カナダ廻戦   作:サウ

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呪術に投げ技主体のゴリラいなくね?ってノリで作りました。主人公の設定もノリで作りました。真剣に書いていくので許してください。


カナダ戴天 1

記録―――2018年6月末。

 

歓声のような、野次のような話声で溢れる日本の町、秋葉原。東京の大手観光地の一つとしてカウントしても差し支えのないこの地は、当然日本人だけではなく外国人の観光客も多く点在している。フィギュアやゲーム、メイド喫茶にデバイス周りなどのサブカルチャーに該当する物品、サービスが数多く存在しておいる。

その圧倒的な品ぞろえに驚愕する者、ピンポイントで欲しかった物品が衝撃的な価格で販売されている事実に気圧されてつい財布を開いてしまう者。その活気は全盛期にこそ劣ってしまうものの、未だに根強く文化として残っていることが窺い知れる。

 

「え~これ凄いよぉ~こんなマイナーなキャラのフィギュアまであるの~?」

 

この甘ったるいぶりっ子のような伸ばし棒を所々に散りばめたような喋り方をした男はヤマワキ・カイト・ダン。カナダ人である。

ダンというのはミドルネームであり、カイト・ダン・ヤマワキと呼ばれることも。丸顔にメガネを掛けたナイスガイだ。

 

「え、これ滅茶苦茶ほしいんだけどヤヴァ…!!」

 

現在カナダで彼が通っている高校は長期休暇中なので、こうして日本に戻ってきている次第。

現在は同伴している両親とは別行動を取っており、オタク趣味である自身の欲求をこれでもかというほどに満たしている最中である。大通りには想像を絶するほどの店の数。どこへ行ってもどこを見てもゲーム、フィギュア、書籍。オタクであるヤマワキにとっては天国のような環境だろう。ただ一点、そんなグッズの数々を購入できるほどのお金がないという問題点を除けば。

本人としては購入してぜひカナダの実家に持って帰りたいところなのであるがそうはいかない。仕方なく秋葉原の歩行者天国大通りを抜け、裏の電気街に足を踏み入れる。

この電気街には激安ペンギンですら両手を挙げて降参するほどの安さで家電や携帯電話、PCの周辺機器が並んでおり、ヤマワキはSDカードとUSBメモリを購入するために足を踏み入れていた。様々なデバイスを品定めするヤマワキ。一見して高性能そうに見えても、もしかしたらすぐに故障するかもしれない等の裏があるかもしれないので、十分に注意して物色する。

 

「これにしようかな~………ん?」

 

USBメモリを選んでいるヤマワキの背後に強力な違和感。違和感と言っても、生半可なものではなく、インフルエンザ等の高熱時に感じる悪寒を10倍の濃度にしたかのような、生理的な嫌悪を強く捲し立てるかのような感覚である。

感じ取った禍々しい気配につい振り返ると、地元(カナダ)でたまに見ている人外とよく似た”何か”が確かにそこに存在していた。

 

―――――ヤマワキは、生まれつき自分にしか見えない存在があることに気づいていた。友人や両親に尋ねても全く理解されなかったが、実際に触れることもできる。幻覚だなんて生半可な現象ではないと確信していた。それに、奴らは明確に人類の敵であった。自分以外のいわゆる”見えない人間”にはその姿勢は特に顕著で、人によっては肩こりや憂鬱な気分等の慢性的な体、心の疲労の原因になっている…なんてケースもしばしばである。

 

(あれ、かなり強い奴だ…)

 

しかし、今回はそんな生半可な個体ではなかった。周囲に漂わせている気配が通常のそれとは違うことを物語っている。

一旦ヤマワキは簡潔に状況を整理することにした。まずは被害者。スーツ姿の麗人である。そんな麗人に取り憑いている…と言ったところだろうか。人間とほぼ同じような体格のそれは、麗人の首周りにガッツリ手を回して離れる素振りを全く見せない。恐らくはこのままタイミングを見計らって呪い殺すのだろう。取り憑かれている張本人もかなり体に違和感を覚えているように見える。しかし、この場で仕掛けるにはあまりにも一般人の目が気になってしまう。下手をすれば犠牲者が増えてしまう可能性すらある。

 

(さて、どうする?)

