借りぐらしのスカリエッティ   作:ぽぽりんご

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マシュ・キリエライト

 

 ジェイル・スカリエッティは、マッド・サイエンティストである。

 別に人格なんてどうとでもなるのだが、マッドなサイエンティストであれと生み出されたため、それを律儀に守ってきた。

 

 

 生み出された時、スカリエッティは願った。

 「これから私の肉体を造るなら、薄幸目隠れボブヘアーのホムンクルス。一度は生きる意味すら失ったが、様々な人と出会い、やがて感情を取り戻していく後輩系美少女で頼む。ホムンクルスという(はかな)げな存在でありつつも、いざ戦いとなると仲間を守る盾となれるような強い存在が好ましい。寿命が短ければなおよい」と。

 些細な願いだった。前世の彼は男性体だったため、次の生は女性をと望んだのだ。

 体が変われば、外的刺激に対する応答も変わる。性別が変われば体内生成物質のバランスも異なり、考え方すら変わる可能性もある。

 知識欲の権化である彼は、それを体感したいと思った。

 そんなわけで、彼はTSさせてくれと願ったのである。

 

 だが、スカリエッティのボディ担当者(31歳独身、絶賛彼氏募集中)からは却下されてしまった。

 彼女は「研究者たるもの、白衣の似合うイケメンロン毛性格破綻者でなければならない」という信念を持っていた。

 

 スカリエッティは難色を示したのだが、彼女はある物を差し出すことで、彼の注意を逸らす事に成功する。

 そこまで彼の興味を惹いた代物とは、いったい何か? 

 

 それは、Fate Grand/Order。通称FGOだった。

 FGOに登場するマシュ・キリエライトは、まさにスカリエッティが理想とした存在そのものだったのだ。

 スカリエッティは、夢中になってFGOをプレイした。

 当時、片手間でやっていた研究に『プロジェクト・フェイト』という名前をつけてしまうほどの入れ込みよう。

 

 彼の脳みそがマシュとガチャで支配されている間に、彼女はイケメンロン毛ボディを作成し、スカリエッティ因子を埋め込んだ。

 彼女にとって、会心の出来だった。まさに最高傑作。彼女いわく、この男となら結婚してもいい。そう言えるほどの最高傑作イケメン。

 実際に結婚を申し込んだのだが、「私はマシュと結婚したい」という最悪な回答を貰って撃沈した。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「考えてみれば、彼女への義理はもう果たしたのでは?」

 

 買い物にいく道すがら。

 ぼんやり過去に思いをはせていたスカリエッティは、ふと思った。もうあの研究所での仕事は終えたし、TSしていいんじゃね? 

 下半身のドラゴンボールとお別れしてもいいんじゃね? 

 願いを叶え終わったドラゴンボールは、離散すべきである。

 

 因子を継承する研究は、既に済んでいる。

 あとは、因子を埋め込むボディさえ用意すれば、スカリエッティはその体に転生可能だ。

 戦闘機人すら完成させた彼にとって、自分用の肉体を用意する事など、造作も無いことだった。

 

「だが、何かが足りない……」

 

 景色を見ながらゆっくり歩いていると、色々な思いが脳裏によぎる。

 

 このまま、何事もなくTSしてしまっていいのか? 

 TSし、新たな境地を開いてしまっていいのか? 

 いや、よくない。

 スカリエッティは思った。私に足りないもの。それは──

 

「──敗北、だ」

 

 敗北。

 完膚なきまでの敗北。

 

「そうか。私は、敗北を知りたかったのか」

 

 考えてみれば、彼は敗北を知らなかった。

 知識欲が服を着て歩いているようなスカリエッティにとって、それは許せる事ではない。

 どうせ転生するなら、ついでに敗北も経験しておこう。

 そして、命がけでスカリエッティを打ち倒した勇者に、「ふははははは私は新たな肉体に転生可能だキミの行為はすべて無駄だったのだよ!」と煽り行為をしたい。そう思った。

 

 だがあいにく、彼は天才過ぎた

 彼はなんでも出来たし、研究を阻むあらゆる障害を排除しながら生きてきた。

 彼に敗北を与えられる存在など、そうはいない。

 

「いや、何も難しく考える必要はないのでは? たとえば、世界まるごと敵に回せば……私を打倒しうる存在が、向こうからやってきてくれるかもしれない」

 

 スーパーに着いた彼は、カレーの材料プラスアルファを買い物かごに放り込みながら、ブツブツ呟き続ける。

 肉、じゃがいも、にんじん、肉、たまねぎ、カレー粉、肉、肉、たけのこ、プリン、肉。プリンはもう一つ買っておこう。

 

 そして。

 レジ係の「9811円になりまーす」という声を聞いたとき、彼の脳裏に稲妻が走る! 

 ジェイル・スカリエッティの天才的頭脳が指し示した、神の一手。

 文字通り、時空を揺るがす天才的発想。

 

 彼は、こう叫んだ。

 

 

「そうだ。時空管理局にケンカを売ろう!」

 

 

 後世の歴史家いわく。

 ジェイル・スカリエッティが時空管理局に反旗を翻した理由は、まったくの謎とされている。

 

 

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