特異体質・『魅了の黒子』 作:底なしの呪力って無限ってこと?
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「五条悟を……君が? やめておいた方がいいと思うけどね」
「なに? 儂では五条悟を殺せんと?」
「うん、君たち全員で行っても最悪祓われるだけだと思うよ」
ファミレスで独り、虚空に話しかける袈裟姿の男性。客とウェイトレスはその姿を気味悪がり、近づこうとしない。
それに気づきながらも袈裟姿の男―――夏油傑は目の前にいる呪霊、漏瑚たちと談話する。
「そうだね。君は確かに強いけど、術師側にも『特級術師』っていう別次元の括りがあるんだ。私の見立てなら、君は五条悟以外の特級にだったら勝てるかもしれない」
「特級術師……どんな人間がおるのだ?」
「現在は4人いてね。乙骨憂太は海外に赴任中、九十九由基は行方不明……居場所が分かるのは、新しく特級になった結城大翔だけだね」
漏瑚は興奮からか、ひょうたんのような頭からポーッと煙を吹き出す。そして、ニヤリと邪悪に笑った。
「夏油、貴様は儂らを低く見積もっておる。それを証明してやろう……五条悟の前に、その特級術師を儂が殺す」
「……元気ないな、伏黒」
「別にいつも通り、ってわけじゃないな」
「……珍しいな、お前がそんなに入れ込むなんて。虎杖とは大して関わりがあったわけでもないのに」
「なんでだろうな、分からない。そういうお前は平気そうだな」
「……俺は虎杖と一度しか会ってない。その辺りが伏黒と違うからな……すまん、任務地に着いた。電話切るぞ」
電話を切り、結城はため息を吐く。
呪術師の死。それは何も不思議ではない。結城は長く呪術師をしているわけではないが、それでももう両手で数えられないぐらいには知り合いが死んでいった。
結城からしてみれば、虎杖もその知り合いの1人に過ぎない。助けられなかったという悔しさはあれど、それに捉われることもなくむしろ糧として邁進していくだろう。
今日も変わらず、補助監督に現場まで送迎してもらい、祓う。また送迎してもらい、祓う。その繰り返し。
今日もまた、人里離れた場所で一級の土着信仰の呪霊を祓う。
「……本当に、このままでいいのか」
結城には疑問があった。この
所詮、呪霊を祓ってもまた新たな呪霊が生まれる。そしてそれをまた祓い、また生まれる。その繰り返しに、何か意味があるのか?
自分は果たして、罪を贖えているのか?
その時、結城の張った『帳』に何かが侵入する気配がした。
それも生半可な強さではない……結城が未だ相対したことがないほどの呪霊。
「キェアアアアアアアアアアアアッ!!」
「……!」
上空からの奇襲、それを冷静に後ろへ跳び、躱す。
入ってきた呪霊は一体、顔に大きな単眼がある人型の呪霊。
「特級と聞き期待してみれば……弱いな、貴様」
その呪霊―――漏瑚は人語を話した。
―――人語を操るということは少なく見積もっても準一級以上……アイツから漏れる膨大な呪力を加味すれば、間違いなく特級呪霊だな。
「……俺を狙ってきたのか?」
「フン! 馬鹿を言うな、小童。貴様は前菜に過ぎん、本命の前のな」
「……そうか」
意味は分からないが、ここでこの呪霊は祓っておいた方がいいと結城は考えた。
結城の構えが変わろうと、漏瑚は結城を警戒しない。呪力量から、自分よりも格下だと侮っているからだ。
無警戒に漏瑚は近づく。その呪力で強化した俊足は結城を驚かせ、何の防御も出来ていない腹に漏瑚の拳が突き刺さる―――ことはなかった。
(――ッ! 今確かにすり抜け……)
「ぐはァッ」
拳だけでなく漏瑚自身も結城の身体をすり抜け体勢を崩したところに結城の蹴りが叩き込まれる。
追撃に出ようとした結城の真下に、小さな山のようなものが現れ、そこから高熱の火が吹く。
―――ボゴオオオオオォォォォッ!
