別れ   作:主義

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『君のために』


AZKi編

私の歌でキミを救えたら

 

――――――――

 

 

アズキは運命の出会いを果たした。

 

 

こんな風に言うとすごくロマンチックな出会いって感じだけど本当は全然そんな感じではなかった。

 

 

 

 

ある日の朝、アズキが眠い目をこすって事務所まで歩いている時に盛大に転んじゃった。眠くてその時は足元に全然注意が出来ていなくて、膝を擦りむいて痛くてうずくまっている時にキミが「大丈夫ですか!?」と声を掛けてくれたのが出会い。

 

 

 

出会った時は今みたいな関係になるなんて微塵も考えていなかった。

 

 

 

 

 

それからアズキとキミがマンションでお隣さんだったり、歌うことが好きだったりと共通点が見つかってお出掛けをしているうちに好きになっていった。今まで生きてきて…これだけ家族以外の人に大切に扱われたのが初めての経験で最初は困惑の方が上回っていた。でもキミに触れていくとキミが本当に私のことを大切に想っていること、大好きでいてくれていることが嬉しかった。

 

 

 

 

私は自分の夢に向かって突っ走れた。

 

 

それはキミのお陰。キミがどんな時も一番近くで支えてくれていたから。もし、キミが居なかったら私は夢を諦めていたかもしれない。

 

 

 

「アズキさんは可愛いですね」

 

 

「……よくそういうことを言えるよね」

 

 

「思ったことを言うだけですよ」

 

それがすごいよ。アズキは恥ずかしくて『愛している』とかあんまり言えないのに。

 

 

「そう言えば、次のライブは必ず行きますよ」

 

 

「うん!」

 

今まで予定が合わなくてライブは一度も来てくれなかった。それは仕方ないことだと分かっていてもやっぱりキミに見て欲しかった。キミに支えられて私はここまで来れたんだよと伝えたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

それからはライブの準備といつもの配信とかで忙しくてプライベートの時間はあんまり取れなかった。キミはそれでも何も言うことなく、静かに見守ってくれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ついにその日が訪れる。

 

 

 

 

 

 

今は控室で心を落ち着かせている。

口から心臓が飛び出てしまいそうなほどの緊張。この緊張はライブの時だけに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして開幕する。私はステージに立ち、歌い始めた。

 

 

 

ライブをしている時は歌うことに集中できる。でも今日はどうしても彼のことが気になってしまっていた。私は彼に対して特別席を用意した。そこからだと全てが見渡せて間違いなく、ライブの席の中で特等席。彼はそこまでしてもらわなくてもいいと言ってたけど私が押し通す形で承諾してもらった。

 

今でも思い出すの。私がメジャーデビューをした日のこと。キミは私の曲を「アズキさんらしくて良い曲だね」と言ってくれたことも。

 

 

 

 

 

 

やっぱり私の視線は彼の席の方ばっかりに目が入ってしまう。こっちからその姿を見つけることは出来なかったけど絶対にキミは来てくれている。

 

 

そしてライブが終わって余韻に浸っていた。やっぱりライブが終わると喪失感に襲われるけど自分がやってきたことを全て出し切れた感じもしてやりきった感というものもある。

 

「見てくれたかな…。少しは恩返しできていたらいいな」

 

 

明日の予定とかも確認しておかないといけないと思って携帯を開くと同時に電話が掛かってきた。相手を確認するとそこには彼の名前が表示されていた。

 

 

「あ、もしもし、見てくれた!?」

 

だけど、電話から聞こえてきたのは彼の声じゃなかった。

 

 

 

 

 

 

 

その電話越しから伝えられたのは信じられないような内容だった。放心状態になってしまっていたので何を言っていたかは分からないが、一つだけ聞き取れた。

 

『この電話の所有者の方が交通事故にあいました』

 

 

 

 

 

 

 

 

すぐに私は病院に向かった。病院までの道も病院に着いても…アズキは信じていなかった。だって信じられる訳ない。昨日まで普通に笑ってくれて、ライブを楽しみにしてくれていた。

 

そんなキミが…交通事故にあうなんて…。

 

 

 

 

 

 

そして病室に行くとキミにはたくさんの管が繋がっている、変わり果てた姿。今朝ベッドで見た時の可愛い寝顔は見れない。朝まで隣に居た人が…。

 

するとアズキの隣に看護婦さんが近寄ってきた。

 

「あの彼女さんですか?」

 

私は視線はずっと彼の方を向きながらも首を縦に振った。

 

 

「これを」

 

そう言って看護婦さんが差し出したのは…ぐちゃぐちゃになったライブのチケットだった。

 

 

「これはこの方がずっと握っていたものだそうです」

 

そのチケットにはちょっと血が付いていて、受け取る手が震えてしまった。

 

 

 

私が彼のことを誘わなければ…彼が事故に会うこともなかったかも。

 

 

 

 

 

 

 

そしてそのまま彼は帰らぬ人となった。

 

 

その日からアズキは歌わなくなった。

いや、歌えなくなった。

歌おうとするといつも『アズキさんらしくて良い曲だね』と言ってくれたキミの顔が浮かぶ。すると涙が止まらなくなっちゃって歌うどころではない。

アズキがここまで歌を好きになれたのも…キミのお陰。キミが一番近くでアズキのことを支えてくれたからこそ、ここまで歩いてこれた。

 

もうキミがいない。

キミが一番近くに居てくれない。

どれだけ頑張ってもキミは褒めてくれない。

キミがいない、この世界でアズキはもう歌えない。

 

 




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