半世紀に一度だけ奇跡が起こる。これはただの御伽噺のようなこと。
これはある街に伝わる御伽噺。
その日の決まった時間にお願い事をするとその望みを叶えてくれる。ずっと昔からの言い伝え。知らない人が聞けば、そんなわけないと一蹴してしまうようなこと。
でもこの言い伝えは長い年月が経ってもずっと語り継がれている。
これは人や人ならずるものが奇跡に願う。
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キミが居なくなってからアズキはアイドルでいることを止めた。歌が歌えなくなってしまったから。だから今は普通の会社に勤めている。
キミが死んじゃってからは色々と考えた。このままアズキが生きていても何も意味がないんじゃないか。キミという存在が居ないのにこの世界で生きている意味があるのかとか…。
でも、もしここでアズキが自らの手で命を終わらせてしまったらあの世で絶対、キミから「なんでアズキさんまで死んじゃうんですか!アズキさんは僕の分まで生きてくださいよ!」とか言われちゃうと思うから。どうにか生きている。
夜道の中、アズキは自分の家に帰るために足を進めた。
そして自分の家の玄関が見えるところまで来て…気付いた。
誰かがアズキの家の前で立っていることに。
「え……だ、だいじょうぶかな…」
注意しながら近づていくとその人物の顔が少しずつ鮮明に見えて来る。そこで完全に顔が見えるところまで来て、アズキの足は止まってしまった。
そして相手もアズキが近付いてきたのに気付いたようでこっちに視線を向けてくれた。
「アズキさん」
そこには死んだはずのキミがいる。
「……え…ほんとうに…」
「はい、お久し振りですね」
その笑顔はアズキがずっと見てきたものだった。大好きなだった笑顔。
キミが居なくなってからずっと見たいと願っていた笑顔。
「僕にもなんでこんな風にアズキさんと話せているのか分からないんですが、こういう機会をもらえたのも何かの縁だと思うので言いたいことを伝えておきますね」
するとキミはアズキの瞳を見つめながら話し始めた。
「まず、アズキさんのライブに行けなくてすいませんでした。折角約束して、アズキさんも楽しみにしていてくれたのに」
「そ、そんなことどうでもいいよ!アズキの方こそ、ずっと謝りたかった」
「アズキさんが謝ることはないと思いますが」
「ううん。アズキがライブに来てなんて我儘を言わなければキミが事故に会うこともなかったんだ。全てアズキの所為だよ」
「それは違いますよ。アズキさんのライブに見に行きたいと思って決めたのも僕ですし、事故にあったのもただの運命です。アズキさんの所為ではないです」
「…ううん。知ってるんだ。キミがあの日は…仕事があったのを」
あのあと、キミの同僚さんと話しているとあの日は有給休暇を取って休んでくれたって。キミはお仕事はとても大変そうだったからアズキが「そんなに大変そうならお仕事を辞めても大丈夫だよ。
アズキだけでもキミのことを支えてあげられるしさ」と言ったことがあった。
その時のキミの返答は「大丈夫です。僕は今の仕事がとても大好きなので、毎日毎日が自分の知らないことを学んでいる感じがして」と言っていた。
それもアズキのライブの日は大事な商談の日だったらしい。キミは前々からその日だけはどうしても参加するのが難しいと話していたので会社としては問題はなかったらしい。でも、その商談の準備を進めてきたのはキミだった。
たぶん、そんな大事な商談を断ることになったのはアズキが「来て欲しい」みたいなことをずっと言っちゃったから。口に出すこともあったし、態度に出しちゃうことも多かった。それがキミを休ませることに繋がっちゃうんだと思う。
だからずっと謝りたかった。あの時のことを…。
「仕事よりも大事なアズキさんのライブを取るのは当たり前のことです。そこにアズキさんが謝る必要なんてありませんよ」
「で、でも…」
「いいんです。アズキさんが商談のこととかを気にする必要もありませんし、僕の死に対しても抱え込む必要はありません」
「だけど…あずき…」
「『だけど』とか『でも』とかは禁止です。僕は大好きな人のライブに行くこともできず、死んだだけなんですから。死んだ本人が言っているんですから、この話はこれで終わりにしましょう」
でも…と出かかったが、どうにか止められた。これはキミに禁止と言われちゃったんだ…。
「それに僕もあんまり時間がないようなので…」
キミが見ているのは足の方で、アズキも視線を移すと足が薄くなっていることに気付いた。なんでキミがここにいるのかも分からないけど、今はそんなことはどうでもいい。だってキミと話せているという結果だけで…。
「一つだけお願いしてもいいですか?」
「お願い?」
「はい。アズキさんの歌を聞かせてください。僕はアズキさんの歌を聞けなかったことが唯一の心残りだったんです」
キミはいつもの優しい笑顔を浮かべまんまだった。本当にキミは何も変わらないと改めてアズキは感じた。
「うん…『君のために歌うよ』」
もう次は会えないかもしれない大好きな人のために歌いたいので…。
別に歌が流れているわけでもないのに自然と頭にメロディーが流れて来る。
そして自然と歌い始めた。
歌を聞いてくれている時のキミは…少し安らかな顔だった。まるで悔いはないかのように…。
「やっぱりアズキさんの歌声はキレイですね。本当は死ぬ前に聞きたかったですけど、死んだ後でも聞けてよかった。やっと安心できます」
「……あずきもうたえてよかったよ……」
「これで心残りはないですね」
「まだ…」
「いえ、大丈夫です。アズキさんの歌はやっぱりいいですね。あなたの声を聞いていると心に響くものがあるので、これからもその歌を歌い続けてください。そしてたくさんの人を幸せにしてあげてください」
「きっとあなたの声に救われる人がたくさんいるので…。僕みたいに…」
「……う、うん。アズキ、これからも歌い続けるから見守ってて…」
「はい、しっかりとアズキさんのことを見守っていますよ」
「アズキさんと一緒に生きれて…僕は幸せでしたよ」
そしてキミはまるで最初からそこにいなかったかのように消えていった。
「アズキ、頑張るから見守ってて」