悪夢の狩人に転生したら地獄しかない件   作:Leiren

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6.市街の人々

 俺はそれからギルバートさんの下を離れて、ヤーナム市街の奥を目指した。

 道のりは先ほど調べた梯子の下にあった正門へ続くように作られた下り坂と階段が所々あり、大通りに出た。

 

 大通りでは十人を超える住人が徘徊しており、どうか見つからないように進んでいたところ、俺はまた息を呑む。

 あの高く上がっていた炎はキャンプファイヤーなんて生易しいものではなかった。

 

 良く何を燃やしているのかと目を凝らせば、そこには既に真っ黒に焦げ、木に縛り付けられた人の姿があった。

 

「おいおいマジかよ……ここのやつら、こんなことまでするのか……」

 

 俺は死を超えるほどの致命傷を受けると狩人の夢で目覚める。

 しかしその条件はまだ一回目故に曖昧で、もしあのような永遠の苦痛を味わうのうな火炙りの刑なんて受けて、簡単に夢の中に戻れるのだろうかと危惧する。

 そう考えればまた背筋にぞわりと冷たい汗が伝う。

 

 だがそんな光景を目の当たりにするまで隠れながら進んでいたものの、どうやら見積もっても二十人は超えない人数が集う広場を無理矢理でも通り抜けなければならないことを察する。

 

 それは大通りの正面にさらに大きな大門があるのだが、それはがっしりと人一人では持ち上げられないような、巨大な門板でまるで、何者かの侵入を拒むかのように閉められており、連絡口から回り込む他が無かった。

 

 どうせ奥に進みたいなんてあの集団は許してくれる筈がない。

 だからといってこの人数を一人で相手するのは流石に骨が折れる。

 ならばどうするべきかと突き進む方法を思案する。

 

 そう唸って、唸り続けている。その時だった。バンッと何かが破裂する爆音に広場に視線移した瞬間、俺の心臓が撃ち抜かれた。

 

「あ゛ッ!? な、なんだ急に……ううう……」

 

 俺はあまりの激痛に地面に伏せる。

 不味い不味い不味い……! 動かないと殺される!

 

 しかし、まだ俺が生きていることを知ったのか。恐らく隠れている俺を見つけたのだろう。

 住人は鍬のような農具で、倒れる俺の背中を突き刺し、松明でその傷を焼き抉ることで追い討ちをする。

 

「ぐあ゛あ゛あ゛ああぁぁ゛ッ!!!?」

 

 ただ叫ぶことしか出来なかった。斧で体を裂かれるより、炎で焼かれる苦痛は計り知れない。

 しかし、まるでこのやり方は相手を殺すのではなく、苦しめる方法だと焼かれている間に判断する。だからといって最早俺に抵抗する力はなく、そのまま焼かれるだけだった。

 

 俺はまた狩人の夢で目を覚ました後、背中を火で焼かれた痛みが完全に消えていることを確認してから、すぐに墓石に触れてヤーナム市街へ戻った。

 

 それから俺はもう一つの決意を決める。この街の住人は誰彼構わず斬りかかり、殺そうとしてくるのだと。

 他所者の話を聞く耳など一切持たず、たとえそれが他所者でなくとも、彼らは『疑わしきは、罰するべき』という最早どうしょうもない考えを抱いている。

 

 ならばこちらも容赦は必要ない。ここでは正当防衛という言葉は存在せず、殺るか殺られるか。だけが命綱となるんだ。

 だから不意打ちでも良い。自分が殺されたくなければ、真っ先に斬るべし。

 

 もうそこに罪悪感は抱かず、殺意だけを向けろ。そう決めた。

 

 俺はそうと決まれば、ギルバートさんの家の前で目を覚ませば、すぐに住人が集う焚き火前まで行き、斧を両手持ちに切り替え、叫び声を上げる。

 

「うおおおおぉ! 全部掛かってこい!」

 

 その叫び声に当たり前に気付くのは、銃士二人組。俺に一切の躊躇い無く、間髪も入れずに引き金を引く。

 もうこんな所で撃たれる痛みで倒れてはさっきの二の舞だと、俺は構わず突進した。

 

「全員、そこを退けえええぇ!」

 

 両手で持つ長斧は、片手で持つより重量が上がっており、一振りするだけでも精一杯。

 しかし、思いっきり腰を低くしてから横薙ぎに。斧に重心を任せれば強烈な回転切りが正面から向かってくる男共を吹き飛ばす。

 

