クシャトリラ・ライズハートになったオリ主が呪いの世界で裏側除外するだけのお話。

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《奇異界開》

 何故か、胸の内に行き場のない怒りがあった。

 爪を立てて力任せに拳を握れば、大地には四本の跡が残る。

 

「――あ、あ――――?」

 

 目を開ける。驚愕する。

 自分が今いる場所は一番新しい記憶にある場所と全く違う、どこかの森の中。そこで何を思ってか寝転んでいる。

 

 「どうして」と「わからない」を繰り返し続ける安定しない心のまま、彼は立ち上がり彼自身を観察、把握する。

 

 日本人らしい黒髪の中に染めたのか赤色が混じっている。髪は長髪を後頭部で結えている。身につけているのは衣服……というよりも武士を思わせる鎧。

 左腕は宇宙を内包したような、およそ普通では考えられないもの。

 

 これらの情報で分かる。

 嫌というほど見てきた()()()()()だ。

 

「《クシャトリラ・ライズハート》……」

 

 なんて事のない呟きでも怒りの感情が滲んだ声として変換される。かのモンスターがどうやって生まれたものかを知っている自分としては、まあそうなるかもなあ、と納得ができる。

 ……知っている?

 

「遊戯王の知識はある、のか。……いや、残っている、の方が正しいかもしれないな」

 

 自分を認識したからこそ、それはよりはっきりとしたこと。過去の記憶が一部曖昧になっている。

 どんな名前だったのか、どこに住んでいたのか、家族、友人、学校、会社。そのどれもがはっきりと思い出せない。

 しっかりと思い出せるのはゲームだの漫画だの、明確な自分に結びつかないような娯楽ばかり。

 

 憑依、成り変わり、はたまた転生――可能性として浮かぶそれらは日常とはかけ離れた事象。創作として流行っているそれ等は現実でないからこそ楽しめるモノ。現実になってしまっては楽しむ余裕なんてどこにも無い。

 しかも。よりにもよって。終わり方が既に物語の中で決められた敵に成ってしまう、なんて――ああくそ!

 

 これからの不安だけを延々と考えてしまう。ここに留まっていたくない。怒りを原動力に足を動かす。一歩に力を込めて、蹴り出し、駆ける。木々、落ち葉、変わり映えのしない景色が流れていく。

 きっと今、自分は人間が出せる速度を超えて走っている。だが、疲れはさほど感じない。汗もかいていない。……ああ、駄目だ、気にしてはいけない。考えてもいけない。

 

「ここ、は」

 

 がむしゃらに駆け抜けた先、眼前に広がるのは《六世壊=パライゾス》――ではない。《肆世壊=ライフォビア》でもない。

 コンクリート舗装の道路。平屋建て。停車している日本車。つまりここは。

 

「日本!?」

 

 叫ぶのも無理はなかった。遊戯王のモンスターになったのならば、もっとこう、ファンタジーなモノが来るのでは? という思いがあったから。

 自分が今どんな見目であるとかは吹き飛んだ。

 とにかく何か情報を。人間と話をしたい。

 《クシャトリラ・ライズハート》ではない、こうなる前の自分を。明瞭ではない過去を証明してくれる人間に出会えるのではないか。その希望が原動力になる。感情のままに走り出す。

 

 走って、走って、走り続けて。

 妙に暗い空の下、ソレは真ん中に居座っていた。

 

「何だこれは」

 

 これといった生物に例えられない姿をした禍々しい何か。自分の持つ語彙力ではそう表現するしかない、気持ち悪い怪生物。自分を認識したのか、意味をなさない言葉を吐きながら近付いてきている。

 目を動かす。ソレから離れた場所に、怪我をしているのか血で汚れた学生が二人倒れている。

 何が原因か? 見ればわかる。目の前のこいつ以外あり得ない。

 

「なあ、おい――」

 

 二人に取り敢えず声をかけようとした途端、様子見に飽きたのか、弾かれたように動いたソレは体を叩きつけてきた。何度も、何度も。

 

 目で追える。回避も十分間に合う。一撃は重そうだが狙いが甘い。カウンターはできなくもない、といったところか。

 ……だとしても、下手に触りたくない。攻撃力1500がどこまで戦えるのか、もし返り討ちされた場合に戦闘破壊はどう扱われるのか。《クシャトリラ・ライズハート》の見目と能力を使えるとしても、この場所が日本である以上全部に遊戯王のルールを当てはめるのは危険ではないか。

