月夜に会った二匹の古龍。
「すまん、団子はもうないんだ」
そう言えば、そいつは如何にも不満気な顔を隠さない。そしてコジロウの方を向いて。
「『どこに行けば食える?』と言ってるニャ」
「え? カムラでもエルガドでも…………ん? 俺、マズい事言ったか? ……おい? 何だそのエルガドの方を見る顔は? やめろよ? 幾らお前がフィオレーネから信頼されてようと、流石に何されても文句言えねえぞ? 何だその目好奇心溢れる目は? せめて、せめて俺がエルガドに行った時にしてくれ。あ、いや、明日にでも持って行くから、なあ!?」
「ダメだニャ。行く気満々だニャ」
「せめて、せめてその付き添いは置いていけよな!?」
後ろで、生まれてそう程ないチビを尻尾でおちょくっているその付き添いは、誰が行くかというような顔を向けてきていた。
「それなら、まあ……まあ、じゃねえよ、いや……もういいや。俺は知らん。疲れた」
何だかんだ、こいつは進んで人を傷つけない、それだけは俺も信頼している。
*
それは、余りにも唐突だった。
いつものように城塞高地を見回りしていた原初を刻むメル・ゼナがいつも通りにどこかの寝床へと去っていくかと思えば、何故かエルガドに向けて方向転換し。
そしてそのままエルガドの正面に着地し、余りにも堂々と門を潜り抜けてきた。
その原初を刻むメル・ゼナは初対面以後、猛き炎やフィオレーネと共にキュリアを滅してきた人と親しい稀有な古龍であった。
時に古龍にも寄生して生にしがみつこうとする、そのキュリアの生き残り共を辛抱強く駆除し続けて一年以上。
エルガドにも、カムラにも最早見かける事はない、根絶したと言って良いレベルでキュリアは居なくなった。
もう、竜も古龍も、命を削られる狂気に振り回される事はない。ゴア・マガラやシャガルマガラといった古龍がここらを訪れる事があれど、イブシマキヒコやナルハタタヒメ、アマツマガツチ程の悪意なき活動に住処を追われる事もひとまずはない。
そんな、ゆったりとした時間が流れるばかりの日々が続くようになった頃の事だった。
幾ら猛き炎やフィオレーネと共闘してきたと言えど、相手はモンスター。しかも古龍である。
四つ足であれど、首を伸ばした身の丈は人の三倍程にもあり、その太く長い尾が一度振り回されれば、開かれている屋台の全てが瓦礫と化す事は想像するまでもない。
が、騎士団指示所から狩人が飛び出してきた時に見たものは、爪に挟んだ大振りなノヴァクリスタルをパン屋の主人に渡しながら、いかにも食べて良いですか? というように自らを下に置きながら許しを頂こうとしているような姿だった。
「えっ、あっ、あっ、はいっ、幾らでもどうぞっ!?」
ノヴァクリスタルなど、狩人でないと赴けない場所で稀にしか手に入らない代物であり。しかも上等なものとなればパンを一日売り切るのとは桁違いな収入である。
そうしてパンを一つ丁寧に摘んで口に運ぶ姿はいかにも毒気を抜かれてしまう……が。
「おい、貴様!」
ガレアス提督がメル・ゼナに対して大剣を向けて叫ぶが、メル・ゼナの方はダメか? というような顔をするばかり。
演技と呼ぶには余りにも悲し気で。
「だが事実として」
そう言葉を続けようとするガレアス提督に、フィオレーネが腕を添えて静止した。
「彼に悪意があったら、もうエルガドはとうに破壊されているに違いません。それも事実です」
それに反論をする前に、メル・ゼナも大剣の前に自らの胸を当てて見せる。
白銀の鎧の如き甲殻に覆われた胸に大剣を叩きつけられようともそう大した傷にもならないという自信の表れもあるのだろうが……ガレアス提督は辺りを見回して、最早周りの人達の大半が受け入れている事を理解し。
「…………せめて次からは外で待っててくれ」
そう言って折れた。
通訳の出来るアイルーを引っ張り出してきて、そのアイルーが怯えながらも聞く。
「それで、食べる為に来たのニャ?」
『猛き炎が食していた団子なるものを食べに来た。
勿論、対価も用意している。これで足りるだろうか?』
そう言うと体のあちこちに隠していたのか、ノヴァクリスタルやら何かの鱗……鉱石めいたそれはイヴェルカーナのそれのようなものをポロポロと落としてくる。
