特異体質・『魅了の黒子』 作:底なしの呪力って無限ってこと?
「お前さぁ、この前椎名ちゃんに告られてたよなぁ?」
「は? それマジ?」
「イケメンだからって調子乗りすぎだろ」
「それな」
とある学校、その放課後の教室。
生徒たちは帰宅し、誰もいないはずの教室には5人の生徒たちの影があった。
1人を4人で取り囲んでいる状態、誰かがこれを見ればいじめだと感じるだろう光景。
「……すまん」
「は? すまんって何が? お前煽ってんの?」
取り囲まれている男子生徒が謝罪すると、取り囲んでいる他4名の顔に青筋がたった。
その場の雰囲気は一触即発、そして遂に取り囲まれている男子生徒はその胸ぐらを掴まれた。
「もういいわ。お前ボコす」
「さんせーい!」
「テメェご自慢の面、ズタズタのボロ雑巾みたいにしてやんよ」
「それな」
4対1。
数の暴力で圧倒されるだろう、と普通の者なら考えるだろう。この後の光景を想像し、顔を青くさせる者もいるかもしれない。
しかし、取り囲まれた男子生徒はというと全く顔色を変えず平気そうに―――いや、男子生徒の瞳は憐れみを向けていた。取り囲んでいる4人の生徒に向けて、はっきりと。
「……すまん」
約3分後、教室は血だらけとなっていた。
立っているのは、複数人に取り囲まれていた男子生徒―――
「秘匿死刑?」
「そうだ、五条悟。結城大翔は危険だ、即処分せよ」
「奴は一般人を大量に呪っている。呪術規定に基づいても、死刑は当然」
「あの子が意図してやったことじゃないでしょ。それをやったのは、あの子を呪っている呪霊達だ」
五条は資料を捲り、記載された情報をわざと、大袈裟な声で読み上げる。
「えーっと、なになにー? 結城大翔、中学3年生。呪術師の家系ではないが、当人は呪いが見えるため一般家庭出身の呪術師と認定。これまで何度も転校しており、転校の理由は彼がいた学校では『女性の自殺者』が増え、それを危険視した学校側から転校を願われたため。結城大翔が関わっていると思われる女性の自殺者は200人以上。そして……彼は呪霊に呪われている被呪者である、と」
五条は「憂太みたいな子だねー」と呑気に呟いた。
「そうだ。奴に憑いている呪霊は、特級過呪怨霊・折本里香に匹敵するほど危険だ。だから貴様が殺せ」
「あんた達が殺せないから僕を頼ったんでしょ? なら、もっと礼儀正しくお願いした方がいいんじゃな〜い?」
五条の煽りに怒りを滾らせる老人達。
しかし五条は全く動じない。
「中学生の死刑? ……するわけないだろ。若人から青春を取り上げるなんて許されないんだよ、何人たりともね」
「ならばどうする?」
「本当は分かってんでしょ? 勿論、高専に入学させて僕が面倒を見る」
上層部との話し合いは終わった。というより、五条が我儘を押し通しただけだがとにかく終わった。
五条は結城大翔が隔離されている部屋に入る。
「うわぁ〜お! 見るまでは半信半疑だったけど、ホントに折本里香並だ」
「……誰だ?」
能天気な五条の声と、無感情な結城の声は面白いぐらいに対極だ。関心と無関心、それが今の五条と結城の関係だ。
「やっ、お疲れサマンサー! 今日から君の保護者(?)になる五条悟でぇーッす!」
何の説明もなく、何の前置きもなく、結論を最初に言った五条は満足げに笑顔を見せ、結城は無表情に少しの呆れを混ぜて聞き返した。
「……意味が分からない。俺は死刑なんだろう?」
「いや? 君はこれから呪術を学んで立派な呪術師になるんだ。これ、決定事項ね」
「ふざけるな」
それまで無表情だった結城は、怒りを滲ませ五条を鋭く睨む。
「……お前なら俺を殺せるんだろう? 呪術なんてものは知らないが、わかる。お前なら『かあさん』を殺して、俺も殺せるんだと……さっさと殺せ。俺には生きる意味がない」
五条は結城のような目を見たことがある。それは生きることを諦めた目。死にたがりのそれだ。
確かに、五条ならば結城に憑いている呪霊を祓い、結城を殺すことは可能だ。しかしそれは勿体無いと五条は思う。
「うーん、なんでそんなに死にたいの? 罪悪感? でも君、まだ誰も殺してないよね?」
「……多くの人の人生を、狂わせてきた」
まるで神に懺悔するように、結城は
彼は自分だけが隠していた罪の告白をする。