 倒れている二人はいまだ起き上がる気配はない。気を失っているのだろう。このまま避け続けていたら怪生物が自分に飽きて二人をぺしゃんこにする可能性も否定はできない。

 

「どうするのが正解だ……?」

 

 複数の選択肢で迷う自分を見下ろし、ソレは声を出しながら体を揺らす。異形の口は歪み、歯を見せて開いて。

 ――その行動の意味に気付いた。気付いてしまった。

 

「ああ、そうか」

 

 こいつは笑っている。

 こいつは強者であると驕り高ぶっている。

 こいつは――この《クシャトリラ・ライズハート》を()()()()()()

 

 怒りが抑えられない。歯を食いしばり睨みつける。

 

 

 

 ――上にあるべき者は、真に成るべき者は!

 

 

 

 腹の底からこんこんと湧き出る怒りは、呪いの力へと変換される。

 

『上様』

 

『ご命令を』

 

『どうか、我らをお使いください』

 

【術式発動準備完了しました】

【名称の設定を行なってください】

【………………応答なし。所持札を参考に命名します】

六世壊操術(クシャトリラ・マニピュレーション)、設定完了。術式を発動します】

 

 知らないが知っている声と、その後に続く機械音声。

 気がつけば、手の中には見覚えのある五枚の(カード)が在った。

 

「【私のターン】」

 

 口が勝手に説明する。

 

「【メインフェイズ。自分フィールドにモンスター(式神)が存在しないため、手札(術式)より《クシャトリラ・フェンリル》を特殊召喚】」

 

 次は手が勝手に動く。カードを敵に向かって投げ……カードが光り、モンスターへ変貌する。

 狼を模した赤い具足に全身を包んだ兵士。赤、と言ってもそれはヒーローの象徴になる鮮やかなものではない。侵略者に相応しい、黒と紫の似合う敵としての赤。

 

「【バトルフェイズ。《クシャトリラ・フェンリル》で攻撃】」

 

 魔狼は片手斧を握り、獣のように身を低くして構える。敵目掛けて力強く踏み出し――、

 

「【攻撃宣言時、《クシャトリラ・フェンリル》の効果(術式)発動】」

 

 《クシャトリラ・フェンリル》の効果を聞いている途中で怪生物が逃げようとする。禁忌を犯したかのようにみっともなく声をあげて。そこに込められた感情は困惑と恐怖のミックス。

 絵に描いたような形勢逆転。上に立つべきは《クシャトリラ・ライズハート》なのだ、これこそがあるべきカタチなのだという証明。……ああ、怒りで荒れた心が癒やされていく。

 

 ぷっつりと悲鳴は途切れた。

 ――武器による攻撃が直撃していないにも関わらず、怪生物はこの世から綺麗さっぱり消え去った。

 

 がしゃがしゃ、と鎧が擦れる音。武器を下ろし、目の前で片膝をついてこちらの指示を待っている《クシャトリラ・フェンリル》。何を言うべきかは分からないが、取り敢えず確認はしなければならない。

 

「除外した、のか?」

 

 無言で頷く《クシャトリラ・フェンリル》。どうやら意思の疎通は可能らしい。

 裏側表示での除外。それはクシャトリラが得意とする制圧効果であり、遊戯王においては対策がなければ戦いの中で利用も回収も何もできない状態となる強力な効果。

 

「デュエルは終わったが、あの不届きものはどうなる?」

 

『裏側表示で除外されたカードに触れられる者がいなければ、戦が終わろうと除外されたままです』

 

 それはつまり。

 

「今のところ心配はいらん、ということか」

 

 魔狼は再び頷く。

 

『それでは上様、我らはこれで失礼致します』

 

「ああ」

 

 モンスターはカードに戻り、何事も起きなかったかのように一瞬で消える。

 

「………………え、消え?」

 

「土地神を、一撃で……!?」

 

 怪生物の悲鳴で意識を取り戻したために戦いの一部始終を見ていたのか、呆然としている学生服二名。

 

 さて、これは。

 …………どうするべきだろうか?




土地神くんの敗因
ガッツリ効果説明(術式開示)を聞いてしまった。

続きは夏油傑・デリシャスメモリーによって選んで捨てられました。

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