俺様勇者と武闘家日記   作:星海月

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ルカの成長

 

 再び船旅での生活が始まってから二週間。ただ今回はシーラとナギが加わったことにより、前回より賑やかなはず……だったのだが。

 

「なーんか、平和だねえ……」

 

 起床後、やや遅めの朝食を取りながら、私の向かいに座っているシーラは、ぼんやりした様子でそう呟いた。それもそのはず、船上での生活は、意識的に体を動かさないとすぐにだらけてしまうのだ。ここ二週間で変わったことと言えば、たまに襲ってくる海の魔物を相手にしたくらいで、殆ど甲板でトレーニングを行う毎日である。

 

 そんなシーラの呟きが、洗い物をしていた料理長の耳に届いたのか、料理長はこちらを一瞥した。おそらく料理長は、シーラがこれ以上お酒を頼まないか警戒しているのだろう。

 

 なぜなら彼女は食堂での一件以来、すっかり酒飲みの船員たちの間で伝説の酒豪と呼ばれているからだ。けれど彼女は料理長の心配など露知らず、呑気に料理長の作った料理を食べながら、「これって酒の肴に合うよね?」とか言って、マイペースに話を切り替えている。

 

 ちなみにナギとユウリは今頃甲板に出て二人で釣りをしている。と言っても和気藹々とした雰囲気ではなく、お互い相手よりいい釣果を目指そうと必死に競いあっており、殺伐とした空気の中で行っている。

 

 それでもユウリに勝つことに必死で、あれ以来完全に私に釣りを教えることをしなくなったナギに対し、ユウリはたまに私に魚の釣り方などを教えてくれる。もしかしたら何も知らない私に対して優越感を抱いているからなのかもしれないが、もともと誰かに教えるのが嫌いではないのかもしれない。私の方も、せっかくの厚意を無下にするのも忍びないので、彼に誘われたら素直に受けるようにしている。

 

 それはそうと、ヒックスさんの話ではそろそろ東の大陸に着いてもいい頃なのだが、未だに見つかったという情報は耳に届いていない。

 

 塩気の効いたマッシュポテトを口に運びながら、今頃ルカはどうしているのかとぼんやり考えていたときだ。

 

「よう。ここ空いてるか?」

 

 いつになく暗い声でナギが声をかけて来た。声と表情から察するに、きっとまたユウリに負けてしまったのだろう。

 

「もしかしてまたユウリに負けたの?」

 

 肯定の代わりに隣にある椅子を引きながら尋ねると、ナギは黙ってそこに座った。

 

「引き分けだ引き分け。魚の大きさならオレの方が勝ってる」

 

 軽口を言うような振る舞いに見えるが、負けず嫌いな彼にしては声に覇気がなかった。

 

「ナギちん、今日は元気ないね。もしかして、寝不足?」

 

 シーラも違和感を覚えたのか、心配そうに眉根を下げて尋ねる。するとナギは少しぎょっとした顔をして、

 

「なんでわかったんだ?」

 

 と、意外な反応を見せた。私もいつもと違うナギの様子に気がつきはしたものの、寝不足という見解には至らなかったので、思わずシーラの方を見る。

 

「まあ、昔から人の顔色伺ったりしてたからね。なんとなくわかるよ」

 

 彼女はそう言いながらも明るく答えた。ダーマの件があってから、シーラは以前より自分のことを話すようになった。けれどなんとなく、自分を卑下しているように聞こえてしまう。

 

「お前の言うとおりだよ。そのせいであいつに負けたからな」

「ナギちんが寝不足だなんて珍しいね。なんか悩みごと?」

 

 話を戻し、シーラはさらにナギに尋ねる。ナギはうーんと唸り始めると、何故か私の方に顔を向けた。

 

「実は今朝……、変な夢を見た」

「えー、何々!? どんな夢?」

 

 シーラが興味津々ではしゃぐが、ナギは神妙な表情で沈黙した。

 

 そして私は、彼のその様子に既視感を覚えた。

 

「……もしかして、また予知夢?」

 

 私の一言に、目を丸くするナギ。どうやら図星らしい。

 

「今度はどんな内容なの?」

 

