奏はスタッフさんのことを好きになっちゃった。
そしてその想いをいつもスタッフさんに伝えてる。これを言うとスタッフさんが困ることは分かっていても、言わずにはいられない。
「奏が一番だってよ!」
「だ、だから…それを言ってしまうと僕と音乃瀬さんの関係が壊れてしまうと説明したじゃないですか」
「それでもいいよ!奏はキミから一番だって言って欲しいの!!」
「…で、ですが…」
「奏は好きだよ。キミと出会えて奏は本当によかった。キミが側に支えてくれるからこそ、奏はやっていけてるよ」
「…音乃瀬さん…」
「もし、ここで自分の気持ちを封じ込めたら奏は一生後悔することになると思うの。だからしっかりとキミに対して抱いている気持ちは伝えておきたい」
本当にキミのお陰で奏はここまでやってこれた。
「もう一度言うよ。奏はキミのことが好きだよ。これからもキミと一緒に生きたいし、いずれは赤い糸で結ばれたいと思ってる。奏は本気だから」
「…音乃瀬さんの気持ちは分かりました。そこまで僕のことを想ってくれているのは一人の男として有難いし、嬉しいです。だけど音乃瀬さんの気持ちを受け入れてしまったら…音乃瀬さんも今のようには活動できないかもしれません」
「…それも分かってるよ。奏だってホロライブに入れて色々頑張りたいし、これからもやっていきたいと思っている」
「それなら……」
「でも、奏がホロライブで頑張っている間にキミが他の人に取られちゃうかもしれないじゃん。それだけはどうしても嫌なの」
「……じゃあ、僕は待ってますよ」
「え…」
「僕は音乃瀬さんが自分のやりたいことをしっかりと全部やるまで待ってますよ。その間は誰かのものになることはないので」
「…で、でもそれは…」
「それに僕も音乃瀬さんと同じ気持ちですから。好きな人が好きなことを頑張っている姿は見ていたいですし」
「同じ気持ち?」
「同じです。音乃瀬さんとね」
「そ、それって…?」
「はい、音乃瀬さんの考えている通りです」
「まじ?」
「まじです」
「嘘ついていない?」
「ついていませんよ。逆になんでそんなに疑うんですか?」
「だ、だってキミが奏と同じ気持ちなんて…」
「大丈夫です。本当に音乃瀬さんと同じ気持ちなので」
「………そっかぁ…」
「はい、なので僕は待っています」
「待ってて。奏、夢に向かって頑張るからさ!」
「頑張ってください」
いつでもキミの一言が奏の背中を押してくれる。キミの言葉が奏にどれだけ影響を与えているのかをキミは知らないんだと思う。
それから奏はひたすら夢に向かって頑張った。いつでもあなたが側に居てくれるんだもん。頑張れないなんてことはない。
全ての夢を叶えた時に奏に残っていたものはたくさんのファンと支えてくれている人たち。
だけどその支えてくれる人の中にキミはいなかった。
キミは三つの夢を叶えるよりも前に死んでしまった。奏はキミの異変に気付けなくて、気付いた時には全てが手遅れだった。奏は自分の夢に向かって突っ走り過ぎたんだ。
スタッフさんのことをあんまり見ずに自分だけを見ていた。だからこそ、社員さんの体調が悪いことに気付けなかった。
スタッフさんも頑張って病気と向き合って、治すための努力をしていた。お仕事を休む日も増えてきて、さすがに心配になってお見舞いに行ったりした。でもその度にスタッフさんは「奏さんの夢が叶うまでは生きているので大丈夫です」と言われた。
ちがうんだ。
奏は夢が叶えることが終わりじゃないの。その後にはキミと二人で過ごす…未来が。
二人で幸せな家庭を築いていきたい…。
だから、奏はスタッフさんに言った。
「結婚しようよ」
そう言われた時のスタッフさんの顔は今でも忘れられない。鳩が豆鉄砲を喰らった時みたいで本当に予想出来ていなかったみたい。
でも、少ししてスタッフさんは「そうですね」と言った。
奏とスタッフさんは結婚した。スタッフさんの体調を考えて盛大に結婚式とかは無理だったけど、奏はウエディングドレスを着たりもした。そして何より…奏の左手の薬指には指輪がある。
この指輪があると奏とスタッフさんがいくら離れているところにいたとしても、繋がっているように感じれて本当に嬉しかった。
そして結婚して数ヶ月もしないうちにスタッフさんはこの世を旅立った。その日はとても重要なお仕事だったけど、スタッフさんの容体が悪いと聞いたらお仕事なんて言ってられない。
でも、さすがにマネージャーとかから「気持ちは分かりますけど、お仕事行ってください!」と言われりした。奏にとってスタッフさんはどんな人にも代えられないような人なんだ。その人が大変な時に駆けつけない何て…妻としてだめだ。
病院に駆けつけるとスタッフさんはもう話せるような状態ではなかったけど、奏のことを見ると優しく微笑んでくれた気がした。
そしてキミは一生に幕を閉じた。
それから少しして奏は夢を叶えた。
今までずっと夢見てきたことが叶ったはずなのに…嬉しいという感情はそこまでなかった。たぶんそれはもう一つの指輪をはめている人が隣に居てくれないから。
「キミが指輪をはめてくれた日から…奏とキミは一心同体」
それなのに…キミはいない。