 長柄を持つ男には懐に潜り込んでから首を断ち。

 木の盾を持つ男には、力任せで盾ごと断ち切り。

 銃を持つ男には、わざわざ近づいて至近距離でぶった斬る。

 

 俺は次は次へと、合間に負う傷など気にすることなく、一人残らず敵対する男達を斬った。

 

「はぁっ……! はぁ……っ! よし……」

 

 仕事で着ていた黒スーツは、返り血で真っ赤に汚れ、血のキツイ匂いが俺の鼻を曲げる。

 だが何故かは分からない。その血の匂いがほんの少しだけ酒に酔う感覚を覚えさせる。

 

 ただ臭いから眩暈がする。という意味では無く、仕事帰りに缶ビールを一杯飲んだ時の美味しさ。楽しさがそこにはあった。

 まさか、俺がたかが人を数十人殺した程度でそれを楽しんでいるなんて口が裂けても言えない。

 

 さっきまでの罪悪感が嘘みたいじゃないか。たかが……数十人に殺した程度で……?

 

「は、はは……疲れが酷いな……何考えてんだ俺は……。思っていることが矛盾しているじゃないか……」

 

 俺は激しく首を横に振って雑念を吹き飛ばす。早く先へ進もう。

 

 焚き火の奥、大門の裏側へ行ける周り口を通ると、大門が封鎖されている理由が分かるそれがいた。

 それは到底自分と同じ人とは思えないほどの高身長と体格を持つ大男だった。

 目測するなら、約二メートル以上はある。若しくはそれよりもデカい。

 

 そんな化け物が封鎖された大門を唸り声を上げながら、片手に持つ大きな石で激しく殴っていた。

 

「ウオオオォ!」

 

 無視した方が良い。と思っても耳障りな程にドンドンドンッと扉を殴っており、大門が今にも壊れそうなくらいにガタガタと揺れるところから、相当な力があると背中姿からも分かる。

 

 出来れば無視したい。だが、こんなイカれた街で、物音を気にしない程には精神はイカれていなかった。

 だから不意打ちだ。そう考えてゆっくり、ゆっくりと男に近づく。

 

 しかし、最悪なことに気付かれてしまった。足元は石畳で、木の枝など落ちていなかったのに、物音一つ立てていない。化け物が扉を殴る音だけが響いていた場所で、背後からの接近に気づかれた。

 

「おい待て待て……」

 

「ウオオォア!」

 

 大男は俺に向かって全身全霊の突進を仕掛けて来た。

 こんな突進は避けられる気も、斧で受け止め切れるはずもない。

 だから俺は咄嗟に来るな! という気持ちで衝動的にもう片方の手で持っていた銃を撃つ。

 

 自ら近づいてくるなら、先手必勝だとも同時に考えていたが、この先に起こることは流石に予想出来なかった。

 

「うわぁああ!」

 

 バンッと火薬が炸裂する爆音と共に、大きな反動で俺の方が仰反るほどの力の後、小さな鉛だろうか? 弾丸を受けた大男は急激に突進の勢いを殺され、膝から体勢を崩す。

 

 そこで俺は今だと思い、斧で思いっきり大男の頭をかち割る。

 斧の刃は確かに男の頭蓋を割り、深々と突き刺さる。

 

 しかし男は今にも起きあがろうとしていた。

 

「はぁっ!? なんで死なねぇんだよ!」

 

 俺は慌てて斧を頭から引き抜き、すぐに後方へ下がる。

 ふざけやがって……! また死ぬのはごめんだ!

 

 そう次の男の攻撃が振り下ろされる時だった。

 もう一度銃声が俺より後方から鳴り響けば、男は膝を着き、俺の背後から黒い影が横切る。

 

「え……?」

 

 黒い影は黒い丸つば付き帽子に、分厚い短いコートを着ているだけしか分からず、黒い影は空かさず男の鳩尾を素手で抉り、臓物を外へ撒き散らした。

 そんな光景の一部始終を見れば結果は分かりきったこと。男は即死だった。

 

 ただ黒い影はどちゃりと倒れる死体を前にしばらく立ち尽くしていると、まるで獣のような目を俺に一瞬向けてから、何処かへ去ってしまった。

 

 俺はただ足が竦み、しばらく立つことは出来なかった。

 それは大男から感じた得体の知れない恐怖と共に、黒い影から睨まれた時に自分も殺されるという認識が頭を過ぎったからだ。

 

「な、なんだったんだ今の……」

 

 俺はなんとか身体を転がすようにして、腕の力で身体を持ち上げ、もう一度近くにあった壁に寄りかかり、一息付いた。

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