ずっと一緒だから
沙花叉のことを育ててくれた人。あの人がいなかったら今の沙花叉は絶対に存在しなかったと思う。ここまで明るくなれなかったと思うし、人を信じようと思わなかった。
そして『Holox』に所属することもなければホロライブに所属することもなかった。
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沙花叉は起きて身支度を整えて適当に食事をしてから家を出る。病院の面会時間は午後14時から。今の時刻的にちょうど着く頃には面会時間を過ぎているはず。
病院へと向かうタクシーの道中でなるべく心を落ち着かせる。
これはいつものこと。
さすがに病院の中で自問自答をするわけにはいかない。なので今のうちに自分を落ち着かせるために『大丈夫だ』と唱え続ける。
そうしていないときつい。
病院に着いて沙花叉は走る気持ちを抑えながらも病室を足を進める。そして病室の前に立つと息を整えてドアを開ける。
ドアを開けるとそこには静かに読書をしている彼の姿があった。窓からの風が前髪を揺らしていつもよりカッコいい。最近は散髪もしていないのでもう前髪は目を隠すぐらいになってしまっている。
「久しぶり」
「あ、ごめん。お久しぶり」
やっとキミの視線が本から沙花叉へと移る。沙花叉の心配も知らないでキミはとても良い笑顔だ。その笑顔を見ると昔と何も変わっていないように感じる。
私を育ててくれた恩人のあなたは入院した。元々体が強い方ではなくてよく体調を崩していた。一度本人にそのことを尋ねたことがあったけど、これは生まれた頃かららしい。一年という長い時間で見ても体調の悪い日と良い日が半々ぐらい。
一年前に倒れてそのまま入院。
本人はお金も掛かるし、入院することを拒否しようとしていたらしいけど、それぐらい沙花叉が出してあげるからとほぼ無理矢理病院に入院してもらった。
沙花叉はキミのベッドの隣にあるパイプ椅子に腰を下ろした。すると最初に話し掛けてきたのはキミの方からだった。
「忙しいんでしょ?」
「全然だよ」
「ほんとに?」
「ほんとほんと。沙花叉は暇で困ってたぐらいなんだから」
本当は超が付くほど忙しい。色々とお仕事が重なっちゃって最近は寝付けないような日も増えてきた。それでもキミへのお見舞いだけは欠かせない。だって沙花叉のやる気に火を付けてくれるのはキミと会うこと。キミと会って話すだけで活力が湧いて来て、沙花叉も頑張らなくちゃいけないと思える。
「お仕事の方は大丈夫だよね?もしお金に余裕がなくなって来たんだったら僕、退院するよ」
「ううん。キミは大人しく入院してればいいの。それにお金には困ってないから心配しないで」
「それならいいけど……」
本当にキミは心配し過ぎ。
今度は沙花叉から質問をする。
「最近は調子がいい?」
「うん。調子はいつでもいいよ。いつ退院してもいい!」
「お医者さんが退院してもいいって言われるまでは勝手にどこか行っちゃダメだからね」
「それぐらいは言われなくても分かってるよ。僕も大人だからね。沙花叉よりも上だし」
彼は本当に目を離すとどこかに行っちゃいそうで少し怖い。だから沙花叉としてはずっと病院に入院してもらえている方が有難い。沙花叉の目の届かないところに行かれるよりは目の届く範囲に居てくれれば…。
「沙花叉よりも年は上だけど、精神年齢は全然沙花叉の方が上だと思うけどね」
「僕は沙花叉よりも大人だよ」
それからしばらく話した後にキミは寝てしまった。久しぶりに話し疲れたようだとナースさんは言っていた。ナースさんが言うには沙花叉と話すときはとても楽しそうだったと。普段から誰とでも分け隔てなく接しているらしくて、同じ患者の悩み相談にのったりしていたり、ナースさんやお医者さんとも世間話をしたりするみたい。
でも、沙花叉と話すときはいつもの笑顔よりも何倍も良い笑顔らしい。
「また来るからね。絶対に良くなってね」
沙花叉は眠っている彼にそれだけ言うと病室を出た。
