ちょこは愛してる。その気持ちは今でも。
――――――――
「ちょこが甘えられるのはあなた様だけ」
「…それは喜んでもいいんですか?」
「うん。それぐらいに信頼してるってこと」
「じゃあ喜んでおきます」
あなたはちょこがどんなに甘えても面倒くさそうな顔をしない。ずっとちょこのことを甘やかしてくれる。本当にちょこにとっては天使みたいな人でこの人とずっと過ごしたらちょこはどんどんダメな悪魔になっちゃう気がする。でも一度キミの優しさを知ってしまうと一生離れられなくなってしまうんだよ。
「これからもずっとちょこの近くにいてくれる?」
「なんでそんなことを?」
「あなた様は魅力的な方だから。たぶん、ちょこ以外の女の子も狙う。だからしっかりとあなた様の声で確約が欲しいの。ちょこの近くから絶対に離れないって」
ちょこの友達にもキミのことを『良い物件だよね』という子も多い。それぐらいにキミは魅力的な人。とっても優しくて、明るくて、いざという時は頼りになるような人。こんな人は世界を探してもそんなに多くないとちょこは思う。
そんなキミに愛されているちょこは本当に幸せ者。
「そんなこと心配しなくても大丈夫。僕はちょこさんの近くから離れるなんてことはしないですよ」
「絶対だよ!」
「はい、大丈夫ですよ」
本当にあなた様はちょこのことを愛してくれている。ちょこもあなた様のことを愛している。
それから少ししてあなた様はなんか体の調子が優れなくて、病院に行くことになった。本当はちょっと不安で付いて行きたい気持ちがあったけど、あなた様が「大丈夫だから安心して」と言われて家で待っていることにした。
そして病院で精密検査をして家に帰ってから、不安に思いながらも病院のことを聞いてみることにした。
「ううん、何でもなかった」
「よ、よかったぁ…」
変な病気じゃないかって少し心配だった。もし、病気だとしてもちょこが全力で支えてあげるけど、あなたが苦しんでいるところを見たくないし。
でも、あなたはちょっと顔が曇っているのが気になった。
「ちょっと明日から出張に行くことになっちゃったんだけど、大丈夫?」
「え、急じゃない?」
「うん。僕もそう思うんだけど、どうしても僕しか頼めないって言われちゃってさ」
「そうなんだ…」
本当はキミのことをあんまり離したくない。ずっとちょこの隣に居て欲しいという気持ちもある。だけど、あなたがお仕事を真剣に頑張っていることも知ってる。
出来るだけそれの邪魔だけはしたくはない。
「わかった」
その後すぐに出張の準備をして、いつもより早く寝た。そして翌朝しっかりとあなたのことを見送った。
ちょこもあなた様の出張が増えたぐらいのタイミングでお仕事が重なって入っちゃったので、いつも朝早く出て帰って来るのは夜遅くという生活になった。いつもあなた様はちょこが帰って来るまで起きてくれて、お出迎えもしてくれる。ちょことしてはあなた様もお仕事が忙しいのは分かってるし、無理せずに寝ちゃっていいと言っても「いいえ、僕がちょこさんに会いたいから待っているんです」と言われちゃった。
ガチで嬉しい。
そんな風に言われるといつどんな時でもあなた様の側から離れたくないと思っちゃう。
でもどこか…ちょこは不安も感じていた。
「最近ちょっと痩せてきてないかしら?」
「ううん、そんなことはないよ」
「そう?」
「はい、大丈夫ですよ」
ちょこが見ても分かるぐらいにあなた様は痩せてる。元々痩せている方ではあったけど、最近では前にも増して痩せてきている気がするのは気のせいかな。
「じ、じゃあ…次の休みはちょこが美味しい料理をたくさん作る!」
「え、無理しないで大丈夫ですよ。その日はちょこさんも折角の休みですし、自分のリフレッシュのために」
「ちょこのリフレッシュにもなるの。やっぱり料理は食べている人の顔を見るのが一番良いからさ」
あなた様はいつも口にも出して『美味しい』と言ってくれるし、表情にも出してくれるから作り甲斐がある。あんな笑顔をされちゃったら作っているこっちからしたら…ガチで嬉しいし、この人のために作ってあげたいと思うもん。
「そうですか?」
「そうなの」
そして週末の楽しみが出来たのでお仕事もより一層頑張れた。最近は忙しくて作ってあげる機会も減っていた。同棲し始めた頃は毎日のようにご飯を作ってあげてた。今思うとあれは…当たり前じゃなかった。ちょこもあなた様もお仕事が忙しくなれば同じ時間に食事をする機会も自ずと減って来る。
それが寂しかった。でもそれをちょこが口にしちゃうとあなた様を無理をしてでもちょこに時間を合わせてくれようとしちゃうのは分かってる。だからこそ、ちょこは言えなかった。
でも…久し振りに週末は食事が出来る。
人が聞けば「食事をするだけで」と言われるかもしれないけど、ちょこにとっては何よりも嬉しい。あなた様と一緒に食べられることが。
やっと一緒の食事を明日に控えて、気持ちが高揚していた。事務所からの帰り道に明日作りたい料理の材料を買って行く予定。そして今は収録の合間で明日のメニューについて考えている。あなた様が好きなものをたくさん作ってあげたいけど、少し変わり種も用意したい。
そんなことを考えてるとスタッフさんが話し掛けてきた。
「ちょっといいですか?」
「あ、大丈夫です」
スタッフさんの顔が少し焦っているように感じた。
「なにかあったんですか?」