「なるほどな……」
火が吹き抜け煙が晴れると、そこには無傷の結城が立っていた。漏瑚は確信する。
「貴様の術式、すり抜ける類の物であろう? 相手の攻撃の時には術式を発動しすり抜け、自らが攻撃する時には実体化する……確かに雑魚では相手にならんな」
「……………」
「しかし、強者には何の意味もない術式だ。興が乗った、少し遊んでやろう」
漏瑚の不敵な笑みに、結城は警戒する。それはこの術式を突破する術があるということに違いないのだから。
しかし、結城の警戒に反して漏瑚はさっきと同じようにこちらに突撃してきた。
―――領域展開じゃないのか? 他に突破する手段があるのか。それとも、無策の馬鹿か。
こちらも先ほどと同じように右の拳を振るってきた。まるでわざとさっきと同じ動きをして、こちらの出方を嘲笑うように漏瑚は動きを
結城は考えても分からない。ならば一度、相手の考えに乗ってみることにした。
結城は術式を発動する。
結城の術式――『透過呪法』の効果は、発動中あらゆる物をすり抜けられるという扱いやすい物だ。
結城は好んでこの術式を扱い、『かあさん』の力を借りずとも自分だけで戦えるよう日々鍛錬を積んでいる。
この術式を突破するには術式効果を中和する『領域展開』しかないと結城は考えている。
しかしそれは―――
「“領域展延”」
「がはッ」
頬を殴られるという結果でもって、覆された。
「ひゃはははッ! 術式を攻略すれば貴様など、まな板の上の鯉のようなものだ!」
「くッ!」
素早く体勢を整えた結城は、漏瑚との近接格闘戦を敢行する。
漏瑚の前蹴りを避け拳を突き出すも弾かれ、逆にカウンターで鳩尾に一撃もらう。
体制が崩れたところにもう一発蹴りを放たれ、その威力に結城は吹き飛ぶ。
高速で吹き飛ばされた結城に漏瑚はそれよりも速く近づき、そのまま
圧倒的とまでは言えないけれども、このままでは結城がジリ貧になるまで追い詰められるだけだろうことは明白だった。
漏瑚は嫌らしく笑っている。
「やはり今の人間は弱すぎる、この程度が術師の中で強者の部類とは……存外、五条悟も大した事はなさそうだな」
「……お前の目的は、五条先生の抹殺か?」
「目的ではない、それはただの過程に過ぎん……儂らの目的は、呪いが本当の“人間”として生きる世界を作ること。そのために、五条悟は邪魔なのだ」
「……意味が分からない」
「理解せずとも良い。貴様はここで死ぬのだからな」
―――このままだったら、確実に負けるな。
結城は後々の面倒事を考え………全て許容範囲と思い、アレを使うことにした。
漏瑚は勘違いをしている。
結城は特級であって、特級ではない。これは言葉遊びではない。上層部は結城自身の力を認めて特級にしたのではなく、その取り憑いている呪霊の方を危険視して、例外である『特級術師』と認定したのだ。
だから、漏瑚は勘違いをしている。強いのは結城ではなく、今から顕現する呪いの方だと言うことを知らないから。
「……手を貸してくれ、『かあさん』」
突如、虚空に大きな『扉』が現れ―――絶望の蓋が開かれる。
「ひろ゛とのお゛ね゛がい、うれ゛しぃ゛い゛!!」
顕現するは、底なしの呪力そして膨大な出力を持った結城を呪う特級過呪怨霊。危険すぎるからと五条にも多用するなと言われていた“呪い”が、ここに完全顕現する。
「な、ぁ……ッ!」
(――有り得んッ! 儂ですら呪力の底が見えん程の多すぎる呪力量! そしてこの異質な存在感! ……
漏瑚は少し前の夏油との会話を思い出す。
『その結城とかいう小童、どれ程の強さなのだ?』
『うーん、彼に関する情報は少ないんだ。虚偽の情報渡すのも気が引けるし、自分で確かめなよ……でも、私個人としてはとても興味深く思っているよ』
『興味深い?』
『うん、ただその話は今関係ないかな。そうだねー、もし私の持っている情報が正しければ……負けるかもね、漏瑚』
(――馬鹿馬鹿しいと思っていたが、この呪力は……なにッ!? 小童の呪力が多くなっていく、あの化け物が呪力を供給しているのか! そして、あの刀は一体どこから取り出した!?)
