人間失格呪霊合格堕胎信仰グッドバイ 作:血屋
「これは……凄いね」
半日程少女を観察した羂索の感想は、それに尽きていた。
「死んだ人間を忘れてしまう?いや、元から無かったものと認識してしまうのか。だが、それだけじゃない」
自分の腹の中から死産の赤子を取り出してスープでコトコトと煮込む姿は、流石の羂索といえど少し引いてしまったものだ。
もちろん快楽目的のカニバリズムならば何度も見たことはあるが、自らの子を自分の内臓だと信じて料理をするのは見たことがない。
「大量の血が付着したコンクリートを、誰もが無視するのはどういうわけだ?彼女の庭に捨てられた五体の死体は外から丸見えだと言うのに、彼女が今まで警察に捕まらずに生活できていたわけはなんだ?」
羂索の目の前には白骨と化した五つの死体が、無造作に置かれていた。
「自分の周囲の認識を変える術式?……これはそんな陳腐な物じゃないね」
羂索は常に頭蓋の周囲を呪力で覆っていた、そうしなければ呑まれるという確信があったからだ。
「気を抜けば私ですら違和感を持てなくなる術式、そしてこの五体の死体にはここへ来る時は気づかなかった。そして彼女の予定帳には一週間前旅行に行った記録があった。更に彼女自身の性格を考慮すると……全く、たまたま見つけた無自覚の術師がこれほどの厄ネタだなんてね」
概念系の術式というのはあまりに数が少ないことで有名だ。
進行を阻むガネーシャの呪霊、無下限呪術、その他少数。
そして羂索の見立てが正しければ、彼女の術式範囲はあまりに広大だ。
「自動的に自分の都合の良いように認識を書き換える術式……術式範囲は世界全てか。ははっ、流石に制限がある事を祈るよ」
羂索ですらも呪力で頭を守ってない時は認識を書き換えられる、五人の死体に気づかなかったのがその証拠だ。
彼女と喋ってから呪力ガードを始めたのだから。
「極め付けはこの写真……死んだ彼氏を少し調べるか」
リビングに飾ってあった彼女自身が『幼い頃の写真」と述べた紙、、
────吉野順平───
世界は狂っている、それが僕の見解。
もしも世界が正常なら、国家の法がしっかり適応されているのなら、あんな化け物をほっとく筈がない。
「あ、順平くん。足立さんが腕相撲してくれないんだけど説得してくれない?」
どこまでも傲慢で、限りなく暴虐。
たった今対戦相手の右腕を千切り取ったカエデさんを見ながら、僕は今日も溜息を吐いた。