 私は恐る恐る彼に聞いた。確か前回は、洞窟で倒れていた私が出てきたのだが、それはすでにバハラタの洞窟で実際に起きている。さらにその前には、ユウリの王様姿が出てくる夢を見て、これまた実際にユウリはロマリアで王様になった。なので今のところ、ナギの予知夢の的中率は、良くも悪くも百パーセントなのである。

 

「今回は……辺り一面緑が広がってて、そこにオレたちが立っていて、何かを探しているような感じだった。でも、その中にミオ、お前はいなかった」

「!?」

「つまり、あたしとナギちん、ユウリちゃんはそこにいたってこと?」

「ああ」

 

 ナギがうなずくと、一同に沈黙が広がる。私は気まずさを紛らわそうと、無理矢理理由をひねり出す。

 

「いや、でもさ、たまたま私だけ離れたところにでもいたんじゃない?」

「じゃあなんでお前一人だけ離れてたんだ? 何か理由があるはずだろ」

「う……、確かに……」

 

 そう言われてしまうと、どんどん不安になってくる。なんで私にばかり変なことが起きるのだろう。

 

「ナギちん、他に何か夢を見なかったの?」

「いや、そこで目が覚めちまったからな」

 

 シーラもいつになく真剣な表情で顎に手を添えている。それが逆に事の深刻さを表しているようで余計不安を掻き立てる。

 

「でもさ、それが予知夢とは限らないんでしょ? 普通の夢ってときもあるじゃない」

「オレもそう思いたいんだけどさ、でも、なんとなくわかるんだよ。これが普通の夢とは違うって」

「……」

「それに、前にイシスで見たお前が洞窟で倒れていた夢なんだけど、どうも腑に落ちないんだ」

「どういうこと?」

「なんかこうしっくり来ないっていうか……。違和感が残るっていうか……」

 

 ナギにしては歯切れの悪い言い方に、私はもどかしさを感じていた。それは傍にいたシーラも同じで、納得できないような顔でさらさらの金髪を無造作にかきむしった。

 

「あーもう、やめやめ! 曖昧な情報だけで考えても机上の空論! 考えても無駄! そんなことよりご飯の続きだよ!!」

 

 そう言うと、シーラは追加で魚の蒸し焼きを注文した。その態度にナギも毒気を抜かれたのか、大きく息を吐いた。

 

「ま、シーラの言うとおりだな。変に考えても仕方ねーし、オレの性に合わねえ。悪かったな、ミオ。余計な心配かけさせちまって」

「ううん、こっちこそ教えてくれてありがとう。でももしそれが予知夢だとしても、気にするほどのことじゃないと思うよ」

 

 私は笑ってそう言うと、小骨が刺さったような感覚に陥りながらも、その違和感をそっと心の奥にしまいこむことにした。

 

「おい、そろそろ到着するから準備しろ」

「うわっ!?」

 

 急に背後から声がしたと思ったら、さっきまで甲板にいたユウリだった。私の異常な驚き方が気に入らないのか、眉間の皺をこれでもかというほど寄せている。

 

「びっ、びっくりしたあ」

「人を幽霊か何かみたいに言うな」

「いや、幽霊の方がまだマシだろ」

 

 ドゴッ!!

 

 ナギの顔面に、ユウリの拳がめり込んだ。

 

「さすがのユウリちゃんも、船の中では呪文は使わないんだね☆」

 

 いやいやシーラ、明るく言ってる場合じゃないから。

 

「てめえ、何てことしやがる!!」

 

 顔を真っ赤にさせながら、ナギはユウリに食って掛かる。だがユウリはナギの攻撃をさっとかわし、私たちへの伝言を伝えるためにやって来たのか、用事を済ますとすぐに食堂を出ていってしまった。

 

「くそっ、次は絶対にオレが勝つ!」

 

 ダンッ! とテーブルに拳を叩きつけながら、怒りを露にするナギ。ほどなく食事が運ばれると、彼は貪るように食べ始めた。

 

「もうすぐるーくんのいる場所に着くんだよね♪ 楽しみだなぁ」

 

 ナギたちのやりとりなどまるでなかったかのように、ニコニコしながらシーラが期待に満ちた目で天井を仰ぎ見る。かくいう私も、数ヵ月振りにルカに会うという嬉しさと期待でいっぱいだった。

 

 スー族の住む町の再興を目指すグレッグさんとともに東の大陸に残ったルカは、一体どうしているんだろう。そもそも町づくりはどのくらいまで進んでいるのだろうか?

