最初はただの行先の居酒屋で会う人。
次は飲み友達。
その次は気の合う友達。
そして恋人。
最後は夫婦。
アキロゼにとってキミとの存在がどんどん大きくなっているのは自分でも分かっていた。
それは自分でも怖いと思ってしまうほどに。
「アキロゼさんと一緒にいると落ち着きますね」
「そう~そう言ってもらえると嬉しいな~」
アキロゼは隣に座っている、キミの顔を見ながらやっぱりアキロゼの旦那が世界で一番カッコいいと思った。いつもアキロゼのことを想ってくれて、気遣いもできるし、優しい。それに極たまにだけ、鋭い目をしてくれる時なんてギャップで死にそうだ。
「本当にアキロゼさんと結婚出来て良かったです。僕は本当に幸せ者です」
「それはアキロゼの方だよ。キミと出会えてよかった。あの日にあの居酒屋に足を運んでいなければキミと会うこともなかったかもしれないと思うと…本当に運命だよね」
「そうですね。あの時に会っていなければ、こんな今もなかったですしね」
今じゃキミと会えていないアキロゼなんて想像もできない。だけど、そんな風な未来もあったんだと思うとちょっと怖い。
「でも、キミと出会えた。今のアキロゼはとっても幸せなんだ。だからこれからもアキロゼと一緒にいてね」
「はい、僕の方こそ、アキロゼさんと一緒に過ごしていきたいです」
アキロゼは『幸せ』だ。
今までの人生も幸せだと感じてはいたけど、やっぱりキミとの日々は今まで自分が感じていた幸せよりも圧倒的に大きくてすごいものだった。ちょっと上手い表現が思いつかないな。
う~ん……まぁ……すっごく幸せだってことかな。
そして夫婦になって一カ月ぐらいで温泉旅行に行くことにした。お互いの予定を合わせて三泊四日で温泉旅行。今までも何回か、二人で旅行をすることはあった。でも、今までは温泉じゃなかった。
「長かったですね」
「そうだねぇ~」
電車に乗っている時間も二人で話していたのであっという間だった。そしていくら話しても会話が止まる事はなくて、本当に良い時間。これだけでも旅行しに来た意味があったと思える程。
「それじゃあ、まずチェックインだけしちゃいましょうか」
そして温泉旅館にチェックインをして荷物などを置いてからアキロゼとキミは外へと繰り出していた。今の時刻は午後6時で少しずつあたりが暗くなっていくような時間帯。人通りが少なくなっていく中を歩いていく。
「アキロゼはさ…。ここまで誰かを好きになるなんて初めてだった」
誰かに対して好意を抱いたことはあったものの、今程ではない。そう考えるとあの時に抱いていた気持ちは本物の愛ではなかったのかもしれない。
「それで色々と考えたんだけど、アキロゼはあなたとの間に『子供』が欲しいの」
「……ほんとにいいんですか?」
「うん、アキロゼはあなたとの間に子供が欲しい。愛の結晶が……」
「分かりました。では子供を作りましょうか」
そしてそう決めて数か月後にアキロゼはキミとの子供を授かった。そう分かった時は嬉しくてキミに抱き着いちゃった。キミもとても嬉しそうでその顔を見て、またアキロゼも嬉しくなっちゃったのを今でも覚えている。
アキロゼはお仕事を重ねていきながら病院へと通う日々。いつもキミが近くで支えているからこそ、アキロゼはずっと前を向いて赤ちゃんのことをだけを考えて行動が出来た。
色々とキミはお仕事をしながら、アキロゼのことをやってくれた。会社への届け出や立ち合いのことなど本当に親身になってくれている姿は本当に頼りになった。
キミのお陰もあって無事に出産に成功することができた。
娘が生まれてからの日々は目まぐるしかったけど、家族三人で生きていく生活はとても充実していた。初めて「ママ」と呼んでくれて喜んだり、三人で散歩したりと当たり前のようで当たり前じゃない日常。
「この子、可愛いね」
「可愛いです。アキロゼさんに少し似ていますね」
「まぁ、アキロゼの子だからね。でも目元とかはキミに似ている」
「そ、そうですか…?」
「うん、ちょっと釣り目な感じとかさ」
「た、たしかにそうかも。僕としては娘なのでアキロゼさんの方に似て欲しいですけど」
「え~キミに似てもカッコいい女の子になると思うけどな~」
そんな風な会話をしている間も幸せを感じられていた。
そんな幸せは急に壊れた。
その日はキミが急に倒れて救急車で運ばれた。急なこと過ぎてアキロゼも困惑しちゃって何をするべきか分からなくて困惑してしまった。
そしてそれだけじゃなくて……お医者さんから「余命、半年です」と言われた。その席にはアキロゼとキミがいた。
娘はベビーシッターの方にお願いをしてみてもらっている。
「え…いま、なんで?」
「ご主人は難病を患っております。詳しいことはまたお話しますが、我々も最善を尽くすつもりです。ですが、もって数ヶ月かもしれないとはしっかりと伝えておきます」
アキロゼはお医者さんの言葉が理解出来なかったけど、隣に座っているキミはそれを理解してしまっているようだった。
「これから自分は何をするべきですか?」
「そのことについてはしっかりとご相談しながら決めたいと考えています。今の医術ではあなたの病気を完治させることはできませんが、少なくともこれ以上病が体に広がらないようにする薬はあります」
「…ど、どうにかならないんですか!?」
「申し訳ありません。私に出来るのはここまでです」
お医者さんの言葉に対してアキロゼが言おうとしたタイミングでキミが静止してきた。
