今回はノノミの話です。
ノミの♧や♡はつけようと思ったけど諦めました。各自自由につけて読んでください。
「これはどうしたら良い?」
「えぇと、そのダンボールは要らない物が入っているので外にだしちゃってください~」
「はーい」
明るく可愛らしい声の指示のまま、不要物が詰まったダンボールを部屋の外へと運ぶ。
「それで最後です、お疲れ様でした!お茶をいれますので、座って待っていてくださいね~」
指示を出していた声の主、アビドス廃校対策委員会二年の十六夜ノノミ。今日、彼女から手伝って欲しいと連絡を受け、私はこうしてアビドス高等学校を訪れたのだ。
「助かりました~。そろそろ部室のお片付けをしないといけないのに、ここ最近は皆忙しくて」
「色々と前進したとは言え、まだ借金もあるししょうがないよ。それより力になれたなら何よりだよ」
アビドス高等学校。かつてはマンモス校とも言われるほど大きな学校だったが、様々な要因もあって今は五人の小規模な学校だ。
私がシャーレの先生として就任して初めて依頼を受け、借金問題や土地の問題など沢山の問題を抱えていたが、現在ではある程度は解決して、今までは利子を返すだけで手一杯だった借金も少しずつではあるが減ってきているらしい。
とは言え、完全には解決していないので、この学校の生徒たちは今日も金策に励んでいる。という訳だ。
「今日、皆はなにしてるの?」
「えっと~セリカちゃんは柴関でバイト、アヤネちゃんは学校の修理に必要な部品の買い出しに行ってます。シロコちゃんはサイクリングのついでに賞金首を探してくるって言ってましたね。ホシノ先輩は~...わからないですね~。もしかしたら何処かをパトロールしてるかもしれませんし、何処かでお昼寝してるのかも」
「あはは、良くお昼寝スポット探して色んな所行ってたりするしね。他の皆も頑張ってるようで何よりだよ」
「はい、皆良く頑張ってくれています。それに比べたら、私はお片付けや買い出しくらいしか出来ないんですけどね...」
「そんな事無いよ。ノノミがこうやって整えてくれるから、待っていてくれるからこそ、皆が安心して頑張れるんだから」
「えへへ、ありがとうございます。あ、早く飲まないとお茶冷めちゃいますね!」
ノノミは照れ隠しする様にお茶をすする。落ち着いたのか綻んだ顔がとても可愛らしい。
今日は陽射しが良い。少し肌寒い空気を溶かすかの様な暖かい熱が、背中からじんわりと体全体に伝わっていく。
それと暖かいお茶と和やかな空間が相まって、とても心地が良い。ついうっかり、大きな欠伸が出てしまうほどに。
「わぁ、大っきな欠伸ですね~。もしかしてお疲れですか?」
「あ、ごめんね。うん、ここ最近少し忙しくて」
「そんな中にお呼びしてしまうなんて...すみません、先生...」
「いやいや、私も来たくて来てるし気にしないで!それにホラ、私は全然元気だから!」
シュンとしてしまったノノミを身振り手振りで元気なアピールをして励ます。
なら良かったと、ノノミも安心してくれ、私もホッと胸をなでおろす。
「ところで、昨日はどのくらい睡眠を取られたんですか?」
「昨日?昨日は確か...四時間半だったっけ?」
改めて考えるとヤバいなと自分で思うほどの睡眠時間。
それでもここ最近では通常の三十分も長く寝れているから、私にとっては良い方だ。
「四時間半!?それは駄目ですよ!!」
「えっと...そんなにかな?」
珍しく大声を出すノノミに驚く。普段はのほほんと穏やかな彼女がこんなに大声を出すのは、冗談じゃなく初めてかもしれない。
「そんなのお体に悪いです!先生は体が資本なんですから、体調管理はしっかりしないと...」
「あはは、耳が痛いや」
「それに、そんな状態で肉体労働をしたのも良くありません!先生、ちょっとこっちに来てください!」
ノノミは私の裾を掴み引っ張っていく。力持ちな彼女のパワーに、私は為す術もなく引きずられていく。
そうして連れてこられたのは数個隣の教室だ。中は机や椅子などが無く、その代わりに畳や小物が置いてある。
「えっと、ノノミ、この教室は?」
「ホシノ先輩が畳でお昼寝したいからって、この前皆で作った休憩室です。さ、先生、こちらに」
「えっと...?どういう事?隣に座れば良いの?」
ノノミは畳の上にちょんと座り、自身の膝をぽんぽんと叩いてみせる。
私はどういう意図かを汲み取れず、素直に何をしているのかを訪ねてみると、ノノミはプクーっと頬を膨らませて腕で✕を作る。