 

 様々な思いが交錯するなか、船は着実に東の大陸へと到着しつつあったのだった。

 

 

 

「……あれは、港か?」

 

 一度目に停泊した場所とほぼ同じ場所に、桟橋が見える。近づいてみると意外と規模が大きく、大きな船でも横付けできるように設置されていた。私たちはここに錨を下ろし、船を降りる。

 

 桟橋を渡ると、その先には草木が一部切り払われ、道のように続いている。その道に沿って歩いて行くと、やがて行き止まりになった。

 

 すると、少し離れた場所に、この前にはなかった石造りの家がポツンと一つ建っていた。確か前はスー族の里にあったようなテントしかなかったはずだけれど、一体誰が建てたのだろう?

 

 ルカには建築の知識や技術はないはずだし、グレッグさんが一人で建てたにしては期間が早すぎる。もしかしてダーマで声をかけた元戦士の商人かとも思ったが、こんな辺境の地に来るには早すぎる気がする。

 

 なんてあれこれ考えていると、遠くからカーンカーンと、木を切っているような音が聞こえた。気になって近づいてみると、そこにはグレッグさんが斧で木を切り倒している最中だった。私たちの存在に気づいたのか、グレッグさんはこちらを振り向いた。

 

「しばらくぶり! でも今ちょっと危険!! 離れる!!」

 

 そう言うとグレッグさんは、メリメリと音を立てて倒れていく木から素早く離れた。幸い私たちがいる場所は木が倒れる場所とは反対方向なので、その場で木が倒れるのをしばらく見届ける。

 

 ドシーンと派手な音が辺り一面に響き渡り、土煙が立ち込める中、グレッグさんはいつの間にか私たちのそばまでやってきていた。

 

「お前たち、よく来た。そこの二人、初めて見る。お前たちの仲間か?」

「お久しぶりです、グレッグさん。そうです。二人は私たちの仲間で、ナギとシーラと言います」

 

 私はグレッグさんに二人を紹介した。ナギたちは、初めて見るスー族の人に興味津々な様子で自己紹介を交わした。

 

「おい、ジジイ。この木を切ってどうするつもりなんだ?」

 

 ユウリが尋ねると、グレッグさんは鼻を鳴らしながら言った。

 

「この木、店造るのに使う。ルカが、店作れば、人増える、そう教えてくれた」

「店?」

 

 確かに町を作るには、人が必要だとルカは言っていた。けれど人が住むには、最低限生活できる環境が必要だ。店でも雨露は凌げるが、普通の家屋では駄目なのだろうか。

 

「じゃあ、あそこに建っている家もあんたが造ったのか?」

 

 半ば納得できないような顔で、ユウリがさらに訊く。それは私も同じだった。なぜならスー族の里にある家はあんな立派な石造りの家などではないからだ。スー族であるグレッグさんがあの家を造れることは、どう考えても不自然でしかなかった。

 

「あれ、家ではなくて店。前にここに来た人たち、建てた。それ見て、教えてもらって、わしも何か造ろうと考えた」

「前に来た人たち?」

 

 私たち以外に、誰か他の人たちが来たのだろうか?

 

「前に来た人たち、今はもういない。だけど、とても大事なもの、残して行った。建物の造り方、港の作り方、色々教わった」

「あの、ルカは今どうしてますか?」

「ルカなら、あの家、いる。町のこと、たくさん考えてる」

 

 グレッグさんが指差したのは、先程の石造りの家だった。

 

 ルカにも話を聞いてみようと判断した私たちは、すぐに例の家へと向かうことにした。グレッグさんも作業を中断し、私たちのあとをついてきている。

 

 新しく出来た家は、素人が作ったとは言えないほどしっかりとした造りだ。よく見ると、外壁は削り出した石材を加工して塗り固められており、屋根や窓などは有り合わせの材料を工夫してそれっぽく見せている。その技術はもはや職人技と言っても過言ではなかった。

