ふと発した言葉が思いの外、心に残る。
良い思い出から悪い思い出まで……言葉は難しい。
だからこそ発された言葉の解釈を広げることが何よりも大切。理解すればする程、きっと伝えたかった“
「まさか本当に来てくれるとはね」
「ひどいなー、鏑木さん。私をなんだと思ってるの?」
フォーマルな格好をした胡散臭い男と可憐な女性がカウンターで楽しそうに談笑していた。いつも思うけどこの人、なんでこんなに胡散臭いんだろう。と 彼女は内心でそんな失礼な事を思っていた。
「今をときめく大人気女優かな」
「ふふっ、お世辞が上手いね」
「本音さ」
「嘘ばっかり…。
本当は私より、アイさんに向けたい台詞でしょ」
「…そんなことないさ」
「どうだかね」
ピリピリと空気が悪くなる会話を変えるためか、ニコニコと笑顔作る女性はオレンジジュースを口に含み、息を整える。お酒を飲めないことから、この女性がお酒に弱いか、まだ成人していないかが大いに想像できる。
「それで…、何が目的?」
「話が早くて助かるよ。
今度の恋愛リアリティショーの事でね、君に頼みたいことがあるんだ」
頼みたいことか、一体なんだろう。恋愛リアリティショーに出演する際に条件は呑んでくれたし… 一つくらいは乗ってもいいか。そんなことを思考しながら女性は口を開いた。
「頼みたいこと?」
「そう、頼みたいこと。
千世子君に面倒見てもらいたい子がいるんだ」
「面倒ね… 私はお世話係じゃないよ。
それに人に教えるのそんなに得意じゃないし。それでもいいの?」
「構わないさ。
君の近くで学ぶだけで大きな経験値になるからね」
「…ま、いいか。いいよ。少しだけなら見てあげるよ。それに鏑木さんがそこまで気に入ってる子ならちょっと興味あるし」
「君にそう言ってもらえると助かるよ。
早速だけどその子、今度の恋愛リアリティショーに出るからよろしくね」
「あー、そういうことか」
鏑木さんも中々の策士だ。こんな人柄だからこそ、この業界で生き残っていけるんだろう。それにしても鏑木さんのお気に入りか… どんな子なんだろう。顔がいいの間違いないんだろうけど、鏑木さんのお気に入りって性格がアレな子が多いからなー と千世子は内心で思考していた。お洒落なお飲み屋で場違いな考えだが、千世子はそう考えずにはいられなかった。
「あー!もー!頭では分かってるのに!
どうして私はいつもこー!!!!」
私の名前は有馬かな。今をときめく人気女優……ではなく、今じゃなんの取り柄もない元天才子役と呼ばれた女優。小さい頃は天才と呼ばれ、皆がチヤホヤしてくれた。でも…… 才能なのか、世間の気まぐれか、或いはもっと努力をするべきだったのか、どんな物でもいつか必ず飽きられる。…一部の天才を除いて。
今ではネットでオワコン子役と呼ばれ、小学生の時点で既に終わってしまった私だけど地道にこの業界で足掻いて、人生の殆どを芝居に費やした結果が……。
「なんでアイドルなんかー!!!!」
目の前に広がる契約書に印鑑を押し、もう既に後戻りできないとこまで来てしまった。流された自分がいけないのは分かってる。だけど、この選択に後悔はしていない。多分……いや、絶対。そう有馬かなは心の中で叫んだのである。現実逃避…これが一番近いのかもしれない。
「貴方たち…… 本当に真っ当な手段で連れてきたんでしょうね?」
「真っ当に連れてきたに決まってるだろ。有馬かなは共感力が強く、押しに弱い、それに性格上、泣き落としやゴリ押しが有効かなと思って試してみたら案の定だっただけ。真っ当な人読みをしただけ」
「はぁ…… 聞いた私がバカだったわ」
「まぁ、そう言ってやるなよ。
アクアとルビーのおかげでアイドル活動がふっ───「貴方は黙ってて」…はい、申し訳ございません」
この事務所、どっちが社長なのか分からなくなる。社長夫人のミヤコさんと、社長…… にしてはかなりあっち系な見た目の斉藤壱護さん。
にしても私をアイドルに誘った星野兄妹はなんと言うか───
「おー、やってるやってる」
事務所の扉が突然開くと、そこには───
「アイ、貴方またふらふらと… どこ行ってたの?」
「まあまあ、ミヤコさん!気にしない気にしな〜い」
「ちょっとは事務所の看板女優として自覚を持ってちょうだい」
「はいはーい!