 

一、麗人に声をかけて場所を変える。否、これは全く意味を成さない。見ず知らずのカナディアンに話しかけられた所で、不審者扱いされてしまうだけ。よしんば要望が通りそうになった所で異形が何もアクションを起こさないとはとても思えない。下手をしたらその場で首の骨を…なんてこともあり得る。

 

一、異形に不意打ちを仕掛ける。否、これも不確定要素があまりにも大きい。まずヤマワキの攻撃が一発通ったとてそれだけで死ぬタマだろうか。これも最悪な展開になってしまう可能性すらあり得る。

 

まず大前提として、確実にアレに勝てる保証はないのである。自身が五体満足で帰還できるかすら怪しい。そのレベルでこの異形は強い。カナダで相手したことがない強さといっても差し支えないだろう。

 

(え、ラッキー…!!)

 

あれこれ考えている内に状況は好転したようだ。怪異自ら人通りがほぼない路地裏に麗人を誘導して行く。麗人の瞳からはハイライトが消えていき、心ここに在らずといった状況。もう自らの意志で行動できていないのである。

こんな理不尽に巻き込まれて命を奪われるなんて間違っている、とヤマワキは心の底から思う。

許していい筈がない。

 

―――――無論全てを救えるわけではないが、目の前で異形に苦しめられる誰かがいるなら、死力を尽くして助け出す。

これ以上の自問自答は必要ない。考えるよりも先に体が動いていた。

 

そう、即刻―――――

 

「お前の首の骨を折ってやる…!!!」

 

「え…?」

 

ヤマワキの決め台詞で彼女の目に意識が戻った矢先、既に異形との切り離しは完了していた。

麗人は困惑していて状況がまるで掴めていない。それもそのはず。駅のホームで眠気のような何かに見舞われたと思いきや、全く足を踏み入れた記憶がない場所で突然意識が覚醒したのだから。しかも、「首の骨を折る」と言われて。

 

「今すぐ逃ぐぇてください!!」

 

「あ…え…?」

 

Please get out of here!! Hurry up!!!!!

 

「あ、は、はいっ!!」

 

切羽詰まった結果、活舌がとんでもないところで暴発した上につい英語が出てしまったみたいだが、なんとか通じたようである。麗人は言われるがままに振り向きもせずにこの場を後にしていった。かなりの高さのハイヒールを履いているにもかかわらず、転ぶ素振りすら見せずに走り去っていく。あれが追い詰められた人間の生存本能なのだろうか。

しかし、そんな火事場の生存本能が今一番必要なのはあの麗人ではなく、目の前で敵意むき出しの明確な格上と対峙しているヤマワキなのかもしれない。

 

「繧医¥繧るが鬲斐r縺励※縺上l縺溘↑!!」

 

「な、なんて?」

 

明らかに人間の言葉ではないので全く聞き取れないが、相当ご立腹な様子である。決してふざけているつもりはないのだが、リアクションが素直すぎる。素でこれをやられていることに更に怒りのボルテージが上がった異形は、最高速度でヤマワキ目掛けて突進を繰り出したのであった。

 

「おー、おぅおぅおぅおぅおぅ…」

 

予想外の脳筋攻撃に衝撃を隠すことができないヤマワキ。しかし威力は本物だ。当たってしまったらひとたまりもないであろうその突進をすんでのところで躱す。かなり離れていたというのにこのスピードはやはり強力な個体の証。実際軽くいなしているかのようなリアクションこそしたものの、今の攻撃が当たっていたなら相当なダメージを受けていたであろう。下手したらすぐさまヤマワキが戦闘不能になった可能性すらあった。そんなことを考えている間にもせかさず追撃の数々がヤマワキに降りかかる。まるで打撃の嵐のような圧倒的な手数がヤマワキを襲うが、そんな中冷静に一撃一撃を見定め、しっかりと間合いを取っている。

この存在に対するヤマワキの勝利条件、及びそのパターンは一点のみ。

 

(ありったけの力を込めて俺の小内巻き込みをお見舞いするしかない…!)

 

小内巻き込みとは、柔道の投げ技の一つである。ヤマワキは元々柔道を幼少期から習い事として励んでおり、彼にとっての攻撃手段と言えば柔道の投げ技、絞め技しかありえないのである。その中でもヤマワキの最も得意な投げ技が小内巻き込みであり、これによってカナダの異形の存在の数々はことごとく葬られてきた。最大出力の小内巻き込み、恐らく通用するのは一回のみ。二回目は絶対にありえないであろう。

