ボクところさんは捨てられた。ボクの飼い主さんもころさんの飼い主さんも…どこかに行っちゃった。捨てられた日からボクたちは野良猫と野良犬になったので、そこら辺のゴミ箱から食べ物をあさったりした。
飼い主さんに対して怒っているところもある。でも、最初からあんまりあの飼い主さんはボクのことを可愛がってくれる感じはあんまりしなかったから絶望も少なかった。
そしてそんな時に運命の人に出会った。その日の夕方はゲリラ豪雨ですごかったのを今でも覚えている。そんな時にキミはボクたちのところまでやってきた。
「この子たちは帰るところがないのかな」
この人は優しそうな人だと思ったのが…第一印象。そんな風に感じたからなのか、ボクところさんは抵抗することなく、その人に飼われることになった。
そこからの生活はボクところさんにとって…まるで天国だった。今までみたいにゴミ箱から餌をあさるわけではなくて、毎日しっかりとしたご飯をくれる。ボクはあんまりそういうのに詳しくないけど、このご飯もかなり高級なものだというのは味だけでも分かる。
本当にそれだけでもボクは幸せだったし、ころさんも同じ気持ちだったと思う。
それなのにボクの新しい飼い主さんはいつも優しく接してくれる。今までの人間に抱いていた印象というのがどんどん変わっていくのをボクでも感じていた。
「ねぇ、ころさん」
「うん?」
「ボクたちの飼い主さんってどう思う?」
「優しいでな」
「そうだよね。ちょっと優し過ぎるよね」
「こおねもそう思う。だって飼い主くんは食事とか質素なのにこおねたちのご飯はとっても豪華!」
「そうだよね~」
ここまで優しくされるとさすがにちょっと疑っちゃう。ボクたちは何かされるんじゃないかと……。
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「キミたちは可愛いね」
そう言いながらキミはボクところさんは優しく撫でてくれる。今までこんなに優しく撫でて来る人と今まで出会ったことがなかったからか、心地よくてこのまま時間が止まってしまえばいいと思ってしまうほどに。
それはころさんも同じみたいですっかり身をゆだねている。ころさんは捨てられてから人を信じていなかったのに、今では気を完全に許しているだけでもすごい。
「元気に育ってくださいね。幸せに…」
ボクたちは幸せなのに、キミはちょっと悲しそうな笑顔を浮かべているのがいつも気になってる。なんでこんなにもボクたちに優しく接してくれるのかな。
少しでもキミに笑顔になって欲しいのでボクはキミに擦り寄る。ボクたちだけ良い思いをして、キミには辛い思いをさせるのはいやだ。
人間と動物が意思疎通を図るのはとても難しい。でも、ボクところさんにはそれを可能にする術がある。だけどその手段を人間に対して使ったりすることはほとんどない。
だってそんなことをしたら変な犬と猫としてどこかに連れていかれたりするかもしれないから。
「ねぇ…ちょっとあれを使ってみない?」
「あ、あのテレパシーみたいなやつ?」
「うん。今の飼い主さんならボクたちにこういう力があるって知っても悪いようにはしないと思うし」
「まぁ、そうだね。あの飼い主さんならこおねのことを可愛がってくれるし…」
「だから…ちょっと使ってみようよ」
お仕事から帰って来てからボクところさんは飼い主さんに話し掛けることにした。
『あのボクたちの声が聞こえてる?』
どうやらボクの声はしっかりと聞こえているようで、飼い主さんは辺りをきょろきょろと見渡している。
『こおねたちだよ~』
「どこから聞こえるんだろ。それとも疲れがピークに達して幻聴が聞こえて来るようになったってことかな」
『違う違う。ボクたちだって!』
「…ねこといぬ…?」
『そうだでな!ころねたちの声だよ』
「え…ほんとに?」
さすがに飼い主さんもボクたちが喋っているとは考えていなかったようでかなり驚いている。
それからボクところさんはテレパシーのようなものが使えることと人間のような形に擬態できることも教えた。飼い主さんならこのことを知ってもボクたちに悪いことをしないと思ったので。
でも、飼い主さんの反応はとっても淡泊なものだった。
「へぇ…そんなんだ」
正直、もっと驚くかと思ったのに全てを受け入れちゃっている。
『飼い主さんって順応するの早過ぎない?』
「そうかな…。でも、色々と経験してきたのでどんな出来事が起こっても対応できるように体がなっているのかもしれません」
