「ボクのこと好き?」
「好きですよ」
「え~~ほんとうかな?」
「ほんとうだよ」
端から見てもとても幸せそうなカップル。幸せオーラが漏れ出ているのだ。
――――――――――――――
ボクは決めた。この人のためにボクは生きると。
出会った時から他の人とは違った。オーラみたいなものが湧き出ている気がしたんだよね。だから、ボクの方から連絡の交換とかもお願いした。
そして話してみて益々、自分の運命の人はこの人だと思った。逆にこの人以外は想像がつかないと思って猛アタックした。初めてこんなに一人の人のことを好きになったのでボクもちょっとどうすればいいのか分からなかったから…毎日どうすればいいのかと考える繰り返しだった。
男性が好みそうな服を着たりして、少しでも彼の気を引くために色々と頑張った。
その甲斐もあってボクは彼と結婚までこじつけることが出来た。今では彼もボクのことを愛してくれていて、ボクも彼のことを愛している。本当に順風満帆な生活を送って、これからもこの幸せが続いていくと何も疑うことをしなかった。
当たり前の日常が崩れるのはいつも突然。
その日、ボクはお仕事でちょっと遠出をしていた。収録の合間に携帯を確認してみると知らない電話番号から電話が掛かってきた。電話番号を調べてみると……病院だった。
この瞬間に妙に胸がざわついた。
急いで電話を掛けると…病院の人が落ち着いた口調で話してくれた。
過呼吸になってしまいそうなのを必死に落ち着かせながら話を聞く。病院の人が話している内容はすぐに信じられるようなものじゃなかったけど、さすがに嘘を言っているようには思えない。
全てを聞き終わるとボクは周りの人たちに事情を説明してすぐに病院に向かった。
病院に着いて、受付で言われた病室に行くとそこには彼が天井を見上げて寝ていた。
「よかったぁ…」
「あ、かなたさん」
「本当に無事でよかった…」
それから少し話しているとボクは先生に呼ばれた。
そこで説明された内容はやっぱり聞きたくないことだった。彼は街を歩いていたところを包丁で刺されて、ここに運ばれてきた。運ばれてきた時は助からないかもしれないと考えるほどだった。
だがどうにか命が助かった…。
でも…予断を許さないような状態でいつ死んでもおかしくないと。
そしてボクは先生との話を終えて…キミの病室に戻った。
ボクが戻ったのと同時でテレビでキミのことがやっていた。そのテレビの情報によるとキミのことを刺したのはボクの熱狂的なファンらしい。その人は『天音かなたを返せ』と叫んでいたらしい。
キミはそのテレビを見ながら呟いた。
「覚悟はしていたんだよね」
「………」
「天音さんと結ばれることになった時からさ。いつかはこういうことが起こっても仕方ない」
「…ぜんぜん仕方なくない!」
「ううん。仕方ないよ。だって俺はかなたさんの旦那だから。多くの人が愛したアイドルを自分一人のものにしてたんだ。これぐらいの報いが来ることは分かっていた」
キミは天井を見ながら話している。
「でも後悔はしてないんだ」
そう言った時のキミの顔は笑顔だった。
「俺はかなたさんに愛されたからね。誰もが欲しかったものを手に入れられたんだから」
ボクがキミのことを愛してしまったから。キミがこんなことに…。ボクがキミを愛さなければ。
「だからかなたさんも泣かないでください。僕はかなたさんと出会えて、恋に落ちて、愛し合えたことを一つたりとも後悔していません。かなたさんが近く居てくれたからこそ知れた幸せがたくさんありましたから」
「で、でも…ボクはまだ…」
「本当にたくさんのものを貰いました。人を愛すことがこんなに良いことだと思いもしなかったし、誰かに愛されるってこんなに良いんだということも教えてくれた。今までの自分が知らなかった世界でしたから」
そう話している時のキミは…まるで『死』を覚悟しているようだった。
キミは本当に何の未練もないような顔をしているけど、ボクには分かる。そんなことはない。ボクに心配を掛けないように必死に笑顔を作ってくれているんだ。
本当は怖いんだと思う。ボクだってこれから自分が死ぬかもしれない状況に置かれたら恐怖が支配してくると思う。