「この忌々しい黒子は、女性に偽りの愛を与え、死に陥れる“呪い”だ。そしてそれを持っている俺は、最悪の疫病神だ」
そっと、結城は自分の目下にある黒子を触る。
結城大翔は一般人の家系で、術式を持っていない。しかし、彼には特別なあるものがあった。
それは『魅了の黒子』。術式ではない、彼だけに現れた特異体質。その効果は、彼の意思とは無関係に異性を惚れさせるというもの。
この黒子のせいで、結城は何人、何十人、何百人という女性に惚れられた、迫られた、襲われた。そして最後に彼女達はいつも、悲痛に泣き叫びながら自殺する。
そして、死んでなお愛に囚われた彼女達は―――
「――見えるか? 俺の罪の結晶が」
「ひろとぉ゛お゛、愛してるぅ゛う゛……!」
突如、結城の背後に悍ましい気配を漂わせた呪霊―――結城を
その呪力は、六眼を持つ五条ですら底無しと思えるほど桁違いの呪力量。まるで、折本里香の再来のような。
もし、ここに五条悟以外の呪術師がいれば即座に逃亡するか殺される覚悟で挑むかの二択に分かれただろう。見ただけで死を予感させるほどの圧倒的な存在感がそこにはあった。
「それで?」
しかしここにいるは現代最強の呪術師、五条悟だ。結城を呪っている呪霊を見ても、まるで動じない。
「……それで、だと? 何を言っている?」
「いや、それでなんで死にたいって思うの? 別に君が故意にやった訳じゃないし、仕方なくない?」
「……仕方ない、だと……ッ!? 俺なんかに、これから幸福に生きるはずだった人たちが偽りの愛を押し付けられ、その果てに死ぬんだぞ! これのどこに、俺のせいじゃないと思えるんだ!?」
部屋に獣のような慟哭が奔った。
結城の精神は、すでに全てを諦観している。『魅了の黒子』のせいで死んでいった者、その全ての責任は自分にあると思う程度の真面目さ。それが彼を苦しめ、なんども自分を言葉で罵り、傷つけ、そしてその自罰の行き着く先は、“死”であった。
五条は不幸な少年を見る。
確かに、彼は不幸なのかもしれない。その力を別の精神の者が持てば、幸運だと言うかもしれない。だが持っているのは結城だ。彼は『魅了の黒子』を幸運だとは毛ほども思っていないだろう。
五条は問う。
「本当にいいの? 僕なら君を殺せるけどさぁ」
「頼む、悔いしかないが……この不幸の連鎖を止められるなら、俺は死ねる」
「なるほど……君、なかなか
「……なに?」
五条は笑う。楽しげに、まるで生徒に教える先生のように丁寧に結城に気づかせる。
「だってさ、君の考えって――愛した人たちの気持ちガン無視して、自分だけ楽になりたいってことじゃん」
「……………」
「別にあれのせい、これのせいって言うのは個人の自由なんだけど、少なくとも君は自分のせいって自覚があるんでしょ? だったら、楽になったらダメじゃない?」
もしここに、家入や歌姫がいれば「クズが」と五条へ唾を吐き捨てていただろう。そのぐらい、五条は結城のデリケートな部分をズタズタに引き裂いている。
結城の顔色は真っ白になっていた。
口をぱくぱくと間抜けに開閉するだけで、言葉が出てこない。それは無意識のうちに、結城も考えていたことなのかもしれない。
本当に自分は死ぬだけで赦されるのか、と。
「……そ、そうだ。俺だけ楽になったら、彼女達の愛が無駄に……ぁぁ、ぁああッ、頭がッ! 頭が割れるように痛いッ!!」
「そうだ、楽になったら君を愛した者たちまで無駄になってしまう。だから……償おう」
「――つぐな、い……?」
「そう、君は力を持っている。だからその力で、苦しんでいる人たちを助けてあげるんだ。そうすればいつか、君を呪っている子達に報いれるんじゃないかな?」
一歩間違えれば、いやそれは正しく洗脳だった。
結城は迷わなかった。自分は一生、罰を求めなければいけないと考えるから。
「……どうすれば、この力で償えますか?」
「そうだねー、それじゃあ高専に入学するまで力の使い方、僕が教えてあげる。君の保護者になるしね!」
「……わかりました、俺はこの力で……1人でも多くの命を助けます」
「……地獄にぐらい行かなきゃ、釣り合いがとれない」
誓いを胸に、今日、新たな『特級術師』が誕生した。
主人公は虎杖たちと同期ですが、それだけです。ほぼ関わりません。