暗い病室で響は未来に電話をかけていた。
「ありがとう未来のおかげでもう一度お父さんと話してみようて思えたよ。」
『なら良かった。響、へいきへっちゃらだよ。』
「え?」
『いつも響が言ってる魔法の言葉。どんな時でも前向きになれるんでしょ?』
「いつから言ってたかもう分からないけどね。うん、明日頑張ってくる。」
『頑張れ。』
通話を終らせた響はスマホで父親の名前を加えてGPDを検索する。
そうして出てくる彼のここ三年の戦績を見て思わず呟く。
「強いんだお父さん・・・。」
画面をスクロールしていき非公式の大会ながらも優勝し続ける彼の戦績に息をのむ。
やがていつかのインタビューのコメントが目に入る。
『攻めは最大の防御ですからね。俺は逃げないんですよ。』
「・・・家族からは逃げたのに。」
思わず口から出た言葉にこれ以上起きていても良いことはないと考え響は眠りについた。
翌朝、響は都内のファミレスにて父親に再会していたが当の彼本人は朝っぱらステーキを腹に収めコーヒーを飲んで一息ついていた。
「悪いな響、腹減っててな。」
「ううん、大丈夫だから。それよりお母さんとやり直したいって本当なの?」
今日聞かねばならぬと思っていたことを響は意を決して問いかける。
イノベイターへと変革している彼女であってもGN粒子なき今においてはただ普通の人間よりも多少腕っ節がきくだけに他ならない。故にこそ互いにわかり合うためにこそ言葉を直接交わすしかないのだ。
「ああ本当だ。だからな、響が口添えしてくれればきっと上手くいくんだ。な?」
「駄目だよ。」
「どうしてだ?」
それは駄目だと否定された洸は思わず聞き返した所に響は自分の考えを伝える。
「始めの一歩はお父さんに踏み出して欲しいんだ。」
「そりゃまたどうして。」
「だって逃げ出したのはお父さんじゃない。」
「そいつは難しいな。」
「なんで。」
問いかけてくる響に洸は持論を展開する。
「なんでってそりゃ俺には男のプライドがあるからな。俺から出て行った手前、な?」
「もう逃げないんじゃなかったの。」
「それはGPデュエルの話しだろ?戦術と家庭事情は違うだろ。」
「少しは信じてみようって思ったのに!!逃げ出して世界を回ってずっと楽しくしてたお父さんに期待した私が馬鹿だった!!」
響はそういうとファミレスから駆けだして行く。
いきなりのことに少し呆然とした洸だったがハッとなると響を追いかけていく。
「お客様まだお会計が。」
「これで!お釣りは良いから!」
「お客様ちょうどです。」
「ああそうかい!」
こうして響を追いかけて洸が外に出ると空が割れる。
「な、なんだ!?」
空が割れるというあり得ない光景に誰もが足を止めていると割れた空からチフォージュ・シャトーと共に無数のモビルスーツが現われる。
「シドニーの時の奴ら・・・。」
シドニーの数少ない生き残りである洸にはこれから何が起こるのかを理解してしまった。
◎
チフォージュ・シャトーが都内の都庁上空に現われる数分前にてチフォージュ・シャトー内にてキャロルとウェルが深淵の竜宮より帰還する。
「さて迷える少女よ。君は一体どこに進んでいこうとしているのか。僕には気になるものだね。」
「オレは世界を識る。父より託されたのだ、世界を識れと。」
「世界を識る。即ち君が求めるのは究極の英知か!!」
大仰に手を広げたウェルがキャロルの周りを歩き始める。
「ならば君はその英知で何をなす!呪詛の解呪、はたまた世界に蔓延る悪意の根絶?さぁどのような英雄的行為を行う!?」
