天使の子   作:ぺてんし

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人は必ず死ぬ。
けれどそれは誰かの血肉になっていく。
だから別れの言葉は“さよなら”じゃなくていい。


第四話 死への旅

 

 

 

 

 

「主演ジョバンニに姫川大輝をやらせるのは分かるんですが…、その友人カムパネルラに百城千世子を当てるのはどうかと思うんですけど…カムパネルラだって主演ですし…、この舞台…本当に大丈夫なんですかね?」

 

1人の男が呟く。その声に反応したのは、少々小太りなちょび髭を生やした男だった。

 

「さぁな…、たしかに姫川大輝は舞台歴は長いし演技力もずば抜けてる。それに比べて百城千世子は舞台歴はゼロ…おまけに上っ面の演技しかしねぇ…、正直見る価値なんてねぇよ。だけどな───あの劇団ララライの金田一敏朗がわざわざ、主演に百城千世子を抜擢したんだ…きっと何かしらあんだろ」

「そうだと良いですけどね…、俺にはただ人気女優を使って舞台の認知度を広げようとしてるようにしか見えないですけどね」

「まぁ、つべこべ言わず…見てみようや。話はそれからだ」

 

男たちの会話が終わるのと同時に客席を照らすの光が徐々に暗くなっていく。

こうして、期待と不安に包まれる舞台が今、始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───楽屋A

 

 

「ヒカルさん、今更だけど何で私を金田一さんに勧めたの?」

「何のことですか?」

「しらばっくれなくて良いよ。劇団ララライが主宰の舞台…しかも主演。いくら壱護さんでも、掻っ攫って来れるわけないじゃん」

「……酷い言い草ですね」

「うん?で、どうなの?」

 

彼の目を見つめる。そこにあるのは暗く輝く黒い星。いつ見ても不気味で…それでいて何処か悲しみと怒りに満ちている目。いくら見つめても何を考えているか分からない。

 

「そうですね…千世子さんを薦めた理由ですか…」

 

顎に手をやりしばし考えているみたい…普通、すっと出てくるものだと思うけど。

 

「シェアウォーターとギーナチョコレートのCMに出ている千世子さんの演技を見て、興味を持ったから…と言う理由ではダメですか?」

 

やっぱりこの人は嘘吐きだ。たしかに興味を持ってるみたいなのは本当みたいだけど、この人の興味の対象は私じゃない。憶測だけど…きっと私を通してアイさんを見ている。あの時の黒山さんが私を通して夜凪さんを見ていた様に…それが何だかムカついて…だから私も嘘を吐いた。

 

「ふーん、そうなんだ。

じゃあ、その“期待”に応えてあげるよ」

「はい。期待していますよ」

 

彼の嬉しそうで、残酷な笑顔を見ながら椅子から立ち上がり、そのまま廊下に続く扉まで歩き手をかける。5秒程だろうか…動きを止めた私を、彼はきっとキョトンとしながら見つめているだろう。そこで私は一つ言い忘れていた事を呟いた。

 

「あのねヒカルさん。残念だけど…

今日だけ、私は天使を捨てるから」

 

声は聞こえない。きっと少し驚きながら笑っているのだろう。付き合いが長いから何となく分かる…それとちょっぴり怒ってもいるとも思う。ああ、やっぱり…【彼】と【彼女】は凄く、似ている。

 

 

 

 

 

 

──

 

───

 

 

“ほんとうのってなんだろう”

 

自然と口から洩れる。

少しの沈黙と自身の手に持つ切符。

 

そうだ…

これからぼく(わたし)は汽車に乗らないと───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───舞台、銀河鉄道の夜 3ヶ月前

 

 

 

 

 

俺の名前は姫川大輝。自分で言うのも何だが、そこそこ売れている役者だ。

 

「オッサン、何でカムパネルラ役が黒川じゃないんだ?黒川のやつかなり拗ねてたぞ」

 

まぁ、俺の知ったことじゃないんだけどな。それでもわざわざ外部の役者を使ってまでおっさんが舞台をやる理由が気になる。

 

「ああ、それな…、俺も出来ればそうしたかったんだが…

アイツがな…、あはは」

 

アイツ?誰だか分からないが、おおよそオッサンは飲みつぶれた時に話を持ちかけられて承諾しちまったんだろう。

 

「で、これからくる奴の名前は?」

「……百城千世子」

 