「…なんで…」
「大丈夫です。今は抑えましょう。お医者さんも僕のことをしっかりと調べた上でそう決断しただけですから」
その日、家に帰って来てからアキロゼとキミはこれからのことについて話した。アキロゼが感情的になっちゃったこともあったけど、キミは抱きしめてくれた。アキロゼが落ち着くまでずっと抱きしめ続けてくれて「大丈夫だよ」とずっと言い続けてくれた。
本当はキミの方が動揺しているはずなのにアキロゼのことばっかり……。
キミは「娘のことやアキロゼさんのことを考えると本当に申し訳ない。たぶん、お医者さんのあの話し方だとどう頑張っても自分は一年生きれないと思うしね」と言っていた。全てがアキロゼたちのことで自分のことを話さない。たぶん、ここで自分が弱音を言ったらアキロゼたちのことを心配させちゃうから言わないんだと思う。
本当にキミはどんな時でも相手のことを考えられちゃう人だから。
その後の日々は壮絶だった。キミとアキロゼで話し合って、なるべくたくさんのところに娘と行こうという話になった。娘が大きくなった時にパパとママがあなたは一緒にこういうところに行ったんだよと言えるように。
キミはなるべくアキロゼたちのためにお金を残したいのでギリギリまでお仕事をしたいって言ったけど、さすがにそれはアキロゼが反対した。お金のことならアキロゼがどうにかする。
普段は行かないところに足を運んだり、電車であてもなく遠くの場所に行ったりと本当に色んなことをした。
余命が言われて四カ月が経ったある日に…キミは倒れた。まるで最初に倒れた時と同じように。すぐ救急車に連絡して病院へと運ばれて行った。
すぐに入院することになった。アキロゼはそれを見ていることしか出来なかった。
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病室にいるキミはいつもの笑顔を浮かべてアキロゼに対して謝罪ををした。
「ごめんね、アキロゼさん」
「キミが謝ることなんてないよ。アキロゼの方が謝らなくちゃいけない」
「なんでですか?」
「だってキミの体調がいつ崩れるかは分からないんだからもっと考えてあげるべきだったんだよ」
「それこそアキロゼさんが気にする必要なんてないですよ。これは僕が病に侵されたのが全ての原因なんですから」
キミは全てを自分で背負い込んでしまう癖がある。これはキミの癖の中で唯一直して欲しいところ。だってキミにはアキロゼがいるもん。キミが辛い時はアキロゼが絶対に側に居てあげるから、少しはアキロゼにも分けて。
「キミはただ病を治すことだけに力を注げばいいの。アキロゼがキミのサポートはしっかりするから」
「ごめ「ごめんなさいはだめだよ。アキロゼは謝られるためにやったわけじゃなくて、キミの力になりたくてやっているだけなんだからさ。それにアキロゼとキミは『夫婦』なんだから」」
「…ありがとうございます」
「うん!」
そしてその日からキミは入院することになった。
だけど、お医者さんが言うには体調はどんどん悪化しているようで、いつ亡くなってしまってもおかしくないような状況にまでいっているらしい。それでもキミはいつも笑顔でアキロゼのことを迎え入れてくれている。
「おはよう」
「アキロゼさんもおはよう」
「調子はどう?」
「調子は良いよ。今まで一番良い日かも」
「それはよかったね。早く体調を治して、またみんなでどこかに行こう!」
「そうだね。早く治さないとあの子が僕の顔を忘れちゃうかもしれないからね」
「大丈夫だよ。あの子の中にキミの顔も声もしっかりと刻まれていると思うから」
それから他愛のないような話をしていると、キミが急に言い出した。
「もし、僕が亡くなったとしてもアキロゼさんは大丈夫です」
「え、どうしたの?」
「いや、もしもの話です。アキロゼさんが一人であの子のことを育てるのは大変かもしれないですけど、お願いします。僕のことを恨むのは全然良いので」
「そんなこと言わないで。アキロゼはキミとあの子で笑顔の絶えない暮らしをするんだから」
「そうですね、楽しみです」
「うん、楽しみだね」
そしてアキロゼとキミが会話をしたのはそれが最後になった。
数時間後にキミは静かに息を引き取った。
悲しむ暇を与えないと言わんばかりにお葬式のこととかで本当に忙しかった。色んな方が手伝ってくれたものの、やっぱり大変だったけど、それでよかった。それのお陰でキミが亡くなった事実を深く考えなくて済んだから。
でも、お葬式が始まるのと同時にキミが死んだことを改めて認識してしまい、だめだった。涙が止まらなくて、頭の中ではキミとの思い出がどんどん駆け巡る。
「な、なぁんでぇ……きみがしななくちゃいけないの…」
生きて…アキロゼの隣で笑っていて欲しかった。キミとあの子とアキロゼで幸せな家庭をこれからも築いていたかった。たまには喧嘩をしたり、一緒にお祝いをしたり、遊んだりと本当に何気ないことを……一緒に。
キミがいなくなって…アキロゼはこれから……と考えた時にキミが言っていた言葉を思い出した。
『お願いします』
そうだ、アキロゼにはあの子を…。
隣で私のお母さんに抱き抱えられている、あの子の方に視線を移す。お葬式の雰囲気が怖いと感じているのか、少し怯えている。
そうだ、アキロゼにはまだやらなくちゃいけないことがあるんだ。
「アキロゼがしっかりとこの子を育てるから見守ってて」