今、この場でこの怪物を葬り去るには一回限りの必殺技をお見舞いするしかないのである。しかも、小内巻き込みは”一回限りの必殺技”ではあるが”一撃必殺”ではない。

ヤマワキの今持っている手札で殺り切れなかった場合は、それ即ち敗北を意味する。失敗は許されない。恐らくこの権幕では逃亡も不可能。そう、本当に確実に一撃で倒す必要があるのである。そんな多大なるプレッシャーと死と隣合わせであるという現実が十六歳のヤマワキのメンタルを締め付ける。十六歳なんて年齢は思春期真っ盛りの時期であり、とてもじゃないが命を賭けて戦ってきた経験や土壇場で必ず成功させなくては死んでしまうなんて状況は訪れないであろう。絶対に慌てふためき、通常通りのパフォーマンスや判断力は発揮できない筈である。

しかし、そんな現状ヤマワキに襲い掛かっているそれは、ストレスと同時にスリルでもあった。心臓の鼓動が自分でも早くなっていくのがわかる…。一発一発を回避する度に、自身の脳内の情報処理速度が上がっていくのがわかる。

 

「縺輔▲縺輔→謾サ謦?@繧!!!!!」

 

一撃、また一撃と相手の攻撃を避け、いなし、捌き、受け流していく。ヤマワキは一切打撃に打撃で返さない。

 

 

 

――――――そう、始めはカウンターすら狙えないほどの攻撃を繰り出していると本能で理解し、勝ち誇っていた。怪異は勝利を確信していたのである。この人間とはまるで話にならないくらいには力の差があり、圧倒的にこちらが優勢であると。

そう確信して、生身の人間が食らったらひとたまりもないであろう威力の攻撃を、打てる限りいつまでも打ち続けていた。しかし、30分も過ぎていた頃だろうか。ここで異形は本能で気付き始める。何かがおかしいと少ない知能ながらに考え始める。

 

攻撃が一度たりとも当たっていない。

 

先ほどから一度も。掠りもしないのだ。チキンプレイの間合いで逃げ続けられているのとは違う。三十分ほど何も考えないで攻撃を打ち続けていたが、ここまで来ると戦闘のセンスが悲鳴を上げ始めてきている。

………今、この人間は全ての攻撃を狙って避けている。無造作に打たれる法則性のないパンチや掌底をカウンターすらせずに避け続けているのだ。

先ほどまで確信していた筈の絶対的な勝利は時間が経つと共に違和感に。違和感から危機感へ。危機感から恐怖へ。次々と移り変わっていく。

 

そして、それを自覚した時には、もう決着は付いているのである。

 

「捕まえたぞ」

 

僅かではあるのだが、怪異の攻撃の手が緩んだのである。秒数にすると一秒ほどだろうか。その隙をヤマワキは見逃さなかった。自身の出せるだけの全ての力を込めて胸倉と左腕を掴む。幸い、相手はものの見事に人型の怪異であった。胸倉や腕の繊維にめり込むほどの握力が怪異を襲う。このままでは100%殺される。そう悟った怪異は膝蹴りや頭突きといった手段で何度も何度もヤマワキに抵抗するも、ヤマワキが力を緩める素振りは全くない。もう既にすべてが手遅れなのだ。

いつの間にか回ってしまっていた。喰う側から、喰われる側に。否、虎視眈々と狙われ続けたヤマワキの掴みに気付けなかった時点で、最初から捕食者はヤマワキだったのかもしれない。

 

「おりゃああああああ!!!!」

 

全体重をかけたヤマワキの小内巻き込みは完全に決まった。怪異の背が地に接した瞬間、物理的にはありえないほどの衝撃が起こり、周囲にやや強い風が吹いていく。それに伴ってバチン、といった鈍く痛々しい音が鳴り響いた。

…決まったかに見えた。今までのヤマワキの生涯の中でも類を見ないほどの完璧な手応え。もしこの怪異が中身まで人間と同一のものと仮定するのならば、最低でも肋骨と内臓に大きなダメージが入った状態程度の衝撃が迸っている筈である。しかし、それでもまだ完全に異形は消滅していない。ヤマワキは畳みかけるように絞め技のフェーズに移行していた。

突然の超絶ダメージに苦しむ異形は抵抗する力など既に残っていない。プランAで仕留めきれなかったのだから、プランBの追撃でやり切るしかない。幸い、既に相手は虫の息。ここでの袖車締めさえ決まってしまえば、絶対に…。

 

「莠コ髢薙#縺ィ縺阪′………!!!」

 

「言っただろ、”首の骨を折る”って」

 

そうヤマワキが気合いを入れ直した瞬間、異形の首はありえない方向にねじ曲がる。

そしてヤマワキが離れた直後、その亡骸は跡形もなく消滅していくのであった。

 

