「何処に行ったんだろ、ナギ……」
外に出たナギの様子を見ようとフィオナさんの家から出たが、外はすでに誰もいなかった。
途方に暮れていると、潮の香りが私の鼻をかすめた。どうやら近くに海があるらしい。
海風に誘われるように家の裏手に行ってみると、ここが崖の上に建てられた建物だとわかる。真下には穏やかな海面が広がっていた。
崖の上には柵が建物を囲うように設置してあり、その一角に柵にもたれ掛かって遠くを見ているナギの姿があった。どうやら向こうは私の存在に気づいていないようだ。
「ナギ!」
呼び掛けると、ナギはたった今私に気づいた様子で、こちらをゆっくりと振り向いた。
「なんだ、ミオか」
その反応から察するに、案外元気そうに見える。やっぱりシーラの言う通り、杞憂だったようだ。
「今皆でオーブのことについて調べてるんだけど、ナギはまだここにいる?」
私の言葉に、ナギは一考したあと海の方に顔を向けた。
「いや、そういうのはオレ向いてねえからな。あいつらに任せときゃいいんじゃね?」
「あはは、確かに」
「お前だって、オレのところに来たのは建前で、ホントはそーいうの調べたりするのが嫌で逃げてきたんじゃねえのか?」
「うっ!?」
完全に図星を突かれ、私は二の句が継げなかった。
「ははっ、お前ってホント正直者だよなあ」
「でっ、でも、ナギのことが心配だったのはホントだよ!! ここに来てからナギ、様子が変だったし……」
「様子、ねえ……。確かにおかしかったかもな。初めてここに来たのに、懐かしいって感じたからな」
「でもそれって、幼かった頃の記憶が残ってたからじゃないの?」
「そうかも知れねえ。けど、あの人のことは全く覚えてないんだ。父親もそうだけど。……なんでだろうな」
「……」
「いきなりオレの母親です、って人が現れて、父親はもう死んでて、じいちゃんやオレと同じ予知夢を視る人で……って言われても、正直ピンとこねえんだよな。オレは今までじいちゃんやタリオと一緒に過ごしてきたし、その二人が家族だって思ってる。今さら母親がいるとか言われても、息子らしい振る舞いなんてできねえよ」
それがナギの本心だと言うのは、彼の様子を目の当たりにしてすぐにわかった。
「それよりもさ、この予知夢の力がなんのためにあるのかよくわかんなくてさ。結局オレの父親は自分が死ぬことをわかっても、避けられない運命だった。それなら、最初から視なくても良かったんじゃないかって思うんだ。前にお前が洞窟で倒れてたときも……、結局その通りになったし」
「ナギ……」
「時々、なんでお前らと一緒に旅をしてるんだろうって考えるんだ。最初はあの陰険勇者に対抗意識燃やして、なんとなくお前らと一緒にいるようになっちまったけど、この旅に必要なのは別にオレじゃなくてもいいんじゃないかって思う時があるんだ」
「なっ、なんでそんな事言うの!? 私はナギが一緒にいなきゃ絶対嫌だよ!!」
私が突然声を張り上げたものだから、ナギの顔がぎょっとなる。
ナギたちと別れてから約半年、ユウリとの仲もちょっとはマシになったけれど、やっぱり2人がいない旅は寂しいと感じていた。なのにナギがそんな事を言うことが信じられなくて、耐え切れず声を上げてしまった。
「私が落ち込んでたときもナギは励ましてくれたし、私とシーラがカンダタに捕まったときも、ユウリと一緒に助けてくれた。ナギの盗賊の技のおかげで色んなピンチを切り抜けられたし、何よりダーマに行こうとしたシーラを守ってくれたじゃない。そんなことできるなんて、ナギしかいないよ!」
言い続けるうちに、自分の感情が高ぶるのを実感した。けして励まそうと思って言っているわけではない。心の底からそう思っている、ただそれだけなのだ。
「それにね、予知夢なんてあってもなくても、ナギは私たちに必要な仲間だよ」
「ミオ……」
「そもそも予知夢って、占いとおんなじだと思うの」
「占い?」
私の唐突な発言に、ナギは目を瞬かせる。
「占いって、人によって捉え方が違うこともあるじゃない。例えば『あなたは今日大金を手に入れられるかもしれません』って。庶民ならやったーって喜んだりするけど、お金持ちの人だったら、なんだ、たいしたことないな。って思うかもしれないでしょ?」