「なにも。」
「なにも!?なにもしないというのか!?世界を識ることによって手に入れた英知で何も成さない!?」
なにもしないというキャロルに心底あり得ないという声音でウェルが叫ぶ。
「当然だ。世界を識る事がオレがパパより託された命題だ。それ以上の事をしてなんとする。」
「はぁん!!あり得ないね!世界をより良い物に変える為の力を手に入れて何もしなだとそれなら君の行いは心底くだらない!!」
「くだらないだと?」
聞き返すキャロルにウェルは彼女の目を真っ直ぐと見据え言う。
「そうさくだらない。君の父親が与えた物がどれほど高尚な物だとしても君のその俗物的思考がぁ!!無味乾燥な物へと貶めている!!」
「なんだと?」
「故に問う!!何故君はあのガンダムを造ったのかを!可能性を秘めるユニコーンタイプをベースとしたガンダムを作りながら君はなぜ可能性を閉ざす!」
「あれこそが人の望み、オレがパパが世界に望まれた姿だ。
玉座の後ろに鎮座する新造されたガンダムダウルダブラを指さすウェルにキャロルはそう答える。
「空虚にすぎるな!だから君は先の見えない道を歩む迷い子なんだよ!故にだ僕は君のような子どもでさえ救う為に英雄にならねばならない!万人に夢を抱かせ明日を進む希望を与える英雄に!」
自らがなるべき英雄を語るウェルをキャロルはダウルダブラの竪琴で突き刺す。
「いやぁん・・・。」
「そうだともオレは空虚だ。あの日、パパが善意で救った者どもに悪意を返され火あぶりにされて殺された時にオレの中身もパパと共に灰となり崩れ去った。」
一度抜かれた竪琴をキャロルが奏でるとウェルの左腕が切り飛ばされキャロルの手の中に収まる。
「にしてもおかしな男だ。悪魔の断片如きに呑まれる貴様が英雄?笑わせる、奇跡の一つさえ起こせない貴様が英雄であるものかよ。」
「痛い所を突いてくれる・・・。」
「喜べドクターウェル、お前はオレと共に悪魔となるのだ。お前の腕がヤントラ・サラヴァスパに代り世界をバラバラに分解する最後のトリガーパーツとなるのだからな。」
手すりに寄りかかるウェルが血が溢れる切り口を抑えながら言い返す。
「ははは・・・君は世界を殺す悪魔になりますか。だが、DG細胞に犯されていた僕が止められたように君は失敗する。今に
「ふざけろ、オレは奇跡の殺戮者だ。」
風の錬金術によりウェルがチフォージュ・シャトーの下部に落下していくとキャロルが錬金術を用いて奪った左腕と擬似的に接続するとチフォージュ・シャトーに接続し起動させる。
「チフォージュ・シャトー起動成功。以降オートモードにて自立稼働。」
無事にチフォージュ・シャトーを起動させたキャロルは腕を放り捨てる。
「さぁ、呪われた旋律は集った。――待っててパパ、今私が世界をバラバラにして命題を果たすからね。」
父親を思い出し幼き日の自らに回帰していると身体を拒絶反応が襲いふらつく。
「ぐぅっ!立ち止まってはいられん。折角ここまで来たのだ。」
竪琴を杖に身を支えるキャロルは次元を砕き外界に降臨させたチフォージュ・シャトーの外を覗き見る。
『響!逃げるぞ!』
『私は逃げない!お父さんだけで逃げれば良い!』
「あれが奴の父親か。」
立花親子を見つけたキャロルはガンヴォルヴァを出撃させると自身は立花親子の元へと向かっていった。
◎
A.B.E.L.よりエルフナインの負傷とフェルトの確保、そして現在皆で東京都心に向かっている事を伝えられた響は共に逃げようと言う洸を拒絶していた。
「そいつがお前の父親か!」
「キャロルちゃん・・・。」
