別れ   作:主義

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『笑顔』


今回の桃鈴ねねさんは小学校低学年ぐらいの設定です。


桃鈴ねね編

ねねはお兄ちゃんのこと好き。

 

 

ねねはいつもお兄ちゃんと一緒にいたい。お兄ちゃんはお兄ちゃんじゃない。お兄ちゃんは血が繋がっているわけじゃなくてお隣に住んでいるお兄ちゃん。ずっとお隣さんでいつも遊んでもらってる。

 

初めてお兄ちゃんと会ったのは…近くの公園。

 

そこであって遊んでもらうようになって、今ではお兄ちゃんがねねのお家にご飯を食べに来たり、反対にねねのお家に食べに来たりと繰り返すぐらい仲良し。

 

 

 

 

「ねねにかまってよぉ~」

 

 

「はいはい、ねねはとっても可愛いよ」

 

 

「えへへ」

 

ねねがお願いをすれば何でもやってくれる。とっても優しくてどんなことで許しくれる。そしてそんなお兄ちゃんを大好きになるのに時間は掛からなかった。あんなに優しくされたらねねだって惚れちゃうよ。

 

 

ねねはいつものようにお兄ちゃんに抱き着く。

 

そしてそれをお兄ちゃんはいつものように受け止めてくれた。

 

 

「お兄ちゃん~」

 

 

「ねねはまだ子供だね」

 

 

「ちがうもん。ねねは大人のレディーだし!」

 

 

「ううん。ねねはまだ子供だよ」

 

お兄ちゃんはいつものように微笑んでいた。お兄ちゃんはいつまで経ってもねねのことを子ども扱い。ねねだって高校生になったんだしもう大人だもん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてある日を境にお兄ちゃんはいなくなった。

 

 

 

 

お兄ちゃんのお母さんに聞いたら「一人暮らしを始めたの」と言っていた。それなら一言ぐらいねねに言ってくれてもいいんじゃんと思った。

 

まあ、もし相談されていたら絶対にねねは反対してたけど。

 

 

 

 

 

 

 

それから二カ月はそれを信じていた。

 

 

 

でもある時に聞いちゃった。『お兄ちゃんが病気』だってことを。お兄ちゃんのお母さんと近所の人が話している時にそんな話をしていた。最初は嘘だっと思った。でも、お兄ちゃんの性格からして何も言わずにねねの近くから居なくなっちゃうことはない。それにお兄ちゃんのお母さんが近所の人に嘘を付く理由もないと思うし。

 

たぶん、お兄ちゃんはねねに心配を掛けないために言わなかったんだと思う。お兄ちゃんはとっても優しい。いつも笑顔で暗い顔を見たことがないぐらいに明るい人。そんなお兄ちゃんだから……。

 

 

 

 

 

 

 

その日にねねは行動に移した。お兄ちゃんが苦しいんだったら、ねねは励ましてあげたい。

 

 

 

お兄ちゃんのお母さんに聞いちゃったことを正直に話すと「そっかぁ」とだけ呟いて、家にあげてくれた。そしてお兄ちゃんのお部屋の前に付くと深呼吸をした。

 

たぶん、ここから先を見たらねねは後悔するかもしれない。もうねねの知っているお兄ちゃんはいないかも。そうだとしてもねねはお兄ちゃんのことを励ましたい。ねねが近くにいるよって。ねねはずっとお兄ちゃんの側に居るからね。お兄ちゃんが嫌だって言ってもねねは離れないから。

 

 

意を決してドアノブに手を掛けて静かに開けていく。

 

 

 

中は暗く、夜かと錯覚してしまうほど。そしてベッドにお兄ちゃんが静かに寝ていた。

 

 

 

だけどお兄ちゃんはねねが知っているお兄ちゃんとは少し違っていた。髪は綺麗な黒だったのに今は白髪と黒髪が半分半分みたいになっていて、体も中肉中世だったものがやせ細っている。

 

「お兄ちゃん…」

 

ねねはベッドの隣に腰を下ろした。そこでお兄ちゃんの顔をじっと眺める。

 

 

頬もこけが目立つぐらい。ねねが知っているお兄ちゃんとは全然違う。だけどここにいるのは紛れもなく、お兄ちゃん。

 

 

 

 

 

 

その日からねねはお兄ちゃんの家を訪ねるようになった。お兄ちゃんの声は前よりも少し低くなっていて、大人っぽかった。

 

 

「お兄ちゃん!」

 

 

「…ねね」

 

 

「そういえば、昨日面白いことがあったんだよ。ねねが虫取りに行ったらさ!」

 

いつものように笑って…楽しい話をする。

 

 

必死に暗い話をしないように明るい話をした。少しでもねねと話してお兄ちゃんに元気になって欲しいから。だってお兄ちゃんの笑顔が…ねねは好きだから。

 

 

「ねねは本当に面白いね」

 

 

「そ、そうかな?」

 

 

「うん、面白いよ。やっぱりねねは天才だね」

 

そう言いながらお兄ちゃんはねねのことを撫でてくれた。手も前に比べてかなりやせ襲ってミイラのようになってしまっていたけど、ねねにとっては嬉しかった。

 

 

「ねね、天才?」

 

 

「うん。天才だよ。将来はかなりの大物になると思うよ」

 

 

「そっかぁ…ねねは天才なんだ!」

 

 

「天才だよ」

 

 

 

 

 

お兄ちゃんはいつも笑顔。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お兄ちゃんはそれから数か月後に死んじゃった。

 

会うたびにしわも増えていて、髪も白髪になっていった。お兄ちゃんが死んじゃう前はおじいちゃんみたいだった。

 

 

 

お兄ちゃんの口から「僕はもう…長くないと思う。だからいつ死んでも良いようにねねの『笑顔』が見ていたんだ」と言われた。もちろん、ねねは「お兄ちゃんはだいじょうぶ!!絶対に治るもん!!」と言い続けた。だけど、ねねにそれを伝えた時のお兄ちゃんはもうなんか諦めちゃって感じだったのをねねは今でも覚えてる。

 

 

 

それからは前よりも、お兄ちゃんの前で笑顔を見せるようになった。

 

 

 

お兄ちゃんに心配を掛けちゃいけないから…いつも笑顔。そうじゃないとお兄ちゃんが悲しんじゃうから。

 

 

 

 

 

 

お兄ちゃんのことを考えているとあっという間に時間は過ぎていく。お葬式も終わると皆がそれぞれお兄ちゃんのことを話さなくなった。それはねねに対して気を遣っているからだと思うけど…寂しかった。

 

まるでお兄ちゃんのことを皆が忘れているようで。

 

 

 

 

 

 

ねねは今日も公園に行く。お兄ちゃんと出会ったあの日から公園は特別な場所だった。

 

お兄ちゃんと初めて出会った場所だから。

 

ねねは空を見上げながらそう呟く。

 

「ねね…もういいかな…」

 

「も、もう…ないてもいいかな…っ…」

 

お兄ちゃんに『ねねの『笑顔』が見ていたんだ」って言われてから…我慢してた。だってお兄ちゃんはねねの笑顔が好きだから。少しでも安心して欲しくて。

 

 

 

 

「もう…いいよね…」

 

 

その日、ねねは公園で泣いた。一目も気にしないで泣いた。

 

 




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