから飛び降りるとギアペンダントを握りしめる。
「Balwisyall nescell gungnir tron.」
シンフォギアを纏い黒い霧に突入しビルの上に降り立つ。
「視界が狭い・・・。ノイズは。」
悲鳴が響き渡り爆発音が轟く。
「こっちか!」
助走をつけビルから飛び降りた響の視界に地上に近づいた辺りで周辺の状況が少しばかりだけ入る。
そこでは人が人を押しのけ迫るアルカノイズから逃げあまつさえ視界不良にも関わらず車を使った者が大勢巻き込み事故を起こすなどという物だった。
「押さないで!協力して逃げてください!」
最後尾の人間を襲うアルカノイズを倒しながらしながらそう叫ぶ響の声も届かず人々は自分の事だけを考え逃げていく。
「届いてないっ!でも今はノイズを!」
あの時バビロニアの宝物庫を閉じたことで現われる事はないなどと考える時間は今の響にはなかった。
◎
ヘリに乗りソット・ヴォーチェより出撃したレラジェを積んだエアキャリアーに乗り移ったクリスはイチイバルを纏うとレラジェに乗り込む。
『モビルスーツ出撃ハッチオープン。いつでもどうぞ。』
「了解。雪音クリス、ガンダムレラジェ。出るぞ!」
ハッチから飛び出したレラジェが背部の飛行ユニットを展開し第七区域へと飛んでいく。
街の中に降り立ったレラジェが視界が取れないことでサーモカメラによる映像モニターに切り替えると砲撃が直撃する。
「なんだ!?」
驚きながらも動いたことにより第二射を躱したクリスはモニターに映るシルエット確認する。
「モビルスーツ、か?」
A.B.E.L.では保有していないいやこの世界ではA.B.E.L.以外には保有していないはずのモビルスーツに弦十朗による予想は有ったもののクリスは驚きを隠せなかった。
◎
逃げ惑う人々が起こした二次被害により起きた火災を橋の上から見つめながらはキャロルは自身に意に反した涙を流す。
『それが神の奇跡でないならば!悪魔の知恵だ!』
思い出されるは疫病から救った人々の手により火炙りにされ殺される父親。
『キャロル、世界を識るんだ。』
最後に自身にそう言い残し燃え尽き灰となった父親。
「世界が奇跡を望むのならば、オレは。」
「そんな所でどうしたの!?動けないなら待ってて今行くから!」
「――来たか。奇跡の体現者。」
自らの元に来るように配置したアルカノイズを素直に倒してきた響にキャロルは振り返ると錬金術で風を生み出し響へと放つ。
直前で躱した物のコンクリートが抉れている様子を見て響は軽く声を漏らす。
「なっ!?」
「世界は死ぬ。ならば先にオレが壊す。」
「貴女がこれを?」
「キャロル・マールス・ディーンハイムの錬金術が世界を壊す!」
「錬金術で世界を。」
東方不敗より習った錬金術により感情を等価交換し拳に乗せると更に放たれた風を弾く。
「あの男の手法か。だが、万象黙示録をオレは完成させる。」
「どうして世界を!」
「世界が悪魔を望んだ!」
「一体どういう!」
炎を塞ぐようにキャロルの背後に音もなくモビルスーツが現われる。
「オレが望まれた
「ガンダム・・・!」
コックピットにキャロルが収まるとガンダムダウルダブラのツインアイに光りが灯り機体の一部が赤く光ると響に向けて拳を振り下ろす。
飛び上がりその拳を躱した響にいつの間にか放たれていたガンビットがビームの矛先を響に向けていた。
「しまった!」
ビームに呑まれた響をガンダムダウルダブラが見つめていた。
A.B.E.L.
表向きには存在しない組織として特異災害対策機動部二課より再編された完全独立組織。太陽炉搭載型水空両用戦艦『ソット・ヴォーチェ』を本部としている。国連に所属してはいるが二課時代の功績により独自行動を認められているが為に完全独立となっている。日本政府より搬入されたガンダムエクシアは他国に対しての牽制である。