重く軋む木のドアを開けて今いる病室の外へ出る。
ただやはり外に出ても電光灯の一つすら付いておらず、窓の外を見れば真っ暗闇の夜が広がっていた。
「朝になるまで待つべきか……? いや……」
こんなところで朝まで待っていたら鼻がおかしくなりそうだ。
ただでさえ鼻を捻じ曲げかねないほどの異臭が室内に充満しているというのに。
それもその異臭の正体は周囲を見れば一目瞭然。全て血。若しくは腐った血の匂いだ。
床の至るところにぶち撒けられた血はどれだけの時間が経っているんだろう。さっきから歩いているが、革靴から血が滴ることは無く、木の床に染み込み、乾き切っている事が分かる。
「だぁー……まずは外だ外!」
一体何を推理しているんだか。俺は警察ではないし、検死官でもない。この状況の何かが分かった所で俺の得にはならない。とにかく今は外を目指さないと。
そうして廊下を歩くことしばらく経つと、俺は廊下の奥で聞き慣れない声を聞く。音ではなく何か獣らしい唸り声。あぁ、ついに獣様のお出ましってか?
俺は抜き足差し足で静かに廊下を渡り、その先が見える物陰にさっと隠れつつ様子を確認する。
「……ッ!?」
それは悍ましく、恐ろしい光景で、同時に凄まじい吐き気が襲ってきた。声を出したら殺されるという確かな危険察知に咄嗟に声を押し殺し、吐き気を抑えるために片手で口を塞ぐ。
なんなんだよあれは……!?
あんなのを俺は殺さなくちゃいけないのかよ!
俺の視界の先には確かに獣がいた。しかしその獣の姿は、体長大凡170〜80cm程あり、四足歩行。真っ黒な体毛で、四つん這いで唸り声を上げる。そして……恐らく人であったであろう死体を喰らっていた。
無理だ無理だ無理だ……!
あんなのもう人間よりでかいんじゃねぇか?
当然だろうが、俺はそこで足が竦んで動けなくなっていた。獣の視界に入らないように物陰に全力で隠れ、息を潜める。
獣狩りなんて言うから、人生初の狩猟体験かと思った。だけどそんな生ぬるい物じゃない。まるでゲームの中の化け物と対峙している様子を現実で見ているような物だ。
あんなのと戦ったら……確実に死ぬ。
俺はどっと冷や汗をかき始める。
これはやっぱり悪い夢、悪い夢なんだ。覚めてくれ、覚めてくれ、覚めろぉ……!
心臓の鼓動は外に聞こえるくらいまで高鳴り、俺は目を瞑って神に頼まんと両手を組んで必死に祈る。
しかし俺が祈る神は、怯える俺を嘲笑うかのように、たまたま近くにあった薬棚に置かれた瓶がずるりと落ち、恐怖で動けない俺の目の前で無情に砕け散った。
そうすれば、先ほどまで死体を喰らっていた獣の声に変化があった。俺は自分の死を察した。