ジェイル・スカリエッティは転生者である。
オリ主や憑依転生者といった意味ではない。
彼は、遺跡から発掘された因子を元に生み出された人造生命体。
因子を引き継ぎながら、新たな生命体に宿ることのできる存在。
いうなれば、寄生獣や幽霊。あるいは、ウマ娘の固有スキル星3因子。
なんか、そんな感じの存在だった。
そんな彼は今、日本の安アパートでゴロゴロしながらテレビを見ている。
なぜ日本にいるのか?
彼は文化の違う世界へとぶらり
ぶらり旅のターゲットとして、今回は日本が選ばれたわけである。
ちなみに管理外世界に物資や技術を持ち込むことはできないため、生活費は現地調達だ。
彼の手足ともいうべき戦闘機人たちが、日夜バイトに励んでお金を稼いでいる。
スカリエッティは、彼女たちのお金を徴収して生活をしていた。
いわば、ヒモである。
率直に言って、最悪な存在だった。
そんなゴミカスエッティは、ニヤニヤとTV画面を眺めながら、ときおり同じシーンを何度も再生しなおしている。
天才と呼ばれた彼の興味を、そこまで惹く番組とはいったい?
ディスカバリーチャンネル?
ナショナルジオグラフィック?
魔法少女リリカルなのは?
そのどれでもない。
『エクスペクト・パトローナーム!』
彼が見ているのは、ハリー・ポッターとアズカバンの囚人だった。
最終作である死の秘宝まで完走し、現在は2周目の鑑賞中である。
スカリエッティは知識欲の権化であるため、ハリーポッターの、なんだかよくわからない世界に興味津々だった。
なぜ、こんな現象が起こるのか?
なぜ、こんな趣味最悪の動く絵画を飾っているのか?
なぜ、クィディッチという糞みたいなルールのスポーツが大人気なのか?
たとえ創作物といえども、そこには一定の"理"があるはずである。
それを考察するのが、ひどく楽しい。
「ドクター、掃除はじめるッスよ!」
そんな彼を邪魔するかのように現れたのは、赤髪の美少女。エプロン姿に三角巾、いかにも掃除をするでござるといった様子の女性であった。
彼女はウェンディ。スカリエッティの作った戦闘機人の一人である。
恐るべき力を持っているのだが、残念ながら彼女は生まれてこのかた、バイトと家事しかしたことがない。
エコの欠片もない、究極の無駄使い。SDGsに真っ向からケンカを売っているとしか思えない。
自身の在り方に疑念を抱いたウェンディは、かつてスカリエッティへ問いかけたことがある。
「自分は、なんのために生まれたのでしょうか?」と。
スカリエッティの回答はこうだった。
「人と機械の融合体を作ってみたかった。使う予定は特にない」
それを聞いたウェンディは泣いた。
泣いたが、別に戦いが好きというわけでもないので、まぁいいかと開き直った。
態度も口調もぞんざいになっていき、今ではこのありさまである。
「ドクター、ぐーたら寝転んで何してるっスか? 掃除の邪魔ッス」
「精神を集中して、名作と呼ばれている映画を見ている。邪魔をしないでもらおう」
「ぜったい集中してないッスよね……あっ、ハリー・ポッター! それ、あたしも見たッスよ。古い映画だけど、面白かったッス」
「古い……!? ハリー・ポッターが……!?」
「反応する所、そこッスか?」
映画ハリー・ポッターの第1作は、2001年上映。
これは、"
生まれて間もない赤ちゃんであるウェンディが古いと感じるのも、仕方の無いことだった。
「ドクターって、スネイプ先生に似てるッスよね。ちょっとモノマネしてみてくんないッスか? 絶対ウケるッス」
「やらない。アレに似ていると思われるのは心外きわまりない」
「えっ? まぁ、人の考え方はそれぞれッスよね……ヴォルデモートの方がよかったかな?」
暗にスネイプ先生に似ていると言われたスカリエッティは、その場でゴロゴロ転がり始めた。
これは抗議の意思表明だった。安アパートの狭い一室でこの行動は、あまりにも邪魔すぎる。
「ドクター、超邪魔ッスよ」
「そうだろうね」
外向けには科学者っぽい態度をとる彼だったが、身内しかいない場ではこんなもんである。
端的に言って、超ウザかった。
「お楽しみの邪魔をして悪いッスけど、こっちも今日の家事当番ッスからね。掃除を強行させてもらうッス」
「待てウェンディ。キミは、一つ勘違いをしている」
「なんすか? また変な言い訳ッスか?」
「そもそも私は、楽しむために映画を見ているのではない」
「じゃあ、なんで見てるッスか?」
「研究のインスピレーションを得るためだよ」
「いんすぴれーしょん」
掃除の手を止め、雑巾を水にひたすウェンディ。
なぜ今、雑巾を手に取ったか?