「そ、空から女の子が・・・。」
洸を見るキャロルが風の錬金術を放つ準備をする。
「そういえばお前はオレと戦いたくないとほざいていたが、今はどうする?だがこの問に意味はない!なぜなら拒絶反応に呻くオレの身体が貴様を疾く分解しろと叫ぶのだからな!」
「世界を壊すってことは命を奪うんだよね。」
「当然の事を聞いてなんとする。」
「止めるよ。拳を振るってでも!!」
響がギアペンダントを胸元から取り出した瞬間にキャロルは錬金術を行使し響の手からギアペンダントを弾き飛ばす。
「もう貴様の手番はとっくのとおに終っているんだよ!立花響!はなからシンフォギアを纏わせる気などない!」
放たれた風の錬金術が響に襲いかかる。
「オレは成す!パパから託された命題を!お前にだってあるだろう!父親から託されたものが!」
「私には・・・ない。・・・なにも。」
「ならばなにもない空虚な貴様には耐えられまいて!」
真っ直ぐに響へと突き進む風の弾だがそれは響に当たることはなかった。なぜならばそう、洸が彼女を抱きかかえて着弾地点から逃れたゆえに。
「響、無事か?」
「・・・なんで。・・・どうして。」
何故逃げずに自分を庇ったのかが分からない響の目の前でキャロルの錬金術の矛先が向けられていることに気づいた洸が背を向け逃げ出す。
「あり得ないこんなこと、二度目だぞ!?」
それがおかしいのかキャロルはいたぶるように洸に向けて錬金術を放つ。
「大した男だな!お前の父親は!オレの父親は最後まで逃げなかった!」
逃げ惑う洸に錬金術が擦る。だが擦ったと言っても生身の洸にとってはとてつもない威力であり彼はアスファルトの上で身体でバウンドさせる。
「お父さん!!」
「これくらい、へいきへっちゃらだ。」
「!!」
洸がその言葉『へいきへっちゃら』を言ったとき響は思い出す。
『あちゃぁ・・・。』
『ごめんなさい・・・。』
『大丈夫だ、これくらいへいきへっちゃらだ。また作れば良いだけだからな。』
洸の作ったガンプラを借りてGPDをプレイし盛大に敗北してガンプラを壊してしまうも笑顔で『へいきへっちゃら』と言った洸を。
「そうだ、あの言葉をお父さんはいつも言ってた。私にもあったお父さんから贈られたものが。」
地の転がっていた洸と響が同時にゆっくりと立ち上がる。
「なんだ?逃げていたのでないのか?」
「あぁ確かに逃げたさ。逃げたけどな俺は何処まで行ってもあの子の父親なんだ。だったらもう一度、響にかっこいいと思ってもらえる父親になりたいだろ!俺はもう逃げない!」
「茶番がっ!」
再び錬金術が洸を襲うが彼はそれを躱す。
「俺は叫ぶそれでもと響がもう一度家族をやり直したいと叫ぶんだ!だったら俺もそれでもと叫ぶ!」
石を投げキャロルを牽制しながら洸がそう叫ぶ。
「だから受け取れ響ぃ!!!」
「なにっ!?」
キャロルの横を石に紛れてギアペンダントが飛んでいくと響がそれを受け取る。
「Balwisyall nescell gungnir tron.」
「纏わせるものか!」
放たれた四元素の錬金術が響を襲う。
「響!」
無駄に終ってしまったのかと悲痛な声をあげる洸の前で土煙の向こうからガングニールを纏った響が姿を現す。
「受け取った受け取っていたよ。お父さんからずっと昔に呪いなんかよりも強い祈りを。『へいきへっちゃら』どんなことがあっても明日を進む祈りの言葉を!」
「纏った所で貴様如き!!」
再び放たれた四元素の錬金術を響は掴みねじ伏せる。
「なに!?」
(今、見えた水の一滴が。これがきっと!)