 

「ねえ、看板があるよ~」

 

 シーラが指差している、入り口であろう扉の前には、木の板にデフォルメされた薬の絵が彫られている。ということはこの建物は、住居と言うよりお店なのだろう。

 

「おい、ルカ! 中にいるのか!?」

 

 そう言いながらユウリは、扉をドンドンと叩く。するとすぐに、ルカらしき声が中から聞こえてきた。

 

「グレッグさん? 一体どうしたんで……」

 

 扉を開けた瞬間、ボサボサ頭のルカとユウリの目が合った。ポカンとするルカに対し、ユウリはいつもの仏頂面で彼に話しかける。

「久しぶりだな」

 

 すると、以前よりやつれた顔のルカが、みるみるうちに笑顔に変わったではないか。

 

「おっ、お久しぶりです、ユウリさん!!」

「ああ。元気だったか?」

 

 ユウリと再会できてよほど嬉しいのか、ルカは感極まって声が裏返っている。ユウリもそんな彼との再会を喜んでいるのか、普段の仏頂面が三割増しで柔和になっている。

 

「なあ、なんでルカとあいつ、いつのまにあんな仲良くなってんだ?」

 

 ナギが疑問に思うのももっともだ。というか、あんなに無邪気にはしゃぐルカを見るなんて、何年振りだろう。

 

「ちょいちょい! あたしたちもいるんだよー!」

 

 堪りかねたシーラが、二人の間にひょっこりと顔を出す。

 

「え!? あの、もしかして、シーラさん!?」

 

 思わず目を丸くするルカ。驚くのも無理はない。何しろ最後に別れたとき、まだシーラはバニーガールだったからだ。

 

「おっ、お久しぶりです! もしかしてイメチェンですか?」

「あはは、まあ、そんな感じかな。あたし今ね、賢者なの」

「けけけけ賢者!? もしかして三賢者の!?」

 

 どうやらルカも賢者がなんなのか知っているらしい。ルカは、動揺を抑えつつ呼吸を整える。すると、少しふてくされた様子のナギもシーラの脇から顔を出した。

 

「なあルカ。実はオレもいるんだけど」

「うわあああ、ナギさんまで!! お久しぶりです!!」

 

 皆との再会に感情が大忙しのルカは、最後に私の顔を見た途端、急に冷めたような表情に変わる。

 

「あ、アネキ。久しぶり」

「待って、他の皆との温度差激しくない!?」

 

 思わずルカにツッコミを入れると、横からユウリが憐れみの目で私の肩をポンと叩いた。

 

「お前……、もう少し姉としてしっかりした方がいいぞ」

 

 う……、ユウリに言われなくてもわかってるよ!

 

 なんて声を大にして言えるほど自分でもしっかりしてるとは思えず、反論されるのを恐れた私はしぶしぶ言葉を飲み込む。

 

「そんなことよりルカ、この店は何なんだ? ずいぶん立派な建物だが、誰が建てたんだ?」

 

 店にある看板を見上げながら、ユウリがルカに尋ねる。

 

「ええ、実は話すと長くなるんですが……。本当に偶然としか言えないんですが、ユウリさんたちと別れてからしばらくして、近くの海で船が座礁したんです。おれとグレッグさんでなんとかその船を引き揚げたんですが、その船の中にいる人の中に、怪我をしてる人がいたんです」

 

 その後、ルカたちは怪我人を薬草などで治療し、他の船員はその間、座礁して破損した船の修理をした。彼らは『ルザミ』という島に住んでる人たちで、島から少し離れた場所で船で漁をしていたところ、嵐に巻き込まれてここまで来たという。

 

「それは災難だったな」

「元々潮目の関係で、ルザミからの漂着物がたまにここに流れ着くことはあったそうなんですよ。まさか船が漂着するとは思いませんでしたけど」

「わしの家、ルザミから流れたもの。それルザミの人から聞いて納得した」

 

 そっか。じゃあグレッグさんのあの独特な家の作りは、ルザミから流れてきたもので作られたってことなんだ。

 

