キミは優し過ぎる。
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最初の印象は『損しそうなタイプ』だった。中肉中世で誰に対しても優しく接している様子。そして何よりもあの人を疑うことを知らないような綺麗な目。
あの感じだったら人の皮肉とかもそのまま受け取っちゃうような人だな。たぶん、どんな頼み事でも引き受けちゃってパンクするような感じになりそう。
でもトワはそんなキミのことを好きになった。
好きになるきっかけは色々とあった。
トワが体調がちょっと悪い中でも必死にスタジオで収録をして…楽屋で休んでいる時に「これ薬と飲み物です」と渡してくれた時とか。メンバーもマネージャーさんも、誰一人気付かなかったのにキミだけは気付いてくれた。
それでいて、薬や飲み物、それに栄養補給ゼリーとか諸々をくれた。それに帰る時もタクシーを呼んでくれていて、気が利きすぎると心でも思っちゃったぐらい。
それからはキミに対して少しずつ興味を持つようになった。どんなことをしているのか、どんな人なのか、どんなところで暮らしているのか、どんな食べ物が好きなのか、どんな服が好きなのか、好きな人が居るのか…って言ってたらキリがないほどに。
少しでも魅力的に映るようにただスタジオに行くだけでもかなり気合を入れてお洋服も選んだ。普段よりも何倍もオシャレに気を遣った。
だけど、どれだけオシャレを頑張っても必ずしもキミが振り向いてくれるわけではない。
恋愛に関しては努力をどれだけしても報われないことなんてある。それを改めて思い知った。
キミにはもう『彼女』がいた。
そりゃそうだよね。あんなに優しくて頼りになる人に彼女がいないなんてことないよ。
トワはもう諦めるしかない。
だって彼がトワの彼氏になってくれることはない。
これ以上、彼のことを考えても…。
でもいくら考えることを止めようとしてもダメだった。
だってもうどうしようもない位にトワはキミのことを好きになっちゃった。
そう自覚した日からは地獄だった。
だって大好きな人が目の前にいるのにトワは何もできない。トワの好き勝手でキミの幸せを壊すわけにはいかない。
もう二度と顔を合わせない方がトワのためにも、キミのためにもいいのかもしれない。
でも急に変化は訪れる。
ある日、事務所から家までの道のりを歩いていると…キミを見かけた。でもキミの表情はいつもの明るい感じではなくて、地獄を見たような絶望。
話し掛けると急にキミは涙を流し始めた。さすがにキミがこんな風になっちゃうってことは余程のことがあったんだと思った。だからまずは落ち着かせて事情を聞くことにした。
そして事情を聞いて…トワは絶句した。
彼女が浮気をして捨てられた。
それを聞いた時にトワの中には『怒り』しか残っていなかった。
でも、そう思うと同時にトワはこれをチャンスと思っちゃった。今のキミはかなり弱っている。今ならキミの心を射止めることもできるかもしれない。
「トワはキミのことが好き!」
トワはキミのことを抱きしめる。
「だいすきなの」
トワも分かってる。
自分は本当に悪魔だってことも。
だって傷心しているキミのところに近付いて、自分の想いを伝えて彼女になろうとしている。
でもトワだったらキミのことを泣かせたりしない。キミに悲しい想いはさせない。
少ししてトワとキミは付き合うようになった。
たぶん、悲しんでいるところに付け込んだから。
心のどこかに申し訳ないという気持ちがありながらも、トワは嬉しかった。キミと付き合えたことが。だってこれから、キミはトワのことをずっと見ていてくれる。今までは叶わないと思って諦めていたことも出来るかもしれない。
それからの生活はとても幸せだった。今までの地獄から天国へ。
キミが一緒に居てくれるだけでこんなに幸せな気持ちになれるんだと改めて知った。キミがトワのことを好きなだけで…まじで嬉しい。とっても大切に接してくれるし、いつもトワのことを考えてくれる。
「トワはキミのことが好きだよ」
「僕もトワさんのことが好きです」
「どんな女が近寄ってきてもトワのことを捨てないでね」
「大丈夫です。絶対にトワさんのことを裏切りませんよ。だって僕はトワさんのことが世界で一番好きですから」
「そっか、ありがとう」
近くにキミを感じられるだけで幸せだ。
これを人は…『幸せ』って呼ぶのかな。
でも、それからして平穏が壊れた。
それはキミがホロライブを首になってしまった。それはトワとの関係がバレてしまった。そしてどこからか分からないが、それがSNSにまで流れ出てしまった。
結果的にトワもホロライブを辞めることにした。このまま残ってもこれ以上いいことはない。
キミはトワに「ごめんなさい。僕の所為で」って謝って来るけど、これはキミの所為じゃない。
「これはトワがもっと慎重になるべきだったんだよ。元々社内恋愛がダメだったことは分かってたはずなのに…」
謝らなくちゃいけないのはトワの方だ。トワがキミの優しさに付け込んで、付き合っちゃったから。もし、トワがキミと付き合わなければキミがホロライブを辞めることにもならなかったと思う。
だから謝らなくちゃいけないのはトワの方だ。
「本当にごめんね」
その後、キミは数週間後には次の仕事に就いていた。トワは専業主婦になることにした。新しいお仕事に就くかも考えたけど、やっぱりキミのことを支えよう。二人共働くと生活リズムが合わなくなっちゃう可能性もあるし。
最近はキミのために料理を作るのが楽しくて仕方ない。
「トワさんの料理、美味しいです!」
「そ、そう?」
「はい、とっても美味しいです」
そう言ってくれるだけでトワとしては嬉しい。
それにトワの作った料理を『美味しい』と食べてくれる。誰かに自分の料理を褒められるのってこんなに嬉しいんだ。
ホロライブを離れることになっても…キミさえいればトワはいいと思った。
だからまさか…あんなことになるとは思っていなかった。
キミが自殺をしたのだ。
遺書には『ごめんなさい。僕がトワさんと出会わなければトワさんの道を閉ざすこともなかった。僕と出会ってしまったからこんなことに…。本当にごめんなさい、本当にごめんなさい、ごめんなさい。トワさんのことを愛してしまってごめんなさい』と書かれいた。
トワは気付いてあげられなかった。一番近くでキミのことを見ていたはずなのにキミの気持ちに気付いてあげられなかった。キミがどれだけ優しいか分かっていたはずなのに。
トワが会社を辞めることになったことをずっと思い悩んでいたんだと思う。キミの所為じゃないのに…。だけど、キミは人のことを誰よりも考えられる人だからこそ、思い詰めちゃった。
「トワの方こそ…ごめん。キミを好きになって…」
トワがキミに告白をしなければトワとキミが結ばれることはなかった。キミが死んじゃうことも、トワがこんなに喪失感に襲われることもなかったはず。
ごめんね…。
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