「うん……、だから?」
「だから、その後どんな行動をしたり、どういう考え方をするのかも、その人次第ってこと。予知夢も同じだよ。フィオナさんも、そういう風に考えてたんじゃないかな」
「……」
「だから、この先また予知夢を見たとしても、それでどう生きていくかは、ナギや私たちの行動次第で変わって行く。人の運命は神様が決めるんじゃない。その人自身が決めることなんだよ」
なんだか勢いで捲し立ててしまったが、ちゃんとナギに伝わっているだろうか。ちらりとナギの方を見るが、彼は眉一つ動かさずこちらを見つめたままで、どういう感情なのか読むことができない。
それきりお互い何も言わず、沈黙が二人の間に広がる。どうしよう。とりあえずなにか言葉を続けようと、口を開きかけたときだ。
「お前は、オレの予知夢を聞いて、未来を変えるって言ってたよな」
それはナギが以前、私以外の三人が草原にいる夢を見たといったときだろうか。確かにあのとき、自分がいないということに不安を感じ、未来を変えたいと言った。
「うん。だって、私がここにいる目的は、魔王を倒すことだもん。私がいなかったら、倒せないでしょ? そのためには、未来を変えていかないと」
そう。私の目的は魔王を倒すこと。ナギが見た予知夢は、本来そうなってはならない出来事なのだ。そうならないためにも、私は自分の運命を自分で変えてみせるつもりだ。
なんて意気込んでいる私の頭に、ナギの手がポンと乗せられた。
「へっ。なんかお前見てたら、悩んでんのがバカらしくなったよ」
「ナギ?」
「お前があのときとっくに覚悟決めてたのに、オレがいつまでもグダグダ悩んでるわけにはいかねえよな」
私の頭から手を離したナギは、拳を自分の目の前に作ると、もう片方の手でそれを受け止めた。その目には、さっきまでとは違う固い意志を秘めた色が広がっていた。
「決めたよ。オレはお前らの運命を、お前らの進みたい方向に導いてみせる。それがオレのこの旅の目的だ」
「ん? どういうこと?」
「オレはお前らみたいに明確な目的があって旅をしているわけじゃねえ。けど、旅をやめたいとも思わなかった。要するに中途半端だったんだよ。でもこれからは、この予知能力で、お前らを理想の未来に導いてやる。もちろんお前がいなくなる未来も、変えてみせる」
そう言うとナギは、拳を力強く握りしめた。
「ナギがそう言ってくれるなら、心強いよ! これからもよろしくね、ナギ」
「ああ」
ナギの新たな一歩に、私は自分のことのように喜んだ。
「やっぱりお前って、パーティーの屋台骨って感じだよな」
「え? なんか言った?」
「何でもねーよ。それより、そろそろ家の中に戻ろうぜ。いい加減あいつらの手伝いしねえとあとで怒られそうだからな」
「あはは、そうかも」
「おーい、二人ともー!! あたしとユウリちゃんだけじゃ見つからないから手伝ってよー!」
なんて噂をしていたら、案の定私たちを呼び戻すシーラの声が聞こえてきたのだった。
「皆、疲れただろう。今日はここに泊まって行きなさい」
結局あれから私とナギも調べ物に参加したのだが、めぼしい情報は見つからず、すっかり日が沈んでしまった。このまま真っ暗の中船に戻るよりはと、フィオナさんが私たちを引き留めてくれたのだ。
「せっかく実の息子が来たんだ。島の皆を呼んで、今夜はここで宴会でもしようじゃないか」
「わーい!! 賛成!!」
『宴会』と言う言葉に反応したのか、目をキラキラさせながらすぐに返事をしたのはシーラだ。かくいう私もこういうイベント事は好きなので、シーラに負けず劣らずウキウキしてしまう。
「そうは言うが……、この家にこれ以上人なんて入るのか?」
「なあに、ちょっと片付ければあと10人ほどは入るさ」
心配するユウリにフィオナさんは軽く答えているが、どう見てもそんなに多くの人は入らなそうに見える。
「私は部屋の準備をしたあと島の人に声をかけに行くから、その間皆は二階で休んでてくれ」
「あ、部屋の片付けくらいなら手伝います」
すでに読み終わって積み上げられた沢山の本を片付けるくらいなら私でも出来るだろう。
