借りぐらしのスカリエッティ   作:ぽぽりんご

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アバダ ケダブラ

 

 

 そんなこんなで、買い物を終えたのだ。

 いかにスカリエッティとて、食材の買い出しぐらいはこなせる。

 今回も、完璧な仕事をしてみせた。*1

 性格が破綻しているからといって、まともな生活が送れないわけではない。

 ただ、気が乗った時しかやらないだけである。

 

「おーい」

 

 買い物袋を片手に帰宅途中。スカリエッティの耳に、そんな声が聞こえてきた。

 声を聞いただけでわかる。この声の主は、おっさんである。

 おっさんという存在をテンプレートにしたような声。この声の持ち主は、おっさんしかありえない。

 そんな声だった。

 

「おーい、おーい。そこのキミィ」

「……私か?」

 

 どうやら謎のおっさんは、スカリエッティに声をかけていたらしい。

 目を向けると、ハゲで小太り、チビのおっさんがいた。

 まるでベジータの私服のような、イカれたシャツを着ている。

 まさにおっさんを具現化したような存在であった。

 

「おう、そうや。えらいイケメンのキミや。なあなあ、ワイの名前を言うてみぃ?」

「いや、知らないが」

「おっ、そうか。知らんか。めずらしいなぁ。ワイも結構有名人やと思うてたんやけど」

 

 芸能人か? 

 そう思ったスカリエッティは、心当たりを探ってみる。

 バラエティ番組は結構見ているので、芸人にも詳しい。

 だが、そんなスカリエッティをして、思いあたる節はなかった。

 

「失礼。あなたの名前は?」

 

 珍しく、礼儀正しく答えるスカリエッティ。

 これは、月に一度あるかどうかの奇跡であった。

 その奇跡を、こんなハゲで小太りでチビのおっさんに使っていいのか? 

 そう思う気持ちもあったが、敗北欲求という自身の心の声に気づけた直後のため、スカリエッティの心は寛大になっていた。

 今の彼なら、三度までのイライラに耐えられる。仏と同格といっても過言では無い。

 

「そうかそうか。ワイの名を知りたいか。なら教えたろやないか。本当は秘密なんやけどな」

 

 おっさんは、もったいぶったように間を取る。

 たっぷりと、謎の時間を取ったあと。

 おっさんは、ドヤ顔でこう名乗った。

 

 

「ワイがヴォルデモートや」

 

 

 そんなはずあるか。

 

 思わず出かかった言葉を飲み込むスカリエッティ。

 安易なツッコミをしては、自身のキャラが壊れてしまう。スカリエッティはそう思った。

 誰もスカリエッティのキャラなど大して気にしないのだが、スカリエッティにとっては大事なことなのである。

 

「そうか……貴公が、ヴォルデモート……だったか」

「せや。ワイ、浪速(なにわ)のヴォルデモートって呼ばれとんねん」

 

 浪速とヴォルデモート。

 これほど食い合わせが悪い言葉もあるまい。

 

 このおっさんの、どのへんがヴォルデモートなのか。ハゲであることぐらいしか共通点が無いのではないか。

 気にはなったが、知識欲の塊であるスカリエッティをして、その辺りの事情を聞こうとは思えなかった。

 いくらスカリエッティといえど、興味の無い事ぐらいはある。

 

「兄ちゃん、ちょい聞いてくれ。あんな、ワイな、姪っ子にプレゼントを買うたんや」

「はぁ」

「ほら、これ」

 

 差し出された物に目を向ける。

 透明なプラスチックのパッケージに入った、黄色く丸い物体。

 パッケージには「お風呂に入れると色が変わる! 可愛いひよこ人形」と書かれている。

 また、500円と印字された値札シールが見えた。

 

「けっこうイイ代物やと思うたんやけど。でも、こんなんイランって姪っ子に言われてもうてな」

「それはそうでしょうね」

 

 誰だってそう言う。

 スカリエッティもそう言う。

 

「若い子の感性はわからんわー」

 

 若さは関係ない。

 スカリエッティでもそう思う。

 

「こんなんよりプレステ5の方が欲しいって言われてもうてな」

「それはそうでしょうね」

 

 プレステ5は、世界中で大人気のハードなので、ひよこが勝てないのはしょうがない。

 なんかあまり持っている人がいないイメージもあるが、あれだけ品薄なのだから、大人気のはずである。

 というか。プレステ5がどうとか関係なく、ひよこが恐ろしいまでにいらなかった。

 

「ま、そういうわけでな! この人形。いらんくなってしもうたんや。だからな、ニイちゃん……このひよこ人形を、1000円で買うてくれへんか?」

「は?」

 

 あまりにもいらなすぎる。ゴミの方がマシ。

 このような製品が存在しているなど、まったくもって理解に苦しむ。

 そのはずであった。

 

 だが、スカリエッティは思い直す。

 安直な思考は、逃げだ。思い込みは真理の探究に有害である。

 誰も気付かなかった箇所にこそ、進歩の鍵は隠されているのだ。

 

 理解ができないというのは、よくない。

 このおっさんとヴォルデモートの関連性については心底どうでもいいが、このひよこ人形は、ちゃんとしたメーカーが大量生産しているように見受けられた。

 つまり、沢山の人間がGoサインを出したということだ。

 スカリエッティの知らない何かがあるのかもしれない。

 

 

 スカリエッティは、冷静になってひよこ人形を見つめた。

 黄色く、まんまるなボディ。つぶらな瞳。

 こうして見ると可愛いと言えなくも……ないが……いや、欲しいかと問われれば……色が変わる……? 色が変わるから、なんだと言うのだ? そもそも、なぜ色を変える必要がある? この人形、いくらなんでも意味がわからなすぎる。

 

「よし」

 

 しばし悩んだ後。スカリエッティは、こう答えた。

 

「わかりました。買いましょう」

「えっ」

 

 なぜか驚きの声を上げるヴォルデモート。

 鳩が豆鉄砲をくらったような顔だった。

 驚く前からずっと鳩が豆鉄砲を食らったような顔だった気もするが、気持ち豆鉄砲を食らった感が増したように感じられる。

 

 一瞬反応が遅れたヴォルデモートだったが、スカリエッティが1000円札を出すと、その表情は満面の笑みに変わる。

 そしてスカリエッティの手を取り、ブンブンと振り回した。

 

「おおおおお、兄ちゃん太っ腹やな! ほんま、おおきに! 毎度あり! アバダ ケダブラ!」

 

 死の呪いの呪文を唱えられた理由はまったくの不明だったが華麗にスルーし、ひよこ人形を受け取ったスカリエッティは、ヴォルデモートに別れを告げる。

 そして、即座にその場を立ち去った。

 これ以上、関わり合いになりたくなかったので。

 

 

 さて。なぜスカリエッティが、ゴミとしか思えないひよこ人形を買ったのか? 

 帰宅後に即ウェンディからの叱責不可避と言える進退窮まった状況になってまで、いったい何故?

 

 答えは簡単だ。

 

 

「頭で考えて理解できないのなら、仕方が無い。実際に使ってみるしかあるまい」

 

 

 こうしてスカリエッティは、1000円 + ウェンディからの叱責と引き換えに、ひよこ人形を手に入れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*1
予算を少々オーバーした程度




登場人物紹介

■おっさん
噂をすれば影。
彼の話をすると、どこからともなく本人がやってきて、不要なものを押しつけられる
それを続けた結果、名前を呼んではいけないあの人扱いされるようになった。
自称、浪速のヴォルデモート。
ウェンディがバイトしているコンビニの店長。

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