「…ホッ」

 

命の取り合いが終了した安堵感と極限の緊張感が一気にほどけた脱力感によってついつい出てしまったため息であった。

 

(人の命を助けられてよかった~)

 

気持ちを切り替えて、再び秋葉原観光に戻ろうとした直後。

 

「そこの君、動かないでください」

 

「え?」

 

黒いスーツ姿にメガネを掛けたアラサーくらいのこけた男性が一名。そして、そのすぐ隣にはヤマワキと同年代くらいの少年が一名。この年頃にしては珍しい白髪。それに………何か意味があるのだろうか、身に纏った制服の襟で口元を隠している。

両者ともに一般人とは違い、立ち姿や身に纏っているオーラが通常のそれではない。特に白髪の少年はヤマワキと似通ったような力の流れを感じる。単純な筋力とは違う、説明のしようがない力。ヤマワキが見てきたアニメ…そう、ト〇コで言うのならばそれは”食欲”などに変換されるだろうか。

…明らかに”見える側”といった風貌をしている。現にヤマワキを見る目が好奇心のそれではなく、出方を伺っているかのような刺々しい視線だった。あまりの視線の強さにヤマワキは気圧されてしまいそうである。

 

「え、えっと…俺がやってたこと見られてました?」

 

今にも攻撃され始めそうな空気感の中、タジタジになりながらもヤマワキは質問する。恐る恐るで喋るヤマワキには先ほどの怪物を討伐した時の気迫は微塵も感じない。

 

「はい、貴方が二級呪霊を払った姿はしっかりと確認させていただきました」

 

「に、二級呪霊…? なんですかそれ?」

 

ヤマワキとしては親ですら見えなかった怪異を知覚できる人間は初めてなので、喜びよりも驚きが勝っている。何ならぶっちゃけ自分にだけ与えられた能力であると思っていたのだが、そんなことはなさそうだ。それに関しては若干のショックこそあるが、そのうち落ち着くことだろう。

 

「呪詛師…ではなさそうですね。ひとまず着いて来ていただけますか?」

 

かなり視線が冷たい。もしかしたらヤマワキは自分がとんでもないことをしでかしてしまったのではないかという焦燥に駆られる。動物愛護的なものに反したのか、はたまた殺人的なことをやってしまったのか…。

 

「え、ちょっと待ってください俺なんも悪いことしてないですよ! そもそも秋葉原観光に来て人助けしてただけでそんな行けなかったことだって知らなくて…」

 

「…狗巻くん、お願いします」

 

軽くため息をついたスーツ姿の男性が指示をしながら耳栓を装着すると、襟に手を掛け、首元にまでそれを降ろす。その仕草によって白髪の少年の素顔が露わになった。ぱっと見ではあるが、口の周りと舌に黒いタトゥーのようなものが刻まれている。

…ヤマワキはやや不安を抱いてきた、あの人は本当に同い年なのだろうか。この年にして道を極めているということなのだろうか。

そんな推測をしながらも、ヤマワキはマシンガントークをいつまでもかまし続けていた。無限にも思える命乞いが混ざった弁明の最中、ヤマワキのけたましい声音を遮るように狗巻と呼ばれる少年が声を発した。

 

「眠れ」

 

「そんなんしゅらないんですよ! だからzzz…………」

 

その言葉には、きっと文字通りに言葉が現実になる能力が備わっている。

日本には言霊という単語が存在している。言葉には力が宿っていて、この狗巻と呼ばれる少年には言霊を極端にしたものが宿っている。きっと「眠れ」と言えば麻酔銃を撃たれた某探偵アニメのように一瞬で眠る上、もし「潰れろ」と言えばヤマワキはト〇とジ〇リーよろしくかの如くペシャンコになっていたのだろう。勿論、全対応かの如く融通が利くわけではなく、デメリットや上限が決まっている。

現にその発言を聞いたヤマワキは寝た。それもとんでもないスピードで。しかも信じられないほど呆気なく。なんなら戦闘によって蓄積した疲労感からか滅茶苦茶気持ち良さそうに熟睡している。

未だかつてヤマワキがここまで間抜けに寝顔を晒すことがあっただろうか。

 

…………多分この調子ならありうる。多分。いや絶対。

 

「未登録の人物です。恐らく一般家系の方でしょう。一旦高専で保護して話を聞きましょうか」

 

「しゃけ」

 

意外と重い肉体を車に運び込まれ、ヤマワキは秋葉原を後にしたのであった。

 




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