四分一さんは顔の四分の一が欠けている 作:遅刻寸前パニッシャー
クラスにやってきた転校生の頭が欠けていた。
「どうも初めまして。私の名前は
教卓の前に立つ転校生。染めたであろう長い赤髪に黒い右目。そして、髪も目も欠けた
何があったらそうなるのたとか、なんでその状態で生きているのだとか、いろんな疑問は尽きない。けれど、本人が全く気にしていないような身体的異常に触れようとはなかなか思えはしない。
本人は『名前とこの身かけて
転校生が来ていると言うのに静まり返った教室に対して、少し困惑していそうな彼女。要はそれだけ彼女は自身のそれをたいした異常だとは考えてないってことで。
ある意味、とんでもない転校生が来てしまったものだなと。当時の僕は他人事の様にそう思ったのだった。
さて、そんな転校生がやってきてから一週間後のこと。
放課後という時間帯。部活や委員会の仕事等でクラスメイトが殆んどいない教室。どちらにも所属していない僕は特段やることもない訳だ。
どうせなら宿題でも終わらせておこうと、そんな静かな教室に一人残るのが僕の日課だった。
「……おかしくないですか」
ただ、ここ一週間は一人という訳ではなく。
チラリと、目線を隣の席へと動かせばそこには
相変わらず頭の左上が欠けていて、断面が真っ黒なのが見慣れた今でも少し不気味である。
けれど、彼女が妖怪とかいう類いではなく、普通の人間ってことはもうここ一週間で分かっているのだ。
一旦、休憩にしようと僕は手を止めて四分一さんの方へと向き直った。
「おかしいって何が?」
「全てです、全て。転校初日、確かに私は言いました──『四分一と呼んで仲良くして欲しい』と……今のところ誰とも仲良くしていただけてないんですが?」
「……四分一さん、友達とか欲しいと思うタイプの人なんだね」
「どういう意味ですかそれ」
どういう意味も何もそのままの意味だったのだが、四分一さんはお気に召さなかったようで。彼女は顔だけこちらに向けてギロリとこちらを睨む。
片目しかない四分一さんは睨む目の怖さも文字通り半減──と言いたいのだが、感じる圧はそのままなので思わず目を逸らしてしまった。
でも、別にそれで隣からの圧が消える訳じゃない。これじゃあ宿題の進み具合にも支障がでてしまう。そう観念した僕は正直に思っていたことを話し始めた。
「いや、さ?四分一さんって一人でも大丈夫というか、孤立してても気にしなそうな人だと思ってたからさ」
それが、この一週間で四分一さんを観察したり会話したりして感じたこと。
休み時間は本を読んでいたり勉強をしたりと一人でできるもので。珍しく誰かに話しかけられても返答はすぐに会話を終わらせるようなものを選んでいるようで。
理由はなんにせよ、四分一さんは壁を作っている人の御手本そのものぐらいに思っていたのだ。
だから、四分一さんが友達を欲しがっていたというのは僕にとっては思わず口に出てしまうぐらいには意外な事実という訳だ。そのせいで睨まれることになってしまったのだけど。
さてさて、僕の自白を聞いた四分一さんは少なくとも納得はしたようで、感じていた圧もうっすらと消えていった。なんとか許されたらしい。
「私がそういうタイプなのは否定はしませんが……それなら転校初日の挨拶はなんだと思ってたんですか?」
「お世辞か何かかなって」
「……はぁ、あの挨拶は一応本心ですよ。友達は五に──いや、三人ですね。そのぐらいは欲しいと思ってます」
「ちなみになんで今数を減らしたの?」
「五人は管理が面倒だなと思いまして」
「管理って友達に使う言葉かな?」という疑問はなんとか抑えて、視線を四分一さんの方へと戻す。
なんにせよ、四分一さんは友達が欲しいということで、それは普通に応援すべきことなのだろう。だったら、四分一さんが景気良くスタートラインを切れるように僕にもできる事がある筈だ。
頭に浮かべた言葉に照れくささを感じて、少し緊張を感じつつも、僕は口を開いた。
「……えっとさ、だったら僕が友達になろうか?四分一さんって呼んで、しかもこうやって会話もしてるよ?」
「君は私の世話係なんですから、ノーカウントですよ。分かりませんか?」
「僕、世話係でしかも友達判定はノーカウントなんだ……」
普通に断られたことにショックを受けつつ、僕が四分一さんの御世話係らしいという初耳情報に少し驚いた。
そんなことを言われても四分一さんにやったことと言えば学校案内ぐらいだ。それも、席が隣で放課後に何も用がない僕に押し付けられた仕事。
それでも、四分一さんにとっては僕が御世話というのはもう確かな事実らしく「全く、ちゃんと自覚を持ってください」と呟いていた。
