特異体質・『魅了の黒子』 作:底なしの呪力って無限ってこと?
誤字脱字報告ありがとうございます。すごく助かっております!
「どうだった? 初めて死にかけた感想が聞きたいなー」
「……反転術式を覚えられたので、いい経験だったと思います」
「死にかけたのがいい経験? ハハっ、やっぱり大翔はイカれてるねー、ウケる」
五条のデリカシーのない質問に、結城は淡々と答える。
現在、彼らは高専の保有する訓練場の一つにいる。そこで和気藹々と談笑(?)しているのだ。
「それにしても、なんで交流会出なかったの? 結城がいればもっと盛り上がったのにー」
「……五条先生だって知ってるでしょ。俺が2年の禪院先輩や京都校の女性陣に会うのが、どれだけ危険か」
「モテちゃうんでしょ? いいじゃんモテて、羨ましーなー」
結城は無表情の裏に鬱屈とした感情を持て余していた。簡単に言うと、五条と話すのが面倒くさくてウザい。
そんな単純に『魅了の黒子』を考えられるならば、今頃日本の女性の一万人以上が犠牲となって、『かあさん』は更に強い呪霊となってしまうだろう。
『魅了の黒子』の被害者が精々数百人程度で収まっているのは、結城の繊細な気遣いに他ならない。
五条はそれをちゃんと分かっている。
「僕の六眼から見た予想では、もう君の『かあさん』の呪力は完全体の宿儺以上だと思う。呪力操作はお粗末だけどね」
「……それで、何が言いたいんですか?」
「退屈でしょ? それだけ強いと、周りが雑魚すぎて本気出せないだろうし」
「……俺は戦いが好きというわけじゃないんですが」
「そうかな? 大翔は基本無関心で興味なさそうにしてるけど、強くなることには結構貪欲だよね。だから退屈してるんじゃないかなーって思ってたんだけど」
五条の予想、それは少し当たっている。
結城が言っている通り、彼は別に戦いが好きなわけではない。彼にとって呪霊や呪詛師との戦いは、人々を助ける・役に立つといった贖罪の意味合いが大きい。
しかし、嫌いでもない。むしろ、結城と対等以上に戦ってくれる五条や乙骨との戦闘は楽しい。
「……術式を使ってもいいんですか?」
「気遣ってくれてるの? いいよーそういうの―――本気で来ていいから」
「……『かあさん』、呪力と出力、あとアレが欲しい」
「はぁ゛ーい」
結城の背後の空中に『扉』が開く。そこからは『かあさん』が出てきた。
(――呪力と出力が上がった。“縛り”で譲渡する際は結城に触れる必要があるみたいだけど、やっぱりあれは隙が多いね)
「さて、どんな術式を貰ったのかな?」
「六眼なら見えてるでしょ……いきます」
疾走、そして繰り出される前蹴り。
速度は五条以外では対応できないだろうほど速い。出力が上がったおかげだろう。
しかし、どんなに速くとも、力が強かろうとも五条の術式を突破する術が無ければ意味がない。
「うん、なるほど……標的、いや目標の場所までの障害を無視する術式か」
「……術式を発動するにはまず、
「そして開示……うん、術式が相殺し合ってるけど“縛り”でそっちが優勢になったかなぁ」
結城の術式――『
目印をつけた場所までの障害を無視する術式。術式の発動はまず見える範囲に
結城もこの術式の真価に気付いてからは、この術式を拡張し、使い熟せるよう努力している。
なお、戦闘で使ったのは五条が初めてである。
五条は術式による瞬間移動でその場を離れ、体勢を立て直す―――筈だったが。
「おっ、術式を拡張して高速移動もできるの? どっかのアニメ大好きジジイより速いね」
「……じゃあ余裕で躱さないでください」
いつの間にか目の前まで迫っていた結城の拳を難なく五条は躱す。
高速移動のタネは、術式を拡張させ目標に到達するまでの“時間”を無視した結果だ。直線的な動きになりやすいのはデメリットだが、その動きならば五条悟にも匹敵するほどの速さとなる。
そのまま結城が攻める。正拳突き、回し蹴り、すね蹴りなど攻めるが……一向に五条にダメージを与えることはできない。
「うん、近接戦もよくなってるね。やっぱりこのGLGの教育がいいからかな!」
「………」
五条先生じゃなくて日下部先生の教えです、とは五条のため言わない。
結城は無愛想だからデリカシーがないと思われがちだが、実はちゃんと気遣いのできる男なのだ。
「近接戦だけじゃ物足りないだろうし、そろそろ術式勝負でもしようか……術式順転・『蒼』」
「……ッ、『かあさん』!」
「つ゛ぶすぅう゛!」
五条の『無下限呪術』による引き寄せる順転・『蒼』。
それに結城は『かあさん』の呪力放出で対抗することにした。幾ら五条の呪力出力が優れていたとしても、確実に『かあさん』よりは下だ。