「そうか。それは助かる。なら本の片付けと掃除をお願いするよ」
「ミオちんがやるならあたしもやるよ♪」
どうやらシーラも私と一緒に手伝ってくれるようだ。
「ありがとうシーラ。じゃあ、手分けして片付けよう」
棒立ちになっている男子二人を尻目に、私とシーラは早速作業に取りかかる。
「……流石にオレら二人だけ二階で休むわけには行かねえよな」
雰囲気に耐えかねたナギが、隣にいるユウリにぼそりと言う。
「……仕方ないな」
ユウリも同じことを思っていたようで、結局四人でフィオナさんちの部屋を片付けることになった。
その後、掃除をしてから小一時間ほどで、フィオナさんちのリビングは、先ほどとはうって変わって広々とした部屋になった。本は全て整頓されており、床にはチリ一つ落ちておらず、窓や壁はピカピカに光っていた。
「さすがにこれなら文句は言わないだろ」
半ばなげやりな口調でユウリが呟く。あまりこういうことをするのに慣れていないのか、対して動いてないはずなのに随分と疲れた顔をしている。
「皆すごいね!! こんなに部屋がきれいになるなんて思わなかったよ」
「あたしも、ミオちんの掃除に対する情熱がこんなにすごいとは思わなかったよ」
「え? そう?」
床に突っ伏した状態で意外なことを言ったのはシーラである。
「別に特別情熱を注いだ訳じゃなかったけど……」
「いーや、お前は将来口うるさい姑になりそうな気がする」
「は? ナギまでなに言ってるの?」
皆の反応が微妙にずれている気がするけど、まあいいか。
そんなこんなでへとへとになりながらフィオナさんの帰りを待っていると、玄関の扉が開いた。
「ただいま。とりあえず今来れる者を連れてきたよ」
フィオナさんとともにやってきたのは5人の老若男女だった。フィオナさんと同年代の女性が二人、20代くらいの浅黒い肌の男性、50代くらいの強面の男性に、白髪で小柄な初老の男性。皆はそれぞれ手に食べ物や飲み物などを持参していた。
「ねえねえ、もしかしてそれってお酒!?」
早速目ざとくシーラが見つけたのは、女性の一人が手にしている液体の入った瓶だ。女性が持つには随分と大きくて重そうだが、当の彼女は平然とそれを持っている。
「ああ。自家製の特製果実酒さ。かわいらしいお嬢ちゃん、あんたも行ける口かい?」
手でお酒を飲む仕草を見せながら、女性がシーラに問うと、シーラは「もちろん!!」と即答した。すぐに彼女たちと意気投合したのは言うまでもない。
「いやあ、こんなに若いお客さんは何年ぶりかな。ところでフィオナさんちの息子さんは、どちらだい?」
初老の男性が、ナギとユウリを見回しながら尋ねる。よく見ると赤ら顔で、仄かにお酒の匂いがする。ここに来る前から大分飲んでいるようだ。すると隣にいた50代の男性があきれた顔で答えた。
「いや、どう見てもそっちの銀髪の方だろ。髪の色がフィオナさんとそっくりだ」
「ああそうか。けど目の色は、ゴーシュとおんなじだな。あいつの黄昏みてえな色はこの島じゃあ見たことがねえ」
「……っ」
島の男性たちに注目されたナギは、柄にもなく恥ずかしそうに視線を泳がせている。
べしっ。
「おいバカザル。とっとと自己紹介したらどうだ?」
ナギの後頭部を平手で叩きながら、不機嫌そうな顔で嫌みを言うユウリ。
「うるせえ! お前に言われたくねーよ!」
ユウリに促され、いつものようにナギはケンカ腰で反応する。その様子を、フィオナさんは微笑ましそうに眺めていた。
そんな中、一番若い島の男性が、さっきから無言でナギの方をじっと見つめている。流石のナギもそれに気づいていたのか、躊躇いつつもその人に声をかけた。
「あの、何かオレに用?」
「あ、いや、その、なんか不思議な感じがしてね」
何のことかわからないナギは、それでも何か言いたげにナギを見ている彼に戸惑いを隠せずにいる。それに気づいたフィオナさんが立ち上がり、男性のそばまでやって来た。
「ナギ。この人は昔ゴーシュが助けた子供だ」
「えっ!?」
海賊だったゴーシュさんは、海でおぼれた子供を助け、そのまま帰らぬ人となったと聞いた。その子供がこの男性ってこと?