普通に面倒そうなのでその役割は返上したかったのだが、また四分一さんの視線が鋭くなった気がしたので口にするのはやめた。心でも読まれたのだろうか。
「さて、折角ですし君もどうしたら私に友達ができるか考えてください。私は友達を作る手段には疎いものですから」
「急に言われても……えっと、まあ普通に部活動に入るとかは駄目なの?同じ目的をやる者同士が集まるんだからすぐに友達なんてできそうじゃない?」
僕としては無茶振りされたにも関わらず、まともな案を出したつもりなのだが四分一さんはまたまたお気に召さなかったらしい。
わざとらしく溜め息をついて、何が駄目なのかを僕に説明し始めた。
「良いですか?今は時期は夏休みも終わった直後。部活動なんて新しく入部した一年生だって既に慣れたか辞めたかしてる頃です。つまりはもうコミュニティが出来上がっているということ」
「ええっと、まあ……そうかもね」
「既にこのクラスという出来上がっていたコミュニティに馴染めなかった私が部活動に入って友達ができるとでも?」
「嫌な方向に自信があるね……」
「あと、文化部だろうが運動部だろうが興味のない部活にわざわざ時間を取られたくはないです」
「あっ、それが主な理由なんだ……」
その理由に関しては僕が部活動に入っていない理由とほぼ同じなので突っ込めはしない。
しかし、それを抜きにしても確かに四分一さんが部活に入ってそこで馴染んでいるというイメージは一切沸かなかった。
そもそもが、友達が欲しいと言っているのに端から見れば壁を作っているようにしか見えないのが四分一さんだ。既にあるコミュニティに入った所でただただ孤立するだけと言われれば、それはその通りだとしか言いようがない。
ただ、そうなると友達を作る方法なんて物も限られてくる訳で。
「だとしたら、孤立してる人に四分一さんから関わりに行くしかなさそうだけど……」
「成る程……それが良さそうですね。さてと……君、当てはありますか?」
「あっ、そこも僕頼りなんだね……」
完全に友達作りに関しては僕に任せっきりになったらしいというのを察しつつ、普通に応援すべきことと思ったのだから手伝うのも普通かと面倒くさがる自分を納得させて。
話を聞いて頭の中に浮かび上がった、孤立していて友達も欲しいと言っていた去年のクラスメイトが思い出しつつ、僕は口を開いた。
「えっと、思い当たる人がまだ学校に居ると思うんだけど……もう行く?」
「その
「そうそう、あの子なら四分一さんともすぐに友達になってくれるかなって」
図書室に入って奥の本棚に隠れた僕たちの視線の先に、その去年のクラスメイトが居た。
そんな陰浦さんは図書室の椅子に座って読書をしていた。かなり集中しているようで本からは一切目線を逸らしていない。
これなら、わざわざ隠れなくてもバレなかったかもなんて思った。
「随分と読書好きな方なのですね。係りでもないのにわざわざこんな時間にも図書室に来ているなんて」
「本当は時間を潰しているだけで、とても読書好きって訳じゃないんだけどね」
「……そうなんですか?」
「うん。確か放課後は友達と時間を潰しているから帰りが遅くなると、家族に言ってるらしくてさ。でも、実際には友達は居ないからここで時間を潰してるんだよ」
「あぁ、成る程……」
「まあ、それも家族にはバレてて、それでも意地を張ってここで読書をしてるんだけどね」
「えぇ……」
去年は僕もぼっち仲間として陰浦さんの時間潰しに何度か付き添った身(陰浦さんはぼっち仲間が居るのがとても安心するらしく、ついぞ友達判定はされなかった)。
だからそういう情報も知っていて、そしてその行動は今も変わっていないらしい。つまりは友達もまだ居ないという訳だ。
「なんにせよ、そんな彼女だからこそ、簡単に友達になってくれるだろうという訳ですね」
「うん、そういうこと」
「では、話しかけに行きましょうか」
そういうと、四分一さんはゆっくりと陰浦さんの方へと近づいて行き、僕もそれに倣う。
そして、真後ろに立った後、四分一さんは顔を陰浦さんに近づけて──そして、話しかけた。
「何を読んでらっしゃるのですか?」
「えっ……ちょっなっなっんです………………ギャァァァァァ!!オバケェェェェェ!!」
「ちょっと待ってくださ──」
──四分一さんの声掛けも虚しく、陰浦さんは既にもう去った後。
暫く二人共無言の時間が流れた後、四分一さんが口を開いた。
「全く、こんな美女を捕まえてオバケとは失礼な方ですね」
「どう考えても捕まえてた側は四分一さんの方だよ」