『猛き炎が採取している時に価値ありげにしていた代物だが』
と補足して、
「じゅ、十分過ぎるニャ!」
思わず正直に返してしまう。
さっさと帰ってもらいたいガレアス提督が冷や汗を掻きながら口を挟む前に、メル・ゼナが加えて聞いた。
『猛き炎の食していた団子は、幾つも種類があったように思えていたが。全て食しても構わないか?』
そのアイルーは、また正直に答えた。
「今ある材料全部使っても大丈夫ニャ!」
メル・ゼナの言っている事は分からなくとも、そのアイルーの返答だけでガレアス提督は頭を抱えた。
威圧感たっぷりに、しかし頭の低いメル・ゼナに素直に答えるしか能のなくなっているアイルーはそのまま茶屋へとメル・ゼナを連れて行き。茶屋に屯していた狩人達も座ったままゆっくりとした足取りでやってくるそのメル・ゼナに対し、警戒心は解かずともやはり好奇心の方が優って、そのまま見つめるばかり。
そして茶屋に勤めているアイルーは、思いも寄らぬ来客にカチンコチンに固まっていた。
*
「お帰り! 無事で何より! それで、収穫はあったかい?」
ウツシ教官が聞いてきたのに対して、マガイマガドと会話した事を話した。
「……うーん。要するに野で生きて行くのが難しい個体の世話を押し付けられたって事だろうけど。
マガイマガドはある程度研究が進んでいるとは言え、まだ謎の多い種だ。それに、今は余裕もあるからね。取り敢えず引き受ける方向で話を進めようか」
「ま、そうっすよね。それと……急ですみませんが、またエルガドに行きます」
「ん? 何か忘れ物かい?」
「忘れ物というか……まあ、うん。例の原初様とも会いまして」
傍迷惑な事にエルガドに団子を食べに行くつもりだという事を話せば。
「……ここ、カムラではなかったんだね」
「エルガドの方には恩を売れてますからねー。
でも……こっちにもキュリアの影響はありましたし、味を占めたらこっちにも顔を出しそうな予感も」
「困った事だ……」
「マガイマガドが来るよりはマシでしょう。まあ来たようなもんですけど。
まあ、そう言う訳で行きますね」
「あの個体なら大事はないだろうけど、それでも相手はモンスターだ。気は抜かないようにね」
「了解です」
そう言って、一晩中起きていてうとうとしているムサシとコジロウを担いで船着場へと足を運ぶ。
「睡眠も取っておくんだよー!」
「そのつもりですー」
船の中でぐっすりと寝ていると、船頭が走ってきて叩き起こされた。
「お、おい、アレを見てくれ!」
「んー……」
取り敢えずぐちゃぐちゃになっていないエルガドを見て一安心して。渡された望遠鏡を覗いて、口を小刻みに動かしているその原初様の頭が飛び出しているのが見えた。
串を前脚で丁寧に口から抜いて、それから金色の三叉尾で持ち上げたのは……湯呑みだ。
「随分と堪能しているようで……。
あー、まあ、急がなくても大丈夫。間違っても大砲とかは撃たないでくれよ?」
「は、はあ……?」
着港して降りると、本当に頭痛を起こしている程に気難しい顔をしているガレアス提督を含む皆が、ひたすらに団子の串を積み上げるメル・ゼナを見ていた。
昨日の今日に来た俺に対してガレアス提督が怪訝そうに聞いてきた。
「分かっていたのか?」
「昨晩会いまして。やめろと言ったんですが聞いてくれなくて……」
「それは……仕方ないか。仕方ないのか?
……取り敢えず。これからどうするかを考えている」
「俺やフィオレーネが定期的に団子を持っていけば良いでしょう。
アイツもタダで食いにきた訳じゃないでしょう?」
少し驚いた顔をされた。
「あの個体の事を分かっているんだな」
「そりゃー、もう短くない付き合いですから」
それにしても……随分と美味そうな顔をするもんだ。
大皿に乗せられている、メル・ゼナの体に相応な大きさをした団子の数々。それをもっちもっちと口の中で何度も咀嚼して飲み込んでいく。
喉を詰まらせる心配はなさそうだった。
お茶も隣でとにかく湯を沸かされているし。
俺も隣に座る事にした。
「次から俺とかが持って行くからさ。ここに来るのはこれっきりにしてくれよ?」
承服しかねる、みたいな顔をするんじゃないよ!
