別れ   作:主義

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『年月』


百鬼あやめ編

 

余は年を取らないのに…人間様はどんどん年を取っていく。人間様が年を取っていく姿を一番近くで見ているのは辛い。余も一緒に年を取りたい。人間様と一緒に………。

 

 

鬼と人間が同じ時間を共にしていればいつか後悔をすることは分かっていた事。

 

 

 

「人間様~」

 

 

「ど、どうしたんですか?」

 

 

「いつまでも余と一緒にいような」

 

 

「そうですね。僕の命が朽ちるまでずっと一緒にいましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…人間様、着替えをしような」

 

人間様は少しずつ体も思い通りに動かなくなってきて、もう一人じゃ着替えすらも出来なくなった。それでも余は人間様のことを支えていく。

 

だけど、時折、怖くなることもあって…人間様もいつかはその命が朽ちてしまう日が来る。これは決められたことで変えようとしても変えられるものではない。それは余だって分かってるし、受け入れているつもりだった。それがいざ、近づいて来ているのを肌で感じると……怖い。

 

 

 

 

でも、何よりも時という残酷なもので記憶すらも奪っていく。

 

「あ、あの…あなたは誰ですか?」

 

その言葉を聞くのが怖かった。人間様が少しずつ物忘れが始まっていたのを分かっていたつもり。人間様は余と違って年も取るし、いつか……余を置いて死んでしまう。

 

 

「…余……余は人間様の奥さんだ余」

 

最後くらいはちょっとぐらい嘘を付いても許してくれるよね。ねぇ…人間様。

 

 

「そうなんですかぁ…」

 

 

 

 

 

 

 

人間様は縁側に出て…外の景色をボーっと眺める時間が増えた。そんな人間様の隣に余は腰を下ろす。今でも出会った頃のことを夢にみる。

 

倒れていた余のことを見つけてくれて、人間様が余のことを自分の家まで運んで治療をしてくれた。それから人間様のお家に余は住まわせてもらっている

 

 

 

「きれいですね」

 

そう話している時の人間様はちょっと笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間の経過とともに人間様は寝るだけの生活になった。もう立ち上がることもできず、一晩中布団の中。そして口もきけなくなって……最後は静かに息を引き取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから人間様の葬式を開いたり、火葬をしたりして色々と忙しかった。全てが終わると家に自分一人だけ。寂しさに襲われながらもここにいる。だってここは余と人間様の思い出だから。人間様が肉体として存在していなくても人間様の心はここにある気がするから。

 

 

 

そして人間様の整理をしていると…用途が分からない鍵のようなものが見つかった。

 

「なんだろう、これ?」

 

人間様が使っていたお部屋を隅々まで探してみると一つだけ鍵がないと開かない引き出しがあった。そしてその引き出しに鍵を使うとそこには…一枚の封筒が入っていた。

 

 

封筒には『百鬼さんへ』と書かれていた。余はなるべく傷つけないように…封筒を開けて中身を確認する。中には手紙があった。

 

 

 

『この手紙を読んでいるってことは僕は渡せなかったのかな。だとしたら本当に百鬼さんには辛いことをさせてしまった。本当にごめんなさい。始まりはちょっとずつだったんだけど、どんどん両親のことや身近の人のことさえも思い出せなくなっていった。

 

だからいつかは百鬼さんのことを忘れてしまう日が来てしまうかもしれない。その日が来ないことを願っているけど、この手紙を百鬼さんが読んでいる時点で最悪なことに僕は忘れてしまったのかな。

 

まず、百鬼さんにはありがとうと伝えたい。こんな僕のことをここまで支えてくれてありがとう。だからこれから先は幸せになってください。たぶん僕といることで百鬼さんにたくさんの苦労をさせてしまったと思いますし。

 

初めて百鬼さんに会った日、百鬼さんの人柄に触れた日、大好きになった日、一緒に花火をした日とか言えば限りがないほど百鬼さんとの思い出があります。ここでそのことを長々と書いてしまうと読み疲れちゃうと思うので最後に…僕は百鬼さんと出会えて幸せでした。

 

僕に幸せを分けてくれてありがとう。

 

僕に幸せを教えてくれてありがとう。

 

僕を幸せにしてくれてありがとう

 

そして…百鬼さんの事が好きだよ』

 

 

 

 

 

 

 

読み終わると自然と余の目からは涙が零れ落ちていた。

 

「に、にんげぇんさま…」

 

 

「余の…ほうこそ……ありがとうだ余」

 

人間様と会わなければ知らなかった感情がたくさんあった。そしてそれを知っていく度に…ちょっと怖かったけど、人間様が側に居てくれるだけでその恐怖すらも無くなった。

 

 

人間様のお陰で余は楽しかった。どんなことも人間様とやることはとっても楽しかったんだ余。

 

 

 

「余も人間様のことが好き!」

 

 




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