マイクユニットに手をかけ響は剣を抜く。
「イグナイトモジュール抜剣!」
そして纏われるは黒装束のイグナイトギアではなく黄金の衣。
「黄金だと!?」
「明鏡止水・・・。」
キャロルの目には錬金術の奥義である黄金錬成に映ったがその実はダインスレイブの発する呪いによる破壊衝動を明鏡止水の域に至った響が百パーセント効率でエネルギー変換した理想のイグナイトである。
「おぉぉおおお!!!」
「ヘルメス・トリスメギストス!!!」
超常の脅威と認識したキャロルが最大の殴りかかってくる響に対して最大の防御手段を行使する。
「知るものか!!!そんな板ッキレで私の拳が止められるかよ!!!」
「なぁっ!?」
障壁は容易く砕かれた上にキャロルは鳩尾に拳をもろにくらう。
「かふっ・・・。」
血反吐をまき散らしビルにめり込んだキャロルは目眩に襲われながらも竪琴を奏でファウストローブを纏う。
「あまりに図に乗るなよっ!!」
「乗る図は持ち合わせていない!私は歌に乗る!」
「ならば聞いていけオレの歌を!」
響とキャロルの歌がぶつかり合い上空のチフォージュ・シャトーが活性化していく。
◎
その光景を娘が頑張る様子を見届けていた洸の元に一台の車が止まると緒川が車内から呼びかける。
「ここは危険です!こちらへ!」
「あ、ああ!」
車に乗り込み避難すると離れた地点で緒川と共に車から降りる。
「行きましょう。」
「行くってどこに。」
その問には空を飛ぶソット・ヴォーチェが答えとしては十分だった。
「船が空を!?」
「しっかり捕まってください!」
「うぉおぉぉお!?」
緒川に抱きかかえられた洸はソット・ヴォーチェへと緒川と共に飛び上がっていった。
司令室では無理を言って現場復帰したエルフナインが響とキャロル二人のフォニックゲインで活性化していくチフォージュ・シャトーを見て弦十朗に提言していた。
「弦十朗さん。あれを撃たせてはいけません!世界中がシドニーの二の舞になります。」
「なんだと!?であればあれが!」
「はい、ワールドデストラクターであるチフォージュ・シャトーです。」
「お前等!デュランダルを励起させろ!カディンギルを撃つ!」
エルフナインの提言を受けた弦十朗が命令をくだすと司令室に洸が緒川に制止されながらも入ってくる。
「此処は危険です!」
「それでもいい!俺はもう二度と逃げないんだ!娘が戦っているならせめて見届けたいんだよ!」
洸の勢いに押された緒川が渋々と彼を入室させる。
「装者各位敵モビルスーツと接敵!」
「カディンギルエネルギー充填!」
「射線からの退避を命じろ!」
「了解!」
出撃しているガンダムに射線からの退避命令がくだされカディンギルを放つことが可能になる。
「カディンギル撃ぇぇぇぇええ!!!」
弦十朗が砲撃の命令をくだすとカディンギルがチフォージュ・シャトーへと放たれる。
「着弾!」
「これでキャロルの計画は――。」
しかし安堵するエルフナインとA.B.E.L.の皆を嘲笑うようにチフォージュ・シャトーは幾重にも展開していたヘルメス・トリスメギストスを破壊されただけであり本体は未だ形を保っていた。
「なんだとぉ!?次弾は!!」
「冷却まで後五分かかります!」
「くっ!」
歯がみする弦十朗の元にマリアより通信が入る。
『私、切歌、調の三人でシャトーに直接突入するわ。』
「なに?」
『それが一番全員の生存確率が高いとシステムも告げている!』
「ならば必ず生きろ!」
『了解!』
そうしてセレナーデとツインエッジがチフォージュ・シャトーへと直接乗り込んでいった。
◎
互いに技を応酬を行い戦い続ける響とキャロルの元にムーンセイバーとレラジェが乱入しキャロルへと攻撃を仕掛ける。
「来い!ダウルダブラ!!」
召喚されたガンダムダウルダブラがシールドで攻撃を防ぐと二機を蹴り返しコックピットにキャロルを収める。
そして自動操縦されたエクシアが飛来してきたのを確認すると響は乗り込む。
「良く耐えた立花!」
「やたらギラギラしてっけどどうなってんだそりゃ?」
「壁を越えたって奴だよクリスちゃん。」
「おうそうか。」
ダウルダブラがデストロイモードへと以降しその場に居る者に獅子が居るような威圧感を与える。
「どれだけのガンダムが集うと無駄だ。世界は確実に死に至る!!」
「殺させない!私たちがキャロルちゃんを止める!」
エクシアがGNソードを構える共にダウルダブラがビームサーベルを抜いた。