男性は決まり悪そうに、自分から名乗り始めた。
「初めまして、おれはパトル。小さいころ、君のお父さんに助けてもらったんだ」
よく通る声で話すパトルさんに対しナギは、
「別にオレには関係ないし……」
そうぶっきらぼうに答えるしかなかった。
「いや、改めて礼を言わせてくれ。あのとき君のお父さんに気が付いてもらえなかったら、おれはこの世にいなかったんだ。それに、おれのせいでゴーシュさんは……」
「パトル! その言い方はやめなって言っただろう?」
ぴしゃりとフィオナさんがそう言うと、パトルさんは慌てて口を噤んだ。
「まったく、ゴーシュはそんなこと気にする性格じゃないんだよ。ナギも、あんまりこの子を責めないでくれないか? なにしろこの子が溺れたのはまだ言葉もろくに話せないほど幼かったんだ」
パトルさんをかばうフィオナさんを見て何を思ったのかはわからないが、ナギはどこか他人事のように彼らを見返した。
「オレにはそんな権利ないよ。何しろ今まで親父の存在すら知らなかったんだし」
あまり深く関わらないように答えるナギに対し、パトルさんはハッとした顔をした。
「……そうか。君も、いろいろと苦労をしてきたんだね」
そう言うとパトルさんは、自分が手にしている液体入りの瓶をナギに差し出した。
「よかったら、一緒に酌み交わさないか? 島に数年ぶりのお客さんが来たって聞いて、家からとっておきの酒を持ってきたんだ」
「え、でもオレ、あんまり酒飲んだことないけど」
「ナギちん! パトルさんがせっかくそう言ってるんだから、ここはお言葉に甘えようよ!」
二人の間に割って入ってきたのは、シーラだった。
「お前……、自分が飲みたいだけだろ……」
呆れたようにシーラを見返すと、ナギはパトルさんに頭を下げた。
「悪い、連れが余計なこと言って」
そう言いながらも、ナギはどこかほっとしたようにシーラの頭をポンと叩いた。
「いいよ、皆で飲もう。そこのお二人も、良かったら」
すると今度はパトルさんたちは私とユウリの方を見た。私はちらりとユウリの方を見たが、どうやらユウリも判断に迷っているのか私を見返した。
「えーと、ありがとうございます、ならぜひご一緒させてください!」
ここは深く考えるよりすぐに決断した方が良い。それに、珍しくユウリが私に判断を求めているのを感じたので、私は半ば勢いで了承してしまった。
だけど皆で話をしているうちに、なんとなく島の人たちと打ち解けるようになったので、私の判断は間違ってなかったと思う。
その後も次から次へと見知らぬ人がやってきて、気づけば部屋には14、5人ほどの人たちがひしめきあっていた。その中にはフィオナさんのことを教えてくれた男性もいて、お互い気づいた瞬間挨拶を交わした。
ナギとユウリは男同士ということもあり、パトルさんや他の若い男の人たち数人と話をしながらお酒を飲んでいる。ユウリは渋々付き合っているという感じだが、ナギはすっかりパトルさんたちと意気投合したようだ。
一方私とシーラはフィオナさんを初めとした女性陣とおしゃべりを楽しんでいる。と言ってもシーラは早々に酒瓶に手を出し、今や彼女のテーブルの前には何本もの瓶が並んでいるのだが。
意外なことにフィオナさんや他の女性たちも皆、シーラに負けず劣らず酒豪らしい。未だに一滴もお酒を飲めない私にとっては少し羨ましいが、皆と一緒におしゃべりをするだけでも楽しかった。
「おーい、ここで宴会やってるって聞いたけど、まだやってるかい?」
夜の帳が下りてしばらく経った頃。一人の男性が、一匹の大きな生魚を担いでフィオナさんの家にやってきた。
「おや、ヴォルグさん。その魚はなんだい?」
ヴォルグと呼ばれた男性は、すっかり大所帯となった部屋の真ん中のテーブルに、持ってきた魚をどんと勢いよく置いた。
「いやあ、宴会が始まってるって聞いたからよ、急いで釣り上げて来たぜ」