あー!君がルビーと一緒にアイドルやる子!!!」
「はぁ… 全然聞いてない」
近い… ずいっと顔を近づけてくる元天才アイドル、アイ。覚えてなんていないだろう。昔、小さい時に一緒に仕事をしたことなんて… あの頃は我儘で自分本位の芝居しかしなかった私に、少なからず影響を与えたなんて…
「にしても随分大きくなったね〜!」
なんで……
そうか、きっとこんな人だからこの業界で名を上げているんだろう。
羨ましい。自然と自分の醜い感情が湧き上がってくる。他人のことを気にする位の余裕のある貴方が“羨ましい”───
それでいてちょっと嬉しいとも思ってしまう。まだ私の事を気にしてくれる人がいることが何よりも嬉しいと……
……“俳優は大衆のためにあれ”か。
大勢のために己を殺して、大衆が求める“もの”を演じる。
だけど私はそんな窮屈な芝居なんかしたくはない。輝いている私をずっと見ていて欲しい。そんな願い、叶うことなんてないのに。
アイツに言われた言葉。きっと“コレ”ができるからこそ、この目の前にいる人は人気なのだろう。
「覚えてて…くれたんですか?」
「うん!もちろんだよ!
……分かってた。覚えてるはずないって。けど…けど!
惜しい!惜しいけど!全く漢字違うし!だとしてももうちょっと他の間違い方あっただろうが!
「あ、あれ?あはは。違かったけ?」
「有゛馬゛です!!!」
「あー!そっか!有馬さんか!あはは」
ゼェゼェ、と肩で呼吸する有馬に対し、有馬の大声でオロオロするアイ。
そのすぐそばで腹を抱えて笑うルビー。
そのまたすぐそばで少し下を向いて笑うアクア。
壱護とミヤコに関しては顔を伏せ、やってしまったと手で顔を押さえていた。
すると収集のつかない漫才じみたやり取りをしていた2人を救う為に来たかの様に、天使が舞い降りたのだった。
また誰か来た。有馬かなはそう内心、思考しながら扉が開いた方に顔を向けるとそこにはセーラ服を身に纏った百城千世子がいた。
「なに?私は除け者?悲しいなー」
ニコニコした笑顔で千世子はそう告げた。
前言撤回、天使ではなく、天使の笑顔をした悪魔がそこにはいた。
「千世子までやめてちょうだい」
「冗談だよ」
「遅かったな、千世子」
「ちょっとカントクがゴネちゃってね。
…あの人非常勤講師の癖に、我儘なんだよね」
「…非常勤講師?」
「あれ?アクア君カントクから何も聞いてないの?」
「何を」
「あの人、懐が寂しいからって今年の春から阿佐ヶ谷芸術高校映像科の非常勤講師になったんだよ」
「チッ、だから最近何かと俺への仕事の量が増えたのか。
……後で仕返ししてやる」
なんとも酷い会話だ。だけどおかげで元天才アイドルへの怒りは冷めた。
「はぁ… やるだけやってみるか。…何かしらのカンフル剤は必要だったし。元天才子役が、元天才子役のアイドルになっただけだし。それに、ここにいればアイツらから何か盗める技術があるかもだし。」
「自分を慰めるのに必死だね。先輩」
怒りは冷めた。だけどこの後輩はなんでだろう。凄いムカつく!
「はぁ!しばき倒すぞコラ!」
「冗談だよ。先輩」
「冗談に聞こえんわ!」
不思議。どうしてだろう。こんなにムカつくのに凄い嬉しい。
私を私として扱ってくれることが…
多分、役者としての賞味期限はとっくに過ぎてる。でも今はこの経験を活かしてまた返り咲いてやるってやる気も湧いてくる。それにここには私の求めてる答えを持っている才能達が集まってるから、ここでそれを盗んでまた、もう一度…この手で人気役者としての栄光を掴んでやるんだから!
そうすればきっと…また───
目の前で星野アクアと真顔で会話する百城千世子を見ながら、有馬かなは心の中で決意を固めたのだった。
「…はぁ、まぁいいわ。
で、アクアと千世子って次の仕事とか入ってないの?」
「…う〜ん。あるにはあるけど……」
「なんか渋い顔ね…」
有馬は、ルビーにアクアと千世子の次の仕事を聞くと、ルビーは渋い顔しながらパソコンの画面に映つる広告を有馬に見せる様に向けた。
見せられた広告に驚いた有馬かなの大声が、事務所に響く。
そこに映っていた広告の内容は───
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「千世子。何か買いに行かないか」
「奇遇だね。アクア君。
私もちょうど同じ事考えてた」
「ちょっとあんた達待ちなさいよ!」
※おまけ
千世子「もっと早く走らないと有馬さん追いついちゃうよ」
アクア「うるせぇなッ。コレでも全力で走ってるよッ」
かな「待てやコラ!」
千世子「ほら、もう追いついて来ちゃった」
アクア「有馬もなんであんな早いんだよ!」
千世子「アクア君が遅いだけだよ」
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久々に書きました。もし待っていた方がいらしたら、すみません。
最近、フ⚪︎ーレンを観ていたらこっちの方を忘れていまして… 目移りが激しいと… あはは。
てな訳でやっと指先を恋リアに突っ込ませられました。正直、次の話まで有馬かな回にしようかとか考えていたんですけど、なんだか脱線しそうだったので辞めました。でもいつかまた、きっと何処かで有馬かな回が書けると良いなとか考えています。
それでは、もし宜しければ感想や評価を頂けると励みになりますので、どうぞよろしくお願いします。