マジか…、知名度で言ったら俺の何十倍も上だ。

それにしても百城千世子か…以前、映画で見たが作品に寄り添うと言うより、その時々で大衆が求めるイメージをそのままに作品にする印象が強い…それに役の感情を一切掘り下げない。

 

よく言えば自身の魅力を最大限に活かして表現しているとも捉えられる…悪く言えば上っ面の演技とも捉えられてしまう。それでも百城千世子の技術は異常だけどな。

 

だが正直、舞台で活躍できるとは到底思えない。たしかに映画やドラマじゃ百城千世子は一級品だが…舞台では舞台ならではの映り方や役作りがある。それを考えたら黒川の方が圧倒的に舞台映えするはず…それを知っててオッサンは百城千世子を選んだ…分かんねぇな。

 

まぁ、オッサンなりになんかあんだろ。

 

「悪いな、姫川」

「謝るなら、俺じゃなくて黒川の方だろ」

 

俺の言葉を聞いたオッサンは少しため息を吐き、何処か朧げに口を開いた。

 

「それもそうだな…」

 

オッサンから放たれたその台詞は何処か揺らいでいた。すると

 

 

 

───ガチャ

 

 

扉が開く音がして俺はそこを見つめる。そこにいたのは…今まさに話題に上げていた人物だった。

 

肩口で綺麗に切り揃えられた青みがかった黒髪にスタイル抜群の体格。誰が見ても綺麗と声をこぼす端正な顔立ちをした少女、黒川あかねである。

 

黒川の顔を見て俺は今朝、黒川が泣いていたのを思い出す。なんというかどう声をかければ良いのか躊躇ってしまう。でも声をかけないのは気まずいしな、と思いながら扉の前で立っている黒川に声をかけた。

 

「黒川…今の話k「千世子ちゃん来ましたか!!!」……は?」

 

待て待て…何でそんなに嬉しそうにしているんだ?それに今朝泣いていたのは役を取られたからなんじゃないのか?……ヤバい、理解が追いつかん。とりあえず黒川に事情を聞くのが最優先事項なのはこの場ではっきりした。

 

「おい、黒川」

「何ですか?姫川さん」

「お前、百城千世子に役を取られて今朝、泣いていたんだよな?」

「?…違いますよ?」

 

“何言ってんだお前”みたいな顔して、なぜ俺を見る。その顔をするのは普通俺の方だろ…それにこれじゃ俺が間違っていたみたいじゃないか。…人一倍負けず嫌いな黒川が役を取られたら悔しがると普通思うだろ。

 

「姫川さん、今朝私が泣いていたのは……あの百城千世子ちゃんに会えるのが楽しみで感極まってしまったからです!!!」

 

…会えるのが楽しみで感極まって泣いた?まさか黒川がそこまで百城千世子にゾッコンだったとは知らなかった。だとしても役を取られるのは悔しいと思うけどな。

 

「いや、でも役を取られるのは悔しいだろ」

「……たしかに役を取られるのは悔しいですが…これで恩が少しだけ返せるのなら…私としても嬉しいです。悔しいですけど

 

最後の一言で台無しだな。にしても面識があったとは世間は中々狭いもんだ。

 

「恩返しって一体何してもらったんだ?」

「それはですね…実は昔───

 

 

 

 

初めてテレビ中で演技する天才子役のかなちゃんを見て、心を動かされたのを今でも覚えている。

 

元々は引っ込み思案で人見知りで怖がりで何にも出来ない私がかなちゃんみたいな存在に近づくことなんて出来ないと思ってた。毎日毎日、かなちゃんが出る番組を見てるときだった。

 

「あかねは本当にかなちゃんが大好きだな。

そうだ、あかねも演技やってみるか?そしたら、かなちゃんとお友達になれるかもしれないぞ?」

 

そのお父さんが放った言葉で、今思えば演技をやるキッカケになったのかもしれない。あの時はただ…かなちゃんとお友達になれたら幸せで死んじゃうとすら思っていた。それから、かなちゃんみたいになりたくて、たくさん頑張って、かなちゃんに近づくために、それを目標に……本当に大好きだった。

 

初めてかなちゃんに会った…あの日までは。

 

 

───オーディション会場。

 

 

