別れ   作:主義

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『キミの猫』


猫又おかゆ編

半世紀に一度だけ奇跡が起こる。これはただの御伽噺のようなこと。

 

これはある街に伝わる御伽噺。

 

その日の決まった時間にお願い事をするとその望みを叶えてくれる。ずっと昔からの言い伝え。知らない人が聞けば、そんなわけないと一蹴してしまうようなこと。

 

でもこの言い伝えは長い年月が経ってもずっと語り継がれている。

 

 

 

これは人や人ならずるものが奇跡に願う。

 

 

 

――――――――――――

 

 

ボクは願った。キミが生きていた頃に『この街には何でもお願い事が叶う日があるんだよ』って聞いたことがあった。その話はとっても面白かったし、話している時のキミが笑顔だったのが印象的。

 

 

その日は半世紀に一度だけしか訪れないらしい。

 

 

 

 

どんなものでもキミにもう一度会えることを実現させてくれるんであれば…何でもいい。

 

 

「ボクをもう一度キミに会わせてください」

 

 

少しの間でもいい。キミとお話がしたい。キミと会えるんならボクはどんなことでもできる。

 

 

 

 

 

「あれ……おかゆ?」

 

そこにはボクが会いたくてやまなかったキミが立っていた。キミもこの状況を理解していないような顔をしていたけど、今のボクにはそんなこと関係ない。

 

ボクにとって大事なのはキミがボクの目の前にいるということ。

 

 

 

すぐにボクはキミに抱き着いた。そこにキミがいて…ちゃんと存在しているんだ。

 

 

 

「お、おかゆ…?」

 

 

「やっぱりボクはキミと一緒がいいの!キミじゃなきゃボクはいやだ!」

 

 

「…そっかぁ…。やっぱり俺が死んじゃった後に新しい飼い主さんのところに行かなかったんだね」

 

 

「行かないよ。前にも言ったけど、ボクにとっての飼い主はキミとおばあちゃんだけ。それ以外の人に飼われるのはいや」

 

キミから色々と説得はされた。それでもボクはキミの猫なんだ。キミが死んじゃったとしてもボクはキミの猫だ。これだけは絶対に変わらないし、変えられない。

 

 

「そこまで俺のことを気に入ってくれたのは嬉しいけど、俺はおかゆに幸せに暮らして欲しかったんだけどな」

 

 

「ボクはキミと過ごせて幸せだった。毎日毎日が本当に幸せで今でも思い出せるぐらい」

 

 

「それは嬉しいけど。でも、新しい飼い主さんのところで幸せに暮らしてくれ」

 

 

「いやだ。どんなことになってもボクはキミと一緒」

 

キミの近くはとても居心地が良くて…忘れられない。ボクを中毒にしたのはキミなんだ。だから最後まで責任を取ってもらわないと困るよ。ボクだけを置いて先に逝っちゃうなんて…。

 

 

「そっかぁ…」

 

 

「うん、絶対にキミの側から離れない」

 

 

 

 

 

「ここは俺が折れないとだめなんかな」

 

 

「折れて。どれだけ言われてもボクの気持ちは変わらない」

 

 

「仕方ないな」

 

だってキミと出会えなかったら…ボクはこんなに幸せになれなかった。

 

 

「俺の方こそ、おかゆに出会えて幸せだった」

 

キミは唐突に話始めた。

 

 

「これは伝えてなかったんだ。おかゆを譲り受けた日を今でも覚えてる。それぐらい、おかゆと出会ったあの時は印象的で俺の記憶に一生刻み込まれている。あの日から俺の人生が大きく変わった」

 

 

 

「一人暮らしをし始めてから誰とも一緒に暮らしていなかった。そんな中、おかゆと一緒に暮らすようになったから最初は戸惑ったけど、振り返ってみれば、おかゆが来てくれたお陰で俺の人生は楽しいものになった」

 

キミがボクとの暮らしをそんな風に思ってくれるなんて…。

 

 

「大事なことだからこそ、もう一度伝えるよ。俺はおかゆに出会えて幸せだったよ」

 

亡くなった時と同じでキミはとても穏やかな笑みを浮かべていた。その笑顔を見ていると自然と涙がこぼれちゃうんだ…。あの時の喪失感を思い出して。

 

 

 

 

それでもボクもしっかりとキミに伝えなくちゃいけないんだ。ボクは涙を拭いて、深呼吸をして心を落ち着かせてから伝えることにした。

 

「…ぼ、ぼくの方こそ幸せだった!!」

 

おばあちゃんとの日々も幸せだった。でも、それとはまた別でキミとの日々は新鮮で幸せに満ち溢れていた。

 

 

「キミに出会えてないボクなんて考えられないぐらいだよ。たくさんの『幸せ』をもらっちゃったんだ。あんなにボクのことを大切に扱ってくれて、いつも優しくしてくれた」

 

 

「俺は変わったことはしてなかったけど」

 

 

「それがよかったの。ボクを特別扱いをして欲しかったわけじゃないの。ただ隣で普通にお話をしたり、たまに撫でてくれたりすれば。キミはボクのして欲しかったことを全てしてくれて、そしてそれ以上のたくさんのことを教えてくれた」

 

キミと出会わせなければ誰かのことをこんなに『好き』になることもなかったと思うんだ。キミと一緒に過ごせたからこそ、今まで芽生えたことのない気持ちがたくさん芽生えた。

 

キミが職場の女の子と仲良くしていることを知った時は初めて…『嫉妬』を覚えた。今まで何かに嫉妬したりすることはなかったのに、キミのことになると何でも嫉妬しちゃうようになっちゃった。

 

 

 

 

本当に知らないような感情を抱く日々に恐怖を覚えながらも…その日々は楽しかった。

 

 

「ボクもキミと出会えて本当に幸せだった」

 

本当に幸せだった。

 

 

「ボクを受け入れてくれてありがとう、ボクの隣に居てくれてありがとう、ボクに優しくしてくれてありがとう、ボクにたくさんの感情を教えてくれてありがとうボクのために…いきて…ほしかった…」

 

ボクはいつまでもキミの隣に居たかった。

 

ただキミの側に居るだけでボクは幸せだったんだ。

 

 

 

 

 

するとキミの体が少しずつ薄くなっていることに気付いた。キミもそれには気付いているようで、最後に言葉を紡ぎ始めた。

 

「ごめん。おかゆのことを置いていくことになっちゃったな。でも、これからはおかゆなりの道を歩んでくれ。俺はおかゆのことを見守っているからさ」

 

 

「…ボクはいつまでも『キミの猫』だよ」

 

そしてキミは…消えた。

 

さっきまでそこに居たのにまるで最初からいなかったみたいに…。

 

 

 

 

「ボクと出会ってくれてありがとう」

 

 




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