「てことは、そのルザミの人たちがこのお店を造ったってこと?」

「そうです。自分たちを助けてくれたお礼って言ってましたけど、お礼としては充分過ぎるくらいですよ」

 

 シーラの問いに、申し訳無さそうに答えるルカ。ルカたちにとっては何でもないことでも、船長たちにとっては命の危険があったかもしれないのだ。船で旅をする私たちにも、そのくらいの恩返しをしたい気持ちは嫌でもわかる。

 

「店欲しい言った、すぐ造ってくれた。港欲しい言った、すぐ造ってくれた。でも、いつの間にかたくさん時間経ってた。結局、家の作り方だけ教わった」

「そういえば、店はともかくなぜ港を作ろうとしたんだ?他に最優先べきことはあると思うが」

 

 ユウリの言うとおり、町を作るには、最低限人が住めるような家や施設を作るのが先ではないのか。一応辺りを見回すと、グレッグさんが以前から開拓している畑や周辺に生えてる木の実や果物、ヤギも数頭放牧されており、食料には困ることもない。けれど人数が増えれば、その分たくさんの食料を確保しなければならない。この規模の畑では、何人もの移住者を賄えるとは思えない。ならまずは、畑を増やして人が住める住居を増やしたほうがいいと思うのだが……。

 

「実はユウリさんたちと別れてから、グレッグさんと二人でいろいろと検討したんですよ。ここに人を集めるにはどうすべきか。それには人が来たがるような環境を作ることから始めなくてはと思ったんです。だけどおれは町を作るなんてド素人だし、お金もない。だから商売をして人を集めようと考えたんです」

「どういうことだ?」

「今、世界中で入国規制が敷かれてるじゃないですか。それで一番困るのは、おれたち商人なんです。他の国で売りたいのに物が売れない。逆に仕入れることも出来ない。だったら、誰もが自由に商売できる場所を提供すればいいと考えたんです」

「……なるほどな。だからあのとき、商人や冒険者に来てもらうように頼んだのか」

 

 どうやらユウリには、ルカの意図がわかったらしい。

 

「以前グレッグさんに聞いてこの土地のことを調べたんですが、昔ここにあったスー族の村が滅ぼされたことで、形式上はここはエジンベア領ということになっているそうです。けど、それ以後はエジンベアは特にこの土地に干渉しているわけでもなく、いわば自治領みたいな扱いになっているんです。だったらここで自由に商売をしても問題はないんじゃないかと思って、まずは手始めに自分の店を作りました」

「それで、船でやって来た商人や冒険者と商売をするってことか」

「はい。それで売り上げたお金や買い取った商品を他の商人に売る。そうして集めたお金を人件費として冒険者に払い、代わりに家の建設や町に必要な設備を造ってもらう。そのためにはまず、人が訪れやすい港や商人が商売しやすい店を作るのが大事だと思ったんですよ」

 

 ルカの筋の通った考え方に、私は内心舌を巻いた。彼の商人気質はすでに私の予想を遥かに上回っていたのだ。

 

「へえ、すごいね、ルカ! そこまで考えてるなんて!!」

 

 すると、ルカは私を侮るような目つきで鼻を鳴らした。

 

「まあ、アネキにはそんなこと考えもつかないと思うけどな!」

 

 ……前言撤回。やっぱりいつもの小憎らしい弟のままである。

 

「そうだ、せっかく来たんです、何か買っていきませんか?」

 

 話を切り替えたルカが突然店の奥へと入るやいなや、何やら棚に乗っている袋や箱を持ち出して戻ってきた。

 

「何を売ってるんだ?」

「あまり大したものはないんですが、薬草とか毒消し草なんかは常備してあるんで、よければどうぞ! ちなみに、この大陸で採れた薬草は他のよりも薬効が高いので、おすすめですよ」

「本当か? 見た目はほかの薬草とほとんど変わらないぞ」

「なら一本サービスします。それにもし両方使ってみて、効果の違いが判らなければ後日返金しますので」

 

 道具の目利きに厳しいユウリがルカ相手にも容赦なく質問をする。対するルカも慣れた様子で次々にセールストークを展開させる。さすがはドリスさんの弟子、というところだろうか。