そして団子を作り続けて疲弊しているアイルー達が頼むような顔をしてくるが、それに関してもすまんとしか言いようがなかった。
「……次は『いのち辛がらもち』ですニャ」
敢えて詳細を言わずに差し出されたかなり赤めな団子。
「…………」
特に疑いもせず口に入れて、一口二口。目を見開いて体をビクンとさせる。
「カフッ、ゴフッ……」
周りで身構えた雰囲気がしたので。
「一応補足するが、毒じゃねえからな?」
そう言って俺もその串の一つを取って同じように食って見せる。
正気を疑うような顔をされた。
*
餅米の在庫の大半を食い尽くし、食べた食べたと満足気な顔をしながら去って行くメル・ゼナに、エルガドからはどっと疲れた雰囲気を感じた。
特に茶屋のアイルー達なんてもう足腰も立たない感じだった。
「数月分の稼ぎだニャ……。暫く休業しても良いかニャ?」
「それは困るが……」
ガレアス提督が頼むようにこちらを見てきたので。
「ヨモギに応援に来るように依頼してみますか」
「助かる」
「それと、一応俺、これから城塞高地に行きますね。後から文句言われても困ると思うんで」
「……何から何まで助かる」
「私も同行しようか?」
フィオレーネが聞いてくる。
「する事は無いかもしれないが、まあ助かる。……でも一応、万全の準備をしてくれ」
「?」
そうして城塞高地へと行けば。
案の定と言うべきか、イヴェルカーナと運動をしているようなメル・ゼナが居た。
「『元気が有り余って仕方がない』らしいニャ」
茶も沢山飲んでいた事だし、眠れねえんじゃねえかという予想くらいはしていたのだが……。
そして、イヴェルカーナはもう疲れ果てていた。
「『相手をしてくれるか?』との事だけどニャ……」
「……手加減出来ないぞ」
「『構わない』だそうだニャ。……ボクはやりたくないニャ……」
「ワフ…………」
ほぼ全ての種類の餅を大量に食ったからか、傀異克服した古龍達とも向き合ってきたムサシもコジロウも尻込みする程に、見るからに絶好調だった。
「フィオレーネはどうする?」
「……私も腰が引けているのは否定しない。だが、こんな強者を相手に出来る機会もないだろう。……挑ませて貰う」
「俺もまあ、最近はヒリ付くようなクエストを受けていなかったからな。それに、負けたからといって死ぬ事もないし。挑ませて貰おう」
じゃあ、とその場を去ろうとしたイヴェルカーナがメル・ゼナに捕まえられて。
本当にお前等は厄介な事してくれたな!? と睨みつけてくるものの、原初様に逆らうまでの気概もないらしく。
「……珍しい共闘だな。ムサシ、コジロウどうする? 帰っても良いぞ」
「…………あ゛ーーーー!! やれば良いんだニャ! 覚悟決めたニャ!!」
「ガゥッ!! ゥオオーーン!!」
「……攻める隙が見当たらないんだが」
「背後を取っても見られている感覚がするぞ」
「『この私に合わせろ!』と言ってるニャ!」
「え、あ、ちょっ、こうなりゃヤケだ!」
「ガウゥッ!!」
「ギャウッ?!」
「なっ!?」
「ギニャッ?!」
「全部同時に防ぐとか……嘘だろ。五方向だぞ!?」
「来るぞッ!!」
「ニ゛ャァアーッ、どの猟具も出せないニャ!」
「キューン……」
「嘘だろ、イヴェルカーナの尾を直接三叉尾で摘んでやがる」
「流石に……これは無理だ」
「ギィギャァ!!」
「『本当に人間は余計な事しかしない』だとニャ」
「うるせえ! テメエが寒冷化させ続けてたら俺がテメエを狩ってたんだぞ!!」
「ギャルルッ」
「『叫んでないで少しは楽しませろ』と言ってるニャ」
「無理だって!!」
「ギャンッ!」
「イヴェルカーナももう動かないか」
「狸寝入りでもないみたいニャ」
「ぐっ! わ、私の盾が真っ二つに……!?」
「脱落だな、って後俺だけかよ!?」
「キューン……」
「ごめんニャ」
「何と言うべきか、その、頑張ってくれ」
「ギュルルッ」
「『せめて同じ時間くらい動けると程良く終われそうなのだが』と言ってるニャ」
「煽ってるだろこいつ!? くそ、絶対一太刀は入れてやるからな!」
……狩人二人とオトモ二匹、そして古龍一匹が力を合わせようとも、笑える程に何も歯が立たなかった。
まあ……またガイアデルムが現れたとしても、今度はこいつに団子を献上すれば一匹でどうにかしてくれるだろうという事で。
全ての餅を食べた原初を刻むメル・ゼナ
・体力、スタミナUP
・特定の所作を取ると攻撃力UP
・短時間攻撃、防御力UP
・気絶耐性UP
・確率防御力UP
・属性やられ耐性、回復速度UP
・各属性耐性UP
・瀕死時攻撃力UP
・一定ダメージ毎に次のダメージ軽減
・攻撃所作に入っていない時のダメージ軽減
・自然回復する被ダメージ量の増加
・ひるみ軽減
・スタミナ消費軽減
・敵が弱くなる
・かなり自然回復する
マガイマガドの名前
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愛弟子二号(ウツシ)
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オキタ(猛き炎)
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おにぎり(ミノト)
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猛き紫炎(メル・ゼナ)
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麗しき冰姿の唯一絶対なる下僕(イヴェ)