それから沙花叉は先生に呼ばれて…診察室にいった。呼ばれた時点である程度の覚悟は出来ていた。沙花叉の前ではなるべく安心させるように笑顔だったけど、本当はとっても苦しいことは分かっていた。
最悪だけど、予想は当たってしまった。彼の寿命は三ヶ月。彼にこのことを話すかは悩んだ。でもやっぱり沙花叉は話すことにした。これからは沙花叉が決めちゃいけないよ。
沙花叉がちょっと暗そうな顔をしていたこともあって…キミはすぐに感づいちゃった。それも笑顔で「やっぱり僕って長くないんだね」と言った。沙花叉はそれに対して何も出来なかった。『そうだよ』とも『違うよ』とも言えない…。
彼は「適当なところに家を借りてくれるかな」と言った。さすがにそれはマズいので沙花叉の家に来てもらうことにした。キミは沙花叉に迷惑が掛かるような真似はしたくないと言っていたけど、離れて暮らす方が沙花叉は心配。いざという時にすぐにでも医者に連れて行けるように。もし一人で暮らされると倒れても誰にも気付かれない可能性だってある。
一緒に過ごすようになって…不謹慎だけど楽しかった。昔に戻ったみたいで。それにキミも普通に生活出来ているし、知らない人が見たら病気持ちだとは分からないぐらい。
家の中でも外でも沙花叉はキミの腕を抱きしめてずっと離れなかった。沙花叉も信じたくないけどこうやってキミの体温を近くで感じられるのも…そんなに多くないかもしれない。今のうちに忘れないぐらい感じて…これからどんなことがあってもキミのことを忘れないように。
「もうちょっと離れてくれないかな?」
「やぁだ~」
「さすがに動きにくいんだけど」
「それでも離れないよ。沙花叉はどんなことがあったとしても絶対に一緒」
たくさん旅行にも行った。今まで行ったことがないところも。キミは沙花叉にあんまり迷惑を掛けたくないとか言って最後まで旅行には反対だったけど、沙花叉が押し通した。
とっても楽しくて時間すらも忘れてしまうほどだった。たぶん、一人や友達と来てもこんなに楽しくなかったと思う。キミが近く居て、沙花叉と同じ時間を共有してくれたのが嬉しかった。それにこの世界で一番の恩人で大好きな人と一緒にいるんだもん。どんなところに行っても幸せに決まってる。
病院を退院をして二か月ぐらいが経った頃から…キミの体は少しずつ動かなくなってきた。少しずつ病気が進行しているのが沙花叉の目にも分かってしまう。
「あんまり無理しないで。沙花叉がずっと一緒にいるから」
「…ごめんね」
「謝らないで。沙花叉が好きでキミとずっと一緒にいるだけ」
「これから迷惑を掛けちゃうと思う」
「迷惑だと思ってないし。沙花叉はキミと一緒に居られるだけで幸せ。同じ時間を共有できるだけで」
キミは沙花叉に迷惑を掛けるのが嫌みたいだけど、どんどん沙花叉を頼って欲しい。それなりにキミと一緒に時間を共有して信頼されるようになったと思ってる。それに全てを受け入れる準備は出来てるし。
どんなことになっても沙花叉はキミの隣を離れることはない。
どんどんキミの病状は悪化していく。どうしてもキミが自宅がいいというのでお医者さんに自宅まで来てもらった。そのお医者さんによるともう…危ないということだった。
沙花叉は隣でずっとキミの手を握る。
キミはもうずっと寝てしまっているので握り返してくれることもない。
「大丈夫だからね。ずっと側に居るから」
キミに声が届くことはないと分かっていても……。
「沙花叉はキミのことが好きだから。どんなの辛い時も沙花叉とキミは一緒」
それから数時間後にキミは静かに息を引き取った。
お医者さんがいなくなった後も沙花叉はずっとキミの隣で手を握っていた。
「大丈夫…。沙花叉とキミは一緒……」
キミの手に温かさはない。それでもまだそこにはキミがいてくれる。キミの手を握っている間はキミはまだそこにいると思えるから。
「ずっと一緒…」
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