ホロライブのスタッフを辞めて、にじさんじのスタッフになるお話   作:主義

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惹きつける魅力

 

「はぁ…やっと終わったぁ…」

 

僕は椅子の背もたれに寄り掛かりながらそんなことを呟いた。

 

今日のうちにどうしても終わらせたかった仕事があったので残業をした。周りを見渡すとまだ残業している人もいたりする。その中に僕がよく話す人がいた。

 

このまま帰ったとしてもやることないし、手伝えるんであれば何か手伝おう。

 

 

「手伝いましょうか?」

 

 

「あ…大丈夫ですよ。今日ぐらいはしっかり休んでください。いつも先輩に頼るわけにはいかないので」

 

この子は僕よりも年下。だけど僕よりも前に入社しているので僕の方が後輩にあたるんだけど、この子は僕のことをずっと『先輩』と呼んでくる。

 

まだこの会社に入ってそこまで経ってないけど、この子がどんどん成長しているのが肌で感じられる。ここは…あんまり余計なことをせずにした方がいいかな。

 

「じゃあ、僕は先に上がります」

 

 

「お疲れ様です!」

 

 

「うん、お疲れ様」

 

 

 

 

 

 

事務所を出て、外に出ると冷気が襲ってくる。

 

「さむ!」

 

この時期になると家に着くまでが地獄。もう夜なので気温も低いし。

 

するとある少女が近付いてきた。

 

僕のところまで来ると彼女は小さくお辞儀をする。僕もそんな彼女につられてお辞儀をする。

 

この少女は安土桃さん。安土さんはにじさんじSEEDsの1期生として活動している。絵を描くのがとても大好きな人という印象がある。

 

 

「こんな時間にどうされたんですか?」

 

 

「ちょっとスタッフさんとお話をしたいと思いまして…」

 

 

「僕と?」

 

 

「はい」

 

今はまだ12月。外は防寒具を備えていたとしても凍えるような寒さ。そんな中で安土さんが待ってくれていたのかと思うと申し訳ないような気持ちになる。

 

 

「それならこんな寒空に待つんじゃなくて事務所で待っていて欲しかったです」

 

僕を待っていた所為でライバーさんが風邪を引いたりしていしまうのは避けたいので。僕たちスタッフの仕事はライバーさんが活動をしやすいようにすること。

 

 

「ごめんなさい、でも、スタッフさんを待っている時間も楽しかったですよ」

 

そう話している時の安土さんは寒空の中でも変わらない…可愛い笑顔だった。

 

 

 

 

そして僕と安土さんはお互いに最寄り駅まで歩き出す。安土さんと話すことは何度かあるものの、二人きりで帰ったりするのはもちろん初めてなので少し緊張する。

 

「スタッフさんってお時間ありますか?」

 

 

「この後ですか?」

 

 

「はい」

 

この後か…。明日も普通に会社はあるからなるべく早く帰りたいという気持ちはあるけど…。

 

 

「大丈夫ですよ」

 

 

「そ、それなら…これから桃のお家に来てくれませんか!?」

 

僕はその問いに対してすぐに答えられなかった。だってそんなことを言われると微塵も考えていなかった。でも、安土さんの方に視線を移すとそこには僕の答えを今か今かと待っている、安土さんの姿があった。

 

たぶん、安土さんのことだから何か考えがあるんだと思う。それでもライバーさんの家にスタッフが行くというのはさすがんび躊躇う。もちろん何もする気はないが、どこで誰が見ているなんて分からないし。

 

 

「その理由を教えてくれませんか?」

 

 

「…絵を見て欲しいんです」

 

 

「絵ですか?」

 

 

「はい」

 

 

「でも、僕は絵の専門家とか得意じゃありません。たぶん僕が見ても安土さんのためになるようなアドバイスを上げられないと思いますよ」

 

 

「それでも私の絵をスタッフさんに見て欲しいんです」

 

そう言っている時の安土さんの表情と目からは必死さというものがあった。ここで断ったら…男としてだめだ。

 

 

「分かりました。安土さんの絵を僕に見せてください」

 

 

 

 

僕は安土さんの家に行くことになった。安土さんの家まで歩いている間は安土さんが絵を描き始めた理由や僕の近況などを話した。

 

 

 

 

 

 

 

 

家に着くと僕はリビングに案内されて、安土さんは飲み物を用意するためにキッチンの方へと向かっていった。

 

 

僕がライバーさんの家に入るというのは初めての経験。いや…ホロライブの時は色々とあったけど、にじさんじで働くようになってからは初めて。本当はあんまりライバーさんに言えに上がるとかはよくない。それは自分でも分かっているつもり。でも安土さんからあんな風にお願いされたら断れない。

 

「はい、紅茶です」

 

 

「ありがとうございます」

 