「ボ、ボクはいやだ」
「かなたさん…」
「ボクはいやだ!!まだ全然やれてないことだってあるんだよ!これから二人で旅行したり、一緒にご飯を作ったり……少ししたら子供を作ったりさ…。ボクが『ママ』でキミが『パパ』って呼ばれる日が来るかもしれないのに…。まだまだこれからでボクとキミは楽しいことがあるのに……っ…」
ボクはボクの気持ちをそのまま言葉にした。本当は言わないままの方が良かったかもしれない。絶対にキミのことを困らせちゃうのにボクは言った。
「…それは楽しみですね。いつか、かなたんさんとそんな日が来たら…」
「ぜったいに来るもん!!だからキミはボクのためにも生きてよ。ボクはキミがいないと…生きていけないよ」
キミはボクの運命の人なんだ。ボクがキミ以外考えられないし、キミのことを一生愛すると決めてるんだ。キミがいなかったらボクが頑張る意味もなくなっちゃう。
「それに…ボクは誓ったんだよ。キミのためにこの人生を使うって…」
「…本当にかなたさんは男前ですよね。まさか告白されるとは思わなかったですし。告白で『ボクはキミのことが大好きです。ボクの人生を全て使ってキミのことを幸せにするのでボクと付き合ってください!』と言われた時は男前過ぎて惚れちゃいましたよ」
そう話している時も笑顔。キミは本当にいつもと変わらない。
でも、やっぱり思うこともあるんだよ。
キミはボクと結ばれなければ普通の幸せをして普通に暮らしていたのかもしれない。何事にも縛られず、普通の生活を。それなのにボクはやっぱりキミと結ばれて良かったと思ってしまう。完全に自己中心的だと自分のことを嫌いになりそうだけど、やっぱりボクにはキミが必要だった。キミがいない人生なんて考えられないほどに。キミが近くに居てくれるだけでボクは生きていける。
「これからは俺のために使わずにかなたさん自身のために使ってくださいね」
「…そんなこといわないで…」
「かなたさんのような天性のアイドルであればこれから先は明るい未来が待っていると思いますし」
「キミが隣に居てくれないなんて考えられないよ…」
どれだけ良いことがこれから先に待っていても、キミを失ったら全て意味がない。キミと一緒だから意味がある。ちょっと嫌な事や苦手なこともキミのためと思えば我慢できたし、楽しかった。一人でやっても何も楽しくないの。
「大丈夫ですって。俺より良い人なんていると思うよ」
「いるわけないよ!!ボクがこんなに好きになるのはキミで最後なの!キミみたいに魅力的な人はいない………」
ちょっと強い口調で言っちゃったけど…これは本当。キミは自分自身のことをかなり過小評価している。キミは特別で本当にすごい人。キミの隣にいると何か不思議な力は貰えるんだよ。不思議と勇気が湧いて来るし。
正直こんな人は今まで一度も会ったことがない。
「大丈夫だよ。かなたさんのような優しい人ならそれに相応しい人は見つかるはず。俺のことはたまに思い出してくれれば」
「……キミはボクの全てなの…」
それから数時間してキミの容態は急変した。いつ危険な状態になってもおかしくないとは言われていたけど、いざその瞬間が目の前まで迫っていると分かると手足が震え始める。
「…いきて…」
今のボクはただそう願うことしかできない。
でもその願いが受け入れることはなく、キミは死んでしまった。
キミは本当に安らかな表情だった。まるでこの世界に悔いなしのような顔。
「ほ、ほんとにきみは…」
本当にキミと出会えてよかった。キミと出会わなければ知らないことをたくさん知れた。
ボクはまだキミと一緒の時間を共有したかっただけなのに……それすらもやっぱり許されないのかな。
「もうアイドルも辞めちゃおっかな」
たぶん、キミのことを殺した奴は必ず捕まる。それでもやっぱり整理が全然つかないし、こんな感じでアイドルとして舞台に立つのは無理かな。今のボクがアイドルをやるのには……全てが足りな過ぎる。
それから数日後に天使はどこかに消えた。
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