この日のために、私はかなちゃんと同じ髪型して、それからお揃いの帽子を買って気合を入れ、オーディションに挑んだ。

会場に着くと、お母さんはすぐに知り合いのお母さん達とお喋りをしに行った。時間が余った私は、会場に来る前にお父さんがこっそりとくれた少量のお金で飲み物を買った。だけどその飲み物の蓋が中々開かなくて苦労した時だった。

 

「貸して、かなちゃん」

あっ ありがとうございます…あっ えっと わたしはかなちゃんじゃ……

 

1人の男の人が私に声をかけて、飲み物の蓋を開けてくれた。でもその人は私の事をかなちゃんだと間違えていた。そこまでは良かった。だけど次の瞬間に男の人が言った言葉があの頃の私には理解できなかった。

 

「かなちゃん緊張してるの?安心して、かなちゃんを選ぶ事はもう決まってるしね。それに…これ、形だけのオーディションだから

……え?

「だからかなちゃんはリラックスして……「私がどうかしたの?

 

理解のできない話を聞いていると、いきなり扉が開いた。そこに立っていたのは、赤みがかった綺麗な黒髪の端正な顔立ちをした美少女…ずっと憧れていた本物のかなちゃんが目の前に現れたのだ。あの時は嬉しすぎて気絶してしまうのではないかと思うほどだった。でも気絶しなかったのは、先程男の人が言っていた事が気になったからだったと思う。

 

かなちゃんほんもの…

「ん?」

「えっと……、わたしかなちゃんのファンで……」

 

かなちゃんと面と向かって話すのが恥ずかしくて、帽子で少し顔を隠しながら話した。

 

「…みたいね」

 

この時、かなちゃんはどんな顔をしていたか覚えていていない。でも声色は少しだけ、気落ちしたものだったのはたしかだ。

 

「えっと…あはは。……あのね、かなちゃん。あの男の人、変な事言うんだよ?このオーディション…かなちゃんを選ぶ事はもう決まってるって……」

「……ふぅん」

「何かの間違いだよね?かなちゃんはそんなずるしないよn「してたらなんなの」…え?」

「知らないなら教えてあげる。こういうのを出来レースって言うの。一応オーディションしたって体裁で箔を付けるけど、本当は最初から私を選ぶ事も全部決まってるのよ」

「かなちゃんはそれで良いの?」

「良いに決まってるでしょ。仕事、貰えるんだから」

「でも!オーディションって良い演技をした人を選ぶものでしょ?演技を見る前から……「分かんない子ね

「こんな端役そこそこ演技出来てれば誰でも良いの!だったら知名度ある私を使うのは普通の事!要は大衆が求めていて!お金になるかどうかだけ!良い演技する子役より、有名な子役を使う方が視聴率取れる…だったらそっちの方が良いでしょ!演技なんて…演技なんてど───でも良いの!

 

この時のかなちゃんに私は唖然としていたと思う。ずっと何か背負ってそれでも足掻いているその姿に同情もしていたと今思えばそう思う。でもその頃の私には分からなかった。

 

「ちがうよ…ちがうでしょ?かなちゃんは本当はそんな事思ってないでしょ?演技がどうでも良いなんて…だってかなちゃんは──「わかった様な事…」

 

「何よ…その帽子。馬鹿みたい!」

 

かなちゃんの声がするや否や目の前が暗くなって、それがかなちゃんの手だと気づいた時にはお揃いだった帽子は地面に叩きつけられていた。そのままかなちゃんは勢いに任せて吐き出す様に放った言葉は今だに私の心の中に残っている。

 

 

 

私はアンタみたいなのが“一番”嫌い

 

 

 

この言われた言葉が悲しくて悲しくて、この日のオーディションを私は受けなかった。当然だけど落ちた。日が落ちてきた頃、オーディションを受けた子たちが一斉に会場から出てきた。ずっと泣いていたから、他の子たちに顔を見られるのが嫌で…顔を伏せていると、1人の女の子が私に話しかけてきたのだ。

 

「ねえ、君。大丈夫?」

……大丈夫

 

凄く優しく話しかけてくれる声の方に顔あげるとそこには“天使”がいた。本当に同じ人間とは思えない位綺麗で、それでいて人間みがなかった。そんな子に泣きべそを見られて恥ずかしく目を擦る。

 

「駄目だよ。役者なんだから、綺麗な顔を台無しにしちゃ」

 

天使は私にそう言うと綺麗なハンカチで目元を拭いてくれた。そのハンカチからは、凄く良い匂いがした。

 

 

 

 

───って事があったんです」

「は?」

 

ちょっと待て…今の話で何がどうして黒川が百城千世子の事を泣くほどゾッコンするまで至ったのかが分からん。て言うか、話の内容的に元天才子役の有馬かなへの想いの方が強かったよな?