僕はここで一つ聞いてみたいことがあった。ここまで来てしまったが、安土さんとはそこまでお話をする機会もなかった。それなのになぜか安土さんは事務所の外で僕のことを待っていた。

安土さんであれば同じライバーの方に相談した方がたぶん良いと思う。

 

 

だから僕に相談してきたのには…なにか理由があるはずなんだ。

 

 

「まず、なんで僕なんですか?」

 

安土さんはピンと来ていないような顔をしていた。

 

 

「いや僕以外にも安土さんの周りにはたくさんの人がいるじゃないですか。その中でなんで僕が選ばれたのかなって」

 

 

「あ、それはスタッフさんがと褒めてくれたので」

 

 

「褒めた?」

 

 

「はい、初めてスタッフさんと会った時にこう言ってくれたんです。『安土さんの絵ってとっても可愛いですよね』って」

 

 

「言いましたね」

 

正直忘れていたけど、初めましての時に絵を褒めたと言われればそんなことをした記憶もある。やっぱり最初は少しでも相手に警戒心を解いてもらうために、相手の好きなこととからを話しをして広げていった。

 

 

「私はそれがとても嬉しかったんです」

 

 

「で、でも…それだけで……?」

 

 

「はい、私はそれでスタッフさんに絵を見てもらいたいと思ったんです」

 

 

「そうなんですか…」

 

それから安土さんはどこかに消えていき、一分もしないうちに一枚の紙を持って帰ってきた。

 

 

「これを…見てください」

 

その髪を手渡されて目を通してみると…それは一枚の絵だった。その絵は一人の少女が描かれていた。

 

 

 

 

 

 

「…すごいですね」

 

僕が絵を見て最初に思ったのはそれだった。『可愛い』とか『キレイ』とか色々と言いたいことがあるけど…やっぱり全て生じて『すごい』だった。

 

前に見た絵よりも確実に上手くなっている。そんなことを言うとちょっと上から目線になっちゃうけど…。

 

 

「安土さん、これはすごいですよ!」

 

 

「そ、そうかな?」

 

 

「すごいです!!」

 

今までSNSに上がっている絵で『キレイ』とか『可愛い』と思うことはあった。でもこれはちょっと違うように感じる。まあ、僕は美術の方の知識があるわけでもないので、僕が言っても全然説得力はないと思いますけどね。

 

 

「もう…すごい以外の言葉が出てこないですね」

 

 

「そんなにかな?」

 

 

「安土さんはもっと自分の絵に自信を持っていいと思います。こんな絵を書けるんですから!」

 

 

「なんか…スタッフさんからそんな風に言われると嬉しい」

 

 

「いや僕ぐらいの言葉じゃこの絵の良さがあんまり伝わらないと思いますが、すごいです!」

 

もっと美術に精通した人であれば上手い褒め方というのを知っているのかもしれないけど、僕にはないので『すごい』としか言えない。

 

 

「やっぱりスタッフさんに褒められると嬉しい」

 

 

「そうですか?」

 

 

「うん、やっぱりスタッフさんは隣に居てくれるとすごく心強い人ですよね」

 

 

「…そうですか?僕的にはそう思いませんが」

 

 

「ううん。スタッフさんはどんな時でもネガティブなことを言わないですし、たくさん褒めてくれますし。やっぱり人に褒められると次への活力がどんどん湧き出て来るんです」

 

少しでも安土さんの力になれたんだとしたらそれは嬉しいこと。

 

 

「正直なことを言うとスタッフさんに褒めて欲しかったって言うのもあったんです」

 

 

「え、そうなんですか?」

 

 

「はい、スタッフさんはいつも褒めてくれるので。いつも頑張ろうと思えるんです」

 

 

「そうですか。安土さんの力になれたんだとしたら良かったです」

 

僕なんかの力で安土さんが自身を持ってくれるんであれば嬉しい限りだ。

 

 

「あ、あの…迷惑じゃなければ…これからも……」

 

 

「いいですよ。僕も安土さんの絵を見たいですし」

 

 

「ほ、ほんとですか?」

 

 

「はい。僕は安土さんが描く絵のファンなので」

 

何より安土さんの絵には人を引き付ける魅力があるように感じる。見るものを魅了するような…特殊な力が。

 

 

 

これからも安土さんはたくさんの絵を描くと思う。

 

そしてその絵は多くの絵を魅了していくことだろう。

 

 

 

―――――――――――

 

 

???

 

 

 

 

一人の少女はペンタブで絵を描いている。

 

だがその手は止まっていて…急に涙を流す。

 

「なんで…わたしのことを」

 

普段の彼女を知っている人が今の彼女をみたら…絶対に心配するだろう。それぐらいに今の彼女はとても不安定。

 

 

 

 

 

彼女が書いているのは…ある男の笑顔。

 

 

 




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