半世紀に一度だけ奇跡が起こる。これはただの御伽噺のようなこと。
これはある街に伝わる御伽噺。
その日の決まった時間にお願い事をするとその望みを叶えてくれる。ずっと昔からの言い伝え。知らない人が聞けば、そんなわけないと一蹴してしまうようなこと。
でもこの言い伝えは長い年月が経ってもずっと語り継がれている。
これは人や人ならずるものが奇跡に願う。
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沙花叉はやっぱりキミのことは好きだ。
大好きな人が死んじゃった日から…沙花叉は必至に仮面を付けて生きてきた。その辛さは誰かに打ち明けられない。彼以外の男の人が近付いてきたりもするけど…一つも心が動かない。
彼の言葉だったらどんなに他愛のないようなことでも心が動くのに、他の人の言葉じゃ沙花叉の心が動かなくなっちゃった。もう沙花叉の心はキミのものなんだ。
「もう生きている意味ってあるのかなぁ…」
大好きな人がいない世界で生きていて何ができるのかな。これから沙花叉が幸せになれることはなくて、もういないキミのことを想って生きるなんて沙花叉にとっては地獄すぎる。
そして沙花叉は電車である自殺スポットに来ていた。
もう生きる気力もないし…。さすがに自殺スポットというだけあって異常な雰囲気やロープや台らしきものが散乱していた。
「ここにしよう」
沙花叉は自殺をするための準備をしている時に…誰かが話し掛けてきた。
「ちょっと心配で会いに来ちゃいました」
「……」
言葉を失ってしまった。だって目の前に沙花叉の大好きな人に似ている人がいるんだもん。それにただ似ているだけじゃなくて笑顔も仕草も…全てが彼のもの。
そして一番彼と一緒に過ごしてきた自負のある、沙花叉の目から見ても本物だった。
「ごめん、驚かせちゃいましたかね」
「…なんで…」
「自分でも分からないんですけど、なんかちょっとだけ生き返っちゃったみたい」
「……そっか…」
次の瞬間には彼の元まで駆けていき、抱き締めた。
「あいたかった!!会えなくてなってからずっとキミのことだけ考えてた!やっぱり沙花叉にはキミが必要なの!!」
「…寂しい思いをさせてしまってごめんなさい」
「そうだよ!沙花叉みたいな可愛い子を一人にさせて悪いと思わないの!!」
「ごめん」
「許さないよ。沙花叉はもっとキミと過ごしたかった。キミじゃなくちゃだめなの!」
「うん、ごめんね」
抱き締めながらもやっぱり沙花叉はキミのことが好きなんだと実感する。この人と共に生きたかったと…思わせられる。この人じゃなくちゃ沙花叉は幸せになれないし、この人のことを幸せにしてあげたかった。キミのためだったら沙花叉はどんなことでもできた。だってどんなに悪いことをしても、キミと一緒だったらそれは『幸せ』だから。
「これからは沙花叉と一緒に…」
「ごめん、それもたぶん出来ないと思う」
「なんで…?」
「自分でも不思議なんだけど、あんまりこの状態ではいられないと思うんです。だから、ちゃんと沙花叉さんに伝えておかないといけないんです」
するとキミは真剣な顔で沙花叉は見ながら話し始めた。
「これから沙花叉さんが何をしようかは分かっています。でも…止めてくれませんか?」
「…この世界じゃ沙花叉は幸せになれない。キミのいない世界になんの未練もないよ」
「僕は沙花叉さんに生きていて欲しいです。まだこっちには来て欲しくない」
「生きている意味がないんだもん。沙花叉はキミと一緒じゃなきゃ…」
「僕にとって沙花叉さんは大切な一人です。僕の最後を看取ってくれた人ですし。だからこそ、沙花叉さんにはちゃんと幸せになって欲しいんです。僕のために時間を使ってくれた人が幸せになってくれることこそ、今の僕の幸せなので」
「…沙花叉はキミと一緒の場所の方が幸せだよ」
それが死後の世界でも沙花叉は今の世界よりもいい。
キミと一緒にこれからも歩んでいきたいし、近くに居させて欲しい。
「だめですよ。まだこっちに来るには早過ぎます。沙花叉さんにはしっかりと生を謳歌してもらって、100歳ぐらいまで生きて死んじゃったら来てください。その時はたくさんの土産話を期待していますから」
「…いやだよ。沙花叉はキミと一緒がいいの!!」
「その気持ちは嬉しいですけど、沙花叉さんはまだ来ちゃダメです。これはお願いじゃなくて命令です!」
「命令…?」
「はい、沙花叉さんはしっかりと生きてください。そして生きていることに噛みしめて生きてください。それにこれから先、どんなに苦しいことや辛いことがあったとしても大丈夫です。そういう時は僕が必ずあなたの隣に居ますから」
「…キミからの命令か……」
「はい、命令です。絶対に生きてください!」
「どうしても従わなくちゃだめ?」
「だめです。従ってください」
「じゃあ仕方ないな。沙花叉は良い子だからキミの『命令』に従ってあげるよ」
「あれ…さっきの沙花叉さんの感じだともっとごねると思っていたんですけど」
「まぁ…生きるのが辛いのは変わらないけどさ。キミが初めて沙花叉に『命令』とか強い言葉を使っても生きて欲しいっていうのが分かっちゃうから。沙花叉はもう少し生きてみようかなって」
「はい、生きてください」
すると少しずつキミの体が消えていく。
「どうやら時間が来てしまったみたいですね」
「ま、まって…」
「もう沙花叉さんは大丈夫です。僕はしっかりとあなたのことを見守っているので」
そして最後にキミは沙花叉の好きな笑顔で――――――
「僕を支えてくれてありがとう、クロヱ」
その言葉を最後にキミの姿は完全に見えなくなった。
「…ずるいよ。言い逃げなんてさ…っ……」
沙花叉は生きることにした。キミのところに行きたいっていう気持ちは全然残っているけど、それはもう少し後でもいいかなって。沙花叉みたいな可愛い子を待っている時間もキミは楽しいだろうしね。