 

 その後もルカは、次から次へと出てくるユウリのいちゃもん……いや商談に臆することなく交渉し、ついには自分が提案した通りの金額でユウリを納得させた。

 

「すげえ、あのクレーマー勇者を納得させたぞ、あいつ」

 

 ナギの言うとおり、これには私も素直に驚嘆するしかなかった。

 

「すごいね、ルカ! あのユウリに言い値で売りつけるなんて!」

 

 そう素直に感想を述べただけだったのに、なぜかユウリに思い切り髪の毛を引っ張られた。

 

「何で引っ張るの!?」

「言い方が気に入らん」

「アネキ……、アネキがそんなだからユウリさんは苦労してんだぞ」

「何でルカまでユウリの肩を持つの!?」

 

 この二人に責められるなんて、どうにも腑に落ちない。これ以上余計なことを言わないよう、私は口を噤むことにした。

 

「忙しいところ邪魔して悪かったな。今日はお前の顔を見に来ただけだ。また今度来る」

「えっ、あ、すいません! 今度いらっしゃるときは、皆さんがゆっくり滞在できるように、いろいろ用意しますんで!」

 

 申し訳なさそうにルカが言うと、ユウリはルカの頭にポンと手を置いた。

 

「別にそんな気を使わなくていい。またお前の店に立ち寄るから、俺たちが必要だと思うような商品を揃えておいてくれ」

「は……はい!!」

 

 目を輝かせながら、ルカは勢い良く頷いた。それを見たシーラは、うんうんと大きく頷くと、

 

「ユウリちゃんてば、るーくんの本当のお兄さんみたいだね♪」

 

 なんて恐ろしいことを言い出した。

 

「やめてよシーラ! その理屈だと、私にとってもきょうだいになるってことじゃない」

「え、ミオちんは嫌なの?」

 

 例えばもしユウリが私の兄だったら、毎日嫌味を言ってくるに違いない。そんなことになったら、きっと鬱々とした日々を過ごすだろう。

 

「逆にシーラが私の立場だったら、嬉しい?」

「うーん、多分嫌かな☆」

 

 人のこと言えないじゃない。ていうかそんなに堂々と言う台詞ではないような気がする。

 

 そんな私とシーラのやり取りを知ってか知らずか、ユウリはふと思いついたようにルカに尋ねた。

 

「そういえば、そいつらは島から来たって言ってたな。その場所がどこにあるか、聞いてるか?」

「ええ、教えてもらったのは口頭ですが、大体の位置なら把握できてます」

 

 それを聞いたユウリは、鞄から世界地図を取り出し、ルカにルザミの島の場所を教えてもらった。なるほど、地図で見ると南東の端にあるが、南下すれば割と早くここにたどり着ける。もしかしたらジパングと関係があるかもしれない。ユウリはそう考えたのだろう。

 

 ふと隣にいるナギを見ると、なぜか珍しく神妙な顔をしていた。

 

「どうしたの、ナギ?」

「いや、『ルザミ』って名前、どっかで聞いたことがあるような気がするんだよな……」

 

 こういう時のナギの勘は、妙に当たることが多い。私は思い当たることを言ってみる。

 

「もしかして、予知夢とかで見たんじゃない?」

「うーん……。どうなんだろう……」

 

 どうやら予知夢かどうかも曖昧なようだ。でも、ナギの勘ほどではないけれど、私もこの島は妙に気になる。なによりユウリがルザミの場所を教えてもらったのなら、今後そこに行くことになるだろう。

 

 

 

「じゃーね、るーくん! また今度☆」

「まあ、無理しない程度に、頑張れよ」

「シーラさんもナギさんも、お元気で!!」

「ルカ、グレッグさんと仲良くね!」

「アネキに言われなくても、わかってるよ!」

 

 ……やっぱり私だけ、対応の仕方が変じゃない?

 

「まあまあミオちん。あの年頃の男の子って大体、姉に対してあんな感じだから」

「……そう?」

 

 同じく弟を持つシーラの意見に頷きつつも、どこか複雑な気持ちを抱えたまま、船へと向かうのだった。

 

 

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