『こおねも、もっとど驚くと思っていたのにざんねん』
「残念なんですか?」
『うん!だってこおねたち人間みたいになれるし、喋れるもん。もっと驚いてもいいのに』
「確かにそう言われるともっと驚いても良かったかもしれない…」
飼い主さんの反応はそんな感じでちょっと…拍子抜けだった。
それからはコミュニケーションを取りながら一緒に暮らしていった。その中で飼い主さんについても色々と知れた。両親がギャンブル依存症だったこともあって借金を背負っていたことや、恋人を奪われたことなど。
ボクところさんは飼い主さんの話を聞いて思ったのは、この人ってどれだけ色んなことを経験してるのってことだった。でも、それだけのことを経験しても飼い主さんは話している時もいつも笑顔だった。なのでボクもころさんは余計なことは言わずに、飼い主さんの近くで静かに聞いていた。
少しでも飼い主さんの力になれるようにと…。
『このプレゼントはどうしたの?』
「あ、それは友人が誕生日だからってくれたんです」
『え、誕生日だったの、こおね聞いてないよ!』
「言ってませんからね」
『え~言ってよ。ボクたちだってキミのことをお祝いしたいよ~』
「別に大丈夫ですよ。もう色んな人に祝ってもらいましたし、年齢を重ねすぎると誕生日はあんまり良いものではないので」
『それでもボクところさんはキミのことをお祝いしたい』
ボクところさんがこんな考えられない位に幸せな日々を送れているのは…飼い主さんのお陰だ。彼が居てくれなければ今でもボクところさんは人のことを信じられずにいたと思う。
飼い主さんが拾ってくれてボクたちのことを見捨てずにいてくれたから。
だから少しでも恩返しをしたい。
飼い主さんを見送ってからボクところさんは話をした。やっぱりお誕生日会をするべきという話になり、そのための準備は色々とあるけど飼い主さんにはバレずに進めて行こうということになった。
お金に関してもボクところさんが人間の姿になってバイトをして溜める。ボクたちにしかできないようなバイトなら絶対に雇ってくれる。動物とも人間とも話が出来るような存在はボクたちぐらいしかいない。
それを活かしてボクところさんは動物園でバイトを始めた。
バイトを始めたので飼い主さんがお休みの日でもお仕事に行かなくちゃいけない日もある。
「あれ、お二人とも出掛けるんですか?」
「うん!しっかりと遅くなる前には帰ってくるでな」
「だから心配しないで」
本当は折角、キミが休みなのであればいつも近くで一緒にいたいけど、今は我慢する時だ。しっかりとお仕事を頑張ってキミにサプライズバーティをするんだ。
そして一カ月アルバイトを続けてやっとお給料を貰えたのでサプライズパーティの計画をころさんと立てる。
「こんな感じで飾り付けとかしたくない?」
「たしかに。やっぱりたのしんでほしい!」
「そうだよね。ボクたちの感謝を伝えられるようにしないとね」
どんどん準備は進めていって、ケーキを注文もしたり、百円均一とかで折り紙を買ったりと飾りつけに必要なものを揃えた。準備をしている間も飼い主さんが喜んでいる姿を想像したりしていると、本当に用意している間も楽しかった。
そしてついにその日が来た。
サプライズパーティーの決行日。いつものようにボクところさんはキミのことを見送ってから飾りつけに取り掛かった。
それ以外にも近くのスーパーで色んなものを買った。
この日のためにボクところさんはお料理の勉強もしたので、キミが帰って来るぐらいの時間になって来ると料理を始める。
「あ、おがゆの美味しそう~」
「味見はしてもいいけど、あんまり食べちゃだめだからね。これは飼い主さんのためなんだから」
「わ、わがってるよ…」
そして全ての準備が終わるとボクところさんは飼い主さんが帰って来るのを待つ。飾りつけの確認もしたし、お料理も作り終わったのでもう後は主役の登場を待つだけ…。
「飼い主くんも喜んでくれるかな?」
「絶対に喜んでくれる!」
「そうだよね。ボクたちこの日のためにすっごく頑張ったもんね」
「頑張った!たくさん頑張った!」
「だから…少しでも飼い主くんの気分転換になってくれればいいなぁ…」
「飼い主くん、遅いね」
「そうだでな」
「普段はもう帰って来ても良い時間だよね」
「ちょっと帰りが遅くなっているんかな」
「たぶんそんなところだと思うよ。だからボクたちは帰って来るのを待ってよう」
「うん!」
その日の夜、一人のサラリーマンが交通事故で命を落としたとテレビが報じた。