「違いますよ~。膝枕です。ひ・ざ・ま・く・ら!あんまり察しが悪いと女の子に嫌われちゃいますよ?」
「いやぁ、急に膝枕とか言われても...どうしたのさ」
「どうしたもなにも、先生に休んでもらいたいんですよ~。それに、手伝って頂いたお礼をまだしていなかったですし。私の膝枕、結構評判良いんですよ?」
自信満々なノノミの太ももは健康的な肉付きをしていて、確かに気持ちよさそうと感じる。
だが、私も先生という立場である以上、不用意な生徒との肉体的な接触は如何な物か。そういった事を考えて立ち尽くしていると、ぐすっという音が聞こえてくる。
何かと思ってノノミに目を向けると、ノノミが涙目になっている事に気づく。
「ぐす...先生は...私なんかの膝枕は嫌なんですね...ひぐっ...」
「いやそんな事無いよ!むしろこっちからお願いしたいくらいで――」
半泣きのノノミをフォローしないと!と慌てて口を滑らせてしまった事に気づく。急いで自分の口を塞ぐが、ノノミは見逃してはくれなかった。
「じゃあ大丈夫ですね!ホラ先生、早く寝転んでください~」
先程の涙目はどこへやら。ノノミはにぱっと笑顔を浮かべて受け入れ態勢を整える。
騙された。普段の彼女ならしないであろうお茶目な一面を見せられ、絶対に勝てないと思い知らされる。
私は諦めて、靴を脱いで畳に上がり、ノノミの膝の上に頭を乗せる。
率直な感想としてまず、柔らかい。良質な枕―――いや、そんな物よりもずっと気持ちのいい感触が私を包み込む。彼女の体温も相まって、非常に寝心地が良い。疲れた体に染み渡る様だ。
その次に良い匂いがする。当然、ノノミが良い匂いだという事は知っていた。が膝枕というゼロ距離な状態では何時もの倍以上に感じる。
そして何より胸が大きい。これも当然知っていたが、下から見えるその双丘はとても雄大に見える。もう視界がおっぱいで覆われているという事実に脳の処理が追いついていない。
これは不味い、と私は目をギュッと瞑り、これ以上何も考えない様に脳みそを空っぽにしようと努力する。無理矢理意識させられるノノミの魅力を払う様に。
情けない事だが、正直今ノノミに対して劣情を抱いてしまっている。振り払っても振り払っても井戸の水の様に劣情が湧き出してきてしまって、それを体に反映させないようにしているだけで手一杯だ。
こんなの、寝れるわけがない。
「えへへ、先生、気持ちいいですか?」
少しのくすぐったさに耐えながら、私の膝に頭を載せた先生に感想を聞いてみる。
どんな反応が返ってくるだろう。先生の事だから、平然としているのだろうか。それとも、照れてしまっていたりするのだろうか。
もしも後者なら良いな。と期待しながら返事を待つが、何時まで経っても先生は何も答えてくれない。
「あれ、先生?」
少し耳を済ませて見ると、スーッ、スーッと寝息が聞こえてくる。どうやら、もう寝てしまった様だ。
余程疲れていたのか、膝枕を初めてまだ五分も経っていないというのにも関わらずスヤスヤと眠っている。
「お疲れ様です。先生。ふふ、結構可愛い寝顔なんですね」
胸が少し邪魔で見辛いが、レアな先生の寝顔を観察してみる。何時もは真面目な顔をしている先生が、今こうして寝ているとふにゃっとした顔をしているのだ。それがなんだがとても可愛く見える。
普段、皆には見せない表情。それを独り占めしている私。なんだか嬉しくなって、ぬいぐるみを愛でる様に先生を撫でる。
なんていうか、幸せだ。
一通り幸せを噛み締めた後、この前買った小説を取り出して小一時間程時間を潰す。
好きな人を膝に載せ、気になっていた小説を読み耽る。それもこんなに心地の良い陽射しの日に。これはもう幸せというよりも、もはや夢という感じだ。
覚めないでと願いながら、私は次の一ページを捲る。
好きな人。そう、好きな人。
私たちを助けてくれて、私たちの居場所を守ってくれて、大切な人たちを救ってくれた人。
その後も、私たちの為に親身になってくれて、今日も私の為に忙しいのに時間を作ってくれた。
そんな彼の真面目な顔が、優しい所が、頼れる所が、私は大好きだ。
改めて認識すると気恥ずかしい。照れ隠しをするように集中していた小説も最後のページを迎え、パタンと閉じる。
やることが無くなってしまったので、再度先生の顔を覗き込む。
「それにしても...本当に良く眠ってますね~」
指で頬をつっついても、まったく起きる気配が無い。今ならよっぽど強く揺さぶらない限り起きないだろう。
―――それなら。
キスしてもバレないのでは?