僅かな拮抗の後、順転・『蒼』が破られる。
五条はそれを六眼で見越していた。
術式を用いた高速移動で『かあさん』に近づいた五条は、全力の拳をぶつける。
それによって吹き飛ぶ『かあさん』、しかしダメージは少なく呪力ですぐに治された。
「
「……言葉遣い、荒くなってますよ」
この戦闘で五条が“無限”を解くことはない。何故ならばその瞬間、『かあさん』の攻撃が通るからだ。
五条と言えども、“無限”なしで『かあさん』の全呪力放出を受ければ無視できないほどのダメージを受ける。
だからこそ、結城との戦闘はいつも真面目にやっているのだ。
「他の術式は使わないの?」
「……他の術式では、五条先生の“無限”を突破することはできませんから。あと、呪術師は簡単に手の内を晒さない……五条先生が教えてくれたことですよ」
「そっか……うん、僕が教えてたね」
口角を上げた五条、その顔に拳を突き出す結城。
状況は変わらず、そのまま二人(+呪い)は約30分ほど模擬戦をした。
「大翔は術式無くても、十分一級レベルはあるね。呪力操作もいい感じだし……あとは、領域展開を覚えたらそうそう負ける事はないよ」
「……領域展開って、俺にも出来るんですか?」
「どういうこと?」
模擬戦が終わり、休憩をしている頃。
結城はずっと疑問だった、領域展開についてもっとも詳しいと思える五条に聞くことにした。
「……五条先生も知っての通り、俺の術式は生まれた頃から持ってるものじゃない。『かあさん』から貰っているものです……生得術式を持たない俺が、領域展開を出来るんですか?」
「うーん、そうだね〜」
五条は顎に手を当て黙考する。
「分かんないけど、できんじゃないの?」
「……適当ですね」
「そうかな? 大翔の今持ってる術式だって、時間による“縛り”があるだけでそれは君の
出来そうじゃない? で簡単に出来るものではない。
領域展開とは呪術の極地、奥の手、最終手段。どんな言い方でもいいが、そんな大それた名前のものが簡単に習得出来るはずがない。
しかし、『特級術師』などという例外は当たり前のように領域展開を使い熟すか、攻略する手段を持っているだろう。
それでいうと、自分は本当に『かあさん』の力ありきの特級術師なのだと再確認できる。
「……『かあさん』が領域展開を覚える、というのはあり得ますか?」
「不可能じゃないだろうね。というか、犠牲を厭わなければイージーだよ? 君が1000人ぐらい女の子をナンパすれば、それだけで済む話」
「……やっぱり、俺が覚えます」
「言うと思った! 僕としては、それも面白そうだと思うんだけどねー。今度、死んでもいい女の呪詛師とか連れてこよっか?」
「……俺は、人の尊厳を弄ぶクズですが、やっぱり五条先生もクズですよね」
辛辣ぅー、とへの字に曲げる五条。言動が子供のそれである。
結城は例え悪人であろうとも魅了しようとは思わない。
悪人が贖うのは生きている間だけで十分であり、死後呪霊となってまで贖う必要はないと考えるからだ。
だから五条は思う、勿体無いと。
もう少しイかれていれば、冷酷であれば、残忍であればもっと強くなれるのに。
悪にも更生の機会が必要と考える結城は、善人で素晴らしい。
しかし、その考えが足枷となり強くなるチャンスを悉く逃している。
この五条の考えは、結城の『魅了の黒子』の犠牲を減らし罪を贖うという目的の正反対にあるものだ。
だから押し付けはしない。
「大翔……君の
「………」
「取りこぼした後になって、こうしておけばよかった、ああすれば良かった……そんな後悔のないようにね」
結城は目を閉じ、俯く。
そして顔を上げると、そこには決然とした雄の姿があった。
「例えそうなったとしても……俺が自主的に犠牲を出す事はしません。俺と『かあさん』の力で、最後まで俺は罪を贖い続けます」
(――それは、人の生き方じゃないだろ)
罪を贖う。
それこそが、結城大翔の
五条が何を言ったところで、この頑固者は変わらない。
友達も、恋人も、青春も、楽しい思い出も、何一つ必要ない。
結城はこれからも、ただ只管に人を救い続ける。
それだけは死ぬまで変わらない、結城の戦う『理由』だ。
情報
術式・『目印直達』
目印をつけた場所までの障害を無視する術式。術式の発動はまず見える範囲に目標を設定して、そこに術者の指定したものを届ける術式。例えば『五条悟の鳩尾に右拳を届ける』と指定すれば、“縛り”込みならば“無限”すら突破可能。
とある少女は人生を変えたかった。貧乏な家庭に産まれ、動けない祖父の介護で友達もできず、むしろ嘲笑われる人生。いつしか、いい学校に入るという目標以外全てを切り捨てて突き進んだ。その少女の在り方が死後、術式となった。