 

「いや、意味わかんねぇよ」

「何がわか「へぇ、私の話?」…ち、ち、ちよ…千世子ちゃん!!!」

 

へぇ、いつの間に入ってきたんだ?それにしても変な奴だな。顔は笑ってるのに全く感情が表に出ていない。これが所謂、天使の芝居ってやつか。おもしれぇ役者だな。……黒川、それと普段のお前はどうした?

 

「うん。初めまして『苺プロ』所属の百城千世子です。これからよろしくお願いします」

「こ、こここちらこそ!『劇団ララライ』の黒川あかねです!」

「あー、うん。同じく『劇団ララライ』の姫川大輝。よろ」

「あの!千世子ちゃん!これから千世子ちゃんって呼んでもいい!?」

「うん。もう呼んでるね」

(前にもこんな事があったような……)

 

「やっと来たか」

 

オッサンの声に俺たちは一斉に顔を向ける。なんだか嫌な予感がするのは何故だろうな。オッサンの顔がキレ気味だからか?

 

「おい、百城」

「はい。なんですか金田一さん」

「お前、何しに来た」

「何って…お芝居だよ?」

「芝居か…なら、今ここでやれ。

お前は今、汽車の中にいる」

「私を試すつもり?」

「さぁな」

 

ふぅん…面白い、エチュードか。これである程度、百城の力量が測れる。これで力不足ならカムパネルラは黒川になるな。

 

「いくらなんでもいきなりは!」

「黒川、まぁそう言わずに見てみようぜ。百城もオッサンもやる気みたいだしな」

「それはそうですけど……」

 

心配か…さっきの話でなぜそこまで黒川が百城の事を気にするのか、いまいち分からないが、それでも人一倍演技にうるさいお前だからこそ、今から行われるエチュードの厳しさに困惑してるんだろうな。まぁ舞台で通用しない演技力じゃなければどうにかなるだろ。と、思いながら俺は百城の方へ顔向けた。だが、そんな考え事がどれほど愚かだったか俺は知る事となった。

 

 

 

───ガタン ゴトン

 

 

 

音が鳴った気がした。

 

百城がパイプ椅子に座って明後日の方向を見ているだけなのに、景色が汽車の中にいる様に見える。ははは、冗談だろ?なんだこれ、あまりにもリアル過ぎる。仕草や雰囲気。それだけじゃない微弱だが身体が揺れている。多分これら全てが重なって本当に汽車の中にいる様に感じるさせるのかもしれない。

 

「……もう…いい」

「もういいの?」

「ああ、合格だ。恐れ入ったよ。まさか“アイツ”みたいな演技をしてくる奴が現れるとはな……アイツが薦めてきた理由が分かった気がしたよ」

「そっか、なら良かったのかな?」

 

まさに天才。子役時代からこの地位を守り続けてきたのは伊達じゃないってか?おもしれぇ奴が世の中にいたもんだな。……そんなことより隣で気絶してる黒川どうすっかなぁと思いながら、これから始まる舞台を俺は少し楽しみにするのだった。

 






※おまけ

アクア「なんでわざわざ海に来たんだ?」

千世子「アクア君。これから溺れている子探すよ。それで助けて私が溺れる。そしたら気を失うまで助けないでね」

アクア「は!?ちょっと待て!なんだアイツ足早すぎんだろ!ここ砂浜だぞ!」

───数分後。

千世子「ねえ、アクア君。まだ私、溺れてないよ?」

アクア「ああ、そうだな。だからこれから帰る」

千世子「…分かったよ。じゃあ、帰るなら汽車に乗ろうよ」

アクア「まぁ、それ位ならいいか…」

その後、何名かの乗客にバレ、サインをした千世子だった。

千世子「サインするのもスターの仕事だよね」

アクア「……」


────────────────────────




あかねちゃんが暴走。
姫川さんのSAN値がピンチに。
千世子ちゃんと???の演技が同じ!?

次々回にやっと本編に入れると思います。
プロットも決まったので頑張りたいです。

次回の更新は1週間後です。
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