その後のスタッフさんの説明だと明日の生放送に体調不良で出れない人が出てしまって、その代打をお願いしたいという話だった。だけどさすがにあなた様との約束を破る訳にはいかないので断った。もし予定が何もなくて、あなた様も仕事で忙しかったら了承していたかもしれないけど、今回は久し振りに二人で食事をするって約束してるから。
でも、その日に家に帰るとあなた様はお出迎えをしてくれなくて…部屋の中は暗かった。そして中の入って行くとテーブルには一枚の紙が置かれていた。
その紙には――――――――――
『他に好きな人ができたんだ』
簡潔に書かれていた。
その言葉だけでもう『ちょこのことが好きじゃない』と言われているようなもの。
涙が自然と溢れてしまって…紙は涙で汚れてしまった。
あなた様がちょこの前から消えてから…一年が経った。ちょこはまだあなた様のことを引きずっていて他の人を好きに慣れずにいる。周りの子たちからは「そんな奴のこと忘れちまえ」とか「新しい恋があるよ」とか言ってくれるけど、ちょこにとってあなた様は特別な存在。他の誰かにあなた様の代わりにならない。
するとそんな時に部屋のインターホンが鳴った。そして出るとそこには…
「お姉さん…」
「お久しぶりです」
よく覚えている。あなた様が自慢の姉と言って紹介してくれていたし、よくあなた様へのプレゼントとかで相談にものってもらった。でも、あなた様が出て行ってからは全く連絡を取っていなかった。
「ちょっといいかな?」
「…はい」
お姉さんのことを迎え入れて…お茶などを用意し終わってリビングに行く
「ちょこちゃんには悲しい想いをさせてしまってごめんなさい」
「大丈夫です。それにお姉さんが謝るようなことじゃないです」
「ううん。これは言っておかなくちゃいけない。弟のことで色々と迷惑を掛けてしまったんですから」
今回のことはあなた様とちょこの問題。ちょこがただあなた様に嫌われちゃっただけ。
「そして迷惑を掛けたのに…こんなことを言うのはおこがましいとは思うんだけど、弟のことを憎まないで欲しいの」
「…憎んでないですよ。あなた様はただちょこのことを嫌いになっちゃっただけですし」
するとお姉さんは俯いた。
それから少しして顔を上げて信じられないようなことを告げた。
「弟はもう死んだ」
「え…い、いま…なんて?」
「弟はもう死んだの。ちょうど一年と半年ぐらい前に体に異変があったらしいの。本人はそこまで大事にはならないだろうと放置しといたらしいんだけど、それがダメだった。そして半年もしないうちに体力がどんどん落ちて行って、病院に検査で入院したりすることもあったわ」
「そ、そんなこと一つも…」
「うん。ちょこちゃんには変な心配を掛けたくなかったらしいの。だからなるべく疑われないようにしたらしい。本当に自分勝手な人間よね」
ちょこに言ってくれたら…少しでも力になったのに。
「そしてちょうど一年前に余命が告げられたの。二か月だったわ。私たちも懸命にどうにかしようと思っていたけど、当の本人はもう全て悟っている感じだった」
「一年前…」
「その時にちょこちゃんに別れを告げようと思ってみたい。自分とちょこちゃんじゃこれからの人生の長さが違うと。これ以上、彼女の時間を奪いたくないって…」
な、なんでそんな風に思うのよ。ちょこはあなた様と一緒じゃないと…。
「本当に自分勝手だけど……あいつはこう言ってた」
「『ちょこさんは本当に良い人なので本当に幸せになって欲しい』ってさ。それぐらいにちょこちゃんのことが大好きだった」
その言葉を聞いて…自然とちょこの目から雫が零れ落ちる。
「本当はあいつに「僕のことをちょこさんには言わないでください」って念を押されてたんだけどね」
「………っ…」
「あいつの気持ちも分かる。自分が好きになった人が悲しむ姿を見たくないっていうのも。でも私はさ、ちょこちゃんに弟のことを憎んで欲しくなくてさ。もちろんちょっとズボラなところがあったり、優し過ぎるところもあったからちょこちゃんも大変だったと思う。だけど、ちょこちゃんといる時のあいつはとっても……『幸せ』そうだったから」
「…ち、ちょこは…」
「だからちょこちゃんに恨んで欲しくなかった。あいつがちょこちゃんのことを悲しませるような別れ方をしたのは本当だし、許せないって気持ちがあってもおかしくない。だけど…これだけは知っていて欲しかった。あいつはそこまで悪い奴じゃなかったってことをね」
ちょこは泣いた。
こんなに泣いたのは初めてかもしれない。
それぐらいに。
ちょこはあなた様に裏切られたと思っちゃった。そう思っちゃった、自分がいやだ。なんであなた様がちょこのことを嫌いになるわけないと思えなかったんだろう。
――――――――――――
数日が経って、やっとちょこの心が落ち着いてきたのでお姉さんにお墓の場所を教えてもらっていくことにした。
お墓の前に立つと涙が自然と込み上げて来るけど、ここで流すわけにはいかないので必死に我慢する。
「ちょこは元気です。だから…あなた様も安心して。そしていつかあなた様のところに行けたら……たくさんのお土産を持っていくから楽しみにしていてください…」
これからは前を向いて生きよう。そうじゃないとあなた様が心配しちゃうから。
いつかあなた様と会った時に「がんばったね」って言ってもらえるように。
感想があれば