がっはっはと豪快に笑うヴォルグさんは、身体中日焼けしており、鍛え上げた筋肉には無数の傷があった。
「やだよヴォルさん。食べるなら捌いてから来てよ」
「おお、それもそうだな」
一人の島の女性が軽口を言うと、ヴォルグさんはテーブルに雑に置かれた魚を取り上げてキッチンへと向かった。
「やっぱり魚は新鮮な方が良いと思ってな。ところで、客人てのはどこにいるんだ?」
十数人がひしめき合うこの部屋では、すぐに全員を把握するには時間がかかった。ヴォルグさんは辺りを見回すと、一番近くにいた私に目を留める。
「あ、あの、初めまして、ミオです」
「ああ、よろしく! オレはヴォルグだ」
私より一回りくらい年上に見えるヴォルグさんは、人懐っこい笑顔を見せた。なんとなく話しやすい雰囲気だからか、二言三言話すうちに、彼との会話は思いの外盛り上がった。
「へえ、そんなに若いのに、魔王を退治する旅をしてるのか。大したもんだ」
「でも、私なんかレベルもまだまだだし、ユウリに助けてもらってばっかりですから。それに弟と一緒に旅をしたときも、情けない姿ばっかり見せちゃうし」
「弟がいるのか?」
突然、ヴォルグさんは私の顔をじっと見つめた。しばらく考え込んでいたが、やがてはっと何かに気づいたような表情を見せた。
「そうか、どこかで見たことある顔だと思ったら、この前とある大陸で出会った少年に顔が似ているんだ」
「え!?」
「確かにその子、ルカ君に似てるかもしれねえっすね」
ヴォルグさんの言葉に、ナギと話していた男性の一人までもが、私の顔を覗き込んで何かを思い出したようにうなずいた。
「関係ない話なら気にしないでいいんだが、二か月ほど前、おれと島の仲間数人で漁に出たときに、嵐にあって遭難してしまったんだ。もうだめかと思ったが、数日後に運良くどこかの海岸に漂着してな。そこで一人の少年と老人に出会ったんだが……」
「そ、それって……」
「少年はルカと言った。君と同じ黒髪で、目鼻立ちもとても似ていたんだ。もしかして、身内かな?」
「そ、そうです! ルカは私の弟です!」
思わず大声でそう断言すると、ヴォルグさんだけでなく、周りの人たちも一斉にこちらに注目した。
ルカが言っていたルザミから来た漂流者とは、ヴォルグさんのことだったのだ。
「どーしたの? ミオちん」
赤ら顔のシーラがきょとんとした顔で尋ねるので、私は今の話をシーラに伝えた。
「えっ!? じゃあその人が、るーくんのお店を作ったの!?」
「ああ。ついでに船が停泊できるように港も作っておいたんだ」
「確かヴォルグさんたちって、漁をしてたんですよね? 家も建てられるんですか?」
ヴォルグさんは苦笑しながらうなずいた。
「ここは小さな島だからな。漁だけでなく、生きていくためには何でも自分でやらないといけないんだ。島の男どもなら大体の力仕事は任される」
「女は女で、男には出来ない仕事があるけどね」
フィオナさんの隣の女性が次いで言う。
「そうだったんですね。弟のためにありがとうございました」
「いや、礼を言うのはこっちの方さ。彼らがあそこにいなかったら、おれたちは見知らぬ土地での垂れ死んでた。彼らは命の恩人だよ。聞けば、彼らはあそこに町を作る計画を立てているそうじゃないか。だからせめてもの恩返しとして、町作りに協力したんだよ」
そういう経緯があったんだ。ヴォルグさんたちにとっても、ルカたちにとっても助けられることになったのならそれはそれでよかった。
結局この夜、ルザミでは十数年振りにたくさんの人の声が響き渡った。カザーブでも似たような感じだったが、狭い島の中ではすぐに私たちのことは知れ渡る。そして皆それぞれ食べ物や飲み物、お酒を持ちより、大宴会となるのだ。
私はこの宴を楽しむと同時に、故郷に似た懐かしさを感じたのだった。