「……領域展開されるのは面倒だから、最速で片を付ける。『かあさん』、アレが欲しい」
「はぁ゛ーい」
漏瑚は焦った。
だからもう遊ぶことはせず、“領域展延”を解き、必殺必中である領域でさっさと殺してしまおうと掌印を結ぶ。
「は?」
気づけば、漏瑚の腕は目の前に現れた結城によって斬り落とされていた。
「くッ」
何が起こったか分からないが、咄嗟に漏瑚は後ろへ跳躍した。前を向くと、そこにいた結城はまた忽然と姿を消していた。
「どこに……ッ! がばッ!?」
「……『かあさん』、飛ばすよ」
「はぁ゛ーい」
次は背後に現れた結城に殴り飛ばされ、漏瑚は最も警戒していた“呪い”の前まで飛ばされた。
漏瑚など軽く握り潰せるほど大きな手が迫り、漏瑚をキャッチする。
(ぬっ、抜け出せんッ! 何という力だ!)
「ふッ」
高速で近づいてきた結城の刀が、漏瑚の頭に吸い込まれるように疾る。それをギリギリの所で首を傾け躱す。
しかし依然、漏瑚の身体は『かあさん』に掴まれたまま。これを抜け出すため、漏瑚は出力全開で術式を解放し、やっと抜け出せた。
「はぁッ……はぁッ……」
「い゛たぁ゛ーい」
(――くっ、儂の全力があの程度のダメージだと? 出力の面でも、あの呪霊と儂では覆せない程の差があるらしいな……)
圧倒。
特級呪霊という格の中でもトップクラスの漏瑚を相手に、圧倒してしまう他の術師たちとは別次元の強さ。
これが『特級術師』。
―――このまま領域展開させる暇なく、祓える。
もはや、漏瑚の死はすぐ目の前に―――
「ッ!」
「領域展開」
漏瑚は賭けに出た。
このまま戦っていればほぼ間違いなく自分が
しかし、あの謎の瞬間移動のような術のせいで掌印さえ結ぶ暇がない。だから、その時間を稼ぐため一発だけ結城の攻撃を受け入れる事にした。
それは勘だった。
結城は漏瑚の首を、右から左に斬ってくる。なんの根拠もない、ただの直感。
全呪力を首に集め防御する漏瑚。そして―――
その勘は当たっていた。
突如背後に現れた結城は、漏瑚を確実に祓うため、まず首を刎ね飛ばす事に決めた。右から左へと撫でるようにすれば、間違いなく斬れる。
「なにッッ!?」
漏瑚の呪力で強化された首は、刀を首半ばで止めていた。
掌印は結ばれている。
ならば、必中必殺のあれがくる!
「蓋棺鉄囲山」
天秤は、再び呪霊へと傾いた。
情報
術式・『透過呪法』
術者はあらゆるものを透過する。条件付けで、透過しないものを選ぶこともできる、扱いやすい術式。
とある少女は消えてしまいたかった。いじめられている誰かを見て、それに巻き込まれることを恐れ、空気のようになりたかった。その想いが死後、術式となった。
術式・『神出鬼没』
術者が転移することができる。目に見える短距離ならばノーモーションで転移できる。長距離ならば記憶した場所に限り、掌印を結ぶことで転移可能。
とある女性は好きな男の全てを知りたかった。その人の家を、好きな食べ物を、ありとあらゆるものを知りたくてどこにでも現れた。その女性の心が死後、術式となった。
特級呪具・『隠扉』
ウィンチェスター・ミステリー・ハウスが呪いとなった外国産の呪具。『扉』に入った物・者を別空間に送り、隠す。ネックレス型の呪具。
一級呪具・『名も無き刀』
呪詛師から取り上げた刀を『隠扉』に隠していたら、同じ空間にいる『かあさん』の溢れ出る呪力に浸され強化された呪具。