その考えが頭を過ぎった時には既に体を丸め、自分の顔を膝の上で寝ている先生の顔に近づける。
私の長い髪が簾の様に先生の顔を囲む。回りは髪で覆い隠され、私の視界には先生しか写ってない。
起きないかというスリルと、妖艶に見える唇が私を興奮させ、少し息が荒くなる。
そのまま二人の唇は近づいていき、私は遂にその唇を奪う。
はずだった。
「何してるのかな~?」
「!?」
重なる瞬間、急に聞こえた声に驚き顔を上げると、ホシノ先輩が眼の前でしゃがんでいた。
「えっと、ホシノ先輩お帰りなさい☆先生がお疲れだったので膝枕してあげてたんです」
至って平常心。やましい事など無いと言わんばかりのスタンスを取るが、ホシノ先輩は見透かしているかの様な目でこちらをじっと見つめている。
「へぇ~~?それにしてはお顔が近かったね~」
「えっと...あはは...」
「ダメだよノノミちゃん。抜け駆けは」
誤魔化しはまったく意味なく、バレていた事、見られていた事や耳元で囁かれた忠告に顔を真赤にさせる。
その後、ホシノ先輩は先生のお腹にダイブして、先生を深い眠りから引き上げる。先生は「うごっ!?」と声を上げ飛び起きた
「あれ...ホシノ?」
「やーやー先生おはよー。よく眠れたかな~?」
「うん、ノノミが膝を貸してくれたから良く眠れたよ。ホシノは何時帰ってきたの?」
「ついさっきだよ~。おじさんもうクタクタだ~」
「あはは、お疲れ様。ノノミもありがとう...ってどうしたのノノミ?」
ヘロヘロ~としているホシノ先輩の頭を撫でて労っている先生が、こちらを見ると不思議そうな顔する。
何故なら私は今、柄にも無くムスッとしているからだ。
当然だ。だってキスを邪魔される所か起こす役目も奪われたのだ。せっかくの独り占めだったのにとヘソを曲げても仕方が無いだろう。
「なんでもないですよ~」
「えぇ...なんかやっちゃった?」
「うへ~大変だね~」
その後、良くわかってない先生が労ってくれたりした事で私も機嫌を戻し、その後は3人でまたお茶をして今日は解散となった。
「いや、悪いね。見送りさせちゃって」
「いえいえ。来て頂いのでこのくらいは当然ですよ~」
「まさかホシノが机に突っ伏して寝ちゃうとはね」
「お疲れだったのかもしれないですね~」
お茶をして、五時を過ぎた頃。そろそろ先生も帰らないと行けない時間になり、私は近くのバス停まで先生のお見送りをする為、先生と一緒にアビドス学区を歩いていた。
ホシノ先輩はお茶したあと大きい欠伸をした後、スヤスヤと机を枕に寝始めてしまった。
その為、幸運にも私は今日二度目の先生の独り占めを出来ている。
といっても、先程の様なチャンスがある訳では無いのだが。
それでも夕日が作り出すオレンジ色の街を一緒に歩くのは、中々に乙なものだ。
「今日はありがとね。ノノミのおかげで疲れが吹っ飛んだよ」
「それは何よりです。先生さえ良ければ何時でもして差し上げますよ~」
「じゃあまた機会があればお願いしようか」
「はい!何時でもしてあげます!でも...」
「でも?」
「でも、私以外にはしてもらわないでくださいね。じゃなきゃ、ヤキモチ焼いちゃいますから」
タッタッタと早足で先生を追い越し、振り返ってイタズラに言う。
「そっか。じゃあ焼かせないように私の頭を預けるのは枕かノノミだけにしないとね」
夕日に照らされた先生は少し困った様な、それでいて何かを面白がっている様な顔で笑った。
その後は何事も無くバス停に着き、バスに揺られる先生を見送って私もアビドス高校に続く道を歩き始めた。
キスはしそこねてしまったし、まだまだ素直に想いを伝えることなんて出来ないだろう。
けど、先生が私だけに頭を預けると言ってくれたことが、二人の距離を一歩近づけることが出来たと感じてとても嬉しかった。
そのせいか、帰り道はやたらと足取りが軽くて、鼻歌交じりにオレンジ色の住宅街を歩く。
「次はもっと、近づいちゃいますからね。先生」
後語り
閲覧ありがとうございます。
大体の方ははじめましてだとは思いますが中には過去作を見たことがある人がいるかもしれないのでその人はお久しぶりです。
元はpixivで掲載した物ですが、一応ハーメルンは私の色々な意味で原点なのでここにも投下しておこうかなと思い至り投稿しました。
筆を執る、というか一作品を仕上げるという事がもう数年ぶりですが皆様に楽しんで頂けたのなら何よりと思います。
一応次回作としてミモリの話を執筆しているので、そのうち投稿しようと思います。
最後に繰り返しますが、今作を閲覧頂きありがとうございます。