スカリエッティがつまらない事を言ったら、投げつけるためである。
「映画を見るのにも言い訳が必要だなんて、ドクターは大変ッスね。悲しい生き物ッス」
「言い訳ではない。教えてあげよう。実は戦闘機人も、ドラゴンボールというアニメから得た発想により、開発に成功したのだ」
「へー」
心底どうでもよさそうなウェンディの返答にイラッとしたスカリエッティだったが、我慢をして続ける。
彼は、自慢話をするのが大好きだったので。
「そも、戦闘機人を造る上での障害──人と機械の融合を阻む原因とは何か? 端的に言えば、人の耐久力が低すぎるのが原因だった。人間の体は、機械との融合に耐えられない。私は人と機械の親和性を高めるため、様々な実験を行った。だが、すべて失敗に終わった。当然だ、人と機械、有機物と無機物が調和するわけがない」
「はぁ」
「そこで、ナメック星人だ」
「ナメック星人」
「彼らは高い再生能力を持っていた。さらには、同種族間での融合すら可能! それを見た私は、画期的なアイデアを思いついた! 親和性を高める事にリソースを注ぎ込むより、単純に人の再生力を上げた方が成功に近づけるのでは、と」
「脳筋の考え方ッすね。ノーヴェみたいッス」
「このアイデアは成功した。人に植物の因子を埋め込んだ──ナメック星人のような存在であれば、機械因子が定着するまで生き延びることができたのだ。そうして生まれたのが、戦闘機人というわけだよ」
「あたしら、元はナメック星人だったんスか!?」
はえー、腕とか伸ばせたりするんすかね、なんて事を言いながら雑巾を絞るウェンディ。
どうやら、雑巾がスカリエッティの頭部にフライアウェイする事態は避けられたようである。
「っとと、こんな話をしてる場合じゃなかったッス。今日は大掃除するんスよ! ドクターは邪魔なので、お使いにでも行ってきてください」
ウェンディはテレビの電源を切り、スカリエッティを玄関へと押し出した。
こうでもしないと、謎の問答を延々と続ける羽目になる。
スカリエッティは、あまり人の話を聞かない。ウェンディは、嫌というほど思い知らされていた。馬の耳に念仏を唱える方がマシ。ウマ娘の因子周回をしている方がマシ。
彼に対しては、こうして実力行使に出るのが唯一の正解なのだ。
「さ、行ってください! 今夜はカレーにするッス。特別に、なんでも好きな具を買ってきていいッスよ」
「高い肉でもいいか?」
「駄目ッス」
「いま、なんでもって」
「2000円以内ッス」
「世知辛いな」
スカリエッティは、渋々といった様子で玄関から出て行った。
それを見届けてから、ウェンディは額の汗を拭う。そして、誰に言うでもなく呟いた。
──ドクターに暇な時間を与えると、絶対にろくでもない事を考えるッスからね。何か仕事を与えた方がいいッス。
ウェンディは、まだ知らなかった。
スカリエッティは、暇だろうが忙しかろうが。
たとえ火のなか水のなか、どんな状況であろうとも。
ろくでもない事しか考えないのである。